大腸がんの治験に参加、出会った「治験コーディネーター」が心の支えに
治験の募集状況は、「jRCT 臨床研究等提出・公開システム」ページでご確認ください。
体験者プロフィール
M・Iさん
年齢:40代
がん種:大腸がん
診断時ステージ:ステージ3
Mさんにがんが見つかったのは2021年の春。職場の健康診断で異常が見つかり、複数回の検査を受けたところ、大腸がんであることがわかりました。診断時はステージ3でしたが、手術後の診断で肝臓への転移や、「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)」を有する大腸がんであることが判明。そこで主治医は標準治療よりも効果が期待できる可能性があると、Mさんに治験への参加を提案しました。その際に支えとなったのがMさんを担当した「治験コーディネーター」だったそうです。細やかな気配りにとても励まされたと言います。大腸がんの告知からがん治験に至る体験を語っていただきました。
きっかけは貧血、予兆なく「ステージ3」のがんが見つかる
2020年12月、職場の健康診断を受けました。貧血(血中ヘモグロビンの値が低い)を指摘され、再度血液検査を受け、1か月間、鉄剤を飲んで様子をみることになりました。しかし、良くなる兆しがなかったので、検便検査を行いました。すると、ある数値が異常になっていることがわかり、大学病院で大腸内視鏡検査などの精密検査を受けることになりました。
内視鏡検査中、私もモニターを見ていたのですが、他の部分と明らかに様子が違うところがあり、「もしかしたら私病気?がんなのかな…」という考えが頭をよぎりました。それから5日後に病理検査の結果も出て、「大腸がん、リンパ節転移を伴うステージ3」であることを告げられました。コロナで病床が足りないと盛んに報道されていた2021年4月のことです。
診断から3日後、大学病院に入院。腸閉塞を起こしかけていたため、あまり猶予がないとの判断からすぐに手術が行われました。手術は5時間ほどだったでしょうか。この時点では、術後1か月から化学療法を開始する計画でした。
予兆なしでステージ3という診断に驚きましたが、がんに罹った家族がいたので、「手術して取ってしまえば大丈夫だろう」と思っていました。落ち込む家族の様子から、私がしっかりしなきゃ、と思ったくらいです。ただ、今思い返せば、がんがわかる前から、階段を上り下りしただけで息切れをすることがありました。でもこれは、育休から復帰したばかりでまだ仕事に慣れていないせいだろうと思っていました。
MSI-Hの大腸がん、免疫チェックポイント阻害薬の治験参加を検討
化学療法を開始するにあたり診察を受けました。その際、主治医がどこか気になるところがあったようで、念のためにCT検査を受けることになりました。そこで、術前には確認されていなかった肝臓への転移が見つかったため、予定していた化学療法はいったん中止になりました。
主治医は、次の治療として「治験への参加」を勧めてくれました。というのも、組織検査により、私のがんは「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)」の大腸がんであることがわかっていました。MSI-Hの大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬を使う臨床試験の被験者募集が行われていたことから、治験を勧められました。
「確率は3分の2」。これは、勧められたその治験に参加した場合に、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブを使うグループに割り当てられる確率です。手術を受けた大学病院は自宅の近所でしたが、治験を行う医療施設までは自宅から1時間ほどかかること、子どもがまだ小さいこと、絶対に免疫チェックポイント阻害薬のグループに入る保証はないなど、治験への参加に対して迷いはありましたが、最終的には参加することに決めました。
「治験コーディネーター」が心の支えに
治験は、MSI-Hがある大腸がんの患者さんが対象の第3相試験で、ニボルマブのみのグループ、ニボルマブとイピリムマブを併用するグループ、化学療法のみを受けるグループの3つのグループに分けられていました。私はニボルマブのみのグループに割り当てられ、2週間間隔で投与を受けることになりました。
私は医療関係の仕事をしており、治験の存在は知っていましたが、がん領域とはあまり深く関わりがなく、今回参加するにあたり、分厚い資料を読んだり、治験実施の医療機関で説明を受けたりして、その概要を知ることになりました。
実は、この治験への参加の決め手になったといっても過言ではないほどの「出会い」が、この説明の時にありました。それは「治験コーディネーター」との出会いです。
その方は、私よりも若い女性の看護師さん。治験の説明の時だけでなく、診察の時も常に付き添ってくれて、治験開始後も様子を見に来てくれました。看護師の立場として言えることと、そうでないことをしっかりと分けて、丁寧に寄り添う姿勢で私と接してくれました。「どんなことでも気になることがあれば連絡ください」と伝えられており、とても心強かったです。
肝臓への転移が見つかった直後は、大腸がんと言われた時と比べものにならないほど落ち込み、私にとって地獄のような時間でした。それでも治験コーディネーターとの出会いをきっかけに、治療を頑張ってみようと気持ちが上向きになりました。
2021年6月、治験実施施設に転院し、ニボルマブの投与が始まりました。体のだるさなどはありましたが、実感レベルでの副作用はそれほど起こらず過ごすことができました。3クールまで終わった段階で、効果判定の検査を受けました。その結果、期待していた効果は出ていないことがわかり、治験は中止することになりました。
治験薬による効果は見られませんでしたが、治験コーディネーターとの出会いが「こころの支え」、そして「サポート薬」となり、前向きに治療に臨むことができるようになったことに、本当に感謝しています。治験に参加してよかったと思っています。
標準化学療法による治療で効果が、再手術に望み
ニボルマブによる治験が中止となり、その後すぐに、治験実施施設で標準治療の化学療法を開始しました。通院での標準化学療法、いわゆる抗がん剤治療で、現在4クール目まで終えました。
ニボルマブ投与時よりも、手のこわばりやだるさ、吐き気、脱毛などの副作用がありますが、治療効果は確認されているようで、なんとか乗り越えていきたいと思います。5クール目まで終わった段階での腫瘍の縮小効果によっては再手術が検討されています。
「治験がどういうものかよくわからない」と、誰もが最初は思われるでしょう。でも、治験による治療の選択肢があるなら、まずは話だけでも聞いてみるのがいいのではないかと思います。医師の説明でわかりにくい場合は、治験コーディネーターに納得いくまで聞いてみる。そんな風にして、がん治療の望みがつながる人もいるのではないでしょうか。
治療歴
- 2020年12月
- 職場の健康診断を受ける
健診で貧血を指摘され再検査、鉄剤の処方を受けるも改善せず
- 2021年3月
- 検便検査で異常値が判明し、大学病院で精密検査を受ける
- 2021年4月
- リンパ節への転移を伴うステージ3の大腸がんと診断
診断から1週間後に手術を受ける
- 2021年5月
- 術後のCT検査で肝臓への転移が見つかる
高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)の大腸がんが対象となっている治験への参加を主治医から勧められる
治験参加を決意
- 2021年6月
- 治験実施施設に転院 ニボルマブ単剤のグループに割り当てられ、投与開始
- 2021年7月
- 4クール目を前に効果判定のためCT検査 治療効果が見られないことから治験中止 標準化学療法に切り替え、通院で抗がん剤治療を受け始める
治験内容
- 治験名
- 進行・再発の結腸・直腸がんを対象に、ニボルマブ単独療法、ニボルマブとイピリムマブの併用療法または治験医師選択化学療法を評価する第Ⅲ相試験(ONO-4538-87/CA2098HW)
- 対象疾患
- 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機構欠損(dMMR)を有する治癒切除不能な結腸・直腸がん
- 治験概要
- MSI-H / dMMR 結腸・直腸がん患者さんを対象に、ニボルマブ単剤、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を化学療法と比較
- フェーズ
- 第3相
- 試験デザイン
- 無作為化、非盲検、多施設共同
- 登録数
- 748
- 治験薬
- ニボルマブ、イピリムマブ
- 対照薬
- オキサプラチン、ロイコボリン、フルオロウラシル、イリノテカン、ベバシズマブ、セツキシマブ
- 主要評価項目
- 無増悪生存期間
- 副次的評価項目
- 全生存期間、奏効率など