頭頸部がんの治療
頭頸部がんの治療は、発生した部位ごとに異なります。部位ごとの治療法を紹介します。
頭頸部がんの手術
頭頸部がんは、発生部位や組織型の違いにより治療法が異なりますが、ほとんどの頭頸部がんの根治的治療の主となるのが手術です。頭頸部は重要な機能が多いため、手術は根治性とともに機能温存を目指して行われます。
手術の検討は、腫瘍因子や患者因子に基づき、手術以外の治療と比較しながら行われます。腫瘍因子とは、原発巣の部位、浸潤範囲、ステージ、放射線感受性などです。患者因子とは、年齢、性別、合併症の有無、手術リスクの他、退院後の生活や社会復帰の支援となる家族の存在などです。特に高齢者では、患者因子として認知機能なども重要とされ、評価されます。
頭頸部がんの放射線治療
頭頸部がんに対する放射線治療は、機能や形態の温存面でメリットがあるため、手術と並び重要な治療とされています。早期がんに対しては放射線単独、進行がんに対しては薬物治療との併用で行われます。また、手術により腫瘍が完全に切除できなかった場合の術後治療として、放射線治療が行われることがあります。
再発や転移に対する治療として、放射線の再照射や症状の緩和を目的に放射線治療が行われることもあります。
口腔・咽頭・喉頭に発生した扁平上皮がんを除く頭頸部がんに対して、重粒子線や陽子線による放射線治療が、2018年に保険適用となりました。
頭頸部がんの薬物治療
頭頸部がんの薬物治療として、放射線治療と同時に行われる「化学放射線治療」、根治治療前に行われる「導入化学療法」、手術後に行われる「術後補助化学療法」、転移・再発に対して行われる化学療法があります。
化学放射線治療、導入化学療法、術後補助化学療法は、根治的治療(手術・放射線治療)の効果を高めるに行われます。転移・再発に対して行われる化学療法は、症状の緩和や生存期間の延長を目的に行われます。
口腔がん(舌がん)の治療2>
手術
口腔がんの手術は、発生部位により「舌の切除」「下顎の切除」「合併切除」の3つあります。
各切除術の術式は、以下の通りです。
舌の切除 | 舌部分切除、舌可動部半側切除術、舌可動部(亜)全摘出術、舌半側切除術、舌(亜)全摘出術 |
下顎の切除 | 下顎辺縁切除術、下顎区域切除術、下顎半側切除術、下顎亜全摘出術 |
合併切除 | 口唇切除、口腔底切除、下歯肉切除、頬粘膜切除、皮膚切除 |
T1~T2でリンパ節転移がない場合は、原発巣の切除と必要に応じて頸部郭清術が行われます。T3以上では、リンパ節転移の有無にかかわらず、原発巣切除とともに頸部郭清術が行われることが多くあります。初発時にリンパ節転移がある、もしくはリンパ節転移再発した場合は、全頸部郭清術が行われます。
舌半側切除術程度までの手術では、縫合や薄い皮弁による再建が推奨されています。舌(亜)全摘出術では、術後の誤嚥の可能性があるため、おなかの筋肉「遊離腹直筋皮弁」のような容積のある組織を使った再建手術が行われます。
放射線治療
口腔がんの放射線治療は、外照射と組織内照射の2つがありますが、切除可能な口腔がんでは、手術が第一選択となるため、原則として外照射による放射線治療は行われません。T1、T2、表在性のT3に対しては、組織内照射が行われることがあります。
手術後の組織検査で、切除断面にがん細胞が残った場合やリンパ節外への転移がある場合は、術後治療としてシスプラチンを併用した化学放射線治療が推奨されています。また、切除断面にがん細胞が残っている場合は、再切除や放射線治療が行われることがあります。ステージ3~4で、T4、神経周囲浸潤、脈管侵襲がある場合は、術後治療として放射線治療が行われることがあります。
上顎洞がんの治療
手術
上顎洞がんに対する手術は、「上顎部分切除」「上顎全摘出」「上顎拡大全摘出」「頭蓋底手術」の4つあります。手術により、口蓋(口腔と鼻腔を分離している口腔上壁)を欠損した場合は、口腔と鼻腔を遮断するための再建手術が行われます。また、眼窩底を欠損した場合は、チタンプレートなどの人工物や組織移植による再建手術が行われます。
放射線治療
上顎洞がんの放射線治療では、1日1回2Gy/週5回、計60~70Gyを6~7週間かけて外照射が行われます。また、化学療法が併用されることもあります2018年4月に、根治的切除が困難な患者さんに対して、粒子線による放射線治療が保険適用となりました。
薬物治療
放射線治療との併用で、プラチナ製剤による薬物治療が行われることがあります。また、全身薬物治療としては、プラチナ製剤を中心とした多剤併用療法が行われることがあります。
上咽頭がんの治療
手術
上咽頭がんでは、化学放射線治療後の頸部リンパ節の残存腫瘍を切除するために手術が行われることがあります。
放射線治療
上咽頭がんは放射線感受性が高いことから、初回治療の中心は放射線治療です。原発巣と転移リンパ節に66~70Gy、予防的リンパ節領域に40~50Gyの照射が行われます。強度変調放射線治療(IMRT)は、従来の2次元/3次元照射による放射線治療と比較して、有効性や安全性が高く推奨されています。
薬物治療
ステージ2以上の患者さんに対しては、放射線治療と併用して薬物治療が行われます。遠隔転移リスクが高い進行がんでは、化学放射線治療以外に、導入化学療法や補助化学療法の併用が考慮され、プラチナ製剤を含む多剤併用療法が行われます。
中咽頭がんの治療
手術
T1、T2では、経口的切除術で根治できることも多く、術後の機能障害も比較的少なく済みます。頸部郭清術を行う場合は、上内頸静脈リンパ節、中内頸静脈リンパ節、下内頸静脈リンパ節を中心に行われます(下図のレベル2A, 2B, 3, 4)。原発巣が中咽頭の中央を超える場合は、原発巣と反対側のリンパ節郭清も予防目的に行われることがあります。
中咽頭前壁は喉頭と連続しているため、切除範囲が広くなる場合は、嚥下機能や鼻咽腔閉鎖機能を保つための再建手術が行われます。
放射線治療
T1、T2では、放射線治療単独で根治できることも多く、術後の機能障害も比較的少なく済みます。手術で完全に病変が切除できなかった場合やリンパ節外への転移があった場合は、術後治療として放射線治療もしくは化学放射線治療を行うことが推奨されています。
T3、T4やリンパ節転移がある進行がんに対しては、放射線治療単独より化学放射線治療の方が、有効性が高いとされています。
薬物治療
中咽頭がんに対する薬物治療は、根治的治療あるいは術後補助療法として、プラチナ製剤による薬物療法と放射線治療を併用した化学放射線治療が行われます。
下咽頭がんの治療
手術
下咽頭がんの手術は、「内視鏡切除術」「経口的切除術」「喉頭温存・下咽頭部分切除術」「喉頭摘出・下咽頭部分切除術」「下咽頭・喉頭全摘出術」「下咽頭・喉頭・頸部食道全摘出術」「下咽頭・頸部食道切除術」の7つあります。
早期の下咽頭がんでは、「経口的切除術」や「喉頭温存・下咽頭部分切除術」が選択されます。進行期では、「下咽頭・喉頭全摘出術」が標準的な手術として推奨されていますが、発生部位や進行度によっては喉頭温存手術が行われることもあります。「下咽頭・喉頭全摘出術」による手術後には、多くの場合、咽頭再建手術が行われます。
放射線治療
T1、T2では、根治を目指した治療として放射線治療が行われます。1日1回2Gyの照射を6~7週間に分けて、計33~35回(計66~70Gy)行います。T3、T4でリンパ節転移がある場合は、頸部郭清術に続いて、放射線治療が行われます。進行期では、放射線単独治療よりも、化学放射線治療が推奨されています。
薬物治療
下咽頭がんに対する薬物治療は、放射線治療との併用として行われます。また、喉頭を温存するために手術や放射線治療前の導入化学療法として行われることもあります。薬剤は、プラチナ製剤単剤、もしくは、プラチナ製剤を含む多剤が併用療法として使用されます。
喉頭がんの治療
手術
喉頭がんに対する手術は、「経口的切除術」「喉頭部分切除術」「喉頭亜全摘術」「喉頭全摘出術」の4つあります。
声門や声門上部の表在性の病変に対しては、経口的切除術が推奨されています。また、早期声門がんに対する放射線治療後の再発に対して、喉頭温存手術が行われることがあります。甲状軟骨を超えて喉頭外へ浸潤するT4aに対しては、喉頭全摘出術が推奨されています。
放射線治療
ステージ1~2の早期声門がんに対する放射線治療は、1回2Gyで週5回、T1では計60~66Gy/30~33回、T2以上では計70Gy/35回の照射が行われます。近年は、1回2.25~2.4Gyで照射し治療期間を短縮させた「加速照射法」が行われることが多くなってきています。
進行期では、薬物治療を併用した化学放射線治療が行われます。放射線治療による頸部転移の制御が困難な場合は、頸部郭清術を先に行い、頸部を含めた放射線治療が行われることがあります。
薬物治療
喉頭がんに対する薬物治療は、放射線治療との併用で行われます。また、喉頭を温存するために手術や放射線治療前に行う導入化学療法として行われる場合もあります。薬剤は、プラチナ製剤単剤もしくは、プラチナ製剤を含む多剤が併用療法として使用されます。
唾液腺がん(耳下腺がん)の治療
手術
唾液腺がんの治療の中心は、手術です。耳下腺がんに対する手術は、「耳下腺部分切除術」「耳下腺葉切除術(浅葉・深葉)」「耳下腺全摘出術」「耳下腺拡大全摘出術」の4つあります。
顔面神経に麻痺がなければ温存手術が行われますが、高悪性度や周囲組織への浸潤がある場合には、拡大切除が考慮されます。顔面神経を切除した場合は、再建手術が行われます。
唾液腺から唾液が通る管にできた「唾液腺導管がん」や表在性のがんは、悪性度が高いため予防的に頸部郭清術が行われます。リンパ節転移が認められる場合は、全頸部のリンパ節郭清が行われますが、予防的な郭清を行う場合は、レベル1~3(下図の1A, 1B, 2A, 2B, 3)の範囲で行うとされています。
放射線治療
唾液腺がんの放射線治療は、「局所進行」「高悪性度」「完全切除できなった場合」のいずれかで、頸部リンパ節転移が陽性だった場合に、術後治療として行われます。また、根治切除が不可能な場合には、放射線治療が考慮されることがあります。
薬物治療
唾液腺がんに対する薬物治療では、確立された標準治療はまだありません。2021年11月に、「HER2陽性の根治切除不能な進行・再発の唾液腺がん」の適応で、トラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)が承認されました。
参考文献:
日本頭頸部癌学会編 頭頸部癌診療ガイドライン2022年版.金原出版
日本頭頸部癌学会編 頭頸部癌取扱い規約 第6版[補訂版]