乳がんの治療選択

乳がんのサブタイプやステージ分類による、治療選択と治療法を解説します。

乳がんの治療選択

乳がん治療は、ステージ分類とサブタイプを総合的に判断され治療方針が決定されます(乳がんの検査と診断を参照)。

ステージ分類とサブタイプ分類による治療選択

乳がんのステージ分類とサブタイプ分類による治療選択

0期の治療

0期
  • 乳腺を構成する乳管や小葉の中にがんがとどまっている非浸潤がん
  • 浸潤を伴わないパジェット病
  • リンパ節や遠隔転移がない

がんの大きさが小さい場合は、乳房部分切除(乳房温存手術)が行われます。乳房部分切除を行った場合、術後に放射線治療も行います。患者さんの症状によっては、センチネルリンパ節の生検も行われます。
切除した組織を検査して、がんの性質(サブタイプ)などを調べます。タイプに合わせて、ホルモン療法、化学療法、抗HER2療法などが再発予防のために行われることがあります。

Ⅰ~Ⅱ期の治療

ⅠA期
  • しこりの大きさが2cm以下
  • リンパ節や遠隔転移がない
ⅠB期
  • 視触診や画像検査で原発巣が確認できないか2cm以下
  • 同側腋窩リンパ節への微少転移はあるが、遠隔転移はない
ⅡA期
  • 視触診や画像検査で原発巣が確認できないか2cm以下
  • 同側腋窩リンパ節への転移はあるが、遠隔転移はない
もしくは
  • しこりの大きさが2~5cm
  • リンパ節転移や遠隔転移がない
ⅡB期
  • しこりの大きさが2~5cm
  • リンパ節転移はあるが遠隔転移がない
もしくは
  • しこりの大きさが5cmを超える
  • リンパ節転移や遠隔転移がない

乳房部分切除か乳房切除術を行います。部分切除の場合は、術後に放射線治療が必須ですが、乳房切除術の場合でも、術後放射線治療が必要になることもあります。また、がんが大きい場合は、手術の前に抗がん剤を使いがんを縮小させてから切除することもあります(術前化学療法)。患者さんの症状によっては、センチネルリンパ節生検を行うか、リンパ節転移が明らかな場合は、腋の下にある腋窩リンパ節の郭清が検討されます。
切除した組織を検査して、がんの性質(サブタイプ)などを調べ、再発リスクを評価します。タイプに合わせて、ホルモン療法、化学療法、抗HER2療法などの1種類または、複数を組み合わせて再発予防のために行われます。

Ⅲ期の治療

ⅢA期
  • しこりの大きさが5cm以下
  • 腋窩リンパ節に転移があり、リンパ節が周辺の組織に固定されている状態、またはリンパ節が互いに癒着している状態、または腋窩リンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節に転移がある場合
もしくは
  • しこりの大きさが5cm以上
  • 腋窩または胸骨の内側のリンパ節への転移がある
ⅢB期
  • しこりの大きさは問わない
  • リンパ節への転移の有無に関わらない
  • 皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいる
  • 炎症性乳がんも含む
ⅢC期
  • しこりの大きさは問わない
  • 腋窩リンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移がある、または鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある

Ⅲ期の治療では、まず病理検査を行ない、がんの性質を調べてから、サブタイプに合わせて、ホルモン療法、化学療法、抗HER2療法などの1種類または、複数を組み合わせた薬物療法が行われます。また薬物療法を行った後、患者さんの症状によって、乳房部分切除や乳房切除術、腋窩リンパ節郭清、放射線治療が検討されます。術前化学療法を行ってからⅡ期と同様に手術やリンパ節郭清などを行うこともあります。

Ⅳ期の治療

Ⅳ期
  • しこりの大きさは問わない
  • リンパ節への転移の有無に関わらない
  • 遠隔転移がある

Ⅳ期の治療では、まず、病理検査を行ない、がんの性質を調べてから、ホルモン剤や抗がん剤、分子標的薬などを使った薬物療法後、患者さんの症状によって、乳房部分切除や乳房切除術、腋窩リンパ節郭清、放射線治療、緩和ケアが検討されます。

手術

乳がんの外科的治療は、乳房を温存する「乳房部分切除術」と乳房を全部切除する「乳房切除術」の2つがあります。乳房切除術は、乳房全部と大胸筋、小胸筋、腋窩リンパ節、鎖骨下リンパ節をすべて切除する定型乳房切除術が以前は多く行われていましたが、現在は胸筋を切除しない非定型乳房切除術が標準的な乳房切除術となっています。乳房部分切除が増えていましたが、乳房再建手術の保険適用と手術の進歩によって、乳房再建を前提にした皮膚や乳頭を温存した乳房切除術が増加傾向にあります。

乳房部分切除術(乳房温存手術)

乳房を全部切除せず、がんがある部分だけを切除する手術です。部分的切除のため、がんが取りきれたかを手術中に切りとった断面を組織診や細胞診を行って確認します。乳房の形を美容的に満足できるように配慮して行われます。
乳房部分切除術の場合は、残った乳房の再発防止のために術後に放射線治療を行います。

乳房切除術

乳房切除術では、胸筋を残してすべての乳房を切除する非定型乳房切除術と胸筋も切除する定型乳房切除術があります。現在は、胸筋を残す非定型乳房切除術が多く行われています。すべての乳房を切除するため、胸のふくらみはなくなりますが、乳房再建手術で胸のふくらみを取り戻すことができるようになりました。そのため乳房再建手術を想定して、乳頭、乳輪、皮膚を残した乳房切除術もあります。

腋窩リンパ節郭清

腋窩リンパ節郭清は、わきの下にあるリンパ節をすべて取り除く手術です。腋窩リンパ節の取り残しがないようにリンパ節周囲にある脂肪も一緒に切除します。腋窩リンパ節郭清をすると、腕が上がりにくい、しびれる、むくむといった症状が出ることがあります。そのため、腋窩リンパ節に明らかな転移がないと思われる場合は、腋窩リンパ節郭清を行う前にセンチネルリンパ節生検を行います。
がん細胞が最初に転移するリンパ節が、センチネルリンパ節です。このリンパ節に転移が見つからなければ、その先のリンパ節には転移していないと判断できるため、生検で転移があるかないかを調べます。センチネルリンパ節生検が陰性の場合は、腋窩リンパ節郭清は行わなくても再発率はかわらないことがわかっています。1個でも転移が見つかった場合は、腋窩リンパ節郭清を行うのが標準治療です。

乳房再建

乳房切除術で失われた胸のふくらみを取り戻すために行われるのが、乳房再建です。形成外科で行われ、再建方法は「自家組織」と「人工物(シリコン・インプラント)」の2つの方法があります。また、乳房を再建するタイミングでも異なり、乳がんの手術と同時に行うのが「一次再建」、乳がんの手術後数か月たってからあらためて行うのが「二次再建」といいます。

自家組織

患者さん自身の自家組織を使って、乳房を再建する手術です。採取する箇所はお腹、背中です。乳房以外の部位を切開し組織を採取するため、人工物に比べると身体への負担は大きくなります。

人工物(シリコン・インプラント)

自家組織ではなく、人工物(シリコン・インプラント)を使って、乳房を再建する手術です。自家組織を採取する必要がないため、身体のほかの部分に傷をつけずに行うことができます。シリコンは人体にとって異物であるため、シリコンの周りに被膜ができることがあり、そのまま放置すると、シリコンが変形することもあります。また、感染症を生じる可能性もわずかですがあります。放射線治療を受けた患者さんでは、人工物の再建が難しいことがあります。

一次再建

乳がんの手術と同時に行うため、手術回数は1回で済みます。

二次再建

乳がんの手術後数か月たってからあらためて再建手術を行います。人工物による再建の場合、1回目の手術で、少量の生理食塩水がはいったエキスパンダーという袋を挿入し、皮膚をなめらかに伸ばします。2回目の手術で、自家組織や人工物と入れ替えます。

放射線治療

放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を体外から、がん細胞に照射する局所療法です。
初期治療で行われる放射線治療は、局所再発やリンパ節の再発を抑制するために、目に見えない微少のがん細胞や手術で取りきれなかったかもしれないがん細胞を死滅させるために行われます。乳房部分切除術で乳房を温存した場合や、乳房切除術で乳房を完全に切除していても再発リスクの高い患者さんが対象です。

放射線治療の手順と治療時間

  1. 照射部位と放射線量を専門医が決定
  2. 皮膚にインクで照射位置と同じ体勢をとるための基準となる目印をつける
  3. 通常1日1回、照射時間は1~3分程度

副作用は、次の症状などがありますが、比較的軽度で大きな問題になることは多くありません。

  • 皮膚炎
  • 倦怠感
  • 白血球の減少
  • 放射線肺臓炎

皮膚炎は、治療中から終了直後に起こり、日焼けしたように赤くなりますが、1~2週間で改善します。また、肺に炎症が起こることがあり、咳や微熱の症状が続くときは放射線肺臓炎の可能性があります。いずれにしろ、気になる症状があれば、医師に伝えましょう。

薬物療法

乳がんの薬物療法は、抗がん剤を使った「化学療法」、ホルモン剤を使った「ホルモン療法」抗HER2抗体薬を使った「抗HER2療法」の3つがあります。薬物療法は、手術などの治療後に行う場合とがんを小さくしてから手術する目的で行われる場合があり、ステージやリスクにあわせて選択されます。どの薬を使うかは、がんの性質による「サブタイプ分類」によって選択されます。

サブタイプ分類による薬物療法の選択

サブタイプ分類 薬物療法
ルミナルA型 ホルモン療法、化学療法
ルミナルB型(HER2陰性) ホルモン療法、化学療法
ルミナルB型(HER2陽性) ホルモン療法、抗HER2療法、化学療法
HER2陽性 抗HER2療法、化学療法
トリプルネガティブ 化学療法

ホルモン療法(内分泌療法)

女性ホルモンの刺激によってがんが増殖するホルモン受容体陽性の乳がんでは、ホルモン療法が行われます。使われるホルモン剤は、主に次の4つです。

  • 抗エストロゲン剤
  • 選択的アロマターゼ阻害剤
  • LH-RHアゴニスト
  • プロゲステロン製剤

抗エストロゲン剤は、女性ホルモンのエストロゲン受容体に結合することで阻害します。
閉経後の女性では、副腎皮質から分泌される男性ホルモンからアロマターゼという酵素で女性ホルモンが作られます。選択的アロマターゼ阻害剤は、このアロマターゼという酵素を選択的に阻害することで女性ホルモンが作られないようにします。
閉経前の女性の卵巣から分泌される女性ホルモンを抑制するために黄体ホルモン放出ホルモン抑制剤であるLH-RHアゴニストが使われます。

抗がん剤より軽いといわれますが副作用はあります。

例えば、以下の更年期障害のような症状がみられることがあります。

  • 顔面の紅潮やほてり
  • のぼせ
  • 発汗
  • 動悸

また、次の精神や神経に関連した症状がみられることがあります。

  • 頭痛
  • 肩こり
  • うつ状態
  • 不眠

このほかにも、以下に挙げた副作用がでることもありますので、気になる症状があれば医師にご相談ください。

  • 筋肉痛
  • 関節の痛みやこわばり
  • 骨密度の低下
  • 血栓
  • 不正出血
  • 膣炎

化学療法(殺細胞性抗がん剤)

がん細胞は、増殖のスピードが速かったり制限なく増殖し続ける性質があります。殺細胞性抗がん剤は、細胞の増殖に関わるDNAに作用したり、分裂を阻害したり、たくさんの種類があります。そのため作用の異なる薬を組みわせて治療するのが一般的です。

  • トポイソメラーゼ阻害薬
  • 微小管作用薬
  • アルキル化薬
  • 代謝拮抗薬
  • 白金錯体

主な副作用は、以下の症状です。

  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 脱毛
  • 貧血
  • 出血
  • 骨髄抑制
  • 末梢神経障害(手足のしびれなど)

このほかにも倦怠感、下痢、口内炎、爪の異常、味覚障害、肝機能障害などがあります。自覚できない症状もありますが、気になる副作用の症状があれば医師にご相談ください。

分子標的薬

抗がん剤は、殺細胞性抗がん剤のほかに分子標的薬という特定の分子を標的としたタイプがあります。がん細胞に特異的に発現している分子をターゲットに攻撃するため、殺細胞性抗がん剤より特異的に作用します。乳がんの化学療法で使われる分子標的薬は、

  • HER2を標的した抗HER2抗体薬
  • 血管新生を促すVEGFを標的にした薬
  • がんが増殖するときの伝達経路に関わるmTOR(エムトール)たんぱくを標的にした薬
  • 細胞周期の調節の役割を担うCDK4/6を標的にした薬
  • 腫瘍壊死因子のRANKLを標的とした骨転移で使われる薬

などがあります。
殺細胞性抗がん剤に比べると分子標的薬の副作用は少なく体への負担も少なくなっていますが、副作用がないわけではありません。殺細胞性抗がん剤とは異なる重大な副作用もありますので、気になる症状があれば医師にご相談してください。

抗HER2療法

乳がんの薬物療法では、HER2が陽性の患者さんには、抗HER2療法が選択されます。抗HER2療法で使われるのは、HER2を標的とした分子標的薬です。

トラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)
投与方法 静脈注射
対象 術前、術後、転移、再発 HER2陽性の乳がん
副作用 心障害、アナフィラキシー様症状、悪寒、発熱、全身倦怠感など
ペルツズマブ(製品名:パージェダ)
投与方法 静脈注射
対象 転移、再発 トラスツズマブとタキサン系抗がん剤と併用
副作用 心障害、アナフィラキシー様症状、悪寒、発熱、全身倦怠感など
T-DM1(製品名:カドサイラ)
投与方法 静脈注射
対象 転移、再発 トラスツズマブ併用療法後進行した場合に使用
副作用 吐き気、嘔吐、下痢、疲労感、肝機能障害、血小板減少など
ラパチニブ(製品名:タイケルブ)
投与方法 経口
対象 転移、再発 HER2陽性手術不能または再発乳がん
副作用 下痢、発疹、爪周囲炎、皮膚障害など

再発・転移

再発や転移した乳がんは、局所再発を除き基本的に根治は難しく、生存期間の延長と生活の質(QOL)の維持と改善になります。再発までの期間が長い患者さんで、単発性の遠隔転移では、長期予後の可能性があることがわかってきています。
乳がんの再発には3つのパターンがあります。

乳房内再発 温存した乳房に起こる再発
局所・領域再発 乳房を全摘後の胸壁の皮膚やリンパ節に起こる再発
遠隔転移再発 がん細胞がリンパや血液の流れにのって離れた臓器に移動して先で増殖した再発

乳房内再発と局所・領域再発はその部分だけの可能性があるため、遠隔転移再発とは治療方針が異なります。

乳房内再発/局所・領域再発の治療

乳房内再発と局所・領域再発は、切除できるなら手術で再度根治を目指します。患者さんの病態によって、薬物療法や放射線治療が併用されます。初期治療で、放射線治療が行われた場合は、初期治療で照射量の限界まで行われている可能性が高く、同じ部位への放射線照射は困難となります。
再発乳がんの放射線治療の適応は、次の場合に行われることが多くなっています。

  • 局所・領域リンパ節再発では、乳房温存療法後の鎖骨上リンパ節再発
  • 乳房切除術後の初期治療で非照射を行っていない胸壁再発

こうした再発では、長期間の無病生存期間の継続を目標とします。

遠隔転移再発の治療

遠隔臓器に転移・再発した乳がんでは、患者さんによって多様な背景があるため、3つの因子を考慮して全身治療として薬物療法が行われます。

  • 患者の個別性
  • エビデンス(科学的根拠)
  • 患者の希望

患者の個別性は、ホルモンの陽性/陰性、HER2の陽性/陰性など乳がんの性質で分類したサブタイプ分類と転移した部位(臓器)と広がり、再発までの期間、術後に行った薬物療法、現在の症状などが考慮されます。

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