幅広い知識と洞察力が必要な超音波診断「技術を教えることはなかなか難しい」飯島尋子先生インタビュー

(名医が語る最新・最良の治療 肝臓がん 2012年12月25日初版発行)

超音波診断の性能を高め、技術を極めていく。それが患者さんの病気の、早期発見と治療に結びつくことを願って。

 肝臓はほかの臓器に比べてしくみが複雑で、今もなお機能としてわかっていない部分が少なくないミステリアスな存在。その謎の解明、研究をライフワークとしているのが、飯島尋子先生。日本で有数の超音波診断専門医として活躍しています。
 「今でこそ肝炎の大きな原因の一つとして、C型肝炎ウイルスという存在が知られていますが、私が内科医になりたてのころは、まだ〝ノンAノンB〟と呼ばれていて、その存在が知られていなかったんです」
 飯島先生が医師になった当時、肝炎から肝臓がんになる患者さんが急増。国内はもとより、世界中で原因解明のための研究が行われていた時期でした。C型肝炎ウイルスの存在が明らかになると、ウイルス感染から肝炎、やがて肝臓がんを発症していく患者さんを何とか救いたい、と強い使命感を抱くようになります。
 「原因がわかれば予防・対策ができます。肝炎の患者さんが肝臓がんを発症する割合は、一般の方より高い。なりやすい人がわかっているから定期検査を実践し、早期発見、早期治療をすれば、がんが小さいうちに切除でき、助かる可能性は高くなる。そこを突き詰めたいと思いました」
 それには、まず機器の開発から。肝臓がんの最先端検査として、兵庫医科大学病院など、専門施設に導入されている造影超音波検査は、飯島先生ら超音波の専門家たちが検証を重ね、実用化を進めてきたものです。マイクロバブルという造影剤を静脈に注射して行う検査で、早期のがんをみつけ、がんの悪性度の判定や治療効果の判定に有用です。
 そして現在、飯島先生が力を注いでいるのは、肥満や糖尿病などに合併する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の啓発活動です。予防対策が進んだ結果、将来的にはウイルス性肝炎からの肝臓がんは減少し、NASHなどウイルス性以外の肝炎から発症する肝臓がんの患者さんが増えると予測しているからです。
 「もともと肝炎の治療をしていて病識があり、検査・治療に積極的なウイルス性肝炎の患者さんと違い、NASHの患者さんは、自分は病気であるという自覚が薄い。だから油断して定期検査を受けなかったり、治療をしなかったり。結局、がんが大きくなってからみつかるというケースが多いのです。潜在的なリスクの重要性を広めていかなければなりません」
 飯島先生に、超音波診断のコツを聞くと、「センス…かな」とひとこと。素人目には砂嵐のようにしか見えない超音波画像から、微小ながんを読み取るのは肝臓病やがんに対する幅広い知識と洞察力が大きく左右します。「でも、これは数字には表せないので、技術を教えることはなかなか難しいですね」
 だからこそ後輩の育成にも尽力します。若い医師たちもそれにこたえ、診療の現場やカンファレンスでは、いつも熱意に満ちた一体感が生まれます。
 精神科の開業医だった父の影響もあって、患者さんの気持ちに沿った医療を心がける飯島先生。そして、ときには患者さんを叱咤(しった)もすれば、激励もする信頼関係を一人ひとりと築き上げてきました。
 「内科で治療を続けていると、手術をしたくないという患者さんも多い。でも内科治療の限界もあり、今回、あなたは手術をしたほうがいいという場合もあります。それをわかってもらいたくて話し込んでしまうこともあります」
 患者さんと対等に向き合い、その心のよりどころになる――。若き日に誓ったその決意は、超音波センターのトップとして、診療に研究にと走り続ける飯島先生の日々を支える原動力といえるかもしれません。

熱気にあふれる内科・肝胆膵科の教室員、超音波センターのスタッフたちと飯島先生

飯島尋子(いいじま・ひろこ)先生

飯島尋子先生

兵庫医科大学超音波センター長 内科・肝胆膵科教授
山口県生まれ。1983年兵庫医科大学卒業後、同大病院第三内科に初代女性医師として入局。2000年東京医科大学第四内科講師として赴任、03年トロント大学トロント総合病院客員教授に着任。05年帰国後、兵庫医科大学で内科・肝胆膵科助教授などを経て08年より現職。日本超音波医学会理事、日本消化器学会、日本肝臓学会評議員ほか。