肉腫の検査・診断
肉腫の疑いが…となったら、どんな検査を受け診断が行われるのかを紹介します。
肉腫の検査
悪性骨腫瘍の疑いがあるときは、問診、血液検査、レントゲン検査、CT、MRI、骨シンチグラム、PETなどの画像検査が行われます。
悪性軟部腫瘍の疑いがある時は、問診、レントゲン検査、CT、MRI、PET-CTなどの画像検査が行われます。軟部肉腫に関わる腫瘍マーカーがないため、血液検査は有用とされていません。
また、一部の肉腫では特徴的な遺伝子異常が見つかっているため、正確な診断をするために遺伝学的検査が併用されることがあります。
悪性骨腫瘍の検査
悪性骨腫瘍かどうかを調べる検査では、年齢、腫瘍が発生した時期、部位等を調べるために問診、視診、触診が行われます。また、全身状態を把握するための血液検査、腫瘍の大きさや広がりを調べるための画像検査が行われます。
悪性骨腫瘍では、CRP高値、白血球数の増加、貧血などが認められます。また、アルカリフォスファターゼ(ALP)の値や乳酸脱水素酵素(LD) の値が高い場合があります。
各腫瘍で検査値異常/症状が見られる割合
骨肉腫 | ユーイング肉腫 | 軟骨肉腫 | |
CRP高値 | 17~27% | 43~45% | 23~24% |
白血球増加 | 14% | 14% | 4% |
貧血 | 24% | 24% | 17% |
ALP高値 | 45% | ||
LD高値 | 36~44% | 32~68% |
画像検査は、レントゲン検査、CT、MRI、骨シンチグラム、PETなどが行われます。
問診、血液検査、画像検査により、悪性腫瘍の疑いとなった場合は、生検による病理検査が行われます。生検には、針を刺して腫瘍組織を採取する「針生検」と手術により切開して腫瘍組織を採取する「切開生検」があります。悪性骨腫瘍など、診断のために十分な組織を採取する必要がある場合には、「切開生検」が行われます。採取した組織を病理医が調べることにより、良性か悪性かが判定されます。
悪性軟部腫瘍の検査
悪性軟部腫瘍かどうかを調べる検査では、問診、視診、触診が行われます。特に、発症の状況と痛みの有無を調べることで、腫瘤が「悪性」「良性」「非腫瘍性疾患」のどれであるか推定できることがあるため、問診は重要な検査とされています。
腫瘤の増大速度を知るために、「いつ気づいたか」「どうして気づいたか」「診察前に大きくなったという自覚があるか」が確かめられます。
大きさや部位、内部の性状を調べるために、X線、超音波、CT、造影CT、MRIなどによる画像検査が行われます。特に、内部の性状を評価できるMRIが有用とされています。また、造影CT は、腫瘍と血管の位置関係や腫瘍による血管浸潤の有無を評価するのに有効とされ、転移に対する検査ではCTが有効とされています。
悪性腫瘍の疑いとなった場合には、生検による病理検査が行われます。悪性軟部腫瘍を調べるための生検は多くの場合、外来診療で受けられる針生検です。生検で採取した組織を病理医が調べることにより、良性・中間型・悪性の分類や、組織型などが判定されます。
肉腫の診断
検査により肉腫の疑いとなり、生検によって悪性と診断された場合は、治療方針を決定するためにステージ分類が行われます。
悪性骨腫瘍の診断とステージ分類
悪性骨腫瘍のステージ分類は、「AJCC(American Joint Committee on Cancer)システム」および「UICC(Union for International Cancer Control)システム」によるTNM分類と「Surgical Staging System」の2種類があります。
TNM分類は、腫瘍の大きさや浸潤の程度(T分類)、リンパ節への転移(N分類)、遠隔部位への転移(M分類)、組織学的悪性度(G分類)を総合的に判断して決定されます。
T分類は、腫瘍ができた部位「四肢、体幹、頭蓋骨、顔面骨」「脊椎」「骨盤」により基準が異なります。
組織学的悪性度は、腫瘍細胞と正常細胞との類似の度合い(分化度)、分裂している細胞の数(分裂数)、腫瘍中に存在する壊死組織の程度(壊死)を組織検査で調べた結果から、3段階に分類されます。グレード1(G1)は低悪性度、グレード2(G2)は中間悪性度、グレード3(G3)は高悪性度です。
- T:病変の大きさや浸潤の程度
- N:病変周辺にあるリンパ節への転移
- M:遠隔部位への転移の有無
- G:組織学的悪性度
四肢、 体幹、 頭蓋骨、 顔面骨のT分類
TX | 原発腫瘍の評価が不能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 腫瘍の長径が8cm以下 |
T2 | 腫瘍の長径が8cmより大きい |
T3 | 原発巣と連続性のない同一骨内の腫瘍(原発巣から非連続性の腫瘍) |
脊椎のT分類
TX | width="90%">原発腫瘍の評価が不能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 1つの脊椎分節、もしくは 2つの近接した脊椎分節に存在する腫瘍 |
T2 | 3つの近接した脊椎分節に存在する腫瘍 |
T3 | 4つの近接した脊椎分節に存在する腫瘍 |
T4a | 脊柱管内に進展する腫瘍 |
T4b | 近接した血管への浸潤あるいは近接した血管内の腫瘍血栓を認める |
骨盤のT分類
TX | 原発腫瘍の評価が不能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1a | 骨外進展なく、1つの骨盤区分内に納まり腫瘍の長径が8cm以下 |
T1b | 骨外進展なく、1つの骨盤区分内に納まり腫瘍の長径が8cmより大きい |
T2a | 骨外進展を伴い、1つの骨盤区分内に納まる腫瘍、もしくは骨外進展なく、2つの骨盤区分内に広がり腫瘍の長径が8cm以下 |
T2b | 骨外進展を伴い、1つの骨盤区分内に納まる腫瘍、もしくは骨外進展なく、2つの骨盤区分内に広がり腫瘍の長径が8cmより大きい |
T3a | 骨外進展を伴い、2つの骨盤区分に広がり腫瘍の長径が8cm以下 |
T3b | 骨外進展を伴い、2つの骨盤区分に広がり腫瘍の長径が8cmより大きい |
T4a | 腫瘍が 3つの骨盤区分に広がる、あるいは仙腸関節にまたがり、内側の仙腸骨神経孔に進展する |
T4b | 腫瘍による外腸骨動静脈の圧排、 もしくは主要骨盤血管の大きな腫瘍血栓を認める |
N分類
NX | 所属リンパ節の評価が不能 |
N0 | 所属リンパ節転移なし |
N1 | 所属リンパ節転移あり |
M分類
M0 | 遠隔転移なし |
M1 | 遠隔転移あり |
M1a | 肺転移あり |
M1b | 他部位への転移あり |
組織学的悪性度(G分類)
GX | 組織学的悪性度の検定が不能 |
G1 | 高分化型腫瘍、低悪性度 |
G2 | 中分化型腫瘍、高悪性度 |
MG3 | 低分化型腫瘍、高悪性度 |
ステージは、1~4に分類され、ステージ1、2、4はそれぞれAとBにさらに分類されます。
悪性骨腫瘍のステージ分類
T | N | M | G | |
1A | T1 | N0 | M0 | G1、GX |
1B | T2、T3 | N0 | M0 | G1、GX |
2A | T1 | N0 | M0 | G2、G3 |
2B | T2 | N0 | M0 | G2、G3 |
3 | T3 | N0 | M0 | G2、G3 |
4A | T分類に関わらず | N0 | M1a | グレードに関わらず |
4B | T分類に関わらず | N1 | 遠隔転移に関わらず | グレードに関わらず |
T分類に関わらず | リンパ節転移に関わらず | M1b | グレードに関わらず |
Surgical Staging Systemは、原発巣の外科的切除を考慮した分類です。「悪性度」「遠隔転移の有無」「腫瘍が区画内かどうか」を指標に、ステージ分類が行われます。区画は、骨にできた腫瘍なら骨の中に、軟骨にできた腫瘍なら軟骨内にとどまっているかどうかで判定されます。
Surgical Staging Systemでは、腫瘍の大きさによる評価はなく、腫瘍の局在性(区画内外)と組織学的悪性度、転移の有無によりステージ1~3に分類され、1と2はさらにAとBに分類されます。
悪性骨腫瘍のSurgical Staging System
腫瘍の局在 | 組織学的悪性度 | 遠隔転移 | |
1A | 区画内 | 低悪性度 | なし |
1B | 区画外 | 低悪性度 | なし |
2A | 区画内 | 高悪性度 | なし |
2B | 区画外 | 高悪性度 | なし |
3 | 区画に関わらず | 悪性度に関わらず | あり |
悪性軟部腫瘍の診断とステージ分類
悪性軟部腫瘍のステージ分類は、「AJCC(American Joint Committee on Cancer)システム」および「UICC(Union for International Cancer Control)システム」によるTNM分類と「Surgical Staging System」の2種類があります。
悪性軟部腫瘍のTNM分類は、UICCとAJCCの2つの分類が連携しつつ改訂が行われており、現在の最新の分類は、AJCCの第8版です。
TNM分類は、腫瘍の大きさや浸潤の程度(T分類)、リンパ節への転移(N分類)、遠隔部位への転移(M分類)、組織学的悪性度(G分類)を総合的に判断して決定されます。
T分類は、腫瘍ができた部位「胸腔、腹腔内臓器」「頭頸部」により基準が異なります。
組織学的悪性度は、腫瘍細胞と正常細胞との類似の度合い(分化度)、分裂している細胞の数(分裂数)、腫瘍中に存在する壊死組織の程度(壊死)、を組織検査で調べた結果から、3段階に分類されます。グレード1(G1)は低悪性度、グレード2(G2)は中間悪性度、グレード3(G3)は高悪性度です。
- T:病変の大きさや浸潤の程度
- N:病変周辺にあるリンパ節への転移
- M:遠隔部位への転移の有無
- G:組織学的悪性度
胸腔・腹腔内臓器のT分類
TX | 原発腫瘍の評価不可能 |
T1 | 単一の臓器に限局 |
T2a | 漿膜または臓側腹膜への浸潤 |
T2b | 漿膜を超える顕微鏡的な進展を伴う |
T3 | 2つの臓器への浸潤、または漿膜を超える肉眼的な進展を伴う |
T4a | 単一早期内で2部位以上に浸潤する多病巣性腫瘍 |
T4b | 2部位を超えるが5部位以下に浸潤する多病巣性腫瘍 |
T4c | 5部位を超えて浸潤する多病巣性腫瘍 |
頭頸部のT分類
TX | 原発腫瘍の評価不可能 |
T1 | 最大径が2cm以下の腫瘍 |
T2 | 最大径が2cmを超えるが4cm以下の腫瘍 |
T3 | 最大径が4cmを超える腫瘍 |
T4a | 眼窩、頭蓋底、または硬膜、正中臓器、顔面骨格または翼突起に浸潤する腫瘍 |
T4b | 脳実質に浸潤する腫瘍、頚動脈を包み込む腫瘍、椎前筋に浸潤する腫瘍、または神経周囲進展により中枢神経系に浸潤する腫瘍 |
軟部腫瘍の体幹部と四肢・後腹膜のステージ分類(AJCC)第8版
T | N | M | G | |
1A | T1 | N0 | M0 | G1、GX |
1B | T2、T3、T4 | N0 | M0 | G1、GX |
2 | T1 | N0 | M0 | G2、G3 |
3A | T2 | N0 | M0 | G2、G3 |
3B | T3、T4 | N0 | M0 | G2、G3 |
3B または4※ | T分類に関わらず | N1 | M0 | グレードに関わらず |
4 | T分類に関わらず | リンパ節転移に関わらず | M1 | グレードに関わらず |
Surgical Staging Systemは、原発巣の外科的切除を考慮した分類です。「悪性度」「遠隔転移の有無」「腫瘍が区画内かどうか」を指標に、ステージ分類が行われます。区画は、筋肉にできた腫瘍なら筋肉の中に、脂肪にできた腫瘍なら脂肪内にとどまっているかどうかで判定されます。
Surgical Staging Systemは、腫瘍の大きさによる評価はなく、腫瘍の局在性(区画内外)と組織学的悪性度、転移の有無によりステージ1~3に分類され、1と2はさらにAとBに分類されます。
悪性軟部腫瘍のSurgical Staging System
腫瘍の局在 | 組織学的悪性度 | 遠隔転移 | |
1A | 区画内 | 低悪性度 | なし |
1B | 区画外 | 低悪性度 | なし |
2A | 区画内 | 高悪性度 | なし |
2B | 区画外 | 高悪性度 | なし |
3 | 悪性度と区画に関わらず | あり |
参考文献:
日本整形外科学会監修.原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン2022.南江堂
日本整形外科学会監修.軟部腫瘍診療ガイドライン2020改訂第3版.南江堂