肝臓がんの検査・診断

肝臓がんの疑いが…となったら、どんな検査を受け診断が行われるのかを紹介します。

肝臓がんの検査

 早期の肝細胞がんは自覚症状に乏しく、腹痛、黄疸、腹水など肝不全症状があらわれたときには、進行していることが多くあります。そのため慢性肝炎や肝硬変などがあり、肝臓がんの発症リスクが高い人には、早期発見を目的に、腫瘍マーカーの測定や超音波検査、CT、MRIなどの画像検査が定期的に行われます。

 B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変のいずれかがある患者さんは、肝細胞がんの発症リスクが高リスクに分類されます。特にB型肝硬変、C型肝硬変の患者さんは、超高リスクに分類されます。リスク因子や、年齢、性別、糖尿病の有無、BMI値、飲酒量、血液検査の結果などを総合的に判断して、定期的な検査間隔が決定されます。

 超高リスクの患者さんには、3~4か月ごとに超音波検査と腫瘍マーカー測定が行われます。高リスクの患者さんには、6か月ごとに超音波検査が行われます。

 超音波検査で肝臓に結節が見つかった場合は、「dynamicCT ※1」または「細胞外液性Gd造影dynamicMRI ※2」、もしくは「Gd-EOB-DTPA造影MRI ※3」で鑑別診断が行われます。

 dynamicCTまたは細胞外液性Gd造影dynamicMRI検査で、早期相(動脈相)に造影効果で高吸収(白く見える部分)が認められ、後期相(門脈相と平衡相※4)で低吸収(黒く見える部分)の場合は、肝細胞がんと診断されます(図1赤の矢印)。早期相で高吸収が認められても、後期相で低吸収が認められない場合は、腫瘍と思われる部分が1cm以上ならGd-EOB-DTPA造影MRI検査、もしくは造影超音波、生検が行われます(図1緑の矢印)。1cm以下の場合は、3か月ごとの経過観察となります(図1黄の矢印)。

 早期相に高吸収が認められず、腫瘍サイズが1.5cm以上の場合(図1紺の矢印)は、Gd-EOB-DTPA造影MRI検査、もしくは造影超音波、生検が行われ、1.5cm以下の場合は、3か月ごとの経過観察となります(図1紫の矢印)。dynamicCTおよび細胞外液性Gd造影dynamicMRI検査で、病変が認められない場合も3か月ごとの経過観察となります(図1青の矢印)。

図1 肝臓がんの診断アルゴリズム1
図1 肝臓がんの診断アルゴリズム1
※検査時に見られる、薬物が時間経過と共に体内から無くなっていく変化
出典:一般社団法人日本肝臓学会 肝がん診療ガイドライン2021年版.第1章 診断およびサーベイランス.サーベイランス・診断アルゴリズムより作成

 Gd-EOB-DTPA造影MRIによる検査で、早期相に高信号(白く見える)が認められ、門脈相でwashout ※5が認められる場合は、肝細胞がんと診断されます(図2赤の矢印)。門脈相でwashoutが認められない場合、腫瘍径が1cm未満かつ超音波で検査可能な場合は、3か月ごとの経過観察となり(図2青の矢印)、腫瘍径が増大した場合、あるいは腫瘍マーカーが上昇した場合は、再度Gd-EOB-DTPA造影MRI検査が行われます。

 移行相/肝細胞相で低信号(黒く見える)かつ腫瘍径が1cm以下の場合、血管腫の可能性が除外可能なら、肝細胞がんと診断されます(図2緑の矢印)。血管腫の可能性が除外できない場合は、dynamicCTあるいは細胞外液性Gd造影dynamicMRI検査が行われます。門脈相のwashout、移行相/肝細胞相で低信号がいずれも認められない場合は、通常検査となります(図2紺の矢印)。

※1ヨード造影剤を静脈から急速注入した後、造影剤が目的領域に到達するタイミングを見計らって、同じ部位を複数回撮影する検査。
※2血管内と細胞の間質に到達する造影剤を使用したdynamicMRI検査。
※3血管内と細胞の間質、および肝細胞に到達する造影剤を使用したMRI検査。
※4血管内腔と外腔(細胞間質)の造影剤濃度が平衡状態にある部位。
※5検査時に見られる、薬物が時間経過と共に体内から無くなっていく変化。

図2 肝臓がんの診断アルリズム2
図2 肝臓がんの診断アルリズム2
出典:一般社団法人日本肝臓学会 肝がん診療ガイドライン2021年版.第1章 診断およびサーベイランス.サーベイランス・診断アルゴリズムより作成

腫瘍マーカー

 肝臓がんの腫瘍マーカーには、「AFP」「PIVKA-II」「AFP-L3分画」の3つがあります。AFPとPIVKA-IIは同時測定が保険で行え、肝細胞がんの補助診断として測定されます。AFP-L3分画は、肝細胞がんが強く疑われるときに測定されます。

 B型肝硬変、C型肝硬変の超高リスクの患者さんに対しては、3~4か月ごとに腫瘍マーカー測定が行われ、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、非ウイルス性の慢性肝炎の高リスク患者さんに対しては、6か月に1回の腫瘍マーカー測定が行われます。

超音波検査

 肝臓がんの画像検査の中で最も体の負担が少ない検査のため、スクリーニング検査として行われます。

dynamicCT検査

 造影CT検査は、造影剤を使ったX線による画像検査です。腫瘍の大きさや広がりだけではなく、正常細胞と血流が異なる病変を見つけることができます。ヨード造影剤を静脈から注入した後、造影剤が検査部位に到達するタイミングで、同じ部位を複数回撮影することで、組織の血行の状態を精密に調べることができます。肝細胞がんの検査では、動脈相、門脈相、平衡相の3つ部位を順番に調べます。

細胞外液性Gd造影dynamicMRI検査

 MRI検査は、磁気を使った画像検査です。細胞外液性Gd造影dynamicMRI検査は、血管の内腔や外腔(細胞間質)に到達する細胞外液性造影剤を静脈から注入した後、造影剤が検査部位に到達するタイミングで、同じ部位を複数回撮影します。

Gd-EOB-DTPA造影MRI検査

 Gd-EOB-DTPA造影MRI検査は、肝細胞の間質にも到達する造影剤を静脈から注入した後、造影剤が検査部位に到達するタイミングで、同じ部位を複数回撮影します。

肝腫瘍生検

 肝腫瘍生検は、採取した細胞を顕微鏡で観察し、異常な細胞がないかを調べる検査で、確定診断を目的に行われます。

肝臓がんのステージ分類

 肝臓がんのステージは、病変の大きさや個数、浸潤の程度(T分類)、リンパ節への転移(N分類)、遠隔部位への転移(M分類)を総合的に判断して決定されます。

  • T:病変の大きさや個数浸潤の程度
  • N:病変周辺にあるリンパ節への転移
  • M:遠隔部位への転移の有無

 T分類は、T1~T4で分類され、「腫瘍の個数」「腫瘍の大きさ」「腫瘍の浸潤」の3つの因子から決定されます。腫瘍が1つで、大きさが2cm以下、門脈・静脈・胆管への浸潤がなければT1と判定されます。3つの項目のうち2つが該当すればT2、1項目が該当すればT3、3つとも該当しなければT4と判定されます。

 N分類は、リンパ節への転移の有無で分類され、なければN0、あればN1と判定されます。M分類は遠隔転移の有無で分類され、なければM0、あればM1と判定されます。

T分類

(1)腫瘍が1つ
(2)腫瘍の大きさが2cm以下
(3)門脈・静脈・胆管への浸潤がない
T1(1)(2)(3)すべてに該当
T22項目に該当
T31項目が該当
T4全てに該当せず

N分類

N0リンパ節転移なし
N1リンパ節転移あり

M分類

出典:日本肝癌研究会,臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約第6版[補訂版].2019年3月,J進行度分類より作成

M0遠隔転移がない
M1遠隔転移がある

 肝臓がんのステージは、1~4に分類され、ステージ4はさらにAとBに分類されます。各ステージの条件は以下の通りです。

  • ステージ1の条件:T1・N0・M0
  • ステージ2の条件:T2・N0・M0
  • ステージ3の条件:T3・N0・M0
  • ステージ4Aの条件:T4・N0・M0、もしくはT分類に関わらずN1・M0
  • ステージ4Bの条件:T分類、N分類に関わらずM1

ステージ分類

T1T2T3T4
M0N01234A
N14A4A4A4A
M14B4B4B4B

出典:日本肝癌研究会,臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約第6版[補訂版].2019年3月,J進行度分類より作成

肝臓がんの肝機能分類

 肝臓がんは、慢性肝炎から肝硬変へと進行した後にがんになることが多いので、肝機能が低下している患者さんが多くいます。そのため、肝臓がんの治療では、がんのステージ分類だけでなく、肝臓の機能がどの程度あるかを示す「肝予備能」も考慮されます。

 肝予備能は、「Child-Pugh分類」により評価されます。Child-Pugh分類では、「脳症」「腹水」「血清ビリルビン値」「血清アルブミン値」「プロトロンビン活性値」の5つの検査値を1~3点で評価し点数化します。5~6点がA、7~9点がB、10~15点がCに分類されます。A、B、Cの順番で肝予備能は高~低と判定されます。

 切除手術を行う場合は、「肝障害度」という指標が参考にされます。肝障害度は、手術ができるかどうか、どこまで肝臓を切除できるのかの調べる目的で行われます。「腹水」「血清ビリルビン値」「血清アルブミン値」「プロトロンビン活性値」の4つの検査に、「インドシアニングリーン(ICG)」という色素を使った肝機能検査により、A、B、Cの3段階で評価されます。肝障害度はA、B、Cの順番で低~高と判定されます。

Child-Pugh分類

ポイント1点2点3点
脳症ない軽度ときどき昏睡
腹水ない少量中等量
血清ビリルビン値(mg/dL)2.0未満2.0~3.03.0超
血清アルブミン値(g/dL)3.5超2.8~3.52.8未満
プロトロンビン活性値(%)70超40~7040未満

M分類

A5~6点
B7~9点
C10~15点

肝障害度

肝障害度ABC
腹水ない治療効果あり治療効果少ない
血清ビリルビン値(mg/dL)2.0未満2.0~3.03.0超
血清アルブミン値(g/dL)3.5超3.0~3.53.0未満
ICGR15(%)15未満15~4040超
プロトロンビン活性値(%)80超50~8050未満

出典:日本肝癌研究会,臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約第6版[補訂版].2019年3月,C臨床検査所見.1肝障害度より作成

参考文献
一般社団法人日本肝臓学会 肝がん診療ガイドライン2021年版.金原出版
日本臨床検査医学会ガイドライン作成委員会 臨床検査のガイドライン2018

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