検査・診断
慢性骨髄性白血病の検査、病期分類、治療選択などをご紹介します。
慢性骨髄性白血病の検査
慢性骨髄性白血病の主な検査は、「血液検査」「骨髄検査」「画像検査」です。
血液検査
血液検査として、まずは血液中の赤血球、白血球、血小板の数を調べる検査が挙げられます。このとき、白血球の成熟段階を調べる検査を行われます。慢性期では、好中球系の白血球が、未熟なものから成熟したものまで偏りなく増加しているという特徴があるため、こうした特徴がみられた場合には、さらに詳しく検査が行われます。
血液の成分を分析し、体の異常を示す因子を調べるために行われるのが、生化学検査です。生化学検査は、尿の成分でも行われます。治療早期に、高尿酸血症や電解質異常が起こることや、治療中に、治療の副作用による肝機能異常や脾臓(ひぞう)の酵素異常が起こることがあり、そのようなタイミングに生化学検査が行われます。
慢性骨髄性白血病の原因であるBCR-ABL融合遺伝子の量を測定するためには、遺伝子を増幅する「PCR法」などで、血液細胞を調べます。これを、「分子遺伝学的検査」といい、確定診断や治療効果の確認を目的とする検査です。
分子遺伝学的検査に対し、細胞遺伝学的検査と呼ばれる検査もあります。これは、染色体検査とも呼ばれ、血液中のBCR-ABL融合遺伝子を、直接顕微鏡で検出するために行います。よく行われるのは、「FISH法」という検査方法です。染色体検査は骨髄液で調べる方法もありますが、血液細胞でのFISH法は骨髄液を調べるより短い期間で結果が出るため、早く確定診断をしたいときや治療効果を確認するために行われます。
骨髄検査
骨髄検査のためには、まず骨髄を採取します。骨髄液を採取する方法は「骨髄穿刺(せんし)」、骨髄組織を採取する方法は「骨髄生検」です。骨髄穿刺は、皮膚に近く浅いところにある腰骨(骨盤)や胸骨に、骨髄穿刺用の針を刺し注射器で骨の中にある骨髄を吸い出します。局所麻酔をしますが、骨髄を吸い出すときには痛みがあります。骨髄生検は、腰骨にやや太い針を刺し、骨髄組織を採取します。
骨髄検査には、骨髄像検査と染色体検査の2つがあります。骨髄像検査は、採取した骨髄液中に含まれる細胞の比率や様子(分化段階)を顕微鏡で調べる検査です。染色体検査は、「Gバンド法」という骨髄細胞中の染色体異常を検出する方法で骨髄液を調べる検査で、確定診断や治療効果の確認のために行います。Gバンド法では、フィラデルフィア染色体が陽性の細胞比率だけではなく、白血病細胞や正常細胞に他の染色体異常がないかも調べられます。
画像検査
画像検査は、胸部レントゲン検査、心電図、心臓や頸動脈の超音波検査などがあります。治療開始前に、治療方針の決定のためや治療による副作用を確認するために定期的に行われます。
慢性骨髄性白血病の病期
慢性骨髄性白血病は、フィラデルフィア染色体に存在するBCR-ABL融合遺伝子から作られるタンパク質(酵素)が恒常的に活性化することにより白血病細胞を増殖させ、「慢性期」「移行期」「急性転化期」という3つの病期を経て進行します。
慢性期には、白血球と血小板の数が増加している一方で、自覚症状がないこともあります。慢性期は約3~5年続き、この時期に治療を受けないか、または治療の効果が十分得られなかった場合は、顆粒球の分化異常が進行する移行期へ移っていきます。3~9か月の移行期を経て、未分化な芽球(がきゅう:幼若な形態の血液細胞)が増加し急性白血病と同じような状態となる急性転化期へと進展します。
移行期、急性転化期では治療効果が得られにくいため、慢性期を維持するための治療が大切です。移行期になると、白血球数のコントロールが困難になり、脾臓の腫大(しゅだい)が進行したり、貧血、出血、発熱があらわれることがあります。急性転化期では、骨髄や末梢血中で芽球が増加するため、赤血球の減少による貧血、白血球が減少することで感染症になり起こる発熱、血小板の減少による出血などさまざまな症状があらわれます。白血病細胞が皮膚、骨、リンパ節に腫瘤(しゅりゅう)をつくったり、脳や周辺に浸潤することもあります。
慢性骨髄性白血病の病期分類 ELN(2013)
移行期 |
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以下のいずれか1つに該当するもの |
・末梢血あるいは骨髄における芽球割合15〜29%、または芽球と前骨髄球が30%以上 |
・末梢血における好塩基球割合≧20%大 |
・治療に無関係の血小板減少(<10万/μL) |
・染色体異常 付加的な染色体異常の出現 |
急性転化期 |
下記のいずれか1つに該当するもの |
・末梢血あるいは骨髄における芽球割合≧30% |
・髄外浸潤 髄外病変の出現 |
慢性骨髄性白血病の治療選択
慢性期における治療の第一選択は、第一世代の分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬:TKI)のイマチニブ(製品名:グリベック)、第二世代のニロチニブ(製品名:タシグナ)、ダサチニブ(製品名:スプリセル)、ボスチニブ(製品名:ボシュリフ)です。治療前に低・中間・高の3つのリスクに分類され、低・中間の場合は、イマチニブもしくは第二世代のTKIが選択されます。高リスクの場合は、第二世代のTKIが優先されます。また、上記の4剤は副作用が異なるため、合併症など患者さんの病態に応じた治療選択が推奨されています。
TKIによる治療効果をELN基準(上記の病期分類の表に従った基準)で判定し、効果があった場合はTKIでの治療が継続されます。効果判定で要注意となった場合には、頻回に経過観察が行われます。効果がなくなかった場合、初回治療で使用しなかった第二世代のTKI、もしくは第三世代のTKIポナチニブ(製品名:アイクルシグ)が選択されます。また、2剤抵抗性/不耐容の場合は、アシミニブ(製品名:セムブリックス)による治療が行われます。
TKIの継続治療を行い、分子遺伝学的完全寛解(DMR)※を達成し微小残存病変(MRD)が検出されなく一定の条件を満たした場合は、定期的なモニタリングを条件にTKIの中止を考慮することができます。
※血液中の細胞のBCR-ABL遺伝子量を調べて、0.1%以下になると「分子遺伝学的効果(MMR)」と判断され、この検査で2回連続してBCR-ABL遺伝子がさらに低下し0.0032%以下の場合、「分子遺伝学的完全寛解(DMR)」到達と判断されます。
進行期ではTKI単独もしくは急性白血病に準じた化学療法が併用(TKI±化学療法)されます。同種造血幹細胞移植が適応なら同種造血幹細胞移植が行われ、適応がない場合はTKI±化学療法が継続されます。
参考文献:般社団法人日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版.金原出版