子宮頸がんの基礎知識

子宮頸がんとはどんな病気なのか、初期症状、罹患率、生存率など基礎知識を紹介します。

子宮頸がんとは

 子宮は、袋状の「子宮体部」と子宮体部の下につながる管状の「子宮頸部」にわけられます。子宮頸がんは、子宮頸部に発生する悪性腫瘍です。子宮頸がんには、がんの前段階になる「異形成」、子宮頸部の表面にできる「上皮内がん」、周囲の組織に浸潤している「浸潤がん」があります。

子宮頸がんの原因

 子宮頸がんの多くは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因です。HPVは100種類以上の型があり、このうち少なくとも14種類くらいは発がんリスクが高い(ハイリスク)と考えられていますが、子宮頸がん全体の70%程度でみられるのは16型と18型の2種類の感染です。

 HPVは男女ともに感染するありふれたウイルスで、性交渉経験のある女性の過半数は感染すると考えられています。性的な接触により皮膚や粘膜の上皮細胞に小さな傷がつくと、HPVはそこから上皮細胞に入り込み感染します。お風呂や温泉、プールでウイルスに触れただけで感染することはありません。

 HPVは、感染した細胞をがん化しやすい状態に変化させます。HPVに感染してもすぐにがんになるわけではなく、ほとんどの人では、感染細胞は免疫細胞により自然に排除されます。しかし、自然に排除されず長期間にわたり感染が持続すると、「異形成」というがんになる前の状態(前がん病変)となり、さらに数年から数十年の期間を経て子宮頸がんに進行します。

 ハイリスクのHPVの持続的な感染が少なくとも6か月以上続くと、そのうち約10%で、子宮頸がん検診により細胞異常(軽度異形成)が見つかるとされています。

子宮頸がんの初期症状

 早期の子宮頸がんは、ほとんど症状がありません。進行していくと、以下のような症状がみられることがありあます。

  • 性交渉の後に起こる、不規則な、月経周期以外の、または通常は見ないような膣出血
  • 背中、足、骨盤などの痛み
  • 疲労、体重減少、食欲不振
  • 膣の不快感や臭気のある分泌物
  • 片足だけの腫脹

 進行期では、さらに深刻な症状が現れる可能性があります。子宮頸がんの局所的な痛みは、骨盤内に浸潤したがんによる内臓痛です。尿管や腎臓のなかに尿がたまることで起こる「水腎症」や「腰痛」「背中の痛み」が起こることがあります。また、腸に浸潤して腸閉塞になると「腹痛」が起こることもあります。

 リンパ節への転移では、坐骨神経痛などが起こることもあり、さらにがんが進行して胸水がたまると肺を圧迫するため呼吸困難になることもあります。また、骨転移を起こすと動いたときに骨の痛みを感じることもあります。

子宮頸がんの罹患率と生存率

 国立がん研究センターのがん統計2023年によると、2019年に新たに子宮頸がんと診断される人は1万879人、生涯のうちに子宮頸がんに罹患するリスクは2.5%でした。20代後半から徐々に増え始め、40代をピークにその後は減少していきますが、60代後半に患者数が再び増える傾向がありました。

 2009年~2011年にがんと診断された人の5年相対生存率は、64.1%です。子宮頸がんの5年相対生存率は76.5%で、全てのがんを含めた割合より高くなっています。2009年に子宮頸がんと診断された人の10年相対生存率は、70.5%でした。

 進行度による5年相対生存率(2019年診断)は、以下の通りです。

  • 限局:95.7%
  • 領域:66.8%
  • 遠隔:22.5%

限局:原発臓器に限局している

領域:所属リンパ節転移(原発臓器の所属リンパ節への転移を伴うが、隣接臓器への浸潤なし)または隣接臓器浸潤(隣接する臓器に直接浸潤しているが、遠隔転移なし)

遠隔:遠隔臓器、遠隔リンパ節などに転移・浸潤あり

※各がんのがん罹患率、生存率の最新情報は、がん情報サービス「がんの統計」をご参照ください。

子宮頸がんの検診と予防

 有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドラインでは、子宮頸がん検診は、細胞診とHPV検査の2つが推奨されています。

細胞診

 細胞診では、先にブラシのついた専用の器具で子宮頸部を擦り、細胞を採取します。採取した細胞を顕微鏡で観察することで、異常な細胞がないか調べる検査が細胞診です。この検査では、前がん病変と子宮頸がんを見つけることができます。

 有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドラインでは、検査の対象年齢は20~69歳で、検査間隔は2年が望ましいとされています。また、細胞の採取は医師のみとし、自己採取は認めないとされています。

HPV検査

 HPV検査は、細胞診と同様に専用の器具で採取した細胞からHPVのDNAを検出することでHPVに感染しているかを調べる検査です。

 有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドラインでは、検査の対象年齢は30~60歳で、検査間隔は5年が望ましいとされています。また、細胞の採取は医師が原則とされています。

 HPV陽性となった場合は、長期的な経過観察が必要ですが、国内の統一基準や診療体制が確立されていないため、医療機関ごとに対応は異なります。現在、最適な経過観察法が検討されています。

 細胞診とHPV検査を併用すると、細胞診単独よりも偽陽性の割合が高くなるため、併用は条件付きの推奨とされています。条件は、「検体の残りでHVP検査を行うなど受診者の負担を最小化する方法の確立」「対象年齢や検診間隔の遵守」「検診方法に精通した婦人科医の確保」の3つです。

細胞診検査の判定と判定後検査

 子宮頸がん検診で行われる細胞診は、細胞異常の状態により10種類に分類されます。この分類法を「ベセスダ分類」といいます。

 ベセスダ分類で異常が認められず「陰性(NILM)」と判定された場合は、2年おきの検診となります。

 軽度の扁平上皮内病変が疑われる「意義不明な異型扁平上皮細胞(ASC-US)」と判定された場合は、次のいずれかの精密検査が行われます。

  • ハイリスクHPV検査
  • 再細胞診
  • コルポスコピー診
  • 生検

 ハイリスクHPV検査を行い陰性となった場合は、1年後に細胞診検査が行われます。陽性となった場合は、コルポスコピー診と生検が行われます。ハイリスクHPV検査を行わない場合は、6か月と12か月後に細胞診を行い、いずれかの検査でASC-US以上と判定された場合は、コルポスコピー診と生検が行われます。ハイリスク検査を行わず、コルポスコピー診や生検が行われることもあります。

 以下の4つのタイプに判定された場合は、コルポスコピー診と生検が行われます。

  • 「HSILの疑いが除外できない異型扁平上皮細胞(ASC-H)」
  • 「軽度扁平上皮内病変(LSIL)」
  • 「高度扁平上皮内病変(HSIL)」
  • 「扁平上皮がん(SCC)」

 軽度異形成を「CIN1」、中等度異形成を「CIN2」、高度異形成と上皮内がんを合わせて「CIN3」と呼ぶこともあります。CIN2とCIN3を合わせたものが「高度扁平上皮内病変(HSIL)」です。

 上皮内腺がんまたは腺がんの疑いがある「異型腺細胞(AGC)」「上皮内腺がん(AIS)」「腺がん」と判定された場合は、コルポスコピー診と生検、頸管と内膜細胞診または組織診が行われます。

ベセスダ分類(細胞診の結果判定と判定後検査)

判定結果略語病理診断の推定判定後検査
扁平上皮がん陰性NILM非腫瘍性所見
炎症
定期検診
意義不明な扁平上皮細胞ASC-US軽度扁平上皮内病変の疑いハイリスクHPVを行い
陰性の場合:1年後に細胞診検査
陽性の場合:コルポスコピー診、生検
HPV検査を行わない場合は、6か月目と12か月目に細胞診検査。1回でもASC-US以上と判定されたら、コルポスコピー診、生検
HPV検査を行わず、コルポスコピー診、生検も容認
HSILを除外できない異型扁平上皮細胞ASC-H高度扁平上皮内病変の疑い直ちにコルポスコピー診と生検
軽度扁平上皮内病変LSILHPV感染
CIN1(軽度異形成)
高度扁平上皮内病変HSILCIN2(中等度異形成)
CIN3(高度異形成/上皮内がん)
扁平上皮がんSCC扁平上皮がん
腺がん異型腺細胞AGC上皮内腺がんまたは腺がんの疑いコルポスコピー診と生検、頸管および内膜細胞診または組織診
上皮内腺がんAIS上皮内腺がん
腺がん腺がん
その他その他の悪性腫瘍その他の悪性腫瘍病変検索

出典:子宮頸癌取扱い規約 臨床編 第4版 第1章.2診断法.ベセスダシステム2001細胞診結果とその取扱いより作成

子宮頸がんの予防

 科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン低減に関する研究によると、子宮頸がんのリスク要因として確実とされるのは、喫煙とHPV16型・18型の感染です。また、リスクを下げる要因として確実なのはHPVワクチンの接種で、魚の摂取はリスクを下げる可能性ありとされています。

 WHOの子宮頸がん予防戦略では、一次予防と二次予防の併用が重要といわれています。一次予防は、「子宮頸がんにならないために、原因となるHPVの感染を予防するワクチンを接種すること」、二次予防は、「子宮頸がん検診により前がん病変と早期がんを発見し治療することで浸潤がんを減らすこと」です。

参考文献:公益社団法人日本産婦人科学会 産科・婦人科の病気 子宮頸がん
がん情報サービス.冊子「がんの統計」2023
WHO.ヒトパピローマウイルスと子宮頸がんワクチン(ファクトシート)
国立がん研究センター 社会と健康研究センター 有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン更新版
科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン低減に関する研究
子宮頸癌取扱い規約 臨床編 第4版 金原出版

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