乳がんの基礎知識
乳がんとはどんな病気なのか、種類、症状、疫学など基礎知識を紹介します。
乳がんの種類
乳房は、乳頭を中心に15~20の乳腺葉で構成されています。乳腺葉は、乳汁(母乳)をつくる小葉と乳汁を乳頭まで運ぶ枝状の乳管でできています。
乳管の上皮細胞にできるのが乳管がんで、小葉にできるのが小葉がんです。
乳管がん | 約95% |
小葉がん | 約5% |
ほとんどは、この2種類ですが、このほかにも特殊な型のがんがあります。
- 粘液がん
- 管状がん
- 腺様嚢胞がん
これら特殊な型の乳がんは多くはありません。乳がんの種類や性質によって、進行や転移のしやすさは異なります。
がん細胞が、乳管や小葉内にとどまっているかどうかでも呼び方が違います。
とどまっている | 非浸潤がん |
外まで進行している | 浸潤がん |
乳がんのできる場所もまちまちで、乳房の脇側上部にできるがんが約40~50%といわれています。
乳がんの罹患率と生存率
乳がんの罹患数は、日本女性の12人に1人といわれ、約89,100人で女性の部位別がん罹患数1位で、増加傾向にあります。女性のがん死亡予測数では、1位大腸がん、2位肺がん、3位膵臓がん、4位胃がん、5位乳がんで、罹患数に比べると死亡数は少なくなっています(2017年がん罹患数予測)。2006年~2008年の部位別5年相対生存率では、乳がんは91.1%、10年相対生存率は79.3%です。男性も乳がんになりますが、罹患率は女性の乳がんの1%程度です。
- 日本女性の12人中1人
- 女性部位別罹患数:1位
- 5年相対生存率:91.1%
- 10年相対生存率:79.3%
年代でみると40~50代が多く、若年性乳がんといわれる35歳未満の患者さんは乳がん全体でみると2.7%と少数ですが、15~39歳の「AYA世代」といわれる若年層のがん罹患率の調査では、30代では乳がんが1位になっています。
乳がんの症状
早期の乳がんでは、自覚できる症状は少なく、進行とともに症状が現れます。自覚症状の1つが乳房のしこりです。乳房にしこりがあっても悪性腫瘍とは限らず、ほかの病気でもしこりが見つかることがあり、約90%が良性とされています。
乳がんのしこりの特徴は、次の2点です。
- 硬い
- 動かない
乳房のしこりのほかの症状は、
- 乳頭や乳輪の湿疹やただれ
- 乳頭からの血が混じった分泌物
- えくぼのような乳房のへこみ
- 皮膚の赤身や腫れ
- 熱っぽさ
- 腋の下の腫れやしこり、痛み
などがあります。こうした症状があれば、自己判断せずに、医療機関を受診し専門医の診断を受けましょう。
乳がんの検診
乳がん検診は、主にマンモグラフィで行われ、医師が補助的に乳房や腋の下をみる、触る視触診という検査が行われます。マンモグラフィ検査では、よく石灰化という所見があります。分泌物に含まれるカルシウムが沈着したものがほとんどですが、乳がんが原因でおこる石灰化が生じることもあります。乳がんによる石灰化と疑われる場合は、再検査となります。
また、閉経前の女性(40歳未満)では乳腺組織が発達している(高濃度乳房)ことがあり、小さな影がマンモグラフィでは画像として病変が見えにくいことがあるため、超音波(エコー)検診を行うこともあります。高濃度乳房の場合、マンモグラフィでは、乳腺も乳がんも白く見え、区別が難しいのに対して、超音波検査ではがんは黒く、乳腺は白く見え、比較的発見しやすくなります。
しかし、マンモグラフィに比べ超音波検査は、治療の必要のない良性のがんも見つけすぎてしまうという研究報告もあり、集団検診としては検討が必要といわれています。
乳がんを発見する能力が最も高い検診はMRI検査ですが、遺伝的に乳がんになりやすい人の希望があれば行われます。費用の問題、治療の必要のないがんの発見など不利益が多く、一般の人には勧められていません。
乳がん検診は、市区町村などで行われている対策型がん検診と人間ドックなどの任意型がん検診があります。乳がん検診の目的は、早期発見による乳がんの死亡率を減少させることです。早期に発見できることで、手術、化学療法、放射線療法などの治療が軽減され、身体的にも経済的にも負担を少なくすることができます。その一方で、検査による放射線の被ばくや乳がんでないのに乳がんの疑いがあるといわれる偽陽性、その反対の乳がんなのに乳がんと診断されない偽陰性とされる問題もあります。また、生命予後に関係しないおとなしい乳がんが検診で発見され治療が行われる過剰診断ということもあります。
40歳以上ならこうした乳がん検診を受けることによる不利益よりメリットが大きいといわれています。
マンモグラフィ
透明なプラスチックの板とX線フィルムを入れた台の間に、乳房を片方ずつ入れ平らに挟み、圧迫した状態で撮影する検査です。乳房を圧迫することで、乳房内を鮮明に撮影することができ、放射線被ばくも少なくて済みます。
- 検査時間は10分程度
- 乳房を圧迫する時間は数十秒
- 乳房の大小は関係なく検査可能
- 痛みは個人差があるが、生理前の1週間を避けるといい
超音波(エコー)検診
超音波を発生する機器を乳房にあて、乳腺から跳ね返ってくる超音波をコンピュータで画像化してみる検査です。
- 乳房のしこりが良性か悪性かの判断に有効
乳がんのセルフチェック(自己検診)
乳がんは、セルフチェックで見つけやすいがんです。乳房の変形や左右差がないかを目視したり、手で触れることでしこりや違和感がないかなどを定期的にチェックすることで、見つけやすくなります。セルフチェックのポイントは、
- 両腕を上げ、乳房や乳頭の位置、左右差を鏡でチェック
- チェックする側の腕を上げ、もう片方の手で乳房を渦を巻くように触り、しこりがないかをチェック
- 仰向けに寝た状態で、腋の下から乳房に向けて指を滑らせしこりがないかをチェック
- 月に1度はチェック
- 閉経前なら、月経終了後1週間の間にチェック
- 閉経後なら、毎月決まった日にチェック

患者さんのための乳がん診療ガイドライン2016年版より作成