早期肝細胞がんに対する治療選択―手術、ラジオ波焼灼法、体幹部定位放射線治療(SBRT)

武田篤也先生
監修:大船中央病院放射線治療センター長  武田篤也先生

2019.7 取材・文:がん+編集部

 2019年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)において、手術による切除(以下切除)とラジオ波焼灼法(RFA)という2つの治療法を比較した日本の臨床試験の結果が報告されました。この2つの治療は、早期の肝細胞がんに対する標準治療で、切除とRFA後の再発率は同等との結果が明らかになりました。これにより、診療方針が再検討される可能性が示唆されています。一方、早期の肝細胞がんに対する「体幹部定位放射線治療」(SBRT)の良好な成績が最近報告されており、切除不能な場合の第3の治療の選択肢として注目されています。切除不能でRFAも行えない患者さんに対するSBRTという治療選択について解説します。

早期肝細胞がんに対する治療選択

 肝細胞がんの治療法は、手術、RFA、アルコール注入療法(PEIT)、肝動脈塞栓術(TACE)、分子標的薬などがあります。患者さんの肝機能の状態、腫瘍の位置や大きさ、個数、転移の有無などにより治療法が選択され、状況により複数の治療法が組み合わされることもあります。

 肝癌診療ガイドライン2017年版によると、Child-Pugh分類AまたはBで、肝外転移や脈管侵襲がなく、腫瘍数が1~3個、腫瘍径が3cm以内の早期肝細胞がんの治療選択は、外科手術による切除もしくはRFAとされています。腫瘍数が1個なら切除、RFAの順で検討されます。しかし2019年6月にASCOで報告された臨床試験の結果では、切除とRFAの無再発生存期間は同等(中央値で 2.98年:2.76年)でした。このことから、早期肝細胞がんに対する治療選択において、切除とRFAの順序が入れ替わる可能性もあります。治療成績が同等であれば、入院期間も短く侵襲の低い治療が推奨される可能性が示唆されるからです。

 早期の肝細胞がん患者さんの中には、切除もRFAも行えない患者さんもいます。こうした患者さんに対する治療として注目されるのが、SBRTです。これまで、肝細胞がんに対する放射線治療は、副作用が大きくあまり適応になりませんでした。しかし、技術の進歩により、肝細胞がんに対しても安全に行えるようになりました。優良な治療成績も報告されています。

早期肝細胞がんの治療選択

早期肝細胞がんに対するSBRT

 SBRTは、患者さんをしっかり固定して腫瘍をターゲットに設定した状態で、放射線装置を回転させ3次元的に放射線を照射する治療法です。従来の放射線治療に比べて、照射精度が高く、周囲の正常組織にかかる放射線の線量も少なく済むため副作用が軽減されます。また、腫瘍に十分な線量が照射できるため、治療効果が向上し、治療回数や治療期間が少なくなります。

SBRTの効果と副作用

 SBRTの効果は切除やRFAに匹敵しますが、すぐに腫瘍が消えることはありません。1か月後のMRIやCT検査で、やや縮小が認められる場合もありますが、ほとんど変化が見られないことも多いです。平均6か月程度で縮小または病勢進行が失われますが、長い人だと1~2年かかる人もいます。一方、腫瘍マーカーでは治療後1か月後に半減している人は多いです。

 SBRTの副作用は概して軽度です。腫瘍が大きい人での副作用は、吐き気、倦怠感、食欲不振、発熱がまれに・・・起こることがあります。また、腫瘍の位置が胃や十二指腸に近い場合、治療後2週~1か月後に胃潰瘍や十二指腸潰瘍を起こすことがありますが、予防的処置を行うことで対処可能です。また、1~2か月後に、一過性の症状として肝機能が悪化することもあります。肝機能が悪い患者さんでは、まれに肝不全を起こす可能性はあります。

 SBRTは従来の放射線治療に比べて副作用も少なく、無痛、無出血で治療することができるため、患者さんにとって負担の少ない治療法といえます。

早期肝細胞がん、RFAとSBRTの選択

 切除不能の早期肝細胞がんの第1選択はRFAですが、RFAを行なえない患者さんが相当数います。こうした患者さんに対するSBRTによる良好な治療成績が報告されていますが、RFAとSBRTのどちらがいいかを検証するためのランダム化比較試験※1は困難です。こうした背景もあり、RFAとSBRTの患者背景因子を傾向スコア解析※2で調整し、両群の治療成績を比較してみました。

※1:比較する2つの患者グループに年齢、体力などの因子に偏りがないよう、治療前に無作為に患者を割り振り、その後に治療を行い比較する試験
※2:比較する患者グループから背景因子(年齢、肝機能など)に偏りのないように似た傾向の患者をマッチングして選んで比較する解析する方法

 切除不能の肝細胞がん、腫瘍数が3個以上かつ3cm以上の患者さんのうち、RFAが可能な患者さんと、RFA不能または困難な患者さんで主にSBRTによる治療が行われた患者さんを比較しました。RFA群は、横浜市立大学附属市民総合医療センター、SBRT群は大船中央病院で治療を受けた患者さんです。

 全患者さんの背景は、SBRT群の方がよりステージが進行しており、全身状態も不良、腫瘍径が大きく、約8割の患者さんの腫瘍が脈管に近い位置にありました。また、再発治療に対する救済治療もRFA群は0%に対し、SBRT群は32%。このような背景差は、RFAを行えない患者に対してSBRTを行った診療方針の優位性を浮き彫りにするものでした。

 全症例の3年局所再発率の解析結果では、RFAが12.9%、SBRTが5.3%で有意差が認められました(図1)。3年全生存率はRFAが72.2%、SBRTが63.6%で、統計学的有意差はつかないものの、RFAの生存率が高い傾向でした(図2)。

図1 局所再発率(全症例)
図2 3年全生存率(全症例)

 患者背景や腫瘍因子を調整するために、年齢、治療回数、腫瘍サイズ、Child-Pughクラス、全身状態でマッチングを行い比較しました。その結果、3年全生存率、がん関連死ともにRFAとSBRTでほぼ一致しました(図3)。また、肝不全死亡率や他の病死率でも差がありませんでした(図4)。

図3-1 3年全生存率(傾向スコア解析)
図3-2 がん関連死亡率(傾向スコア解析)
図4-1 肝不全死亡率(傾向スコア解析)
図4-2 他の病死率(傾向スコア分析)

 現在、切除不能の早期肝細胞がんの第1治療選択はRFAですが、穿刺が困難もしくは危険な患者さんでは、SBRTが検討されます。横隔膜直下、肝臓の表面、大血管もしくは消化管の近くに腫瘍がある患者さん、肥満や脂肪肝などで超音波検査が困難な患者さん、血小板が50000/mm3未満や抗血小板薬を服薬している患者さん、透析を受けている患者さん、先端恐怖症や穿刺治療を拒否される患者さんなどが対象となります。

 SBRTは、脈管に近い腫瘍、ドーム直下腫瘍などRFAが困難な腫瘍でも、低侵襲で治療が可能です。また外来通院(5日間)でも行えるほど、患者さんに優しい治療法です。SBRTは、RFAによる治療が不能または困難な早期肝細胞がんの治療成績を向上させる可能性があると考えられます。

プロフィール
武田篤也(たけだあつや)

1994年 慶應義塾大学 医学部卒業
1994~2004年 慶應義塾大学、防衛医科大学、都立広尾病院勤務
2005年 大船中央病院放射線治療センターを開設
現在 大船中央病院放射線治療センター長、横浜市立大学客員教授、東海大学客員教授、慶應義塾大学客員講師、東京医科歯科大学非常勤講師を兼務