治療も臨床試験への参加も「最後は自分で選択したということが大事」
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体験者プロフィール
Aさん
年齢:60代
がん種:食道がん
診断時ステージ:ステージ3
Aさんは、55歳の時に食道がんと診断されました。その後、精密検査を受けた大学病院で実施中の医師主導※1の臨床試験を提案され参加しました。参加した臨床試験は、食道がんに対する根治的化学放射線療法の有効性を評価した「JCOG0909」試験。試験参加にあたりメリット/デメリットを含めさまざまな情報を探し、熟考し参加を決めたそうです。がんの告知から治験に至るまでの体験を語っていただきました。
※1:人を対象に行われるすべての研究を「臨床研究」といいます。臨床試験は、投薬、手術、放射線治療など人体に対して変化を伴う研究です。厚生労働省から薬・医療機器としての承認を得ることを目的として行う試験を「治験」といいます。臨床試験には、製薬企業などが実施する企業治験と医師が主導する医師主導試験があります。
標準治療と臨床試験の選択
2013年の夏頃、みぞおちあたりに痛みがあり、近医を受診しました。その時は、「逆流性食道炎」と診断され薬を処方されました。
年が明けた2014年、その医師から胃の内視鏡検査を受けるよう勧められましたが、職場の人間ドッグのタイミングでもあったので、その機会に内視鏡検査を受けることにしました。麻酔を使った内視鏡検査を希望したため、検査は数か月先になってしまいました。
内視鏡検査の結果、素人目でみてもわかるほどの大きさの腫瘍が食道に見つかりました。みぞおちの痛み以外に特に自覚症状はなかったため、ショックではありましたが、「がんは切れば治る」と単純に考えていたので、その時はひどく落ち込んだりすることはありませんでした。その後、精密検査を受けるため、自宅から通うのに便利な大学病院を紹介され、受診しました。
血液検査、CT、内視鏡検査、生検を受け、ステージ3の食道扁平上皮がんと、後に執刀医となる消化管外科の医師に診断されました。内科の医師からも「間違いないとは思うけど」と言われていたため、確定診断の結果を聞いても大きなショックはありませんでした。
担当医から、ステージ3の食道がんでは「術前化学療法を行った後、根治切除手術が標準治療です」という説明を受けました。さらに、私が対象となる「食道がんの臨床試験」があることも教えていただきました。臨床試験は2つあり、1つが「JCOG1109試験」で、もう1つが「JCOG0909試験」でした。
よく考える時間がほしかったので、その場では返事をせず自宅に持ちかえりました。
手術を前提としない臨床試験への参加を決める
JCOG1109試験は、術前化学療法として「5FU-シスプラチン+ドセタキセル」併用療法と「5FU-シスプラチン+放射線治療(41.4Gy)」を標準治療の「5-FU+シスプラチン」併用療法(CF療法)と比較して優越性を評価する試験です。3つの治療グループに振り分けられるため、どのグループに当てはまるかわからないものでした。
JCOG0909試験の治療は、「根治的化学放射線療法(放射線線量50.4Gy、5-FU+シスプラチン) +/- 救済治療(内視鏡的治療または外科切除術)」の1つだけでした。
インターネットで食道がん対象の臨床試験情報や、手術をした場合のメリット・デメリットなどを調べました。そこで、術後に胃酸の逆流やダンピング症候群※2などによるQOLの低下が起こる可能性があることを知りました。参加条件が合うなら、JCOG0909試験へ参加したいという気持ちに傾きました。
次の診察時に、率直な気持ちを担当医に伝えました。すると担当医は、化学放射線療法後の外科手術に関して、デメリットを含めて詳しく説明してくれました。「いろいろな治療選択肢がありますが、最後は自分で選択したということが大事です」と強調されました。最終的に、私は納得した上でJCOG0909試験に参加することを決めました。
※2:胃の切除後の再建など、食べ物の流れが変わることで、これまで胃の中を通っていた食べ物が直接腸に流れ込むため、めまい、動悸、発汗、頭痛、手指の震えなどのさまざまな不快な症状が起こることをいいます。
つらい治療を乗り越え、以前の生活リズムに
臨床試験の治療は、結構大変でした。放射線を当てられると、のどのあたりが痛みましたし、特に抗がん剤の治療はつらかったです。1クール目の治療はなんとか耐えられましたが、2クール目の治療は体がつらく一時的な中断もありましたが、最後まで完了することができました。治療中は、食事はほとんどとれず、食事の匂いもつらかったです。後から知ったのですが、その病院には、患者さんの希望で選択できる特別メニューがいろいろとあったそうで、事前に知っておけば食べられるものがあったかもと今は思います。
化学放射線療法終了後、がんの縮小を評価するための検査で、がんは残っていることが判明したため、救済治療を行うことになりました。内視鏡的治療では難しいとの判断で、胃の一部を含む食道の切除手術が行われました。
退院後しばらくは、胃を切除している分、よく噛んでゆっくり食べることや、眠るときの角度に気を付けたりと、生活面では気を付けなければならないこともありました。今でも食事については配慮が必要で、がんとわかる前より量を減らし、特に揚げ物など油っこいものに注意するようにしています。
治療を始める少し前に、仕事はひと段落していました。半年ほどは、治療・療養を優先し、落ちた体力も少しずつ回復させ、以前の生活リズムに戻していきました。
「最後は自分で選択したということ」が大切
現在に至るまで、新たながんや再発は見つかっておらず、臨床試験参加後5年以上が経過していますが、今でも同じ大学病院で経過観察を受けることができています。
開発中の新薬の有効性を評価する「治験」の話を聞いたことはありましたが、臨床試験参加の話を聞いてから、がんの治療法に関するさまざまな臨床試験が行われていることを知り驚きました。また、患者自身がインターネットで調べることができる、オープンにされている臨床試験情報があることも知ることができました。
がん治療のいろいろな状況を知ることができ、また、同じ大学病院で経過観察を受け続けることができ、臨床試験に参加できてよかったです。
これから治療を受けられる方は、医師から勧められるままに治療を受け入れるのではなく、自分に合った治療法なのかをよく考えてみることをお勧めします。「最後は自分で選択したということが大事」だと思います。
治療歴
- 2013年夏
- みぞおちあたりに痛みを覚え、近医を受診し、逆流性食道炎と診断
- 2014年1月
- 近医で胃内視鏡検査を勧められる
- 2014年4月
- 内視鏡検査の結果、食道に腫瘍が見つかり、精密検査を勧められる
精密検査の結果、食道扁平上皮がんと診断
医師主導試験「JCOG1109」への参加を勧められると同時に、「JCOG0909」試験を知る
「JCOG0909」への参加が決定、試験前検査を受ける
- 2014年5月
- 1クール目の治療
- 2014年6月
- 2クール目の治療(途中一時中断)
- 2014年7月
- 外来診療で内視鏡検査を受け、腫瘍の遺残を確認
- 2014年8月
- 超音波内視鏡検査で内視鏡による切除は不可、切除手術を提案される
- 2014年9月
- 手術・退院
以後、現在に至るまで経過観察
治験内容
- 治験名
- 臨床病期II/III(T4を除く)食道癌に対する根治的化学放射線療法 +/- 救済治療の検証的非ランダム化試験(JCOG0909、EC-CRT+Salvage-sP3)
- 対象疾患
- 食道がん
- 治験概要
- 臨床病期Ⅱ/Ⅲ(T4を除く)食道癌患者を対象に、50.4Gy、5-FU+CDDP(1000/75)併用化学放射線療法+/-救済治療(内視鏡的治療、外科切除術)の有効性と安全性を評価
- フェーズ
- 第3相
- 試験デザイン
- 単群、非盲検、多施設共同
- 登録数
- 96
- 治験薬
- 5-FU、シスプラチン
- 主要評価項目
- 3年生存割合
- 副次的評価項目
- 無増悪生存期間、完全奏効割合(CR割合)、有害事象発生割合、遅発性有害事象発生割合、救済治療に関連した有害事象発生割合、食道温存生存期間