【がんプラス5周年×CaNoW】病院の協力で実現した「映像で見るリゾートしらかみの旅」
取材・文:がん+編集部
がんプラスはサイトオープン5周年を記念し、グループ会社であるエムスリー株式会社が展開する「CaNoW(カナウ)」と共に、がん患者さん・ご家族の願いを叶えるイベントを開催。がん患者さんの佐藤猛さん(仮名)が叶えたイベントの様子を、夢の実現を支えた東北大学病院小児科のスタッフ、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(Child Life Specialist;CLS)の渡辺悠さん、心理士の入江直子さんのお2人にお聞きしました。
このストーリーのあらすじ
「病気になる前はよく行っていた旅行に行きたい」
がん患者さんの佐藤猛さんは、同病院の中でも長期間がん闘病を続けてきた患者さんの1人。なかなか治療が進展しない時期が続いていました。
「治療をずっとがんばってきた佐藤さんに、何か希望を持ってもらえるようなきっかけはないか」と、渡辺さんと入江さんがいろいろ考えていた、そんな時に、CaNoWを知ったそうです。「早速、佐藤さんのご家族に相談。その上でご本人に紹介したところ、最初はちょっとそっけない感じではありましたが(笑)、興味を持ってくれて。具体的な話を進めてみることになりました」と渡辺さん。
応募してしばらくして、実現できるとの連絡を受け、佐藤さんと、渡辺さん、入江さん、そしてCaNoWチームで具体的な話が進んでいくことになりました。
「普段から佐藤さんとは頻繁にコミュニケーションをとっていたので、こういう願いかなと予想していたことがあったんです。でも、実際には、予想していない願いがいくつも出てきて。飛行機に乗ってファーストクラスの機内食を食べたい、観光列車に乗る…。病気になる前はたびたび楽しんでいたという、鉄道や飛行機を使った旅行プランなど、出てきたのは佐藤さんの思いがつまった願いばかりでした」と入江さん。
「乗車しての旅」を想定して、佐藤さんが入院する病院からアクセスしやすいJR東日本の観光列車「リゾートしらかみ」での旅を計画。ですが、実施直前での佐藤さんの病状などを踏まえ、映像を通してリゾートしらかみに乗った気分を体験するプランに変更となりました。
日本海側の雄大な自然を眺めることができる観光列車の旅を「映像で」
リゾートしらかみは、青森駅と秋田駅を結ぶ人気の観光列車。一般的な座席のほか、展望室やイベントスペース、個室風のボックス席も設けられています。列車は、五能線を約5時間かけて走るルートで、日本海の雄大な景色や世界遺産の白神山地などの自然を、眺めることができます。
佐藤さんが乗車予定だったリゾートしらかみにCaNoWのスタッフが乗車し、車内の見どころや車窓をビデオ撮影。その映像はリアルタイムで病室内の画面に投影され、佐藤さんは家族と一緒に病室でその様子を楽しみました。車内アナウンスや列車の通過音がはっきり聞こえるよう、スタッフは言葉を発さず、もくもくと撮影し続けました。
青森県の「千畳敷」では、乗客は一時下車して、岩棚が広大に続く千畳敷海岸の散策を楽しむことができます。(※リゾートしらかみの一部列車のみ)
「このようなイベントは初の試みで、病棟内の医師や看護師などのスタッフもその映像を少しだけ一緒に楽しませていただきました。映像を見ている間、佐藤さんの病室にはおうちのような、ほっこりした時間が流れていました。みんなでリラックスしながら、映像を見させていただきました」と渡辺さんと入江さんは当日の様子を振り返りました。
小児患者さんが主体的に医療に取り組めるよう、気持ちに寄り添って支援
東北大学病院小児医療センターは、医師、看護師のほかに、心理士、保育士、CLSなど多職種のスタッフが連携して、小児患者さんや家族のサポートを行っています。入院する患者さんの半数以上は長期入院の患者さんだそうです。
渡辺さんは、CLSとして、病気や入院、検査や治療・処置を受ける心の準備ができるよう、1人ひとりの小児患者さんに適した方法でサポートする役割を担っています。年齢や発達に合わせて、時には模型や人形を使って、遊びの要素を取り入れながら説明したりします。一緒に遊んだり、院内イベントの企画に関わるなど、日常的なコミュニケーションも欠かしません。
「小児科に入院する患者さんは未就学児から高校生くらいまでと幅広く、病気に対する理解度も大きく異なります。大人のように、病気になったんだから治療のために病院にいる、ということが理解できないお子さんもいます。周囲と連携しながら、1人ひとりの患者さんが医療に対して主体的に取り組めるようにサポートしていきたいと思っています」(渡辺さん)。
入江さんは心理士として、入院や治療に伴う患者さん自身の不安やストレスの軽減に向けて寄り添ったり、発達に伴う悩みごとを聞いたり、また、家族が抱える心配ごとに耳を傾けて一緒に考えたりするなどの役割を担っています。CLSの渡辺さんたちと細かな情報を共有しながら、患者さんと家族がよりよい方向に向かっていけるようサポートしています。
「長期入院を伴うお子さん、ご家族にとって、当たり前のことが当たり前ではなくなることに日々直面しているのかなと思います。患者さん本人と日常的に一緒に遊んだり、おしゃべりをしたりしながら、その子その子のキャラクターや心の状態はどうかなぁ、と見守っています。院内だけでなく、他の病院での事例なども参考に、何か患者さんやご家族のためにできることはないかをいつも考えています」(入江さん)。
病院の外とつながることで見える希望、新たな気づきにも
今回、CaNoWで小児患者さんの希望が実現したことについて、お2人の感想をお聞きしました。
「病院内でできることには限界がありますが、病院の外からの支援を受けて実現できたことは本当によかったです。病院内でできる範囲の願いでは、その時点で制限がかかってしまいますよね。今回、佐藤さんの願いを実現するまでの過程で、佐藤さんの新たな一面に出会うことができました。そして、佐藤さんが、夢が実現するまでのさまざまなやりとりを楽しみにしている姿を見ることができました。コロナ禍では病院へのお見舞いも制限され、なかなか外の空気を入れるのが困難でした。そういった状況からも、このタイミングで実現できたことはよかったと感じています」(渡辺さん)。
「諦めていた願いが叶うかもしれない、と希望を抱くことで、小児患者さん自身の表情はがらりと変わりますし、ご家族の表情も変わっていきます。佐藤さんやご家族にもそのような様子が見られてうれしかったです。何かを諦めていたようなお子さんでも、1つ何か願いが叶うと、次にこれをがんばったら、こんなことをやりたいなと次の希望へとつながっていきます。ありがとうございました」(入江さん)。
※記事中の患者さんのお名前は仮名です。