予防と生活

乳がんの予防と治療後の生活習慣に関する注意点を紹介します。

乳がんの原因と生活習慣

乳がんの5~10%はBRCA1/2遺伝子変異が発症に強く関わっている遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)です。また、乳がんは、女性ホルモンのエストロゲンが関係していることがわかっていますが、生活習慣の中でも乳がんの要因として考えられるものがあります。乳がんの要因となる生活習慣は、世界的にみた場合(国際的な評価)と日本人だけをみた場合とでは、少し違いがあります。

国際的な評価は、世界がん研究基金(WCRF)・米国がん研究協会(AICR)が行った「食物・栄養・運動とがん予防」として発表されています。日本人に対する評価は、国立がん研究センター研究開発費による研究班(がん予防研究班)と乳癌診療ガイドラインの中に報告があり、各要因のリスクは、「確実」「ほぼ確実」「可能性あり」「証拠不十分」「大きな関連なし」の5段階で評価されています。

国際的な評価では、閉経前のリスク因子として「成人期の高身長」、閉経後のリスク因子として「成人期の高身長」「アルコール」「肥満」「成人になってからの体重増加」が挙げられています。日本人に対する評価で、リスク因子として「確実」とされているのが、閉経後の肥満です。

飲酒の国際的な評価は、発症リスクとして「ほぼ確実」、日本人に対する評価では、「可能性あり」と評価がわかれています。

WCRF/AICRによる生じ関連因子と乳がんに関する評価

閉経前閉経後
リスク減少リスク増加リスク減少リスク増加
確実成人期の高身長肥満(腹部肥満含む成人になってからの体重増加
ほぼ確実授乳
肥満[青・壮年期の肥満(18~30歳頃)・腹部肥満含む]
激しい身体活動
出生時体重が重い授乳
青・壮年期の肥満(18~30歳頃)
激しい身体活動
可能性あり身体活動
非でんぶん野菜(エストロゲン受容体陰性のみ)
乳製品
食物に含まれるカロテノイド
非でんぶん野菜(エストロゲン受容体陰性のみ)
食物に含まれるカロテノイド
カルシウムを多く含む食事
証拠不十分穀類および穀物製品、食物線維、いも類、非でんぶん野菜(エストロゲン受容体陽性)、果物類、豆類、大豆および大豆製品、赤肉および加工肉、鶏肉類、魚類、卵類、油脂類、総脂肪、植物性脂肪、脂肪酸組成、飽和脂肪酸、一価不飽脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロール、糖類(ショ糖)、その他の糖類、糖類の多い食物・飲料、コーヒー、茶、炭水化物、でんぷん、グリセミックインデックス、グリセミックロード、タンパク質、ビタミンA、リボフラビン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、カルシウムサプリメント、鉄、セレン、植物エストロゲン、イソフラボン、dichlorodiphenyldichloroethylene(DDE)、dichlorodiphenyltrichloroethane(DDT)、dieldrin、hexachlorobenzene(HCB)、hexachlorocyclohexane(HCH)、trans-nonachlor、polychlorinated biphenyls(PCBs)、アクリルアミド、食事パターン、文化的に特徴付けられた食事、座業の生活洋室、成人になってからの体重増加、エネルギー摂取穀類および穀物製品、食物線維、いも類、非でんぶん野菜(エストロゲン受容体陽性)、果物類、豆類、大豆および大豆製品、赤肉および加工肉、鶏肉類、魚類、卵類、乳製品、油脂類、総脂肪、植物性脂肪、脂肪酸組成、飽和脂肪酸、一価不飽脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロール、糖類(ショ糖)、その他の糖類、糖類の多い食物・飲料、コーヒー、茶、炭水化物、でんぷん、グリセミックインデックス、グリセミックロード、タンパク質、ビタミンA、リボフラビン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、カルシウムサプリメント、鉄、セレン、植物エストロゲン、イソフラボン、dichlorodiphenyldichloroethylene(DDE)、dichlorodiphenyltrichloroethane(DDT)、dieldrin、hexachlorobenzene(HCB)、hexachlorocyclohexane(HCH)、trans-nonachlor、polychlorinated biphenyls(PCBs)、アクリルアミド、食事パターン、文化的に特徴付けられた食事、座業の生活洋室、エネルギー摂取
大きな関連なし該当なし該当なし

出典:乳癌診療ガイドライン2「疫学・診断編」2022年版.2乳癌発症リスク(1)生活習慣・環境因子 表1より作成

日本人の生活習慣因子と乳がんの関連評価

リスク因子予防因子
確実肥満(閉経後)
ほぼ確実
可能性あり喫煙、受動喫煙、飲酒、肥満(閉経前、BMI30以上)運動、授乳、大豆、イソフラボン
データ不十分野菜、果物、肉、魚、穀類、牛乳、乳製品、食パターン、緑茶、葉酸、母田民、カロテノイド、脂質

出典:乳癌診療ガイドライン2「疫学・診断編」2022年版.2乳癌発症リスク(1)生活習慣・環境因子 表2より作成

乳がん予防と生活

国立がん研究センターによる、日本人を対象としたこれまでの研究をまとめた評価※によると、日本人のがん予防では6つの要因が重要だといわれています。

  • 禁煙
  • 節酒
  • 健康的な食生活
  • 身体活動
  • 適正体重の維持
  • 感染予防

このうち乳癌診療ガイドラインでは、感染予防を除く5つ全ての生活習慣が、乳がんリスクとなんらかの関連があるとされています。禁煙や節酒、バランスの良い食事、運動を心掛け、適正体重を維持しましょう。発症予防ではありませんが、日ごろからセルフチェックを行い、対象年齢になったら乳がん検診を受け、異常があれば適切な検査を受け、早期発見で早期に適切な治療を受けることが大切です。

禁煙

たばこは吸わず、受動喫煙にも注意しましょう。

節酒

お酒は飲みすぎないように節度ある飲酒を心掛けましょう。

食生活

バランスの良い食生活を心掛けましょう。

身体活動

仕事や家事、日常生活などまとまった運動も含めて身体活動が高い人ほどがん発生リスクが低くなるという報告があります。

適正体重の維持

がんを含むすべての死亡原因のリスクは、やせすぎでも太りすぎでも高くなります。特に閉経後の肥満は、乳がんのリスクになるため適正体重を維持することが大切です。

※国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ「日本人のためのがん予防法」

乳がんの予後と生活

乳がんは、より早期に治療することで治癒が期待できるがんです。一方、10年後でも再発することもあり、経過観察中では、早期に再発や転移を見つけ治療できるために定期的な検査を受けることが大切です。経過観察や治療後の生活での制約も長期にわたるため、生活習慣に気をつけることも大切です。乳がんの予後改善と関連する可能性が考えられている要因がいくつかあります。

  • 適正体重の維持
  • 高い身体活動
  • 食物繊維を含んだ食事
  • 大豆製品の摂取
  • 総脂肪(特に飽和脂肪酸)摂取を減らす

乳がんの再発や死亡リスクなど予後への影響を減らすためには、健康的な食事や高い活動量の維持、適正な体重維持などを心がけましょう。

乳がんの予後への影響と生活習慣

診断前の生活診断後12か月未満診断後12か月以降
リスク減少リスク増加リスク減少リスク増加リスク減少リスク増加
確実
ほぼ確実
可能性あり身体活動
食物繊維
体脂肪
総脂肪
飽和脂肪酸
体脂肪身体活動
食物繊維
大豆
体脂肪
証拠不十分果物、野菜、葉酸、大豆、炭水化物、グリセミック指数、グリセミック負荷、タンパク質、サプリメント、アルコール、食事パターン、痩せすぎ、体脂肪(閉経前)、身長、エネルギー摂取食物繊維、炭水化物、炭水化物、総脂肪、飽和脂肪酸、アルコール、身体活動、痩せすぎ、体脂肪(閉経前)、身長、エネルギー摂取果物、野菜、葉酸、大豆、炭水化物、グリセミック指数、グリセミック負荷、タンパク質、総脂肪、飽和脂肪酸、アルコール、食事パターン、身体活動、体脂肪、痩せすぎ、体脂肪、身長、エネルギー摂取
大きな関連なし

出典:乳癌診療ガイドライン2「疫学・診断編」2022年版.総説6ライフスタイルと乳癌夜ごとの関連表1より作成

妊娠期の乳がんは予後不良か

妊娠期の乳がんは、証拠が不十分で予後不良になるかどうかは結論付けられません。

授乳期の乳がんは予後不良か

授乳期の乳がんは、ほぼ確実に予後不良と示されています。

乳がん診断時に肥満の場合の予後への影響

乳がん診断時に肥満(BMI値30以上)である患者さんは、再発リスクや乳がんによる死亡リスク、全死亡リスクが高いことが確実と示されています。また、HR陽性HER2陰性の乳がん患者さんは、再発リスク、死亡リスク、全死亡リスクが高いことはほぼ確実と示されています。HER2陽性乳がん患者さんは、再発リスク、全死亡リスクが高いことがほぼ確実と示されています。トリプルネガティブ乳がん患者さんは、乳がん死亡リスク、全死亡リスクが高い可能性があると示されています。

乳がん診断後の肥満の場合の予後への影響

乳がんと診断された後の肥満※は、再発リスク、乳がん死亡リスク、全死亡リスクが高いことがほぼ確実であると示されています。

※診断後の肥満と予後を解析した各データの肥満の定義は、下記の通りです。

  • 36か月で5%以上の体重増加
  • 12か月で2%以上のBMI値上昇
  • 2年で5%以上の体重増加
  • 2年で10%以上の体重増加
  • 5年間の内分泌療法後5%以上の体重増加
  • 診断後10%以上の体重増加
  • 診断後12~24か月時点での10kg以上の体重増加
  • 18か月後の体重増加が5kg以上
  • 4年目までに10%以上の体重増加
  • 診断後12~24か月時点で10%以上の体重増加
  • 18か月後に10%以上の体重増加

乳がん初期治療後の脂肪摂取は予後に影響

乳がんの初期治療後の総脂肪量の増加は、乳がんの再発リスクを増加させる証拠として不十分なため結論づけられません。しかし、脂肪の多い食事が肥満につながり、再発リスクになるという仮説もあるため、肥満防止のためにバランスの良い食事が大切です。

高い身体活動の維持が死亡リスクを減少

乳がんと診断された後、身体活動が高い患者さんでは、全死亡リスクや乳がんによる死亡リスクが減少することは確実であると示されています。

アルコール飲料摂取による再発、死亡リスク

乳がんの診断前、診断後を問わず、アルコール飲料の摂取は、乳がんの再発リスクや乳がんによる死亡リスクの増加につながる可能性は低く、大きな関連はないことが示されています。

喫煙による再発リスクと死亡リスク

喫煙によって乳がんの再発リスクは増加する可能性があります。また、喫煙による乳がん死亡リスクの増加は、ほぼ確実であると示されています。

イソフラボン摂取で予後が改善

食事でとるイソフラボンは、乳がんの予後を改善する可能性があると示されています。再発リスクを減少させる可能性があると考えられますが、弱いエストロゲン作用もあることから再発リスクを高める可能性もあるため、欧米では摂取を控えるように推奨している国もあります。

乳製品摂取予後への影響

乳がんによる死亡リスクや、全死亡リスクが増加する可能性は低く、証拠不十分ですが、乳製品による再発リスクが増加する可能性は否定できないとされています。

心理社会的介入による乳がん患者さんの予後の改善

心理社会的介入が、生存期間の延長につながるとの根拠は、証拠不十分で認められていませんが、QOLの向上や抑うつ・不安の改善に対して一定の有効性が認められる可能性は示されています。

生活の質(QOL)

乳がんの治療で、乳房の全摘手術や部分切除手術を受けた場合、美容面だけでなく、身体のバランスが崩れることでさまざまな症状が生じることもあります。

初期治療後、社会復帰にあたっては、上司や同僚、家族など周囲の人たちの理解が必要です。治療や検査のための通院時や体調がすぐれないときなどに、仕事を休んだり家事を手伝ったりしてもらうために、必要な人たちに事前に相談しておくことも重要です。

また、乳がんは、治療によってさまざまな副作用がありますが、特に女性にとって、脱毛や皮膚症状など見た目の変化に対する工夫などは、QOLを維持するために大切です。 心と体への負担を少なくする生活の工夫をしましょう。

乳房切除後のケア

乳房の切除は、見た目だけではなく、身体のバランスを崩すため肩こりや頭痛といった痛みが起こることがあります。乳房の全摘手術を受けたあと、乳房再建手術を受けられる人も多くなっていますが、補正下着や補正用のパッドを使うことで見た目や身体のバランスを整えることもできます。

脱毛

薬物療法の副作用の1つに脱毛があります。頭髪だけではなく、眉毛やまつ毛も脱毛するため、顔の表情も変わり、精神的なダメージは女性にとって大変大きくなります。頭髪に関しては、かつら(ウィッグ)や帽子などでカバーしましょう。薬物療法中に敏感になっている皮膚に優しい作りになったものなどもありますので、自分にあったものを選んでください。

メイク

眉毛やまつ毛の脱毛は、表情や顔の印象に大きな影響があります。「上がり眉」ではクールできりっとした印象を、「下がり眉」ではおおらかで優しい印象を与える眉毛の描き方やアイラインの入れ方、肌のくすみなど、見た目の変化をメイクでカバーすることができます。外見のケアは、前向きな気持ちにもつながります。

参考文献:日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版.金原出版
世界がん研究基金・米国がん研究協会「食物・栄養・運動とがん予防」
国立がん研究センター研究開発費による「根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」研究班(がん予防研究班)

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