目指すは「肝臓がん手術をより安全に、確実に、そして易しく」國土典宏先生インタビュー

本記事は、株式会社法研が2012年12月25日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 肝臓がん」より許諾を得て転載しています。
肝臓がんの治療に関する最新情報は、「肝臓がんを知る」をご参照ください。

新しいシステムを開発し、手術の安全性を高めることで、患者さんと医師の双方が利すること。それが私たちの当面の目標です。

國土典宏先生

 「外科医って大胆なようにみえて、意外と小心者なんです」
 そういって笑う國土典宏先生。目指すところは手術死亡数「ゼロ」。3Dのシミュレーション技術の開発にかかわったのも、より安全な手術を求めてのことです。「大学病院だから、もう少し積極的に、アグレッシブに挑戦が必要だという意見もありますが、安全性は決してゆずってはならない絶対条件です」
 たとえば、肝切除の成否を決める大きな要因の一つが出血。以前の肝切除の死亡率は約2割でしたが、そのほとんどが多量の出血によるもの。そこで國土先生は、出血量を事前に想定することができないかを模索。この発想が今の3Dシミュレーション技術に結びつきます。
 「従来から私たちは出血を何とか抑えようと、さまざまな試みを行ってきました。出血の少ない切除ラインを追求したり、細かく血管処理をする技術を磨いたり。静脈の圧が強いと出血しやすいので、点滴を調整して血圧をコントロールする。そうしたことも麻酔科の先生から教わりました。でも、もっと何か工夫できるんじゃないか。そこから導き出されたのが、3Dシミュレーションだったのです」
 國土先生が3Dにこだわる理由は、肝臓の大きさや位置、形などで正確さを極めたいため。というのも、肝臓外科医になった当時、参考にした教科書の解説が、患者さんのおなかをあけてみた実際のようすとあまりにもかけ離れた内容で、それに愕然(がくぜん)としたという経験があったからです。「びっくりしました。手術の経験がない人が書いたものだと、すぐにわかりました」  各地からセカンドオピニオンを受けに訪れる患者さんも多いそうですが、國土先生はそうせざるをえない患者さんの話を聞いて、憤りを覚えることもあるそうです。
 「肝臓の手術は特殊で、手術のなかでも非常に難しい部類に入ります。だから、大腸がんの肝転移は切れるけれど、肝細胞がんは切れないという外科医も少なくありません。その結果、肝切除を行えば治せるのにもかかわらず、それを治療法として提示しない。困った患者さんが自分で調べて、セカンドオピニオンを求めてやってくる」
 自分が切れないとしても、せめて肝切除ができる病院に紹介すべきではないのか。肝切除の難しさゆえに、そうした患者さんの不利益が生まれてはならない。そこで國土先生の目指すところは、「肝臓がん手術をより安全に、確実に、そして易(やさ)しく」であり、目下3Dシミュレーションを発展させた画像支援ナビゲーションシステムの開発にも取りかかっています。「たとえば、めがねをかけたら、肝臓が透けて見えて、複雑な血管の構造や切除するラインが一目でわかる。カーナビで今、フロントガラスに映るタイプがありますよね。そんな装置が手術でも実用化されたら」と話す表情は少年のようです。
 小さいころから手先が器用で、精密なプラモデルを作ったり、弟の工作を手伝ったり。システム開発のリーダーとなる萌芽(ほうが)はそのころからあったようです。外科医の父が患者さんに接する姿を見て、自分も人を助けたいと、同じ道を選んだ國土先生。専門医か救命救急医かと迷った末、肝臓外科医の道へ。
 國土先生が手術した患者さんで、ソフトボールぐらいに成長した巨大腫瘍(しゅよう)を切除した男性は、今もエネルギッシュに仕事で多忙な日々を過ごしているそうです。
 「肝臓がんであっても、適切な手術で患者さんが日常を取り戻すお手伝いができたら、こんなうれしいことはありません」

國土典宏(こくど・のりひろ)先生

國土典宏先生

東京大学大学院医学系研究科・肝胆膵外科学・人工臓器移植外科学分野教授
1956年香川県生まれ。81年東京大学医学部卒業。同大学第二外科助手を経て、89年アメリカのミシガン大学外科に留学。95年癌研究会附属病院(現・がん研有明病院)外科、2001年東京大学肝胆膵外科、現職に至る。