基礎知識
乳がんとはどんな病気なのか、種類、症状、統計情報など基礎知識を紹介します。
乳がんの種類
乳がんは、大きく「乳管がん」と「小葉がん」に分けられます。乳房は、乳頭を中心に15~20の乳腺葉で構成されています。乳腺葉は、乳汁(母乳)をつくる小葉と乳汁を乳頭まで運ぶ枝状の乳管でできています。乳管の上皮細胞にできるのが乳管がんで、小葉にできるのが小葉がんです。
ほとんどは、この2種類ですが、このほかにも特殊なタイプのがんがあります。
- 粘液がん
- 管状がん
- 腺様嚢胞がん
これらの特殊なタイプは、多くはありません。多いものも少ないものも含めて乳がんは、種類や性質によって、進行や転移のしやすさが異なります。
乳がんの呼び方に関して、がん細胞が乳管や小葉内にとどまっているかどうかという観点から付けられている呼び方もあります。
とどまっている | 非浸潤がん |
外まで進行している | 浸潤がん |
乳がんができる場所はまちまちですが、乳房の脇側上部にできるがんが約40~50%といわれています。
乳がんや卵巣がんの5~10%は、遺伝子変異がかかわっていると考えられており、その中で最も多いのが、BRCA1/2遺伝子変異がある遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)です。BRCA1/2遺伝子変異は、親から子へ性別に関係なく50%の確率で受け継がれます。
乳がんの罹患率と生存率
国立がん研究センターのがん統計2023年によると、2019年に新たに乳がんと診断された人は、女性9万7.141人、男性670人、合計8万7,812人でした。発症年齢は、年代でみると40代後半と70代前半の2つのピークがあります。また、2022年に乳がんで亡くなった女性は、1万5,600人でした。
2013年~2014年に何らかのがんと診断された人全体での5年相対生存率(がん診療連携拠点病院)は、67.5%でした。一方、乳がん(女性)に限って見ると、5年相対生存率は92.2%でした。2009年に乳がんと診断された人の10年相対生存率(がん診療連携拠点病院)は、87.8%でした。
乳がん(女性)の進行度による5年相対生存率(2013~2014年診断)は、以下の通りです。
- ステージ1:99.8%
- ステージ2:95.5%
- ステージ3:80.7%
- ステージ4:38.7%
乳がん(女性)の進行度による10年相対生存率(2009年診断)は、以下の通りです。
- ステージ1:99.0%
- ステージ2:90.7%
- ステージ3:68.6%
- ステージ4:19.4%
※各がんのがん罹患率、生存率の最新情報は、がん情報サービス「がんの統計」をご参照ください。
乳がんの症状
早期の乳がんでは、自覚症状は少なく、進行とともに症状が現れます。自覚症状の1つが乳房のしこりです。乳房にしこりがあっても悪性腫瘍とは限りません。ほかの病気でもしこりが見つかることがあり、約90%が良性とされています。
乳がんのしこりの特徴は、次の2点です。
- 硬い
- 動かない
乳房のしこりのほかの症状は、
- 乳頭や乳輪の湿疹やただれ
- 乳頭からの血が混じった分泌物
- えくぼのような乳房のへこみ
- 皮膚の赤身や腫れ
- 熱っぽさ
- 腋の下の腫れやしこり、痛み
などがあります。こうした症状があれば、自己判断せずに、医療機関を受診し専門医の診断を受けましょう。
乳がんの検診
乳がん検診は、主にマンモグラフィで行われ、医師が補助的に乳房や腋の下をみて触る、視触診という検査が行われます。マンモグラフィ検査では、よく石灰化という所見があります。分泌物に含まれるカルシウムが沈着したものがほとんどですが、乳がんが原因で石灰化が生じることもあります。乳がんによる石灰化が疑われる場合は、再検査が行われます。また、閉経前の女性(40歳未満)では乳腺組織が発達している(高濃度乳房)ことがあり、マンモグラフィでは小さな病変が画像として見えにくいことがあるため、超音波(エコー)検診が行われることもあります。高濃度乳房の場合、マンモグラフィでは、乳腺も乳がんも白く見え、区別が難しいのに対して、超音波検査ではがんは黒く、乳腺は白く見え、比較的発見されやすくなります。
しかし、マンモグラフィに比べ超音波検査は、治療の必要のない良性の腫瘍もがんとして発見されることがあるという研究報告もあり、集団検診として行うことに関しては、検討が必要と考えられています。乳がんの発見力が最も高い検診はMRI検査です。MRI検査は、遺伝的に乳がんになりやすい体質の人が希望した場合に行われます。こうした体質をもたない人に対しては、費用の問題、治療の必要のないがんの発見など不利益が多いため、一般的には勧められていません。
乳がん検診は、市区町村などで行われている対策型がん検診と人間ドックなどの任意型がん検診があります。乳がん検診の目的は、早期発見により乳がんの死亡率を減少させることです。早期に発見できれば、手術、化学療法、放射線療法などの治療が軽減され、身体的にも経済的にも負担を少なくすることができます。乳がん検診はこのように有用である一方で、検査による放射線の被ばく、乳がんでないのに乳がんの疑いとされる偽陽性、逆に乳がんなのに乳がんと診断されない偽陰性とされるなど、まだいくつか解決すべき問題があります。一般に、40歳以上では乳がん検診は、受けることによるこうしたデメリットよりもメリットの方が大きいといわれています。
マンモグラフィ
透明なプラスチックの板とX線フィルムを入れた台の間に、乳房を片方ずつ入れ平らに挟み、圧迫した状態で撮影する検査です。乳房を圧迫することで、乳房内を鮮明に撮影することができ、放射線被ばくも少なくて済みます。
- 検査時間は10分程度
- 乳房を圧迫する時間は数十秒
- 乳房の大小は関係なく検査可能
- 痛みは個人差があるが、生理前の1週間を避けるといい
超音波(エコー)検診
超音波を発生する機器を乳房にあて、乳腺から跳ね返ってくる超音波をコンピュータで画像化してみる検査です。
- 乳房のしこりが良性か悪性かの判断に有効
乳がんのセルフチェック(自己検診)
乳がんは、セルフチェックで見つけやすいがんです。乳房の変形や左右差がないかを目視したり、手で触れることでしこりや違和感がないかなどを定期的にチェックしたりすることで、見つけやすくなります。
セルフチェックのポイント
- 両腕を上げ、乳房や乳頭の位置、左右差を鏡でチェック
- チェックする側の腕を上げ、もう片方の手で乳房を渦を巻くように触り、しこりがないかをチェック
- 仰向けに寝た状態で、腋の下から乳房に向けて指を滑らせしこりがないかをチェック
- 月に1度はチェック
- 閉経前なら、月経終了後1週間の間にチェック
- 閉経後なら、毎月決まった日にチェック
参考文献:日本乳癌学会. ”乳癌診療ガイドライン2022年版”.金原出版
がん情報サービス.冊子「がんの統計」2023