肺がんの副作用と対策

肺がん治療の副作用

肺がんの治療は、手術、放射線、薬物治療の3つが基本です。がんの治療に伴い、さまざまな副作用や合併症があらわれることがあります。患者さんのQOL(生活の質)を維持するために、副作用に対しての治療や、身体や心などさまざまな苦痛に対する症状を緩和するための治療が必要に応じて行われます。

手術の副作用

肺は、2つに分かれた気管支の先に左右1つずつあります。右側の肺は上葉、中葉、下葉の3つに分かれ、左側の肺は、上葉、下葉の2つに分かれています。通常、肺がんの手術では、がんがある肺葉ごとに切除されますが、がんが複数個あったり、肺葉をまたがっていたりする場合などには、片側の肺全体を摘出することもあります。片肺の全摘は、根治を目指す治療としては、効果が高く期待できる治療ですが、手術による痛みや痰の増加、呼吸機能の低下による息切れなど副作用も起こります。

肺がんの手術後は、さまざまな合併症が起こる可能性もあるため、それぞれの症状に合わせた対策がとられます。主な合併症とその対策は、以下の通りです。

肺炎

肺がんの手術後の合併症の1つが肺炎です。特に喫煙者に多くみられます。手術による呼吸機能の低下や痛みにより、痰を吐き出しづらくなることに加え、手術の影響で免疫が低下していることもあり、肺炎になりやすいと考えられています。肺炎にならないための予防措置として、喫煙者は禁煙、口腔ケア、手術前から腹式呼吸など運動を行うなど、手術前の準備も大切です。

肺瘻(はいろう)

肺がんの手術では、肺の正常な部分も切開するため、手術後に切開した部分から空気が漏れる肺瘻という合併症が起こることがあります。大きく息を吸って肺が膨らんだ時や、咳をするなど圧力がかかったときに、空気が漏れ出すことがありますが、通常は自然にふさがります。空気の漏れが自然に止まらない場合は、胸膜を癒着させる薬が使われますが、それでも漏れが止まらない場合は、再手術が必要になる場合もあります。空気が止まらず、肺瘻の状態を放置すると細菌感染を起こし胸膜炎になることもあるため、気になる症状があったら担当医に伝えましょう。

気管支断端瘻(きかんしだんたんろう)

肺がんの手術の際には、気管支も切断しますが、切断した気管支は空気が漏れないように縫合されます。まれに縫合したところに穴が開き、空気や痰が漏れてしまうことがあります。これが気管支断端瘻とよばれる合併症です。空気や痰が漏れると細菌感染を起こしやすくなり、感染が起こると膿がたまり、その膿を吸い込むことが原因で肺炎になることもあるため、空いた穴をふさぐ手術が必要になります。

声のかすれ(嗄声:させい)

肺がんの標準的な手術では、肺葉切除とともに近くのリンパ節の切除も行われます。このリンパ節の近くには、反回神経という声帯を動かす神経がありますが、リンパ節切除がこの反回神経に影響を及ぼし、まひを起こす可能性があります。反回神経がまひすると、声のかすれや、嚥下障害が起こり、むせたり肺炎の原因になったりすることもあります。3~6か月程度で自然に治ることもありますが、自然回復しない場合は、治療が必要になります。

肺、脳、心筋梗塞

肺がんの手術に限りませんが、長時間体を動かさないことで血行が悪くなり、血栓(血のかたまり)ができやすくなります。エコノミー症候群のように、血管の中にできた血栓が血液の流れにのり、肺、脳、心臓などの重要な血管を詰まらせることで、まれではありますが、肺梗塞、脳梗塞、心筋梗塞など後遺症や命にかかわる重大な合併症を起こす可能性があります。

特に、動脈硬化がある患者さんでは、リスクが高くなります。こうしたリスクの高い患者さんでは、血が固まりにくくする薬や、血栓ができやすい足のマッサージなどにより、予防対策が行われます。

放射線療法の副作用

放射線治療は、がん細胞と周囲の正常な細胞との放射線感受性の差を利用した治療法です。手術による痛みがないなどの特徴はありますが、放射線治療特有の副作用があります。副作用は、放射線治療直後に起こる副作用と治療後しばらく時間が経ってから起こる副作用に分けられます。治療直後の副作用は皮膚炎、しばらく経ってから起こる副作用は、放射線肺炎、心膜炎、食道狭窄、肋骨骨折などです。

皮膚炎

放射線治療では、高エネルギーのX線などの放射線を照射するために、皮膚が炎症を起こして赤くなったり、乾燥して皮膚がむけたりする、いわゆる日焼けのような状態になる皮膚炎が起こります。炎症の程度により、痛みやかゆみといった症状が伴うこともありますが、炎症が強くなった場合は、治療を一時的に休止し、症状が治まるのを待ちます。症状は、一般的に数週間程度続きます。

食道炎

肺がんの放射線治療では、食道に近い胸の中央にあるリンパ節に放射線の照射を行うことがあり、その場合食道に炎症が起こることがあります。食事をしたときに喉がつかえる感じがしたり、胸がしみたり痛みを感じることもありますが、ほとんどが放射線治療後2~4週間で収まる一時的な症状です。症状がある間は、刺激の少ない柔らかい食事などを心掛けましょう。

放射性肺炎

放射線治療の1~2か月後くらいに、放射線を照射した肺の部分に炎症が起こり、発熱や息切れといった症状が出ます。多くの患者さんは、はっきりとした自覚症状がないまま数か月で症状が落ち着いていきます。広範囲に放射線治療を行った場合や肺にがん以外の疾患があった患者さんなどでは、放射線を照射していない範囲にも炎症が広がり、重症化することもあります。発熱や咳、息切れなどの自覚症状に注意しましょう。

心膜炎

肺と心臓は近くにあるため、放射線が心臓の一部に照射されると心臓を包んでいる心膜に炎症を起こすことがあります。心膜が炎症を起こすと心臓の周りに水がたまり、心臓の動きが悪くなり、息切れや動悸といった症状がでます。利尿剤などで改善することも多くありますが、重症であったり、緊急を要する場合などには、針を刺して水を抜く処置が行われる場合もあります。

肋骨骨折

肺がんの原発巣が肋骨に接していると肋骨にも高線量の放射線が照射されるため、肋骨骨折が起こります。治療後6か月~3年程度の期間で起こりますが、ほとんどの場合無痛で、多くの患者さんは気づきません。痛みがひどいときは鎮痛薬が使われることもあります。

化学療法(薬物療法)の副作用

肺がんの化学療法で使われる薬には、殺細胞性抗がん剤(抗がん剤)、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の3タイプがあります。それぞれの薬は作用機序が異なるため、副作用も異なるものがあります。化学療法の副作用対策は、それぞれの症状に対してありますので、症状が出たり異変を感じたりした場合には、がまんせず医師や看護師に伝えることが大切です。薬の減量や休薬をすることなく計画通りに治療を行い、治療効果を得るためにも、副作用をうまくコントロールすることが大切です。

薬物療法(抗がん剤)の主な副作用

抗がん剤分子標的薬免疫チェックポイント阻害剤
悪心・嘔吐下痢疲労
食欲不振皮疹かゆみ
倦怠感乾皮症食欲低下
骨髄抑制掻痒症倦怠感
脱毛爪囲炎吐き気
口内炎肝機能障害下痢
下痢悪心・嘔吐間質性肺炎
腎障害倦怠感
末梢神経障害間質性肺炎
皮疹
間質性肺炎

悪心・嘔吐

悪心(吐き気)や嘔吐は、制吐剤といわれる吐き気を止める薬で予防が可能です。症状が長く続く場合は、水分や栄養の補給が必要になるため、医師、看護師、薬剤師に相談しましょう。

悪心・嘔吐は、副作用があらわれる時期で急性、遅発性、予期性の3つにわけられます。急性は、抗がん剤投与後の数時間以内に起こり、24時間以内に落ち着きます。遅発性は、24時間以降から、2~7日間続きます。予期性は、前回起こった副作用の経験から不安が生じることで起こるものです。

骨髄抑制

骨髄抑制は、骨髄という、血液細胞をつくる組織の働きが、抗がん剤の作用により抑制されることです。赤血球が抑制され減少すると貧血が、血小板が減少すると出血が起こりやすくなります。また、白血球(好中球)が減少すると感染症にかかりやすくなります。特に白血球の減少による感染症は重症になることもあるため、感染予防が大切です。

下痢

化学療法の副作用で起こる下痢には、早発性と遅発性の2つのタイプがあります。早発性は、治療当日に起こることが多く、副交感神経が刺激され腸の活動が活発になるために起こります。遅発性は、薬により腸粘膜がダメージを受けることで、治療後数日たってから起こります。下痢を繰り返すと脱水やミネラルバランスの異常を起こし、循環不全の原因になることもあります。整腸薬や止瀉薬などの薬で対処が行われます。

脱毛

殺細胞性抗がん剤の中には、がん細胞の特徴としても当てはまる「細胞分裂が活発な細胞」にダメージを与える薬があります。毛根も細胞分裂が活発なため、ダメージを受けて脱毛が起こります。脱毛は、頭髪だけではなく、眉毛、まつげなど全身の毛根に起こります。脱毛は、見た目が大きく変わるため、身体的なダメージよりもQOLへの影響が大きくなります。頭髪はカツラ(ウィッグ)や帽子などで、眉毛やまつげなどはメイクでカバーする方法があります。脱毛は、抗がん剤の開始後2~3週間で起こり始めますが、治療が終了すれば、3~6か月でまた毛が生え始めます。

間質性肺炎

間質性肺炎は、一般的な肺炎と異なり肺を形作る間質を中心に炎症が起こる病気です。肺がんの化学療法による副作用として起こる可能性があり、重症化すると命にも関わります。間質性肺炎は、肺の広い範囲で起こり、息切れや咳などの症状があらわれます。階段の上り下りやちょっとした運動でも息切れをする、乾いた咳が続く、発熱、などの症状があれば、すぐに医師や看護師に伝えましょう。

腎障害

化学療法により腎障害が起こることがあります。腎障害が起こると、さまざま副作用が起きやすくなるため、定期的に腎機能の検査を受け、早期に対応することが大切です。腎機能の低下により、抗がん剤を体外へ排出する機能の低下、尿量の減少、体重増加、むくみなどの症状があらわれます。

口内炎

化学療法による口内炎は、抗がん剤の直接的な作用と細菌感染が原因で起こります。症状は、口腔内の痛み、出血、刺激に対してしみる、乾燥する、赤くはれる、口が動かしにくい、飲み込みにくくなった、味が変わったなどさまざまです。一般的に抗がん剤投与を受けた後、数日から10日ころに発生しやすく、2~3週間で徐々に改善します。抗がん剤の多剤併用や種類、長期投与などの要因により重篤化することがあり、治療継続への影響もあるため、注意しながら治療が進められます。症状が悪化すると体力の低下や痛みはもちろん、不眠になったり、精神的な苦痛も大きくなったりするため、QOLへの影響も大きい副作用です。虫歯や歯肉炎があれば、抗がん剤投与前に治療しましょう。口腔内や唇の乾燥予防のために、リップクリームやうがいによる保湿、口腔内を清潔に保つための、口腔ケアが大切です。

皮膚障害

分子標的薬による皮膚障害には、手足症候群、皮疹、乾皮症、掻痒症、爪囲炎などがあります。いずれも致死的な副作用ではありませんが、見た目に関わる部位や、手足など日常生活に欠かすことができない部位に起こるため、QOLへの影響が大きい副作用です。皮疹には抗炎症治療、乾皮症には保湿剤による全身外用療法、爪囲炎にはステロイド外用薬や抗菌薬、テーピングや凍結療法などで対応されます。スキンケアと保清、保湿、保護を基本とした生活を心掛けることが大切です。

緩和ケア

緩和ケア役割は、患者さんががん治療中も自分らしく過ごすために、がんの治療に伴う身体的な痛みや心のつらさなどを和らげることです。緩和ケアは、がんが進行し治療法がなくなってから受けるものと誤解されることもありますが、正しくは、がんが見つかったときから治療中も必要に応じて行われるものです。

緩和ケア病棟や緩和ケアを専門にする病院では、緩和ケアに関しての専門的な知識と技術をもつ緩和ケアチームによるケアが受けられます。

入院治療中でも通院治療中でも緩和ケアは受けられます。手術による痛みはもちろん、化学療法によるつらい副作用の緩和、治療に対する不安や将来に対する不安など、さまざまなつらい症状を緩和するためのケアが受けられます。在宅療養中でも、在宅ホスピスや在宅緩和ケアを行う在宅医や訪問看護師による緩和ケアが受けられます。介護保険も申請すれば利用できるので、自宅で療養を続けることもできます。

参考文献:日本肺癌学会. ”肺癌診療ガイドライン ―悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む― 2020年版”.金原出版,2020.

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