子宮頸がんの経過観察と生活

子宮頸がんのライフイベントにかかわる治療と経過観察などについて紹介します。

前がん病変の経過観察

 細胞診検査で異常が認められ、意義不明な扁平上皮細胞(ASC-US)、HSILを除外できない異型扁平上皮細胞(ASC-H)、軽度扁平上皮内病変(LSIL)、高度扁平上皮内病変(HSIL)、上皮内腺がん(AIS)と診断された場合は、精密検査が行われます。

 ASC-USの疑いがあれば、HPV検査が行われ、陰性の場合は1年後に細胞診検査、陽性の場合はコルポスコピー診と生検が行われます。HPV検査を行わず、6か月目と12か月目に細胞診検査を行い、1回でもASC-US以上と判定されたら、コルポスコピー診や生検が行われる場合もあります。また、HPV検査を行わずに、コルポスコピー診や生検が行われることもあります。

 ASC-H、LSIL、HSILの疑いがあるときは、すぐにコルポスコピー診や生検が行われます。

 軽度や中等度の異形成では、治療を受けなくても自然治癒することがあるため、経過観察が行われることが多くあります。高度異形成や中等度異形成が長期にわたる場合は、確定診断を目的に円錐切除術が行われます。円錐切除術で切除された病変の検査で、断端にがん細胞が認められなければ治療は終了となり、経過観察が行われます。

子宮頸がんの前がん病変の検査判定と経過観察

判定結果略語判定後検査
扁平上皮がん陰性NILM定期検診
意義不明な扁平上皮細胞ASC-USハイリスクHPV検査を行い
陰性の場合:1年後に細胞診検査
陽性の場合:コルポスコピー診、生検
HPV検査を行わない場合は、6か月目と12か月目に細胞診検査。1回でもASC-US以上と判定されたら、コルポスコピー診、生検
HPV検査を行わず、コルポスコピー診、生検も容認
HSILを除外できない異型扁平上皮細胞ASC-H直ちにコルポスコピー診と生検
軽度扁平上皮内病変LSIL
高度扁平上皮内病変HSIL
腺がん異型腺細胞AGCコルポスコピー診と生検、頸管および内膜細胞診または組織診
上皮内腺がんAIS

出典:子宮頸癌取扱い規約 臨床編 第4版 第1章.2診断法.ベセスダシステム2001細胞診結果とその取扱いより作成

子宮頸がんの治療後の経過観察

 子宮頸がんの治療後の経過観察は、「再発の早期発見・早期治療による予後改善」と「治療に伴う合併症によるQOL低下を防ぐこと」を目的に行われます。米国産科婦人科学会誌に掲載の論文によると、子宮頸がんは一般的に、約75%が初回治療から2~3年以内に再発すると示されており、この期間の経過観察が重要です。治療後5年以上再発がみられない場合も、治療に伴う合併症がQOLに影響していることがあるため、長期間の経過観察が行われます。

 標準的な経過観察の目安は、以下の通りです。

  • 1~2年目:1~3か月ごとに検査
  • 3年目:3~6か月ごとに検査
  • 4~5年目:6か月ごとに検査
  • 6年目以降:1年ごとに検査

 治療後の経過観察時に行われる検査は、診察(内診・直腸診含む)、細胞診、胸部X検査、血液・生化学検査などです。子宮頸がんの再発の大半が骨盤内に起こるため、内診や直腸診が特に重要です。再発が疑われたときは、CT、MRIなどの画像検査、骨シンチグラム、ガリウムシンチグラムなどの検査が行われます。

 「SCC抗原」「CA125」「CEA」など代表的な腫瘍マーカーの検査は、術前検査の結果や再発リスク、治療終了後の期間などを考慮して行われます。SCC抗原は、再発の早期発見に有用な検査とされていますが、予後の改善にはつながらないと考えられてきました。また、CA125、CEAは、子宮頸部腺がんに対しては有用という報告はありますが、予後の改善効果に関しては、まだ十分な検討はされていません。

 手術、放射線治療、化学療法に伴う合併症には、リンパ浮腫、排尿・排便障害、放射線性腸炎、放射線性膀胱炎、腟壁の癒着・閉鎖、性交障害、外科的閉経に伴う卵巣欠落症状、脂質異常症、骨粗しょう症などがあり、合併症に関しての経過観察も重要です。また、ボディーイメージの変化や女性特有の性の喪失感に伴う、心のケアも必要とされています。

 子宮頸がんの患者さんは比較的年齢が若いため、手術で閉経となることがあります。そのため、女性ホルモンのエストロゲン低下によりQOLの低下が起こり得ます。こうした場合には、ホルモン補充療法が考慮されますが、患者さんの病態により個別に判断されます。また、子宮を摘出せずに放射線治療や化学療法などの治療受けた患者さんでは、エストロゲンにより子宮内膜増殖症のリスクを上昇させる可能性があるため、エストロゲン+黄体ホルモン併用療法が奨められています。

※ガリウムシンチグラムは、放射性医薬品を注射して行う画像検査。放射性医薬品ががん細胞に多く集まる性質を利用して、がんのある位置や活動性を確認するために行われます。

妊娠中の子宮頸がん治療

 妊娠中に子宮頸部の細胞診で異常が認められる女性は、1~5%程度と推測され、組織学的には、高度異形成や上皮内がん、微小な浸潤がんが多く、浸潤がんの頻度は1万にあたり1~12人という報告があります。日本産婦人科学会研修施設と全国のがんセンター122施設を対象に実施された、「悪性腫瘍合併妊娠に関する調査(2008年)」では、1年間に妊娠および分娩後5か月以内に悪性腫瘍と診断された患者さんは225人で、そのうち前がん病変を含めた子宮頸がんは162人だったという調査報告があります。

 妊娠初期検査として子宮頸部細胞診が行われるため、妊娠をきっかけに早期の子宮頸がんと診断される患者さんもいます。子宮頸部細胞診で異常があれば組織診を行い、さらに異常が認められればコルポスコピー診と生検が行われます。

 検査の結果によっては、一般的に子宮頸部円錐切除術が行われます。しかし、切除法により妊娠の成立や継続に違いがあったり、切除範囲が深いほど早産リスクが高くなるなど、妊娠への影響があるため、診断や治療選択は個々の患者さんごとに検討されます。

妊娠中の高度異形成や上皮内がんの治療

 妊娠中に高度異形成や上皮内がんと診断された患者さんは、経過観察となり、分娩後に再判定されます。高度異形成や上皮内がんは、分娩後に自然に縮小する場合もあり、妊娠中に浸潤がんに進展する頻度は低いという報告がありますが、細胞診、コルポスコピー診、生検組織診が適切に行える施設での総合的な診断と厳重な経過観察が不可欠です。

 再評価で、高度異形成や上皮内がんなどの病変が存続しているとわかった場合は、円錐切除術が行われます。切除した病変の断端にがん細胞が認められなければ、治療は終了です。断端にがん細胞が認められた場合は、円錐切除術を再度行うか、単純子宮全摘出術が考慮されます。高度異形成や上皮内がん以下と再判定された場合でも、細胞診で浸潤が疑われるときは、診断を目的とした円錐切除術が考慮されます。

 上皮内腺がんと診断された場合は、妊娠中でも診断を目的とした円錐切除術が考慮されます。切除した病変の断端にがん細胞が認められた場合、分娩まで経過観察となり、出産後4~8週くらいの間に再評価が行われます。

妊娠中にステージ1Aの疑いとなった場合の治療

 妊娠中にステージ1Aが疑われた場合は、確定診断のために円錐切除術が行われます。妊娠中に診断を目的に行う円錐切除術は、出血、流産、早産などのリスクを考慮して、一般的な「円錐状」の切除は行いません。切除は浅く「硬貨状」に行われ、時期は妊娠14~15週前後が望ましいとされています。

 円錐切除術の結果、ステージ1A1の扁平上皮がんと診断され、切除した病変の断端にがん細胞が認められず、脈管侵襲も浸潤性の病変がない場合は、妊娠が継続されます。切除した病変の断端に中等度や高度の異形成細胞が認められた場合は、出産後4~8週間の間に再評価が行われます。

 また、「切除した病変の断端にがん細胞が認められた場合」「脈管侵襲が認められた場合」「ステージ1A2の扁平上皮がん」「ステージ1A1ならびに1A2の腺がん」では、子宮温存の可否について患者さんの病態や希望により個別に判断され、治療方針が選択されます。

妊娠中のステージ1B・2に対する治療

 妊娠を伴う浸潤性子宮頸がんの治療方針は、診断時の妊娠時期により異なります。子宮頸がんと診断されたときに出産しても赤ちゃんが生存可能な時期になっていれば、出産後速やかに標準治療が行われます。

 診断時に出産すると赤ちゃんが生きていかれない場合は、「妊娠を継続しないで治療」「出産が可能な時期まで待って出産後に治療」「妊娠を継続したまま治療」から病状に合わせて選択されますが、いずれも明確な有効性や安全性は示されていません。治療方針の決定には、腫瘍の大きさ、ステージ、リンパ節転移、組織型などの病状とあわせて、妊娠週数や赤ちゃんの発育度などを加味したうえで、患者さんや家族の希望を踏まえて検討されます。

 リンパ節への転移があるまたはステージ2以上の患者さんでは、原則として速やかに妊娠を終了し標準治療を受けることが望ましいとされています。また、抗がん剤による治療は、おなかの赤ちゃんへの影響があるため、妊娠初期の3か月間では推奨されていません。

子宮頸がんの治療と妊孕性

 子宮頸がんで妊孕性温存治療の対象となるのは、高度異形成、上皮内がん、浸潤の程度が微小な子宮頸がんです。このうち微小浸潤がんが疑われる場合は、診断的円錐切除術により、切除した病変の断端にがん細胞が認められないこと、脈管侵襲がないことが確認されます。子宮頸がんの治療による妊孕性への影響は、治療法により異なります。

手術の影響

 広汎子宮全摘出術など広範囲に切除する手術で卵巣や子宮を摘出した場合は、妊娠ができなくなります。片方でも卵巣が残っている場合は、妊孕性は保たれます。子宮頸部の手術を行った場合は、妊娠しにくくなったり、早産や流産のリスクが高くなります。v

放射線治療の影響

 放射線治療は子宮への影響もあり、妊娠しにくくなる可能性があります。放射線治療を受けた後に妊娠しても、おなかの赤ちゃんへの影響はありません。

化学療法による影響

 細胞傷害性抗がん剤を使用した場合は、一時的に無月経なります。回復することはありますが、月経が回復しても、妊孕性が低下する可能性があります。シクロホスファミドなどアルキル化剤やシスプラチンなどの白金製剤を使用した場合は、卵子へのダメージが大きく、月経の回復が難しくなります。

参考文献:子宮頸癌治療ガイドライン2022年版.金原出版
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