がんの治験情報をお探しの方に知ってほしい5つのこと
治験の募集状況は、「jRCT 臨床研究等提出・公開システム」ページでご確認ください。
がんの治験とは
医薬品や医療機器における「治験」とは、ヒトに使用しても安全であり治療効果が予測される薬(医療機器)の承認を国から得るために行われる試験で、治療を兼ねた臨床試験のことです。
がんの治療で使われる抗がん剤も、治験によって有効性や安全性が確認された上で承認されています。
薬の元となる物質を、動物実験などを行い有効性や安全性を確認し、安全で有効なものと確認されたものに関して、ヒトに対しての有効性と安全性が調べられます。治験は、治療を兼ねてはいますが、その時点ではまだ有効性や安全性が確認できているわけではないので、必ずしも最適な治療法ではありません。有効性や安全性が科学的に証明された治療が、標準治療です。「新しい=最良ではない」ということを理解することが大切です。
その一方で標準治療が確立していない、または薬の耐性ができ、効果が期待できる薬がなくなった患者さんにとって治験は、新しい治療選択となる可能性もあります。
治験は「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則と、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」を遵守して行われています。「ヘルシンキ宣言」とは、ヒトを対象とする生物医学的研究に携わる医師のための勧告で、医学の進歩のためには人体実験が必要なことを認めた上で、被験者の利益は科学と社会への寄与よりも優先されるべきという原則を打ち出しています。また、治験実施にあたり、日本では「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」という厳しいルールが定められています。
これにより、治験に参加される方の利益が損なわれることがないよう、安全な手続きで治験は進められます。
治験を受けるメリットとデメリット
メリット | デメリット |
---|---|
新しい治療を受けられる | 未確認の副作用の可能性がある |
治療法がない人の新しい治療法の可能性がある | 比較試験では、新しい治療をうけられるとは限らない |
新しい治療法の開発に貢献できる | 治験中は、治療、検査などスケジュールが厳しく決められている |
がんの治験参加までの流れ
がんの治験に参加するためには、治験ごとに決められた条件に該当していないと参加することができません。治験募集では、参加条件が公開されていますので、確認しましょう。公開情報以外でも細かな条件がある場合もあり、必ず参加が保障されるわけではないため、応募にあたり主治医の先生や治験を募集している施設の治験担当医師、臨床研究コーディネーターに相談してください。
治験への参加にあたり、さまざまな手続きが必要です。治験担当医師や臨床研究コーディネーターから、必ず治験前に詳細な説明があります。治験を受けることで想定される利益や不利益などを含めた説明がなされた上で、書面での同意により参加することができます。治験の参加中にやめたくなった場合は、本人の意思でいつでもやめることができますので安心してください。
抗がん剤の臨床試験には3つの段階
抗がん剤は、第1相試験と第2相試験の2つの治験か、第3相試験をあわせた治験の結果をもとに効果と安全性が厚生労働省で審査されます。
- 第1相試験
- 少数の患者さんを対象に行われます。有効で安全に使える薬の量、投与方法を確認します。
- 第2相試験
- がん種や病状を特定したより多くの患者さんを対象に行われます。第1段階で確認された有効で安全な投与量や投与方法で、薬の有効性と安全性を確認します。
- 第3相試験
- さらに多くの患者さんを対象として行われます。既存の薬や治療(標準治療)、偽薬(プラセボ)などと比較して、有効性と安全性で優れているかを確認します。
こうしたいくつもの段階を経て得られたデータを国が審査し薬は承認されています。
第1相試験 | 第2相試験 | 第3相試験 | |
---|---|---|---|
目的 | ・第2相試験での用量や用法を決める | ・第3相試験を行うかを決める ・有害事象情報の充実 |
・標準治療になるかを検証 ・総合的な効果と安全性を評価する |
主な評価結果 | ・毒性(有害事象) ・有効性(効果がありそうか、ないか) |
・短期的な有効性(奏効率など) ・有害事象 |
・長期的な有効性(生存期間など) ・有害事象 |
がんの治験でよく行われる試験の意味
がんの治験では、薬の有効性や安全性を確認するため、また従来の治療と比較するためにさまざまな試験方法が行われています。がんの治験でよく行われている試験がどのようなものなのかを正しく知ることも大切です。
- 「無作為化比較試験」(Randomized Controlled Trial)
- 比較するグループの性質を均等にするため、治療を行うグループと観察のみのグループを無作為に2つに分け比較する試験です。
- 「二重盲検比較試験」(Double Blind Test)
- 被験者、治験を実施する医師いずれもが割りつけられた治療内容を知らされずに進められる比較試験です。
- 「単盲検試験」(Single Blind Test)
- 被験者側のみ治験薬の中身を知らされずに治験が行われる試験手法です。医師をはじめとした治験を実施する立場の人間が、被験者に対する治療内容を知ったうえで薬の投与を行うため、無意識もしくは意識的に評価へのバイアスがかかる可能性が高くなります。
- 「非盲検試験」(Open-label study)
- 被験者、治験を実施する医師いずれもがどう治療が割り付けられているか、内容を知った上で進められる試験です。
がん患者さんと医師を対象とした治験に対する意識調査
臨床試験は、病気に対する新しい治療の有効性や安全性を確認するために行われています。がんの臨床試験を国立がん研究センターがん情報サービスの「がんの臨床試験を探す」で検索するとすべての条件の結果、5,000件以上が見つかります(2018年3月末日時点)。これだけ多くの臨床試験が行われていますが、がん患者さんが正しく情報を手に入れられているのか、そもそも臨床試験とはどんなものなのかを理解できているのか、その実態はあきらかになっていないと思います。医師側の臨床試験に対する意識や実態とあわせて検証することで、がんの臨床試験に対する実態を把握するために、がん患者さんと医師を対象とした治験に対する調査を実施しました。
エムスリーグループのがんサイト会員を対象に治験に対する調査を行い、患者さん本人とご家族から703回答が得られました。また、医師の治験に対する調査では、m3.com会員の中から1名以上のがん患者さんの診療経験がある医師から302回答が得られました。
その結果、患者さん、医師ともにお互いに遠慮があることが調査によって明らかになりました。その一方で、がん患者さんと医師との間では治療オプションとしての治験という選択肢に意識のギャップが大きいこともわかりました。
がん患者と医師を対象とした治験に対する意識調査
がん患者さんの47%の人が治験情報を探していましたが、医師に治験の相談をした人は26%しかいません。相談しない理由としては、「医師の気分を害したくない」「否定されそう」という理由が多く、「忙しそうで相談しにくい」なども合わせると医師への遠慮から半数の人が相談していません。
一方で医師は、「標準治療と合わせて治験をどの程度考慮するか」という質問に対して、患者さんや家族から相談があれば治験情報を調査して紹介すると回答した人が約64%もいます。
相談待ちの医師と医師に遠慮して相談できない患者さんとの間でコミュニケーションがうまくとれていないというのが実態です。
※調査の内容の無断使用、無断転載は禁じます。