再発
慢性骨髄性白血病の治療効果判定、経過観察、再発などをご紹介します。
慢性骨髄性白血病の治療判定
慢性骨髄性白血病の治療は、白血病細胞をコントロールすることで慢性期を維持し、病気の進行を回避することが目的です。慢性期の治療効果は、「血液学的奏効」「細胞遺伝学的奏効」「分子遺伝学的奏効」3つのレベルで判定されます。血液学的奏効の判定基準は、末梢血中の白血球や血小板の数、芽球や顆粒球の割合などです。細胞遺伝学的奏効の判定基準は、骨髄中のフィラデルフィア染色体の割合、分子遺伝学的奏効の判定基準は、血液細胞中のBCR-ABL1遺伝子の発現量です。血液学的奏効は、慢性期と移行期・急性転化期で基準が異なりますが、細胞遺伝学的奏効と分子遺伝学的奏効は、慢性期も移行期・急性転化期も同じ基準で判定されます。
慢性骨髄性白血病の治療効果の判定基準
血液学的奏効 | 血液・骨髄検査所見および臨床所見 | |
---|---|---|
慢性期 | 血液学的完全奏効 | 1.白血球<10万/μL |
2.血小板<45万/μL | ||
3.末梢血液中で芽球も前骨髄球もなし | ||
4.末梢血液中の骨髄球+後骨髄球=0% | ||
5.好塩基球<5% | ||
6.脾臓および肝臓の腫大なく、髄外病変なし | ||
進行期 (移行期+急性期) | 血液学的完全奏効 | 1.白血球≦施設基準値の上限 |
2.好中球数≧1,000/μL | ||
3.血小板≧10万/μL | ||
4.末梢血液中で芽球も前骨髄球もなし | ||
5.骨髄中の芽球≦5% | ||
6.末梢血液中の骨髄球+後骨髄球<5% | ||
7.好塩基球<20% | ||
8.脾臓および肝臓の腫大なく、髄外病変なし | ||
白血病の所見なし | 1.WBC≦施設基準値の上限 | |
2.末梢血液中で芽球も前骨髄球もなし | ||
3.骨髄中の芽球≦5% | ||
4.末梢血液中の骨髄球+後骨髄球<5% | ||
5.好塩基球<20% | ||
6.脾臓および肝臓の腫大なく、髄外病変なし |
細胞遺伝学的奏効 | 骨髄有核細胞中のフィラデルフィア染色体 (BCR-ABL1)陽性率 |
---|---|
細胞遺伝学的大奏効 | 0〜35% |
細胞遺伝学的完全奏効 | 0 |
細胞遺伝学的部分奏効 | 1〜35% |
細胞遺伝学的小奏効 | 36〜65% |
細胞遺伝学的微小奏効 | 66〜95% |
細胞遺伝学的非奏効 | >95% |
分子遺伝学的奏効 | BCR-ABL1(国際指標で補正)遺伝子レベル |
---|---|
分子遺伝学的大奏効 | BCR-ABL1≦0.1% |
分子遺伝学的に深い奏効 | |
分子遺伝学的奏効4.0 | BCR-ABL1≦0.01% |
分子遺伝学的奏効4.5 | BCR-ABL1≦0.0032% |
分子遺伝学的奏効5.0 | BCR-ABL1≦0.001% |
出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018.
慢性骨髄性白血病の経過観察と検査
慢性骨髄性白血病の慢性期と移行期では、Bcr-Ablタンパク質をターゲットとしたチロシンキーナーゼ阻害薬(TKI)が使用され、慢性期を維持するために3か月、6か月、12か月と効果判定が行われます。検査の頻度は、病型、治療内容と効果、継続して行われる治療の有無、合併症、治療後の回復状態などにより異なることもあります。通常、最初は週単位で通院し、その後は月単位になっていきます。治療効果が高く副作用もコントロールできていれば、2~3か月ごとの通院になっていきます。
主な検査は、診察、血液検査、尿検査のほか、心電図、超音波検査、X線検査などの画像検査です。検査結果によっては、骨髄検査を行います。
慢性骨髄性白血病の一次治療のTKIの効果判定
評価時点 | 効果 | ||
---|---|---|---|
至適奏効 | 要注意 | 不成功 | |
治療前 | 指摘なし | 高リスクまたは フィラデルフィア染色体の付加的染色体異常 | 指摘なし |
3か月 | BCR-ABL1 ≦10%または フィラデルフィア染色体異常 ≦35% | BCR-ABL1 >10%または フィラデルフィア染色体異常 36〜95% | 血液学的完全奏効に未到達または フィラデルフィア染色体異常 >95% |
6か月 | BCR-ABL1 <1%または フィラデルフィア染色体異常 0% | BCR-ABL1 1〜10% またはフィラデルフィア染色体異常 1〜35% | BCR-ABL1 >10%または フィラデルフィア染色体異常 >35% |
12か月 | BCR-ABL1 ≦0.1% | BCR-ABL1 >0.1〜1% | BCR-ABL1 >1%または フィラデルフィア染色体異常 >0% |
その後どの時点でも | BCR-ABL1 ≦0.1% | フィラデルフィア染色体以外の 付加的染色体異常(-7または7q-) | 血液学的完全奏効の喪失 細胞遺伝学的完全奏効の喪失 確定した分子遺伝学的大奏効の喪失 ABL1 変異 フィラデルフィア染色体の付加的染色体異常 |
出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018. 第I章 白血病、I 白血病、4慢性骨髄性白血病 「表3-1」を一部和訳
慢性骨髄性白血病の再発(増悪)
慢性骨髄性白血病では、TKIの治療効果が失われた場合や、治療中に移行期や急性転化期へ進行した場合に増悪とみなされ、患者さんの病状にあわせた治療が選択されます。他のTKIによる治療への変更や同種造血幹細胞移植により、再び寛解が得られることもあります。
TKIが開発されるまでの慢性骨髄性白血病の治療目標は、慢性期から急性転化期への移行を阻止することでした。しかし、TKIの開発により、長期間の深い分子遺伝学的奏効が得られるようになった現在の治療目標は、「治療をしなくても寛解状態を維持すること(TFR)」に変わってきています。分子遺伝学的に深い奏効とは、血液細胞中に発現しているBCR-ABL融合遺伝子が、0.01%以下になった状態です。イマチニブによる一次治療後に、深い分子遺伝学的奏効が得られた一部の症例では、長期のTFRが確認されています。イマチニブの中止後に深い分子遺伝学的奏効を喪失した場合でも、イマチニブを再開することで再び深い分子遺伝学的奏効を得ることができているという報告があります。そのため、イマチニブの治療後に増悪した患者さんの二次治療においても、3か月、6か月、12か月と効果判定が行われます。
慢性骨髄性白血病のイマチニブ失敗患者さんに対する二次治療のTKIの効果判定
評価時点 | 効果 | ||
---|---|---|---|
至適奏効 | 要注意 | 不成功 | |
治療前 | 指摘なし | イマチニブ治療にて血液学的完全奏効未達成 血液学的完全奏効の喪失 初回TKI治療にて細胞遺伝学的奏効未到達または高リスク | 指摘なし |
3か月 | BCR-ABL1 ≦10% または フィラデルフィア染色体異常 <65% | BCR-ABL1 >10%または フィラデルフィア染色体異常 65〜95% | 血液学的完全奏効に未到達または フィラデルフィア染色体異常 >95%または 新しいABL1 変異 |
6か月 | BCR-ABL1 ≦10%または フィラデルフィア染色体異常 <35% | フィラデルフィア染色体異常 35〜65% | BCR-ABL1 >10%または フィラデルフィア染色体異常 >65%または 新しいABL1変異 |
12か月 | BCR-ABL1 <1%または フィラデルフィア染色体異常 0% | BCR-ABL1 1〜10%または フィラデルフィア染色体異常 1〜35% | BCR-ABL1 >10%または フィラデルフィア染色体異常 >35%または 新しいABL1変異 |
その後どの時点でも | BCR-ABL1 ≦0.1% | フィラデルフィア染色体以外の 付加的染色体異常(-7または7q-) またはBCR-ABL1 >0.1% | 血液学的完全奏効の喪失 細胞遺伝学的完全奏効の喪失 確定した分子遺伝学的大奏効の喪失 新しいABL1変異 フィラデルフィア染色体の付加的染色体異常 |
出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018. 第I章 白血病、I 白血病、4慢性骨髄性白血病 「表3-2」を一部和訳
参考文献:般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018.
Mahon FX, et al., Discontinuation of imatinib in patients with chronic myeloid leukaemia who have maintained complete molecular remission for at least 2 years : the prospective, multicentre Stop Imatinib(STIM)trial. Lancet Oncol. 2010, 11 :1029-1035.