肺がんの治療

肺がん治療の選択

肺がんの治療は、がんの進行度や身体の状態、年齢、患者さんの希望などを考慮して方針が検討されます。がんの進行度は、ステージで分類され、肺がんの場合、原発巣の大きさや周囲組織への浸潤の程度(T因子)、原発巣と直結したリンパ管に属する所属リンパ節への転移の程度(N因子)、原発巣以外の肺内のほかの箇所への転移、胸水の有無、その他臓器への遠隔転移があるかないか(M因子)など、これらの3つの因子を総合的に判断して分類され、TNM分類ともいわれます。
肺がんの治療は、非小細胞肺がんと小細胞肺がんで治療の選択が異なります。

非小細胞肺がんの治療選択

非小細胞肺がんでは、ステージ1と2、3期の一部まで切除手術が可能とされていますが、ステージ1、2でも切除不能の場合もあります。ステージ1や2でも、患者さんの全身状態がよくない、合併症がある、手術に耐えられる年齢ではないなど、手術が難しいと判断された場合は、放射線治療が選択される場合もあります。手術可能であれば、手術を行い、再発予防のために手術後に抗がん剤を投与する補助化学療法をする場合もあります。ステージ3やステージ4で手術によりがんを完全に切除できないと判断された場合は、薬物療法や放射線治療、化学療法と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法のいずれかが選択されます。薬物療法では、細胞障害性の抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤などが、患者さんの状態や年齢、遺伝子変異などさまざまな要素を検討して選択されます(図1参照)。

図1 非小細胞肺がんの治療アルゴリズム

日本肺癌学会編「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」(金原出版)より作成

小細胞肺がんの治療選択

小細胞肺がんは、ステージ分類のほかに「限局型」と「進展型」による分類もされ、治療選択が検討されます。限局型は、病巣が片側の肺に限局、反対側の縦隔や鎖骨上窩リンパ節までに限られている、悪性胸水や心のう水がみられないタイプで、ステージ1~3期です。進展型は、「限局性」の範囲を超えて進行しているタイプのことをいいます。
小細胞肺がんは、進行が速い一方、抗がん剤による化学療法がよく効くという特徴があります。がんが肺にとどまり、大きさが5cm以下のステージ1で、手術で切除できるなら手術を行いますが、その場合でも術後補助化学療法が勧められます。手術ができないステージ1やステージ2期以降では、化学療法か放射線治療、またはその両方を組み合わせて同時に行う化学放射線療法が勧められます(図2参照)。

図2 小細胞肺がんの治療アルゴリズム

日本肺癌学会編「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」(金原出版)より作成

手術(外科治療)

非小細胞肺がんは、ステージ1~2期、と3A期の一部が手術の対象となります。小細胞肺がんは、限局型のステージ1期が手術の対象です。手術可能なら、肺がんを根治するためには、がんを切除する手術が最も推奨される方法です。

開胸手術

背中から脇にかけて胸部の皮膚を15cm~20cm程度切開し、肋骨を開いて行う手術です。

胸腔鏡下手術

胸部を数か所2cm程度切開し、胸腔鏡という内視鏡と手術機器を挿入して行われる手術です。胸腔鏡の先端には小型のカメラが装着されており、カメラで映し出されたモニターを使って行われます。胸腔鏡下手術は、2つの方法があります。開胸手術のように大きく切開せず、小さく開いた切開部から直接胸の中を見ながら、補助的に胸腔鏡を使用する胸腔鏡補助下手術と、大きな開胸を伴わず、内視鏡で映し出したモニター画面を見ながら行う完全胸腔鏡下手術です。
胸腔鏡下手術のメリットは、開胸手術に比べて傷が小さく術後の痛みが少なくてすみます。デメリットは、とっさの対応が遅れることで、途中から開胸手術へ変更されることもあります。また完全胸腔鏡下手術では、カメラで映し出されたモニターを見ながら手術機器を操作するため新しい手技の習練と手術器具が必要で、限られた施設でのみ行われています。

肺がんの肺葉切除+リンパ節郭清

肺は、気管支が2つに分かれ左右に2つあります。右側が上葉、中葉、下葉の3つに分かれ、左側は上葉と下葉の2つに分かれています。肺がんの標準術式は、この5つに分かれた肺葉ごとの切除とリンパ節の切除(リンパ節郭清)です。がんがある肺葉ごと切除しますが、ほかの肺葉が呼吸機能を補うため、大きな支障がなく、目に見えないがん細胞の取り残しが防げるメリットもあります。
リンパ節郭清は、肺葉ごとに転移しやすいリンパ節がある程度予測できるようになってきたため、転移しやすいリンパ節のみを郭清するようになってきています。

肺がんの縮小手術

小さいがんに対しては、呼吸機能をなるべく温存するためには、肺葉よりさらに小さい切除を行う縮小手術という方法もあります。肺は、5つの肺葉をより詳細に分け、右側の肺では10の区域、左側の肺では8の区域に分けられておりこの区域単位で切除するのを縮小手術といいます。さらに、がんがある部分のみを楔形にくりぬくように切除する部分切除という手術もあります。縮小手術は、切除範囲が小さいため、体への負担も少なく、肺葉切除に比べると呼吸機能を温存できる一方で、根治性は落ちるという腫瘍系が3cm以下の非小細胞肺がんを対象とした臨床試験の結果があります。そのため、肺葉切除が現在は標準的な手術方法となっています。

放射線治療

放射線治療では、根治を目指す「根治的放射線治療」と、転移が原因で起こる症状を緩和する「緩和的放射線治療」の2つがあります。
非小細胞肺がんでは、ステージ1~2期でも医学的な理由や高齢などの理由で、手術ができない場合とステージ3で化学放射線療法ができない場合に放射線治療が行われます。
小細胞肺がんでは、限局型が放射線治療の対象となりますが、脳転移の予防を目的として「予防的全脳射」を行うこともあります。
放射線治療は、どれだけ放射線を照射できたかどうかで治療効果が異なりますが、従来の放射線機器では、がん細胞だけでなく周辺の正常な組織にまで影響があり、1回の照射量を少なくし、何回かに分けて照射していました。現在は、がん細胞にピンポイントで放射線を照射できる機器が開発されたため、1回の照射量を増やし、照射回数を少なくすることで、治療効果が高く、副作用が少なくなってきています。

体幹部定位放射線治療(SBRT)

3次元的に多方向から放射線を照射する治療です。がん細胞にピンポイントで照射できるため、通常の放射線治療より照射量を多くでき、治療効果が高いといわれています。

定位放射線治療

小型の放射線装置が高精度のロボットアームに搭載されている放射線機器(サイバーナイフ)を使い、あらゆる方向から病変部に放射線のピンポイント照射を可能にした治療です。照射時の呼吸の動きに合わせて自動追尾する機能があるため、肺に対しても精密な放射線の照射を可能にしています。

薬物療法(化学療法)

肺がんの薬物療法は、肺がんの種類、組織の違い、遺伝子変異、ステージ分類、全身状態などを総合的に判断して選択されます。薬物療法で使われる薬は、殺細胞性抗がん剤(抗がん剤)、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤などがあります。
非小細胞肺がんでは、手術の前後で行う場合、手術ができない場合、放射線治療と組み合わせて行われる薬物治療があります。非小細胞肺がんは、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんの3つの組織型に分類され、組織型によって治療方針が異なり、腺がんと扁平上皮がんでは、使用できる薬や効果のある薬に違いがあります。
腺がんでは、遺伝子の異常に対する個別化治療が進んでおり、患者さん個別の遺伝子変異を検査し、遺伝子変異に合わせた治療薬を使うプレシジョンメディシン(精密医療)が進んでいます。現在治療への有効性が判明しているのは、EGFR(上皮成長因子受容体)、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子などの変異です。
小細胞肺がんは、抗がん剤の感受性が高く薬物療法が有効だという特徴があります。

抗がん剤(殺細胞性)

がん細胞の分裂を阻害したり、DNAに作用することで、がん細胞の増殖を抑える薬です。現在、肺がんで使われる主な抗がん剤は、プラチナ系製剤や第3世代の抗がん剤です。

プラチナ系抗がん剤(白金製剤)
シスプラチンブリプラチンほか
カルボプラチンカルボプラチンほか
ネダプラチンアクプラ
第3世代抗がん剤
パクリタキセルタキソールほか
ドセタキセルタキソテールほか
ペメトレキセドアリムタ
ビノレルビンナベルビン
ゲムシタビンジェムザールほか
イリノテカンカンプト、トポテシンほか
アムルビシンカルセド
S-1ティーエスワンほか

術前化学療法

ステージ1~3期に対して、手術前にプラチナ製剤を併用することでがん細胞を縮小させる目的で行われる治療です。

術後化学療法

手術で目に見えるがん細胞を切除できても、目で見えない、検査でもわからないがん細胞が残っている可能性があるため、病変を完全に切除できても、術後に抗がん剤を行うことがあり、これを術後化学療法といいます。ステージ1Bでは、リンパ節への転移がありませんが、がんが大きかったり、ステージ2Bではリンパ節への転移が見られるため、術後化学療法の対象となります。ステージ1Bとステージ2では、術後化学療法で推奨される抗がん剤は異なります。

分子標的薬

がんの増殖に関わる分子を標的にした薬です。がん細胞に多く発現している特定の分子をターゲットにしているため、従来の抗がん剤より正常な細胞への影響が少なく副作用も少ないといわれています。しかし、標的とした分子は、がん細胞だけに発現しているわけではないため、その分子が発現している部位に対しての影響はあり、副作用がないわけではありません。

肺がんに使われる分子標的薬

EGFR遺伝子に変異に対する薬
ゲフィチニブイレッサ
エルロチニブタルセバ
アファチニブジオトリフ
オシメルチニブタグリッソ
ALK融合遺伝子に対する薬
クリゾチニブザーコリ
アレクチニブアレセンサ
セリチニブジカディア
ROS1融合遺伝子に対する薬
クリゾチニブザーコリ
抗VEGF抗体を用いた薬
ベバシズマブアバスチン
ラムシルマブサイラムザ

免疫チェックポイント阻害剤

健康な人でもがん細胞は、1日に5000個もできていますが、免疫細胞の攻撃で排除されています。免疫システムは、攻撃する一方で攻撃を抑制する機能もあり、この攻撃と抑制のバランスを取りながら、健康を維持しています。ところが、がん細胞が変化して増殖していく過程で、攻撃を抑制するシステムを使って、免疫細胞の攻撃から逃れる能力を持つようになります。このシステムを免疫チェックポイント機構といいます。
免疫チェックポイント機構は、免疫細胞(T細胞)の表面に発現している物質とがん細胞が作り出した物質が結合することで、免疫からの攻撃にブレーキをかける仕組みです。この免疫細胞とがん細胞に発現している物質を免疫チェックポイントといい、現在何種類もの分子が見つかっています。
免疫の抑制は、免疫チェックポイントの結合により起こるため、結合させないための薬が開発されており、こうした薬を免疫チェックポイント阻害剤といいます。現在、日本で肺がんに対して承認されているのは、免疫細胞に発現しているPD-1と選択的に結合する抗体とがん細胞に発現しているPD-L1と選択的に結合する抗体があります。

肺がんに使われる免疫チェックポイント阻害剤

抗PD-1抗体
ニボルマブオプジーボ
ペムブロリズマブキイトルーダ
抗PD-L1抗体
アテゾリズマブテセントリク

再発・転移

がんの再発は、治療によりいったんがんがなくなったのに、再びがんが発生することをいいます。同じ部位に再発したり、離れた別の部位に再発することもあります。多くの場合、初期治療の段階で、目に見えなかったり、検査で見つけられなかった小さながん細胞が、すでに転移していたために起こります。そのため、再発非小細胞肺がんの基本的な治療は、ステージ4の治療に準じて行われます。一般的に薬物療法が中心となりますが、再発した場所や大きさ、個数、症状などにより、手術や放射線治療が検討されることもあり、患者さんの個別の状態で治療方針が決められます。
小細胞肺がんの再発では、初期治療で行った抗がん剤の治療効果や再発までの期間が参考にされます。
がんの転移は、小さながん細胞がリンパ液や血液の流れにのり別の臓器に運ばれ、そこで成長して発生することをいいます。肺がんの転移しやすい部位は、リンパ節、脳、肝臓、副腎、骨などがあります。

骨転移に対する治療

肺がんの骨転移に対する治療は、薬物療法を基本として放射線治療も併用されることがあります。骨に転移すると疼痛や骨折の危険があるため、痛みの緩和、骨折リスクが高い場合、麻痺などの神経症状が予測される場合に放射線治療が行なわれます。また、痛みの緩和や骨折予防のためにビスフォスフォネート製剤やデノスマブが使われることもあります。

脳転移に対する治療

脳転移に対しては、放射線治療が行われ、脳全体に放射線を照射する「全脳照射」と、転移した部分をピンポイントで放射線を照射する「定位放射線治療」があります。患者さん病状、状態、個数、大きさなど患者さん個別の状況を検討して、症状緩和を目的として行われます。

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