第68回 カフェで学ぼうがんのこと「予防できるがん 子宮頸がんを知ろう」
提供:NPO法人ウィッグリング・ジャパン
子宮の構造
子宮がんには「子宮頸がん」と「子宮体がん」の2つがあります。子宮は一般的にコンピューターのマウスほどの大きさです。月経がある方、あがられた方、若い方、ご高齢の方によってサイズは若干変わります。子宮の出口の部分は管状になっているので頸部といいます。この出口の部分にできるがんが子宮頸がんです。そして頸部の上が体部といわれます。ここは月経のたび、厚くなった子宮内膜がはがれ落ちるところで、この部分のがんが、子宮体がんとなります。今回は子宮頸部に関しての病気のお話です。
膣の中に少し出ている部分を子宮膣部、奥の方が子宮の頸管といい、これら全体を総称して子宮頸部といいます。それぞれにできるがんは組織のタイプ、顕微鏡で見たときの顔つきやキャラクターが異なります。一般にみなさまがバス検診や産婦人科で受ける「子宮頸がん検診」は子宮頸部になります。ドクターが綿棒を入れて表面の細胞をこすり実際に診て診察します。
「子宮体がん検診」というのは、中の方にやわらかいプラスチックの器具を入れてプロペラのような羽で中の細胞をこすりとる検査なのでバス検診では少し負担が大きく、エコーで中の構造をみながらでないとわかりにくい診察になります。「子宮体がん検診」というのは50代、60代の皆さまで不正出血がある方などで特別に行なう検診です。
子宮頸がんとは
子宮頸がんとは子宮の入り口部分(子宮頸部)に発生するがんのことで、年間約12,000人前後が診断され、2,000人~3,000人の方がお亡くなりになっています。昨今の問題として、25歳以上、35歳未満の若い世代での増加が顕著になってきています。私が経験した中で一番若かったのは16歳の女性でした。
自覚症状
自覚症状としましては
・異形成(子宮頸がんの前の段階)
・上皮内がんは自覚症状なし
進行してくると、
・不正出血(接触出血)
・悪臭を伴ったおりもの
・多量の出血、下腹痛、下肢のむくみ
などがあります。
子宮と子宮頸がん
表面の出口の膣の方から覆われているところを扁平上皮といいます。7割ほどがこの扁平上皮から発生してくるがんです。ヒトパピローマウイルス(HPV)が大いに関係してきます。さらに奥の部分からでてくる子宮頸部のがんは腺がんといいます。ここはヒトパピローマウイルス(HPV)が関係している場合と関係してない場合があります。
たまに、「子宮がん検診を毎年受けていたけれど、ある日突然がんと言われた。どういうことなのか?」という疑問を感じられる方がいらっしゃいます。これはバス検診などで表面だけの部分を検査しても分りにくい頸部腺がんの方です。腺がんは中の方に器具を入れて診てみないといと分からないことがあります。
ですので、最近は産婦人科の専門医は意識して奥の部分からも細胞を取るようにしています。この頸部腺がんに関しては、いつのまにか奥で広がっていて、治療抵抗性になることもあるのでその点は注意が必要になります。知らないうちに・・・とならないように、クリニックでのエコーと合わせた検診、産婦人科の専門医での検診をお勧めします。
検診の間隔は?
子宮頸がん検診による早期発見はすごく大切です。
では、検診の間隔はどのくらいがよいのかといいますと、通常、日本で推奨されているのは2年に1回です。ただし、問題点として日本の検診の受診率はすごく低く、20%ぐらいで欧米に比べると極端に低いです。これは先進国のなかでも極端に低いです。産婦人科はどうしてもハードルが高く感じる診察ですが、若い方での病気が増えてきている今、やはり早めの受診、2年に1回の定期的な検診をお勧めします。
産婦人科の検診が大切なのは子宮頸がんだけに限ったことではなく、実は女性の一番多い病気は生理のときの症状である子宮内膜症です。子宮内膜症は子宮が腫れたり、卵巣が腫れたり、特にキャリアウーマンの方やバリバリ仕事をされている方でストレスを抱えると子宮内膜症になる方がすごく多いです。ですので、子宮内膜症や子宮筋腫の診断をするという意味でも総合検診として産婦人科を利用していただくことはすごく大切なのです。
子宮頸がん検診
検診結果は分かりにくいと思いますのでご説明いたします。
・異常なし(陰性:NILM)・異常あり→精密検査が必要です
・ASC-US:意義不明な異型扁平上皮細胞
異常細胞がでてきている、最初の状態です。これはまだがんではなく「何か異常がおき始めている」という状態で次の段階の検査をお勧めしますという意味です。
次の段階の検査とは、ハイリスクHPV検査というウイルス検査のことです。これはヒトパピローマウイルスといって、子宮頸がんはこのウイルスのタイプが原因でほとんどが発生してきます。それを予防するのがワクチンです。性行為感染で起きてくる病気になります。
ですが5~8割の方は性交渉でこのウイルスに感染し、ご自身の免疫力で排除できます。決してヒトパピローマウイルスに感染することは特別なことではなく、ごく当たり前のことです。その中に粘り強そうなハイリスクタイプが持続感染することで、がんを起こしていきます。このタイプのウイルスが陽性であったら、コルポスコールと生検の精密検査が必要になります。陰性であったら精密検査は不要です。
以下の診断が出たら、治療、精密検査が必要となり異形生もしくは子宮頸がんの疑いが強いということになります。赤は実際にがん細胞がでています。青で示しているのはがん細胞を示唆するような細胞となります。ですので、産婦人科に受診していただいてコルポスコピー(拡大鏡のカメラの検査で病気の部分を実際にカメラでみます)と生検(その部分をかじりとるような検査)を行ないます。
ASC-H:HSILを除外出来ない異型扁平上皮細胞LSIL:軽度扁平上皮内病変
HSIL:高度扁平上皮内病変
SCC:扁平上皮がん
AGC:異型腺細胞
AIS:上皮内腺がん
Adenocarcinoma:腺がん
ハイリスクHPV検査
ハイリスクHPV検査とはハイリスクHPVのウイルス遺伝子をどのタイプか見分ける方法になります。そのウイルスのタイプとしては13種類のタイプがあり、どのタイプが厳密に出てきているのかを見分けるのではなく、陽性か陰性かの2通りのパターンになります。ですので、とくにリスクのある13種類に相当している方に関しては陽性となります。13種類のタイプに感染していない場合は安心できますので陰性になります。
生検/病理組織診の結果は?
生検、病理の組織の検査結果ですがこれは軽度、中等度、高度にがんを分けていきます。
・軽度異形成:CIN1
・中等度異形成:CIN2
・高度異形成:CIN3
・上皮内がん
・扁平上皮がん:SCC
・腺上皮内がん:AIS
・腺がん:Adenocarcinoma
軽度は下3分の1ぐらいに異常な細胞があり、中等度は3分の2を超えていない、3分の2を超えると高度異形成になります。高度異形成ぐらいから治療に入ります。微小浸潤がんになってくるとがんの部分が逆流して筋肉に入ってきます。
●軽度異形成:CIN1
軽度異形成が中等度異常に進行する率は12~16%になります。先ほどのハイリスクのタイプだと16%と少し増えてきます。それ以外だと3.3%と大いに違ってきますので、ウイルス検査を行います。軽度異形成の大部分は自然消失します。30歳未満の若年女性では約90%が自然消失します。リスクは少ないですが6が月ごとの定期検診をお勧めします。
●中等度異形成:CIN2
中等度異形成が高度異常に進行する率は22~25%になります。これも相当数は自然消失します。とくに、30歳未満の若年女性や妊婦では自然消失することが多いです。3~6か月ごとの定期検診をお勧めします。
HPVの型番によるリスク
・ハイリスクHPV(13種類)
16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68
とくに16、18型は要注意でがんの原因になることが多いです。これらの13種類に相当していると高度異形成に進行しやすくなります。とくに赤のタイプでは自然消失しにくいといわれます。
・中等度異形成が5年以内に高度異形成に進行する確立は
16、18、31、33、35、52、58→40.5%
それ以外の症例→8.3%
ワクチン接種対象者
・ハイリスクHPV(13種類)
今は推奨が中止していますが、ワクチン接種の対象者は
・最も推奨されるのが10~14歳
・次に推奨されるのが15~26歳
・ワクチン接種を希望する27~45歳
・妊婦さんには接種しない
HPVワクチン
HPVワクチンには2価と4価があり、ウイルスの13種類の中でも16、18を予防することが出来ます。
★2価ワクチン(HPV 16、18):サーバリックス
★4価ワクチン(HPV 16、18、6、11):ガーダシル
3回の接種により中和抗体を誘導することによって、HPVが細胞に感染する前に感染をブロックします。インフルエンザワクチンと同じようなイメージです。既に成立した感染に対する治療効果はありません。
HPVワクチンの効果
効果としては2価、4価ワクチンともに、HPV16、18の感染を予防し、性交渉未経験の女性に接種した場合、もしくはそのタイプにかかってない女性の場合は子宮頸がんの60~70%の予防が期待できるという数字が出ています。ですが16と18は13分の2なので全ての型の予防ではないため、接種した女性も検診は必要となります。
4価のワクチンはHPV16、18に加えて、HPV6、11の感染も予防し、尖圭コンジローマの予防効果(ほぼ100%近い)もあります。
子宮頸がんや前がん病変、既存のHPVの感染に対する治療効果はありません。できれば性的活動の開始前に接種すると効果的で性交渉する前の年代の女性にお勧めされています。45歳までの年齢層でワクチンに有効期間が証明されていて、まだ感染してない方の将来感染をブロックすることもできます。
日本におけるHPV予防ワクチンの現状
HPV予防ワクチンは2013年4月に国全体で接種が一斉に開始されました。ですが、その2か月後に大きく状況が変わります。HPVワクチン接種後の女子中学生に複合性局所疼痛性症候群(CRPS)が報告され、マスコミなどに大きく取り上げられました。その結果、2013年6月に積極的勧奨が中止となりました。現在も勧奨中止は継続中です。
その後の調査でいろいろなことがわかってきました。2種類の薬の副作用を見ていくと複合性局所疼痛性症候群に関して10万人あたり0.2人、889万人の方が受けられて17人の発症でした。これを多いととるか少ないととるかそれぞれあると思います。
世界でこのような状況は日本だけです。WHO世界保健機構や世界産婦人科学会からはHPVワクチンの安全性と効果を確認するとともに、「日本は本当に大丈夫なのか?これからどうなるのか?」という声があがり、十数年後には世界のなかで日本だけが子宮頸がんの罹患率が異常に高くなることが懸念されています。
米国でのワクチン接種に関しては、6,700万人の方が受けられて重篤な副作用が出た方は0.003%。うち92%は重症ではないもの、入院が必要なものは約1割だと報告されています。率にすると337万人に1人という数字です。
同様の発症はワクチンによるもの以外にもあり、何もしていない方でも症状が出る場合もあります。ですので、学会ではHPVワクチンに関しては今後も接種を強く勧める方針です。
現在、厚労省では、ワクチンの接種対象者の中学生のお子さん、保護者、産婦人科のドクター、小児科のドクターに対して、副作用に関する詳細な検査結果のデータが載ったパンフレットを作成しており、接種の再開に関して少し動き始めたところです。学会においては小児科、産婦人科とも数年前から接種の再開を求めています。
ワクチン接種後の疼痛や痛み、不安はこの年代のお子さまということもあり、これらを誘起したことを否定はできません。副作用が出たという結果は受け止めなければいけません。
しかし、年間約12,000人が子宮頸がんにかかり、2,000人強の方がお亡くなりになるという状況で、がんに罹患して円錐切除を行い流産や早産のリスクを負う方、予防できる方がこれだけいらっしゃるというのも事実です。
予防できる段階は中等度異形成ぐらいまでは積極的にできます。さらに次の段階になってくると中等度異形成のなかでもハイリスクタイプが陽性な方から治療を進めていきます。以前は高度異形成からでしたがウイルス検査ができるようになってからは高度になる一歩手前の中等度でハイリスク陽性の方には、レーザー治療や円錐切除をお勧めしています。
治療開始のタイミング(中等度異形成)
・1~2年たっても自然に治らない場合
・ハイリスクHPVが陽性の場合
(特にHPV16、18、31、33、35、45、52、58)
・継続した受診が難しい方
・治療のご希望が強い場合
が対象になります。
頸部 上皮内がん
がんが皮の中にでき始めている状態でもっとも初期です。検診で発見されるがんの60%以上が上皮内がんといわれています。子宮頸がんの全体の6割を占めています。
(1)レーザー治療
日帰りもしくは1泊で治療が可能です。
(2)円錐切除
3泊4日で出口の部分を円錐形に切り取っていきます。30分以内の手術です。レーザーでするには範囲が広かったり、奥の方に入り込んでいる場合に行ないます。
頸部 腺がん
子宮頸がんでは奥の部分にできる頸部腺がんには注意が必要です。産婦人科で奥まで検診してもらうことが大切です。
頸部腺がんは近年、増えてきています。以前は5%ですごくレアでしたが今は30%ぐらいになりかけています。奥に発生するため、初期に発見しにくく、放射線や抗がん剤治療が効きにくいです。卵巣転移の頻度も高いです。若い方で扁平上皮がんの手術をしても9割の方が卵巣転移はありません。ですので、卵巣を残すことが出でき、女性らしさや女性ホルモン、骨粗しょう症の予防などキープされる状態です。腺がんの場合は卵巣転移の頻度があるので、卵巣摘出をお勧めします。この場合は女性ホルモンの内服やシール、ジェルなどでフォローさせていただきます。
子宮は前に膀胱があり後ろに腸があります。1AⅠ期の場合は円錐切除で子宮を温存することは可能です。1AⅡ期以上になってくると子宮摘出をお勧めしています。さらに進行してくると子宮を支えている横のじん帯に広がったり、膣のほうに降りてきたりしてⅡ期、Ⅲ期へと進んでいきます。Ⅳ期が一番進行した状態で膀胱や腸の方に顔を出したり、肝臓や肺に転移したりします。
子宮のとり方にも1AⅠ期などミリ単位で入り込みがある場合は、妊娠出産が終わられた方は単純に子宮をとる手術になります。それが4cm未満4cm以上になってくると広範囲でとる手術になってきます。
昔はこれらの手術をすべて開腹手術で行なっていました。広範囲の子宮とリンパ節をとらないといけないので、20cm以上の縦切開でした。今は内視鏡で手術を行なうことも多くなり、小さな穴から内視鏡の器具を入れて手術をしています。こちらは3月まで先進医療でしたが2018年4月より保険適用になります。福岡県内では九州大学病院、済生会福岡総合病院、久留米大学病院、小倉医療センターが保険を使える施設になりそうです。
あとはダヴィンチ、ロボット手術も入ってきます。これはドクターが遠隔操作をしながら手術を行ないます。今は先進医療ですが来年ごろには保険適用になるかもしれません。
子宮の横のじん帯にがんが伸びていたときや、前後の臓器に転移があるときは放射線治療を行ないます。早期でも放射線治療は海外でも行ないますし、若い方でも合併症のあるかたは放射線治療を行ないます。術後に予防として行なうこともあります。
今は切る時代ではなく放射線治療の時代に入ってきています。しかし、若い方で放射線治療を受けられるとその部分が時間をかけて硬くなっていきます。被爆という問題が出てきて、10年、20年、30年という期間を考えたときに組織が硬くなってきたことによって腸閉塞や下血が続いたり膀胱からの出血があったりと長期になればなるほど被爆の問題が出てくるので、今はⅢ期、Ⅳ期の方には適用だとは思いますが、腹腔鏡手術を受けられる早期の方の場合にはそちらのほうがいろいろな意味でよいと思います。
20代、30代で結婚をする前、結婚したばかりの方でたまたまがんが見つかった、妊娠のときに見つかったという方も多くいらっしゃいます。そういう方で出口のところにできている場合には、子宮を当然残したいと思われます。その場合は頸部だけの広汎摘出手術を行ないます。これは確立した医療ではなく実験的な医療ではあるのですが、腹腔鏡手術かロボット手術の方がその後の妊娠率はいいようです。そのエキスパートが岡山県にある倉敷成人病センターにいらっしゃいますのでそちらをご紹介する場合もあります。
治癒の見込みは?
5年生存率
・Ⅰ期:91.8%
・Ⅱ期:71.5%
・Ⅲ期:53%
・Ⅳ期:23.7%
まとめ
20~30歳代の女性に子宮頸がんが増えてきています。死亡率も30~50歳ではここ10年で再び増加してきています。結婚年齢の高齢化とも重なり、妊孕性に大きな影響を与えています。40代のかたでわかって妊娠も急がなければならないとお悩みの方もたくさんいらっしゃいます。そのような悩みを抱えないためにも「子宮頸がん検診」受診率の向上と、HPVワクチン普及により、子宮頸がんの早期発見と予防が大切です。
予防(1) 子宮頸がんワクチン接種
予防(2) 定期的な子宮頸がん検診
予防(3) 異形成の段階から早期治療
予防(4) 早期がんの段階で適切な治療
子宮頸がんは予防できるがんです!
感想など
子宮頸がんは検診を受けていれば発見でき、早期治療で完治できる病気なので、婦人科で簡単に受けられる子宮がん検診を定期的に受けることが大切です。また、バス検診に定期的に通っていても頸部腺がんという危険ながんは見つかりにくいので、きちんとクリニックに行き産婦人科の専門医に見ていただくことの必要性を感じました。最近の女性はがんばりすぎることから、子宮内膜症の方も多くいらっしゃるとのこと。かかりつけの婦人科を見つけておいたら安心ではないでしょうか。
まだまだがんについて、HPVについて、ワクチンについての誤解が多くあるように思います。こういったことの教育を続けていくことの必要性も感じました。
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- 活動内容
- NPO法人ウィッグリング・ジャパンでは、がん闘病中にかつらをレンタルするというサービスを提供することで、2010年から8年にわたり、約800名の女性がん患者さんをサポート。同じ経験をしたスタッフが患者対応するというピアサポートを取り入れることで、心のケアにも注力しています。