「専門知識をもつ医者として責任をもって最適と思われる提案を」吉岡邦彦先生インタビュー
本記事は、株式会社法研が2011年7月24日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 前立腺がん」より許諾を得て転載しています。
前立腺がんの治療に関する最新情報は、「前立腺がんを知る」をご参照ください。
初めてロボットに触ったときから操作性にひかれ、猛特訓。患者さんに安心感を与える医師でありたい。
吉岡先生は慶應義塾大学経済学部を2年で中退し、島根医科大学に進み直しています。
「一般の企業に就職して働くのは向いていない気がしたのです。理系の勉強が好きで、まだ答えの出ていない領域の多いフィールドに行きたいと思い、方向転換しました」
その後、泌尿器科を選んだのは、ダイナミックな手術に憧(あこが)れたからだといいます。
「大きな開腹手術があるのは、消化器外科か泌尿器科。泌尿器科はまだ新しい分野で、診断法も治療法もめまぐるしく変わっていました。開拓の可能性に興味をもったわけです」
手術支援ロボットとの出合いは、2005年12月。東京医科大学病院の心臓外科が導入することになり、学内にお披露目の会がありました。そこで、生来の新しいものに対する興味がむくむくとわいたようです。
「初めて触ってみたら、驚くほど使いやすい。それまで開腹手術専門だった自分でも十分扱えるとわかったので、すぐに泌尿器科でも使わせてほしいとお願いしました」
それから5カ月間、吉岡先生は手術支援ロボットの操作を猛特訓することになります。ロボットで2.5cm角の鶴を折ったり、シリコン製のモデルを自作して膀胱と尿道をつなぐ練習をしたり。折り鶴を1時間、つなぐ技術を1時間、計2時間も練習すると、クタクタになったそうですが、平日は夜に週3日、土日はすべてトレーニングに費やしました。
こうして吉岡先生は、東京医科大学病院泌尿器科の秦野直教授とともに、二人で前立腺がんのロボット支援手術に日本で初めて取り組むことになったのです。
吉岡先生らが切り拓いた前立腺がんのロボット支援手術は、多くの泌尿器科医から注目を集めました。いまや多数の医療機関が手術支援ロボットの導入を進めています。
「大切なのは、きちんとトレーニングを積んでから患者さんに向き合うこと。実はアメリカではトレーニング不足の医師が手術支援ロボットを使ってしまい、技量の格差が問題になっています。患者さんに迷惑をかけてはいけません。若手にはとにかく練習を積め、と強調しています」
吉岡先生が最近経験したことで、こんな例があります。一家のうち6人が家族性の前立腺がん。父親は放射線療法、長男は吉岡先生が開腹手術、次男は小線源療法、三男は腹腔鏡手術、四男は吉岡先生がロボット支援手術を行いました。このたび五男も吉岡先生のもとでロボット支援手術を受けたそうです。
「五男の方は、兄弟にどの治療法がいいか相談したはずです。それでロボット支援手術が選ばれた。これはうれしかったですね」
吉岡先生が診療にあたって心がけていることは、患者さんにフレンドリーに接することだといいます。
吉岡邦彦(よしおか・くにひこ)先生
東京医科大学病院 泌尿器科教授兼ロボット手術支援センター長
1962年千葉県生まれ。87年島根医科大学卒。同年慶應義塾大学医学部泌尿器科、92年チューレン大学留学を経て、2001年東京医科大学病院泌尿器科に入局。11年8月教授に就任。同年10月よりロボット手術支援センター長を兼務。日本で初めて手術用ロボットを泌尿器科に導入し、現在前立腺がん、膀胱がんのロボット手術件数は全国No.1を誇る。