リンパ浮腫の治療
リンパ浮腫の治療選択や治療法を紹介します。
リンパ浮腫の治療選択
リンパ浮腫を発症した場合は、病態に応じて治療選択が行われます。軽度の場合は、弾性着衣を使用し、改善が認められれば外来通院となります。十分な改善が認められなければ用手的リンパドレナージが併用されます。
中等症以上の場合は、弾性包帯(可能なら弾性着衣)、用手的リンパドレナージ、圧迫下の運動、セルフケアなどを組み合わせて行う複合的治療が選択されます。
外来通院は、最初は隔週から始め、徐々に通院回数を月1回などに減らしていきます。患者さんの病態に応じたセルケアが確立できたら、3~6か月ごとの通院に移行していきます。
リンパ浮腫の治療
リンパ浮腫の治療は、病態に応じて「圧迫」「用手的リンパドレナージ」「圧迫下の運動」「セルフケア(スキンケアと体重管理)」「外科的治療」「間歇(けつ)的空気圧迫療法」「薬物治療」が行われます。
複合的治療
標準的な複合治療は、弾性着衣や多層包帯法による圧迫、スキンケア、圧迫下の運動、用手的リンパドレナージ、セルフケア指導の組み合わせが基本となります。重症度に応じて、外来治療や入院による集中治療が選択されます。
浮腫が柔らかく線維化を伴わない初期では、弾性着衣による外来治療でも十分な場合もあります。一方で、線維化が進み腫大や変形が顕著な場合は、入院による集中治療が行われます。集中治療期間は、通常2~4週間で行われ、維持治療に移行した後も継続的な経過観察が行われます。一定期間で効果が得られなかった場合は、治療方針の再考が検討されます。
圧迫
圧迫による治療は、「弾性着衣」と「多層包帯法」の2つがあります。
弾性着衣
手足の形状変化がないステージ1または2のリンパ浮腫では、弾性着衣による治療が推奨されています。着圧は原則30mmHg以上とされていますが、病態に応じて選択されます。
弾性着衣による治療開始後は、約4週間後に装着方法や効果が評価されます。効果が得られた場合は、3~6か月ごとに評価されます。
多層包帯法
手足の形状に湾曲が生じている、あるいは著しい浮腫があり弾性着衣の装着が困難なステージ2後期以降のリンパ浮腫では、多層包帯法による圧迫を中心とした集中治療が行われます。多層包帯法は、外観が大きくなるためQOLを損ねる可能性がありますが、短期間で大きな効果が得られるメリットもあります。多くの場合は、一定期間で弾性着衣による治療に移行してきます。
用手的リンパドレナージ
用手的リンパドレナージは、手で皮膚を動かし皮下に溜まったリンパ液を適切な場所に誘導することでリンパ浮腫を軽減させる目的で行われる治療です。専門的な教育を受けた医療者が医師の指示のもとに行われる医療手技で、美容目的で行われるリンパドレナージとは異なります。
圧迫下の運動
乳がん治療に関連した上肢のリンパ浮腫の発症リスクがある患者さんに対しては、運動は発症予防や治療として推奨されています。また、婦人科がんの治療に関連した下肢リンパ浮腫に対する発症予防や治療として、圧迫下の併用を条件に運動を考慮しても良いとされています。
運動の種類、実施時間や期間などに関しては、標準化された指針はありませんが、手足の運動機能の向上が期待できるため、積極的に行うことが推奨されています。
セルフケア(スキンケアと体重管理)
リンパ浮腫に対するセルフケアとして推奨されているのは、主にスキンケアと体重管理です。スキンケアは、爪を含む皮膚の保清と保湿を維持し、感染症リスクを減少させることを目的に行われます。切り傷、火傷(やけど)、虫刺され、ひび割れ、さか剥けなどの皮膚や爪の損傷を避けることが大切です。また、肥満はリンパ浮腫の発症と増悪にかかわるため、体重管理が大切です。
外科的治療
リンパ浮腫に対する外科的治療は、「リンパ管細静脈吻合術」「血管柄付きリンパ節移植術」「脂肪吸引術」「切除減量術」などがあります。これらの外科的治療は、推奨されるだけの十分な科学的根拠はないとされていますが、このうちリンパ管細静脈吻合術は、十分な科学的根拠はないものの行うことを考慮してもいいとされています。
間歇的空気圧迫療法
間歇的空気圧迫療法は、患者さんをバッグに包み、空気圧でリンパ管の流れを則す治療です。発症予防としては、科学的根拠が明確でないため推奨度の評価はなしとされています。
発症後の治療として、圧迫療法や用手的リンパドレナージに間歇的空気圧迫療法を加える治療は、行うことを考慮してもいいが十分な科学的根拠はないとされています。
薬物治療
リンパ浮腫に対する薬物治療は、漢方薬とそれ以外に大別されます。漢方薬は、浮腫や水滞(身体の水の巡りが悪くなり滞っている状態)の改善を目的に処方されることがありますが、リンパ浮腫自体に対する効果は認められていません。
漢方薬以外の薬剤は、利尿薬など複数がありますが、いずれも効果に関する一定の科学的根拠はありません。
そのため、リンパ浮腫の根本的な治療として「薬物治療という治療選択はないといってよい」とリンパ浮腫診療ガイドラインには記載されています。
参考文献:日本リンパ浮腫学会編.リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版.金原出版