食道がんの治療

食道がんのステージ分類に応じた治療法を紹介します。

食道がんの内視鏡的切除術

食道がんの内視鏡的切除術には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)があります。

内視鏡的切除術が適応となるのは、壁深達度が粘膜層(T1a)のうち,粘膜上皮(EP)や粘膜固有層(LPM)にとどまる場合です。また、壁深達度が粘膜筋板(MM)に達している場合や、粘膜下層にわずかに浸潤する場合にも内視鏡的切除術を受けることが可能ですが、リンパ節転移の可能性があるため手術や化学放射線治療による追加治療が考慮されます。粘膜下層(T1b)に深く浸潤していた場合、50%程度で転移が見られるため、進行がんに準じて治療が行われます。

内視鏡的切除後の追加治療
内視鏡的切除後の追加治療
出典:日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2017年版. cStage 0,Ⅰ食道癌治療のアルゴリズムより作成

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、生理食塩水などを粘膜下層に注入して病変を浮き上がらせ、その病変に、内視鏡の先端から出したスネアという輪状のワイヤーを引っかけて締め、高周波電流を流して焼き切る方法です。

内視鏡的切除後の追加治療

内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)

内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は、生理食塩水などを粘膜下層に注入して病変を浮き上がらせた後、病変の周囲を電気メスで浅く切りマーキングし、このマーキングに従い専用のナイフで病変部分と粘膜下層を高周波電流で焼きながら剥離する方法です。

内視鏡的切除後の追加治療

食道がんの手術

食道がんの手術では、がんが発生した部位(頸部、胸部、腹部)によって治療選択が異なります。

頸部食道がんの手術

頸部食道がんでは、咽頭を一緒に切除する合併手術「咽頭合併切除術」が必要な場合が多くあります。咽頭を切除すると声が出なくなるためQOLが低下します。咽頭を温存する「咽頭温存手術」では、声の消失はなくなりますが、誤嚥や肺炎が起こる可能性があるため十分な配慮が必要になります。

咽頭合併切除術は、腫瘍が咽頭、喉頭、気管に浸潤している場合や、切除後に腸管とつなぐために必要な頸部食道が十分残っていない場合に適応となり、咽頭温存手術は、咽頭、喉頭、気管への病変の浸潤がない場合に適応となります。

頸部食道がんでは、腹部にあるリンパ節への転移の可能性は低い一方で、上縦隔リンパ節※に転移することが多くあるため、リンパ節郭清の検討が慎重に行われます。

※左右の肺と胸椎、胸骨に囲まれた部分で気管が左右にわかれる場所から上部にあるリンパ節。

胸部食道がんの手術

胸部食道がんでは、頸部、胸部、腹部の広範囲にリンパ節転移が見られることが多くあります。深達度が粘膜筋板を超え粘膜筋板下端から0.2mm以上の場合、進行がんとして胸部食道を全摘し、頸部、胸部、腹部のリンパ節を含めて切除することが一般的です。

腹部食道がんの手術

腹部食道がん(食道胃接合部がん)は、頸部・縦隔・上腹部、腹部大動脈の周囲まで、広範囲にリンパ節転移が認められることがあります。食道への病変の広がりによって、縦隔リンパ節への転移の頻度が異なります。2cm以下(特に1cm以下)では、縦隔リンパ節への転移頻度は低いこと、2.1cm~4.0cmでは、下縦隔の転移頻度は高く上・中縦隔リンパ節への転移は低いこと、4cmを超えると上・中縦隔リンパ節への転移が高率になることが、日本胃癌学会と日本食道癌学会による研究でわかっています。そのため、リンパ節郭清範囲に応じて、食道および胃の切除範囲が検討されます。

食道胃接合部がんに対する手術アプローチとリンパ節郭清のアルゴリズム
内視鏡的切除後の追加治療
出典:胃癌治療ガイドライン 医師用 2021年7月改訂 第6版. 食道胃接合部がんに対する手術アプローチとリンパ節郭清のアルゴリズムより作成

食道がんの放射線治療

食道がんの根治を目的とした放射線治療は、化学療法と同時併用する「化学放射線治療」が推奨されています。根治切除手術ができない場合は、健康状態に応じて、化学放射線治療または放射線単独治療が選択されます。また、腫瘍により食道の通過障害があるステージ4bでは、緩和的放射線治療が検討されます。

化学放射線治療

化学放射線治療は、化学療法と放射線治療を同時に行う治療法です。手術以外の治療では、根治を目指した治療として、化学放射線治療はステージ0~4aが適応となります。

ステージ0、1に対する化学放射線治療

4分の3周以上の周在性があり内視鏡的治療が困難で、粘膜下層より浸潤している場合に適応となります。

ステージ2、3に対する化学放射線治療

ステージ2、3で、術前化学療法+手術が行えない場合(手術の拒否を含む)に、根治が期待できる治療として推奨されています。

ステージ4aに対する化学放射線治療

手術で切除不能なステージ4aでも、放射線の照射範囲内に病変が限局する場合には、化学放射線療法が標準治療となります。

化学放射線治療の臨床試験のまとめル

試験名ステージ組織型レジメン放射線量完全奏効割合生存期間(割合)
JCOG9708ステージ1b扁平上皮がんシスプラチン70mg/m2 1、29日目
5-FU700mg/m2 1~4、29~32日目
60Gy87.50%4年生存
80.5%
RTOG85-01ステージ1、2、3扁平上皮がん
腺がん
放射線治療単独64Gy記載なし5年生存
0%
シスプラチン75mg/m2 1、29日目
5-FU1000mg/m2 1~4、29~32日目
50Gy記載なし5年生存
26%
RTOG85-05ステージ1、2、3扁平上皮がん
腺がん
シスプラチン75mg/m2 1、29日目
5-FU1000mg/m2 1~4、29~32日目
50.4Gy記載なし2年生存
31%
シスプラチン75mg/m2 1、29日目
5-FU1000mg/m2 1~4、29~32日目
64.8Gy記載なし2年生存
40%
JCOG9906ステージ1、2、3扁平上皮がんシスプラチン40mg/m2 1、8、36、43日目
5-FU400mg/m2 1~5、8~12、36~40、43~47日目
60Gy62.20%3年生存
44.7%
mRTOGステージ2、3扁平上皮がんシスプラチン75mg/m2 1、29日目
5-FU1000mg/m2 1~4、29~32日目
50.4Gy70.60%3年生存
63.8%
JCOG9516切除不能局所扁平上皮がんシスプラチン70mg/m2 1、29日目
5-FU700mg/m2 1~4、29~32日目
60Gy15%2年生存
31.5%
JCOG0303切除不能局所扁平上皮がんシスプラチン70mg/m2 1、29日目
5-FU700mg/m2 1~4、29~32日目
60Gy0%2年生存
25.9%
シスプラチン4mg/m2 週5日×6週間
5-FU200mg/m2 週5日×6週間
60Gy1.40%2年生存
25.7%
KROSG0101/
JROSG021
ステージ2~4a扁平上皮がんシスプラチン70mg/m2 1、29日目
5-FU700mg/m2 1~4、29~32日目
70Gy記載なし2年生存
46%
シスプラチン7mg/m2 1~5、8~12、29~33、36~40日目
5-FU700mg/m2 1~14、29~427日目
60Gy記載なし2年生存
44%
KDOG0501切除不能局所扁平上皮がんシスプラチン40mg/m2 1、15、29、43日目
5-FU4+D2800mg/m2 1~5、15~19、29~33、43~47日目
ドセタキセル20~40mg/m2 1、15、29、43日目
61.2Gy42.10%1年生存
63.2%

出典:日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2017年版 第VIII章集学的治療法 2化学放射線療法 化学放射線療法前向き臨床試験のまとめより作成

緩和的放射線治療

緩和的放射線治療は、根治を目的とせず、がんによる痛みや食道の狭窄によるQOLの低下を緩和する目的で行われます。

食道がんの化学療法

食道がんの化学療法は、放射線治療と同時に行う化学療法(化学放射線治療)、術前化学療法、術後化学療法、切除不能または再発食道がんに対する化学療法があります。

術前化学療法

術前補助化学療法は、切除手術の前に行われる化学療法です。手術前のCT検査などで、がんが深く浸潤している場合や、近くのリンパ節へ転移があるような場合に行われます。目に見えない微少ながんに対する再発予防のほか、切除が難しいがんを小さくして切除しやすくする目的もあります。

シスプラチン+5-FU併用療法(CF療法)が標準治療とされていました。しかし、術前化学療法としてCF療法、シスプラチン+5-FU+ドセタキセル併用療法(DCF療法)、シスプラチン+5-FU併用療法+放射線治療(CF+RT療法)の3つを比較したJCOG1109 試験ではDCF療法はCF療法と比較して、全生存期間の延長が認められ新たな標準治療となる根拠が示されました。

CF療法の補助化学療法の術前と術後を比較したJCOG9907試験では、術前化学療法の全生存期間が長かったという報告があり、ステージ2、3に対して手術を中心とした治療を行う場合は、術前化学療法を行うことが強く推奨されています。

術後化学療法

術後補助化学療法は、手術で取りきれなかった可能性のある目に見えない微少がんに対して再発予防を目的に行われる化学療法です。食道癌診療ガイドライン2017年版では、ステージ2、3で術前化学療法を行わずリンパ節転移があった場合に、CF療法(2コース)を行うことを弱く推奨しています。

「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な進行・再発の食道癌、食道癌における術後補助療法」の効能・効果として、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブが承認されています。術後補助療法としては、投与期間は12か月までとされています。

切除不能または再発食道がんに対する化学療法

一次治療

切除不能進行・再発の食道がんに対する一次治療では、5-FU、プラチナ系薬剤、タキサン系薬剤、ビンカアルカロイド系薬剤などが単剤もしくは併用されます。併用療法は、単剤療法と比べて、奏効割合が高いとの報告があります。生存期間の延長に関する明確なエビデンスはありませんが、シスプラチン+5-FU併用療法(CF療法)が標準治療と考えられています。

レジメン奏効割合無増悪生存期間生存期間(中央値)
シスプラチン100mg/m2 1日目
5-FU1,000mg.m2 1~5日目/週毎
35%6.2か月7.6か月
シスプラチン70mg/m2 1日目
5-FU700mg.m2 1~5日目/3週毎
35.90%奏効した患者さん
3.5か月
奏効した患者さん
9.5か月
ネタプラチン90mg/m2 1日目
5-FU800mg.m2 1~5日目/4週毎
39.50%2.5か月8.8か月
ドキソルビシン30mg/m2 1日目
5-FU700mg.m2 1~5日目
シスプラチン14mg/m2 1~5日目/4週毎
43.90%5.0か月10.1か月
ドセタキセル30~40mg/m2 1、15日目
5-FU800mg.m2 1~5日目
シスプラチン80mg/m2 1日目/4週毎
62%5.8か月11.1か月

出典:日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2017年版 第VI章 切除不能進行・再発食道癌に対する化学療法表1より作成

二次治療

一次治療でCF療法が不応となった場合、明確な生存期間の延長効果がある二次治療薬はまだありませんが、タキサン系薬剤のドセタキセルやパクリタキセルが単剤で使用されることが多くあります。

レジメン奏効割合無増悪生存期間生存期間(中央値)
ドセタキセル70mg/m2 3週毎35%6.2か月7.6か月
パクリタキセル100mg/m2
1。8。15。22。35日目/7週毎
35.90%奏効した患者さん
3.5か月
奏効した患者さん
9.5か月
ドセタキセル30mg/m2 1日目
ネタプラチン50mg/m2 1日目/2週毎
39.50%2.5か月8.8か月
ニボルマブ3mg/kg/2週毎43.90%5.0か月10.1か月

出典:日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2017年版 第VI章 切除不能進行・再発食道癌に対する化学療法表2より作成

三次治療

二次治療でも不応となった場合は、明確な有効性が認められている薬剤がないため、緩和的対症療法が推奨されています。

参考文献
日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2017年版.金原出版
日本食道学会編 臨床・病理 食道癌取扱い規約2015年10月 第11版.金原出版
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療用医薬品 詳細ページ オプジーボ

最新のがん医療情報をお届けします。

無料で 会員登録
会員の方はこちら ログイン