治療
慢性リンパ性白血病の治療選択、造血幹細胞移植、支持療法など治療法に関してご紹介します。
慢性リンパ性白血病の治療選択
慢性リンパ性白血病の多くは、ゆっくりと長い経過で進行します。予後の良いタイプでは経過観察が行われますが、一部、進行が早い予後不良のタイプがあるため、治療開始のタイミングを見極めることが大切とされています。
改訂Rai分類の低または中間リスク、Binet分類のAまたはB期で、症状のない早期の患者さんの治療選択は「経過観察」です。活動性の症状がみられる早期、および進行期の患者さんでは、その患者さんの状態と治療開始基準(下表)を参考にその後の治療選択が行われます。
初回治療
慢性リンパ性白血病の初回治療では、BTK阻害薬イブルチニブ(製品名:イムブルビカ)もしくはアカラブルチニブ(製品名:カルケンス)±オビヌツズマブ(製品名:ガザイバ)が推奨されています。
染色体17p欠失もしくはTP53遺伝子異常がなく、標準的な治療が適応の場合では、その他治療としてIGHV変異があればFCR療法(フルダラ+エンドキサン+リツキシマブ)も選択肢の1つとなります。BTK阻害薬が適応とならない場合は、BR療法(ベンダムスチン+リツキシマブ)が選択されます。
染色体17p欠失もしくはTP53遺伝子異常がなく、標準的な治療が非適応の場合では、その他治療として減量BR療法、フルダラビン±リツキシマブ(FLU±R)、シクロホスファミド±リツキシマブ(CPA±R)が選択肢となります。
二次治療
慢性リンパ性白血病の二次治療では、BTK阻害薬の前治療歴により選択肢が異なります。
BTK阻害薬の治療歴があり再発・治療抵抗性の場合は、ベネトクラクス+リツキシマブが推奨されています。BTK阻害薬の治療歴があり初回治療でイブルチニブ不耐容の場合は、ベネトクラクス+リツキシマブまたはアカラブルチニブが推奨されています。
BTK阻害薬の治療歴がない場合は、イブルチニブもしくはアカラブルチニブ±オビヌツズマブ、ベネトクラクス+リツキシマブが推奨されています。
BTK阻害薬治療で部分寛解以上が得られた染色体17p欠失もしくはTP53遺伝子異常なしの患者さんでは、継続治療が推奨されています。ベネトクラクス+リツキシマブ治療で部分寛解以上が得られた染色体17p欠失もしくはTP53遺伝子異常なしの患者さんでは、2年間の治療終了後に経過観察が行われます。
部分寛解以上が得られた染色体17p欠失もしくはTP53遺伝子異常がある患者さんに対しては、同種造血幹細胞移植が考慮されます。
組織学的形質転換をきたしたリヒター症候群に対しては、組織型の応じた化学療法が推奨されています。慢性リンパ性白血病由来のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては、免疫化学療法を行い奏効が得られれば、同種造血幹細胞移植が考慮されます。
International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemiaで示された治療開始基準
以下の項目のいずれかに該当すれば,活動性(active disease)とし、治療を考慮する | |
1) | 骨髄不全の出現もしくは増悪(通常Hb |
2) | 左肋骨弓下6cm以上の脾腫、進行性または症候性の脾腫 |
3) | 長径10cm以上のリンパ節塊、進行性または症候性のリンパ節腫脹 |
4) | 2か月以内に50%を超える進行性リンパ球増加、6か月以下のリンパ球倍加時間 |
5) | 副腎皮質ステロイド抵抗性の自己免疫性貧血や血小板減少症 |
6) | 症候性または機能的な問題を生じる髄外病変(皮膚、腎臓、肺、脊髄など) |
7) | 慢性リンパ性白血病に起因する以下のいずれかの症状のあるとき |
1 減量によらない過去6か月以内の10%以上の体重減少 | |
2 労働や日常生活が困難である(全身状態2以上)の倦怠感 | |
3 感染症の所見なしに2週間以上続く38℃以上の発熱 | |
4 感染症の所見なしに1か月以上続く寝汗 |
慢性リンパ性白血病の造血幹細胞移植
慢性リンパ性白血病、白血病細胞も含めて骨髄細胞を除去した後、白血球の型が一致したドナーから採取された正常な骨髄を患者さんの静脈から移入して、血液の元となる骨髄を正常なものと入れ替える治療法(同種移植)です。BCL-2阻害薬など分子標的薬の治療抵抗性となった再発・難治性の場合などに、長期予後の改善を目的に検討されます。
慢性リンパ性白血病の支持療法
支持療法は、白血病細胞を攻撃するための治療ではなく、治療中に起こるさまざまな症状や合併症に対して、症状を和らげたり予防したりすることを目的として行われる治療法です。白血病では、白血球の減少により、感染症にかかりやすくなるため、細菌やウイルスが感染しやすい口腔や気道などのケアが大切です。また感染症予防のために抗生物質や抗ウイルス薬、抗真菌薬などが投与されることもあります。貧血症状や出血症状には赤血球や血小板などの輸血が行われます。化学療法や放射線治療にともなう吐き気などの副作用に対しては、制吐剤での対処がされます。こうした治療は、生活の質(QOL)を維持するだけではなく、がんの治療を継続するためにも重要な治療です。
参考文献:一般社団法人日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版.金原出版