膀胱がんの検査・診断

膀胱がんの疑いが…となったら、どんな検査を受け診断が行われるのか、ステージ分類や治療選択を紹介します。

膀胱がんの検査

 膀胱がんを早期発見するための1つの方法として、無症状の段階での検診が挙げられます。しかし、「膀胱がんの罹患率が高くないこと」「検診方法が確立されていないこと」「偽陽性(陽性ではないのに陽性と判定されること)により不必要な検査が行われる可能性があること」「検診による予後の改善が医学的に証明されていないこと」などの理由により、膀胱がん検診は推奨されるに至っていません。

 しかし、喫煙歴のある高齢者や職業上で発がん物質への暴露経験があるハイリスクの人では、年1回の検尿や尿細胞診などの検査が推奨されています。

 尿検査により膀胱がんの疑いがあるときは、尿の中に血液やがん細胞があるかどうか調べる検査と、超音波検査、膀胱鏡検査が行われます。膀胱がんと確定診断されたら、膀胱内のがんの広がりや深達度を確認や転移の有無などを調べるために、CT検査やMRI検査が行われます。また、膀胱がんの確定診断のためには、治療を兼ねた経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)が行われ治療方針が決定されます。

尿検査

 尿の中に血液が含まれているかどうかを調べるのが尿潜血検査で、がん細胞があるかどうかを調べるのが尿細胞診です。また、尿中の腫瘍マーカーも確認されます。膀胱がんの腫瘍マーカー検査では、「NMP22」と「BTA テスト」の2つの検査が保険適用となっており、診断の補助として行われます。また、尿中の膀胱細胞の遺伝子を調べる検査キット「ウロビジョン」が、尿細胞診の診断補助として、膀胱上皮がんの再発が疑われる患者さんに対し、2019年1月から保険適用となっています。

 それぞれの腫瘍マーカーの感度(陽性のものを正しく陽性と判定する確率)と特異度(陰性のものを正しく陰性と判定する確率)は以下の通りです。

NMP22
感度:58~69%
特異度:77~88%
BTA テスト
感度:64~65%
特異度:74~77%
ウロビジョン
感度:69~87%
特異度:89~96%

超音波検査

 膀胱がんの超音波検査は、尿を溜めたまま行われます。体の表面から超音波を出す機器をあて、跳ね返ってきた超音波を画像化し、臓器の形状、がんの位置、形などを調べます。

膀胱鏡検査

 膀胱鏡検査は、膀胱がんの診断と治療方針の決定に必須の検査です。直接内視鏡を膀胱に挿入して膀胱内部を観察し、病変の場所、大きさ、数、形などを調べます。

 通常は、白色光源で膀胱内を観察しますが、微小な病変や平坦な病変などは10~30%が見逃されていると推測されています。見逃されるような病変をより的確に把握するため、蛍光膀胱鏡による「光力学診断」や「狭帯域光観察」などによる検査も行われることがあります。

CT検査

 CT検査では、腫瘍の大きさや広がりだけでなく、リンパ節や他の臓器などへの転移を調べます。X線による画像検査で、造影剤が使われる場合もあります。膀胱がんで行われる尿路を造影する「CTウログラフィ」は、腎盂、尿管、膀胱の尿路全体を3次元データの画像にして見ることができるため、膀胱以外の尿路にあるがんも調べることができます。

MRI検査

 MRI検査では、がんの広がりや他臓器への転移の有無などを調べます。磁気による画像検査で、造影剤が使われる場合もあります。膀胱がんでは、がんが筋層に浸潤していると考えられる場合に行われます。

骨シンチグラフィ

 骨シンチグラフィは、骨などに痛みの症状がある場合に、放射線物質を静脈注射し、骨に転移があるかどうかを調べる検査です。

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)

 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)は、がんの進行度を調べる検査で、治療法の1つでもあります。尿道から膀胱鏡という専用の内視鏡を挿入し、高周波の電気メスで病巣部分を切除します。切除した組織を調べることで、がんの深達度や性質などを調べることができます。上皮内がんやその可能性がある場合は、上皮を数か所採取して調べることもあります。

膀胱がんの診断とステージ分類

 膀胱がんのステージは、0~4に分類されます。ステージは、病変の大きさや浸潤の程度(T分類)、リンパ節への転移(N分類)、遠隔部位への転移(M分類)を総合的に判断して決定されます。

  • T:病変の大きさや浸潤の程度
  • N:病変周辺にあるリンパ節への転移
  • M:遠隔部位への転移の有無

T分類

 膀胱がんの深達度の分類は、T分類で行われます。膀胱は、内側から粘膜上皮、基底膜、粘膜下層、筋層、脂肪の5つの層で構成されています。膀胱がんは、筋層への浸潤の有無によって、筋層非浸潤性がんと筋層浸潤性がんの2つに大別されます。

深達度によるT分類
出典:日本泌尿器学会 日本病理学会 日本医学放射線学会 日本臨床腫瘍学会 泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 第2版より作成

深達度によるT分類

TX原発腫瘍の評価が不可能
T0原発腫瘍を認めない
Ta乳頭状非浸潤がん
Tis上皮内がん
T1上皮下結合組織に浸潤する腫瘍
T2筋層に浸潤する腫瘍
T3筋層を超えて浸潤する腫瘍
T4隣接臓器または腎周囲脂肪組織に浸潤

出典:日本泌尿器学会 日本病理学会 日本医学放射線学会 日本臨床腫瘍学会 泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 第2版より作成

N分類

 N分類は、原発巣の近くにあるリンパ節への転移の有無や状態による分類です。リンパ節への転移がない場合はN0、最大径が2cm以下の単発転移はN1、最大径が2cm以上の単発転移、もしくは多発性リンパ節転移はN2と判定されます。

N分類

NX領域リンパ節への転移が評価されていない
N0領域リンパ節への転移なし
N1最大径が2cm以下の単発リンパ節転移
N2最大径が2cmを超える単発性リンパ節転移、または多発性リンパ節転移

出典:日本泌尿器学会 日本病理学会 日本医学放射線学会 日本臨床腫瘍学会 泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 第2版より作成

M分類

 M分類は、遠隔転移についての分類で、遠隔部位に転移がなければM0、転移があればM1と判定されます。

M分類

M0遠隔転移なし
M1遠隔転移あり

出典:日本泌尿器学会 日本病理学会 日本医学放射線学会 日本臨床腫瘍学会 泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 第2版より作成

ステージ分類

N0N1N2M0M1
Ta0a4444
Tis0is4444
T114444
T224444
T334444
T444444

出典:日本泌尿器学会 日本病理学会 日本医学放射線学会 日本臨床腫瘍学会 泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 第2版より作成

膀胱がんの治療選択

 膀胱がんの治療方針は、ステージ分類によって決定されます。筋層非浸潤がん、転移のない筋層浸潤がん、転移性がんでは、それぞれ治療方針が異なります。

膀胱がんの治療選択
膀胱がんの治療選択
出典:日本泌尿器学会 膀胱癌診療ガイドライン2019年版.膀胱癌治療のアルゴリズムより作成

ステージ1の治療選択

 ステージ1の筋層非浸潤性の初回治療では、膀胱温存を目指し経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)が行われます。TURBTで採取した組織の病理診断により低・中・高(上皮内がんとそれ以外)のリスク分類が行われ術後治療が選択されます。

 低リスクと診断された場合は、抗がん剤を膀胱内に注入する治療(抗がん剤単回注入)が行われます。

 中リスクと診断された場合は、抗がん剤単回注入、抗がん剤注入による維持療法、BCGを膀胱内に注入する治療(BCG膀胱内注入療法)のいずれかが選択されます。

 上皮内がん以外の高リスクと診断された場合は、二次治療としてのTURBTもしくはBCG膀胱内注入療法が選択されます。超高リスクと診断された場合は、膀胱全摘手術や臨床試験などから、病態により選択されます。

 上皮内がんで高リスクと診断された場合は、BCG膀胱内注入療法による治療が行われます。初回BCG導入療法で上皮内がんが残存する場合は、BCG再導入療法が推奨されています。ただし、BCG再導入の初回注入から6か月時点でも残存する場合は、膀胱全摘除術が考慮されます。

ステージ1の治療選択
膀胱がんの治療選択
出典:日本泌尿器学会 膀胱癌診療ガイドライン2019年版.膀胱癌治療のアルゴリズムより作成

ステージ2、3の治療選択

 筋層浸潤性で転移のないステージ2、3と診断された場合は、膀胱全摘手術が行われ、病態に合わせて術後補助化学療法が行われることもあります。

 また、化学放射線治療や救済治療※などを総合的に行い、膀胱を温存する治療(膀胱温存療法集学的治療)も治療選択の1つとして考慮されます。

ステージ4の治療選択

 ステージ4と診断された場合の一次治療では、プラチナ製剤を含む化学療法が行われます。効果が認められた場合は、膀胱全摘術や転移巣の切除手術が治療選択として考慮されます。一次治療後が無効、または再発した場合は、二次治療が行われます。

※治療効果が十分でない、またはがんが再発したときに行う治療。 がん種によって治療内容は異なります。

参考文献
日本泌尿器学会 日本病理学会 日本医学放射線学会 日本臨床腫瘍学会 泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 第2版. 医学図書出版
日本泌尿器学会 膀胱癌診療ガイドライン2019年版.医学図書出版

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