難しいケースだからこそ「出血を一滴でも少なく」高山忠利先生インタビュー

本記事は、株式会社法研が2012年12月25日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 肝臓がん」より許諾を得て転載しています。
肝臓がんの治療に関する最新情報は、「肝臓がんを知る」をご参照ください。

「出血を1滴でも少なく」。質の高い手術を続けることで患者さんのために最大限の努力を尽くしたい。

高山忠利先生

 あのころは、肝臓がんの手術に入るのが、本当に嫌でした」。今でこそ日本で最も多く肝臓がん手術を行い、誰もが認める肝臓がんの名医となった高山忠利先生。意外にも、外科医となって6年目のことをそう振り返ります。胃がんの手術をメインとしていたその当時、肝臓がんの手術に助手としてつくこともありましたが、術中の出血多量などのため、命を落とされるという現実を目の当たりにすることが多かったといいます。
 肝臓の手術で出血を減らすことはできないのか。そう考えるようになった矢先、高山先生は国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院の肝臓がん手術を目にします。執刀医は肝臓外科の世界的な権威、幕内雅敏先生(現・日本赤十字社医療センター院長)。その圧倒的な手術力に感動し、肝臓外科医として生きることを決意。幕内先生のもとで肝臓手術の腕を磨くことになります。
 高山先生は、その2年後の1993年、38歳で「高山術式」と呼ばれる「尾状葉単独全切除術」に成功します。尾状葉という部分(1番の亜区域)は、肝臓の表面からは見えない奥深くに存在する小さな部分で、そこだけ単独で切除するのは不可能とされていたところです。
 「あれは偶然の産物です。がんのある場所が7番地だと思って切除したところ、そこが尾状葉だった。それも、手術をしているときは気づかず、手術後の検査画像や手術中の写真を見ていてハッと気づいたんです。あのころは怖いもの知らずで、とにかくいろいろなことに挑戦していた時期。それが、結果として新しい手術法の開発に結びついたんです」
 即座に論文にまとめ、米国外科学雑誌に発表。世界的な認知のもと、いつしか「尾状葉は高山」とキャッチフレーズがつくほどに。今も、尾状葉がんの患者さんが、各地から高山先生に希望を託し、訪ねてきます。「僕のところにいらっしゃる患者さんは、”場所が難しい、がんが進行している、肝機能が悪い”という患者さんばかりです」
 しかし、そんな難しいケースだからこそ、「出血を一滴でも少なく」を徹底するといいます。それが患者さんのよりよい予後につながることを誰よりも確信しているからです。
 実際、高山先生の手術を見ると、手術用の絹糸よりも細い血管を1本1本結んで、血管処理を施しています。1回の手術で結ぶ血管の数は100~200本。その細かさには、ほかの肝臓外科医も感嘆の声を上げるほどです。昨今は熱エネルギーで止血をする手術器具も出ていますが、それを使わず、すべて手で結ぶのが、高山先生のこだわりです。「肝臓を止血器具で焼かないので、きれいな手術ができる。それが外科医の腕を磨くことにもつながるからです」
 肝臓がん手術では8時間立ちっぱなしはざら。「仕事だからつらくないですよ。大切なのは何があっても気持ちは折れないこと、外科医は体力でなく気力ですから」
 そんな高山先生のストレス解消法は、ランニングだそうです。健康維持も兼ねて数年前から始め、毎日10km走っているとか。「今は走らないと、何かイライラしてくる」と笑います。
 これまでに行った手術の件数は2,200件超。57歳になった今も、若いころの7倍もの手術を行っています。そこには患者さんを一人でも治したいという強い思いがあります。
 「僕が肝臓がんの手術を始めたときの全国の5年生存率はわずか25%程度。それが今は50%に達する。難治がんであることは変わりありませんが、早期に発見できれば半分以上の人は治るがんになってきています。肝臓がんを専門とする外科医として、大腸がんや胃がんレベルの70%にまで5年生存率を上げていきたい。その日はそう遠くないと思います」

高山忠利(たかやま・ただとし)先生

高山忠利

日本大学医学部 消化器外科教授
1955年東京都生まれ。日本大学医学部卒業。同大大学院医学研究科外科学修了後、国立がん研究センター中央病院外科医長、東京大学医学部肝胆膵移植外科学助教授を経て、2001年から日本大学医学部消化器外科学教授、現在に至る。肝臓手術に心血を注ぐかたわら(2008~2010肝臓手術数全国1位)、論文執筆にも余念がない(英文論文計416編)。主な役職に、日本肝臓学会理事、日本外科学会評議員、日本消化器外科学会評議員、日本肝胆膵外科学会評議員、日本肝癌研究会常任理事ほか多数。