治療
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫の治療法をご紹介します。
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫の化学療法
フィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫で行われる化学療法は、「寛解導入療法」と「寛解後療法(地固め療法と維持療法)」の2ステップがあり、複数の抗がん剤を併用する多剤化学療法が行われます。65歳以上の高齢者と65歳未満の非高齢者では、多剤併用化学療法が異なります。
寛解導入療法
40~64歳のフィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫に対する寛解導入療法として行われる多剤併用化学療法は、大量メトトレキサートを含む併用療法が推奨されています。また、成人用に改変された小児型治療を行う場合は、年齢ごとに薬剤量が調整されます。
65歳以上のフィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫に対する寛解導入療法として行われる多剤併用化学療法は、標準治療が確立されていないため、患者さんの病態に応じて、多剤併用化学療法もしくは緩和的ステロイド治療が選択されます。
寛解後療法(地固め療法と維持療法)
寛解導入療法で寛解が得られた場合、わずかに残った可能性のある白血病細胞を消滅させるために行われるのが地固め療法です。寛解導入療法で使用した抗がん剤にメトトレキサートやシタラビンなどの代謝拮抗薬を併用した治療が数か月間行われます。中枢神経系への浸潤予防のためには、髄腔内にメトトレキサート、シタラビン、ステロイドなどが投与されます。
地固め療法により減少した白血病細胞を、さらに叩くために行われるのが維持療法です。少量のメトトレキサート、メルカプトプリン、ビンクリスチン、プレドニゾロンなどを組み合わせた治療を約1~2年間継続し、寛解が維持されていれば治療は終了です。
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫の救援療法
寛解導入療法で寛解が得られなかった場合、または寛解後に再発した再発・難治性の患者さんに対して行われるのが救援療法です。初期治療で治療効果があれば、同じ抗がん剤が使われますが、効果がなかった場合は別の抗がん剤が試されます。
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫の分子標的薬治療
フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫に対しては、Bcr-Ablタンパク質を標的とした分子標的薬「チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」による治療が行われます。65歳未満の非高齢者患者さんに対する寛解導入療法は、TKI+多剤併用化学療法が選択されます。65歳以上の高齢患者さんには、TKI+ステロイド療法が推奨されています。可能であれば、TKIに加えて減弱化学療法による地固め療法もしくは維持療法が推奨されています。
TKIは複数の薬剤がありますが、第一選択薬は、イマチニブ(製品名:グリベック)です。第二世代のTKIとして、ニロチニブ(製品名:タシグナ)、ダサチニブ(製品名:スプリセル)、ボスチニブ(製品名:ボシュリフ)があります。第三世代のポナチニブ(製品名:アイクルシグ)は、上記の薬に対して耐性が起きたときに使用します。
再発・難治性の急性リンパ性白血病で、がん細胞の表面に「CD22」というタンパク質が発現している場合、イノツズマブオゾガマイシン(製品名:ベスポンサ)という分子標的薬が使用されます。CD22は、B細胞性の急性リンパ性白血病のほとんどで発現しており、治療効果が期待できます。
また、再発・難治性のB細胞性急性白血病に対する分子標的薬として、ブリナツモマブ(製品名:ビーリンサイト)が承認されています。ブリナツモマブは、がん細胞の表面に発現している「CD19」というタンパク質とほぼすべてのT細胞に発現しているT細胞を活性化する「CD3」というタンパク質の両方と結合する分子標的薬です。がん細胞と活性化T細胞を物理的に近づけ、抗腫瘍効果を発揮します。
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫の造血幹細胞移植
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫に対する造血幹細胞移植は、大量化学療法や放射線治療により、白血病細胞も含めて骨髄細胞を破壊した後、白血球の型が一致したドナーから採取された正常な骨髄を患者さんの静脈から移入して、血液の元となる骨髄を正常なものと入れ替える治療法です。
フィラデルフィア染色体陽性の患者さんに対しては、同種造血幹細胞移植が推奨されています。
フィラデルフィア染色体陰性の患者さんに対して、小児型化学療法が行われている場合は、化学療法の継続が推奨されていますが、予後不良因子がある患者さんに対しては、同種造血幹細胞移植が考慮されます。
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫の放射線治療
T細胞系のリンパ芽球性リンパ腫では、左右の肺の間にある縦隔(じゅうかく)に腫瘤(しゅりゅう)ができていることが多くあり、局所再発予防を目的として縦隔に放射線治療が行われることがあります。治療開始前に縦隔に大きな病変があった場合、または化学療法に対する反応が遅い場合、治療後に病変が残った場合などで検討されます。しかし、縦隔への放射線治療は、放射線を照射することで起こる二次性がんのリスクや、心臓への影響があるため、慎重に検討されます。
急性リンパ性白血病の再発予防を目的とした脳と脊髄への予防的全脳照射を行うことがあります。認知機能の低下、内分泌異常、髄膜腫などの二次性がんを発症する可能性もあるため、慎重な検討が必要です。
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫のCAR-T細胞療法
CAR-T細胞療法は、患者さんから採取したT細胞に、がん細胞表面の抗原を認識すると活性化するように設計された受容体(CAR)を人工的に導入した、がん細胞攻撃に特化したT細胞(CAR-T細胞)を使った治療法です。体外で作ったCAR-T細胞は、培養して増やしてから患者さんの体に戻しますが、その際の前処置として、抗がん薬の一種であるシクロホスファミドなどが投与されます。これは、体内のリンパ球を減らす目的で行われる処置です。リンパ球中には、過剰な免疫反応を抑制する働きをもつ制御性T細胞が存在します。この細胞によって、CAR-T細胞の働きが抑えられないように、あらかじめ体内の制御性T細胞を減らすのが狙いです。
急性リンパ性白血病に対するCAR-T細胞療法として、「再発または難治性のCD19陽性B細胞急性リンパ芽球性白血病」の効能・効果で、「チサゲンレクルユーセル(製品名;キムリア)」が、2019年3月26日に厚生労働省に承認されました。
参考文献:一般社団法人日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版.金原出版