がん患者さんのサルコペニアをどう防ぐか ――カギを握るのは栄養管理とリハビリテーション

静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科医長 内藤立暁 さん

2021.1 提供●がんサポート

「従来の治療に栄養療法とリハビリを加えることで、筋肉量や体重減少を防ぐことができるのではないか」と語る内藤立暁さん

 加齢によって筋肉量が減り、筋力や身体機能が低下する「サルコペニア」。栄養不足や運動量の低下などが主因だが、がん患者さんでは、それに加えて、化学療法の副作用による食欲不振などが重なり、2次性のサルコペニアも発生しやすい。サルコペニアによる筋肉量の低下、体重減少などは、がん治療にも悪影響を及ぼすこともある。こうしたがんに伴うサルコペニアを予防するには、どのような対策が必要なのか。静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科医長の内藤立暁さんに伺った。

〇最近注目される味覚障害による食欲不振

 がん患者さんがサルコペニアに陥りやすい要因としては、入院で安静状態が続いて運動量が低下する、食事量が減って必要なエネルギーやタンパク質を十分に摂れないことなどが挙げられる。また、化学療法による副作用も大きな影響を及ぼす。

 例えば、肺がんの治療に多く用いられるシスプラチンなどの白金製剤は、吐き気、嘔吐、口内炎、倦怠感などの副作用を起こしやすい。こうした消化器毒性のため、患者さんは食が進まず、栄養不良となり、筋肉量の低下、体重減少、引いてはQOL(生活の質)の低下をきたすことも多いという。

 「吐き気・嘔吐は患者さんにとって、身体的にも心理的にもつらい副作用です。しかし現在では、タイプの異なるさまざまな制吐剤が開発されており、事前に用いることで、上手にコントロールすることが可能になっています。また、吐き気や嘔吐のパターンから、タイミングをみて食べる、少しずつ数回に分けて食べるなどの工夫で、症状を軽減できることがあります。

 適切なアドバイスや治療によって、嘔気(おうき)・嘔吐を少しでも和らげ栄養低下、体力低下を防ぐこと。それが大事なサルコペニア対策になります」と内藤さん。

 嘔気・嘔吐と並んで、食欲不振を招く副作用として最近注目されているのが味覚障害だ。いうまでもなく、味覚は食欲を左右する大切な要素であり、食べることの楽しみにもつながる。しかし、味覚障害があると、食欲が損なわれ、食事量が減って栄養不良の一因となる。抗がん薬でなぜ味覚障害が起こるのか、詳しい仕組みはわかっていないが、訴える患者さんは確実に増えている。

 内藤さんによると、同センターでは対処法として、①口の中を清潔に保ち、保湿(口の中の乾燥を防ぐ)を心がける、②違和感のある味(まずい、金属のような味)を避ける、③他の食べ物よりは少し多く食べられる、比較的食べやすいものを食事に取り入れる、④味を感じにくい場合は、味付けをはっきりさせる――などを助言しているという。

〇がん悪液質を早く見つけることも重要

 がん患者さんが、サルコペニアに進みやすいもう1つの理由は、がんそのものにある。がん細胞が分泌するサイトカインという物質が、全身性の炎症を引き起こし、タンパク質や脂肪の分解を促進する。骨格筋など全身の筋肉はタンパク質でできているため、分解が進むにつれて、筋肉量が減り、しだいにやせてサルコペニアに陥る。こうした病態を「がん悪液質」と呼ぶ。内藤さんによると、がん悪液質は進行がん、とくに肺がんや消化器がんで多く、診断時にすでに3割以上、終末期には8割以上の患者さんで認められるという。

 「がん悪液質でよくみられる症状は、体重減少、骨格筋減少、食欲不振で、付随して倦怠感、不安・抑うつがなど起こります。進行がんではさらに、抗がん薬の副作用などに伴う摂食障害が加わり、体重減少などがいっそう進みます。そして、こうした状態が続くと、化学療法の効果が弱まったり、副作用が増えたり、治療の中断に至ることも少なくありません」(内藤さん)

 ちなみに、がん悪液質については、以下のような診断基準が提唱されている。

①過去6カ月間における5%以上の体重減少
②2%以上の体重減少、かつBMIが20未満
③2%以上の体重減少、かつ骨格筋が減少

 この3条件のいずれかに合致し、経口摂食不良、全身炎症を伴えば悪液質とみなされる。

 内藤さんは「それほど厳密ではなくとも、体重減少とBMIでがん悪液質はほぼ診断できます。早い段階で見つけ、介入することが重要」と指摘する。

〇栄養療法とリハビリで身体機能の低下を防ぐ

 がん悪液質に対しては早期からの集学的治療が必要とされるが、標準的な治療法は確立していない。しかし、病態の解明が進んだことから、最近になって、食欲を増進したり、骨格筋を増やす薬の開発が進んでいる。

 さらに有望視されているのが栄養療法や運動療法だ。まだエビデンス(科学的根拠)は得られていないものの、ESPEN(ヨーロッパ臨床栄養・代謝学会)のガイドラインでは、栄養療法と運動の併用を推奨している。

 そうした中で、現在注目されているのが、静岡がんセンターなどの共同研究グループが進めている「NEXTAC-TWO」という無作為化試験だ。対象は、70歳以上で、初めて化学療法を受ける非小細胞肺がん、膵がん患者さん131例。

 これを、化学療法だけを受けるコントロール群、それに栄養療法と運動療法をプラスする治療群に無作為に分け、身体機能の低下を防げるか、健康寿命が延長できるかどうかをみるもの。

 栄養療法は、管理栄養士がカウンセリンを行い、必要な栄養量と摂取方法をアドバイスし、運動療法は自宅で継続可能な無理のない筋力トレーニングをリハビリ療法士が指導する。がん悪液質の患者さんだけを選んでいるわけではないが、対象には多く含まれている。すでに患者登録が済み、プログラムが進行中で、今年(2021年)の3月には結果が出る。これまでのところ、有害事象によって試験が中断するようなことはなく、順調に推移しているという。

 内藤さんは「がん悪液質や化学療法の副作用などによる食欲不振でサルコペニア状態になった患者さんは、寝たきりや要介護に進みやすい。しかし、従来の治療に栄養療法とリハビリを加えることで、筋肉量や体重減少を防ぎ、健康寿命を延ばすことができるのではないか。期待して成果を待ちたい」と話している。取材・文●「がんサポート」編集部

 

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