「リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)」リンパ浮腫患者さんの支援と医療環境改善へ

 岩澤玉青さん
リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)岩澤玉青さん

2023.9 取材・文 がんプラス編集部

 リンパ浮腫とは、乳がんや婦人科がんなどの治療後、治療した部位に近い腕や脚などの皮膚の下に、リンパ液がたまってむくんだ状態のことをいいます。発症すると治りづらく、関節が曲げづらくなるなど、生活に影響することがあります。そんなリンパ浮腫に悩む当事者の支援、そしてリンパ浮腫の医療環境の改善を目指して活動するのが、リンパ浮腫ネットワークジャパン(以下、リンネット)です。代表の岩澤玉青さんにお話を伺いました。

がんの後遺症なのに、がんとは異なる診療体制

 2012年に私は乳がんに罹患して、手術、化学療法などの治療を受けました。手術の翌年からリンパ浮腫の症状はあったのですが、2015年に劇的に悪化し、蜂窩織炎(ほうかしきえん)と呼ばれる強い炎症が起こって腕がパンパンになってしまいました。すぐに主治医の診察を受け、通院していた大学病院にあるリンパ浮腫外来を紹介していただいたのですが、予約は2週間後。ところが、日に日に症状が悪化し、2週間は待っていられないと、自力で別の病院のリンパ浮腫外来を探して受診しました。その治療費は全額自費でした。リンパ浮腫はがん治療の後遺症として発症するものなのに、自費、なんで?と、愕然としました。

 その後も、リンパ浮腫に関する診療におけるさまざまな課題を目の当たりにしすることになりました。「専門に診察できる施設や医療者が少なくて、治療にたどりつけない」「がん治療医の知識不足や関心の低さから発症を見過ごされて、症状が進行してしまうことがある」「リンパ浮腫診療が標準化されていない」といったリンパ浮腫の医療に関する課題、それから、「必要なタイミングで必要な情報を入手することが難しい」「同じリンパ浮腫で悩んでいる人と出会う機会がなく、孤独を感じている」など患者さんにおける課題など。がんの診療環境が充実してきている一方、がんの後遺症であるリンパ浮腫は不十分すぎる、とハッキリ知ることになりました。

 以前は、映像翻訳の仕事をしていたのですが、腕が腫れてパソコンを長時間使用するのが困難で、いろいろ工夫をしてみたものの、うまくできる方法にはたどり着かず、仕事継続は断念することになりました…。それなら、何か社会のために時間を有効に使いたい。そう思い、2019年にリンネットを立ち上げました。現在運営スタッフは7人、リンパ浮腫を発症しているメンバーもいます。また、医療アドバイザーとして複数の医師や医療従事者にも支援していただいています。

患者さん支援として「なかまカフェ」「セルフケア相談ルーム」などを開催

ネットワーク・ラウンジ
第1回ネットワーク・ラウンジの様子

 私たちは「リンパ浮腫に関わるすべての人が、困ることなく笑顔で安心して過ごせる社会」というビジョンを掲げています。「すべての人」には、リンパ浮腫の当事者、ご家族はもちろん、医療者も含めます。患者さんの支援と、リンパ浮腫の医療環境の改善、という2つの大きな柱を軸に活動しています。

 患者さん支援として行っている企画の1つが「なかまカフェ」です。リンパ浮腫の仲間と出会い、語りあう場として、2か月に1度のペースで、オンラインで開催しています。人数によっては、上肢(腕)、下肢(脚)など罹患部分でグループを分けて行います。

 リンパ浮腫の患者さんは上肢用の弾性スリーブ、グローブ、下肢用のストッキング、夜用のストッキングなどを使用したり、リンパマッサージを行ったり、運動を行うなど、習慣的なセルフケアが欠かせず、悩みがつきません。そこで、2022年から新たに、医療アドバイザーの佐藤佳代子先生に直接相談ができる「セルフケア相談ルーム」というイベントも開催しています。

 このほか、医療者を招いての「リンパ浮腫セミナー」や、リンパ浮腫に関係するがん患者会・支援団体・医療者による交流会「ネットワーク・ラウンジ」、2022年には「リンパ浮腫と就労」をテーマにしたシンポジウムを開催したりしています。

 これらと並行して、リンパ浮腫の関連情報がワンストップで見られる「リンパ浮腫ポータルサイト」の運営や、医療環境の改善に向けた患者アンケートや政策提言なども行っています。

「リンネットがあることがありがたい」

 これまでにのべ1,650人が当会の企画に参加されました。がん種では、乳がんの患者さんが多いのですが、オンラインだからこそ、全国、そして海外からも参加されますし、男性の参加者もいらっしゃいます。

 よくおっしゃっていただくのは「リンネットがあることがありがたい」という言葉です。先ほど話したように、リンパ浮腫ではセルフケアが欠かせず、患者さんは生活の中でさまざまな工夫をしていますが、どうしていくのがいいのか、常に悩んでいます。「なかまカフェ」は、それぞれが取り組んでいることを共有しながら支え合うために必要な場になっています。

 この言葉は、患者さんご本人だけでなく、他の患者会や支援団体の方からもいただきますね。リンネットが立ち上がる前は、「相談を受けてもどうすることもできず困っていた」そうですが、「今はリンネットに相談でき、頼れる先ができてすごくうれしいし」と、おっしゃってくださっています。

困っていることを1つでも解決していきたい

 これまでの活動を継続していくことはもちろんですが、今後は、まだ解決できていないことにも1つずつ取り組んでいきたいと思っています。「第4期がん対策推進基本計画」(2023年3月閣議決定)へのリンパ浮腫に関する要望書を提出や、保険改定などに取り組んでいます。さらに、施設紹介や情報提供など、学会や医療者と共に推進していく予定です。医療環境の改善に向けた取り組みに積極的に関わっていきたいです。

 個人的な話ですが、リンパ浮腫になったらからといって、何でもできなくなることが私は気に入らないんです。例えば、私はプチトライアスロンをしたことがあるのですが、どうしたら肌を守れるか、どう泳いだら手に負担が少ないか、など、いろいろ工夫してチャレンジしました。みんなと何かを一緒にやり遂げる達成感が楽しいんですよね。がん治療中の方からよくいろいろな質問をされるのですが、リンパ浮腫になってもやりたいことをあきらめない姿勢や、小さなチャレンジにトライすることで、人生がより豊かになるように感じています。

リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット) 外部リンク

主ながん種
リンパ浮腫になる可能性のあるがん、原発性リンパ浮腫など
地域
全国(オンライン)
連絡先
lymnet.info@gmail.com
活動内容
「リンパ浮腫」の患者支援と医療環境改善の実現を目指す全国患者団体です。
1)仲間と出会い経験や知恵などを共有しながら支え合う「なかまカフェ」、セルフケアの悩みを佐藤佳代子先生に相談する「セルフケア相談ルーム」、医療者から正しい情報を学ぶ「リンパ浮腫セミナー」、がん患者会・支援団体や医療者が交流(ネットワークを構築)し、共に協力しあって活動できる関係づくりの場「ネットワーク・ラウンジ」などの開催
2)リンパ浮腫の情報をワンストップで得られる「リンパ浮腫ポータルサイト」の運営
3)リンパ浮腫に関する調査研究や政策提言を行い、タイムリーに当事者の声を届ける医療環境の改善活動