検査・診断

慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の検査、予後因子、病期分類、治療選択など検査や診断に関してご紹介します。

慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の検査

 慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の疑いがある場合、診断のためにさまざまな検査が行われます。また、治療方針を決めるため、病型や病期分類の決定、合併症などの有無を調べるための検査も行われます。

血液検査

 血液検査では、血液中の白血球などの数を調べます。リンパ球の数が5.000/μL以上あると慢性リンパ性白血病が疑われます。診断のためには、B細胞の表面に「CD5」「CD23」が発現しているかを調べます。また、赤血球が破壊されている状態がみられた場合、赤血球に対する自己抗体を調べる検査も行います。そのほかの特徴としては、ツベルクリン反応が陰性化することもあり、血中の抗体(IgG、IgM、IgAなど)の数値も低下しています。

骨髄検査

 骨髄検査のためには、骨髄液を採取する「骨髄穿刺(せんし)」、または、骨髄組織を採取する「骨髄生検」を行います。骨髄穿刺では、皮膚に近く浅いところにある腰骨(骨盤)や胸骨に、骨髄穿刺用の針を刺し注射器で骨の中にある骨髄を吸い出します。局所麻酔をしますが、骨髄を吸い出すときには痛みがあります。骨髄生検では、腰骨にやや太い針を刺し、骨髄組織を採取します。採取した骨髄液は、顕微鏡で細胞の形を調べたりするのに用います。

染色体検査

 染色体検査は、染色体の異常を調べるために行われます。治療方針を決めるために重要となる検査のひとつです。骨髄検査で採取した骨髄液を調べ、17番染色体短腕(染色体17p)に欠失があった場合、予後不良と判定されます。

遺伝子検査

 遺伝子検査は、遺伝子の異常を調べるために行われます。染色体の一部を蛍光標識して調べるFISH法では、「免疫グロブリン重鎖(IgVH)遺伝子変異」「ZAP-70発現」「TP53遺伝子変異」など、予後に関わる病型を見分けることができます。遺伝子を増幅して調べるPCR法で検査することもあります。

「免疫グロブリン重鎖(IgVH)遺伝子変異」

 免疫グロブリン(抗体)は、IgVHを含む特定の場所で遺伝子変異を起こすことにより、抗原に対する多様性を生み出しています。慢性リンパ性白血病の細胞の多くでは、この遺伝子変異が起こっていない(IgVH遺伝子変異陰性)という特徴がみられます。

「ZAP-70発現」

 ZAP-70は、T細胞やNK細胞に発現し、それらの活性化に関わっているタンパク質です。慢性リンパ性白血病では、ZAP-70の発現と増悪や予後と相関関係がみられます。

「TP53遺伝子変異」

 TP53遺伝子は、DNAの修復、細胞増殖の停止やサイクルの抑制を制御するがん抑制遺伝子です。この遺伝子に変異があるとがん化やがん細胞の増殖が起こると考えられています。

画像検査

 超音波検査やCT検査などの画像検査は、臓器の異常や合併症の有無を調べるために行います。

慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の予後因子

 慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫では、治療効果に影響するさまざまな予後因子が明らかになっています。予後因子とは、その後、治癒に向かうのか、再発するのかなどの判断材料となる因子です。

 予後因子の一つである病期分類は、改訂Rai分類とBinet分類の2つがあります。50%生存期間は、改訂Rai分類による低リスクでは10年以上、中間リスクでは8年以上、高リスクでは6.5年です。また、Binet分類によるA期では10年以上、B期では8年以上、C期では6.5年とされています。

 染色体や遺伝子の異常による病型も、予後因子として挙げられます。染色体17p欠失とTP53遺伝子変異が見られる場合は、通常の化学免疫療法に抵抗性を示します。

 染色体17pやTP53遺伝子変異の有無にかかわらず、ベンダムスチンやフルダラビンなど代謝拮抗薬に対する抵抗性、またはフルダラビン+シクロホスファミド±リツキシマブ(FCR療法)もしくはFCR療法に似た治療法後、2~3年以内の再発は、予後不良でハイリスクとされています。このタイプで、染色体17p欠失またはTP53遺伝子変異があるとウルトラハイリスクといわれ、こうした治療反応性も予後因子です。

 患者さんの全身状態を評価するパフォーマンス・ステータスや併存疾患指数などによる総合的高齢者機能評価の中でも、併存疾患により生存期間が異なることが報告されており、これらも予後因子とされています。

 その他、染色体11q異常、免疫グロブリン重鎖遺伝子変異陰性、CD38発現、ZAP-70発現を示す病型なども、予後(不良)因子として挙げられます。

慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の病期分類

 慢性リンパ性白血病の病期は、米国では「改訂Rai分類」、欧州では「Binet分類」で分類されます。この病気はゆっくりと病状が進むため、病期の正確な判定と、治療開始のタイミングが大切になります。病期は、末梢血のリンパ球数、リンパ節や肝臓・脾臓(ひぞう)の腫大(しゅだい)、貧血の状態、血小板の減少などの数値をもとに分類されます。

 改訂Rai分類では、低・中・高リスクの3つのリスクレベルが病期0~4までの5段階で分類されます。Binet分類は、A・B・Cの3レベルに分類されます。

 小リンパ球性リンパ腫は、悪性リンパ腫のひとつに分類されます。濾胞性(ろほうせい)リンパ腫、MALTリンパ腫などの低悪性度のB細胞リンパ腫と同様と考えられ、病期分類も悪性リンパ腫の病期分類に準じて行われます。

改訂Raiの病期分類

リスク病期分類基準
低リスク0末梢血リンパ球>5,000/μL+
骨髄リンパ球>40%
中間リスク1病期0+リンパ節腫脹
2病期0~1+
肝腫、脾腫(どちらかまたは両方)
高リスク3病期0~2+
貧血(ヘモグロビン<11g/dLまたはヘマトクリット値<33%)
4病期0~3+
血小板<10万/μL

出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018. 第I章 白血病、I 白血病、5慢性リンパ性白血病 「表1-1」より作成

Binetの病期分類

病期分類基準
Aヘモグロビン≧10g/dL+
血小板≧10万/μL+
リンパ領域腫大が2か所以下
Bヘモグロビン≧10g/dL+
血小板≧10万/μL+
リンパ領域腫大が3か所以上
Cヘモグロビン<10g/dLまたは血小板<10万/μL
リンパ節腫大領域数は規定しない
(リンパ節領域は、頭頸部、腋窩(えきか)、鼠径部(そけいぶ)、脾臓、肝臓の5つの領域で、身体診察のみの所見

出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018. 第I章 白血病、I 白血病、5慢性リンパ性白血病 「表1-2」より作成

慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の治療選択

 慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の多くは、ゆっくりと長い経過で進行します。予後の良いタイプでは経過観察が行われますが、一部、進行が速い予後不良のタイプがあるため、治療開始のタイミングを見極めることが大切とされています。

 改訂Rai分類の低または中間リスク、Binet分類のAまたはB期で、症状のない早期の患者さんの治療選択は「経過観察」です。活動性の症状がみられる早期、および進行期の患者さんでは、その患者さんの状態と治療開始基準(下表)を参考にその後の治療選択が行われます。

初回治療

 患者さんの状態が、標準治療可能と判定された場合、染色体17p欠失の検査が行われます。染色体17p欠失がなかった場合、フルダラビン+シクロホスファミド(FC療法)±リツキシマブが推奨されます。ベンダムスチン±リツキシマブも治療選択となります。

 染色体17p欠失もしくはTP53遺伝子異常がある白血病細胞が主にみられるケースでは、イブルチニブによる治療が推奨されます。また、FC療法±リツキシマブ、ベンダムスチン±リツキシマブ、イブルチニブも治療選択になります。完全奏効または部分奏効(治療効果判定基準を参照)が得られれば、同種造血幹細胞移植が考慮されます。部分奏効も得られなかった場合は、二次治療に進みます。一方、染色体17p欠失がない場合、初回治療後の判定で、完全奏効または部分奏効が得られれば経過観察となり、再発または難治性になった場合は二次治療へ進みます。

 患者さんの状態により、標準治療が実施困難と判定された場合も、リツキシマブなど抗体薬を併用する化学免疫療法が推奨されます。海外では、クロラムブシル±リツキシマブが標準治療ですが、クロラムブシルは国内未承認のため、ベンダムスチン、フルダラビン、シクロホスファミド単剤療法か、減量したFC療法が行われます。初回治療として、新たに承認されたイブルチニブも推奨されます。

 染色体17p欠失があった患者さんの初回療後に効果判定を行い、完全奏効または部分奏効が得られれば経過観察、部分奏効も得られなければ二次治療へ進みます。一方、染色体17p欠失がない場合、初回治療後に完全奏効または部分奏効が得られれば経過観察となり、再発または難治性になった場合は二次治療へ進みます。

 患者さんの状態が、虚弱と判定された場合は、積極的な治療は行われず症状を緩和するための治療が行われます。

二次治療

 初回治療後の二次治療の内容も、患者さんの状態により選択されます。染色体17p欠失もしくはTP53遺伝子異常がない場合、初回化学免疫療法から24~36か月以降の再発では、再度の初回治療、またはイブルチニブが選択されます。24~36か月以内に再発もしくは治療抵抗性となった場合や、染色体17p欠失もしくはTP53遺伝子異常がある場合は、イブルチニブによる救援療法(再発または治療抵抗性の患者さんに対して行われる治療)が行われます。救援療法により、部分奏効以上の治療効果が得られ、造血幹細胞移植が可能と判定されれば同種造血幹細胞移植が考慮されます。アレムツズマブは初回治療としては国内未承認ですが、海外の複数の臨床試験の報告では、染色体17p欠失がある症例に対する二次治療として有効性が示されています。

 標準治療が実施困難と判定され、初回化学免疫療法から24~36か月以降に再発した場合は、イブルチニブ、クロラムブシル(国内未承認)±リツキシマブ、ベンダムスチン±リツキシマブ、フルダラビン±リツキシマブ、減量FC療法±リツキシマブ、減量フルダラビン±リツキシマブ、シクロホスファミド±リツキシマブ、オファツムマブ、アレムツズマブから、その人に合った治療が選択されます。この治療により完全奏効または部分奏効が得られれば経過観察となり、再発または難治性になった場合は三次治療に進みます。また、この治療で部分奏効も得られなければ、そのまま三次治療に進みます。

 標準治療が実施困難な場合で、染色体17p欠失があり初回化学免疫療法から24~36か月以内に再発、または完全奏効/部分奏効が得られなかった場合は、イブルチニブまたはアレムツズマブによる治療が選択されます。完全奏効または部分奏効が得られれば経過観察を行い、部分奏効も得られなければ、そのまま三次治療に進みます。

International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemiaで示された治療開始基準

以下の項目のいずれかに該当すれば,活動性(active disease)とし,治療を考慮する
1)進行性の骨髄機能低下による貧血や血小板減少の進行・悪化
2)左肋骨弓下6cm以上の脾腫、進行性または症候性の脾腫
3)長径10cm以上のリンパ節塊、進行性または症候性のリンパ節腫脹
4)2か月以内に50%を超える進行性リンパ球増加、6か月以下のリンパ球倍加時間
5)副腎皮質ステロイドや他の標準治療に反応の悪い自己免疫性貧血や血小板減少症
6)慢性リンパ性白血病に起因する以下のいずれかの症状のあるとき
1 減量によらない過去6か月以内の10%以上の体重減少
2 労働や日常生活が困難である(全身状態2以上)の倦怠感
3 感染症の所見なしに2週間以上続く38℃以上の発熱
4 感染症徴候のない寝汗

出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018. 第I章 白血病、I 白血病、5慢性リンパ性白血病 「表2」より作成

慢性リンパ性白血病の治療選択(初回治療)
慢性リンパ性白血病の治療選択(初回治療)出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018. 第I章 白血病、I 白血病、5慢性リンパ性白血病 「アルゴリズム」より作成
慢性リンパ性白血病の治療選択(二次治療)
慢性リンパ性白血病の治療選択(二次治療)
出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018. 第I章 白血病、I 白血病、5慢性リンパ性白血病 「アルゴリズム」より作成

Chl±Rit:クロラムブシル(国内未承認)±リツキシマブ
Bend±Rit:ベンダムスチン±リツキシマブ
Flu±Rit:フルダラビン±リツキシマブ
FC±Rit:フルダラビン+シクロホスファミド±リツキシマブ
CPA±Rit:シクロホスファミド±リツキシマブ
CR:完全奏効
PR:部分奏効

参考文献:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018. 第I章 白血病、I 白血病、5慢性リンパ性白血病

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