「CancerX」多様な立場の人の声が集まるプラットフォーム、がんに関わる社会課題の解決へ
2024.9 取材・文 がん+編集部
CancerXは、産学官民医といった多様な立場の人が力をかけ合わせ、がんに関わる社会課題の解決に取り組む組織として2019年に発足。年に1度、多数のプログラムをオンラインや実地で開催する「World Cancer Week」、年間通じて活動する定期的な分科会などの活動を行っています。CancerX発起人の一人である鈴木美穂さん(マギーズ東京共同代表理事)と、理事の鈴木美慧(みさと)さん(聖路加国際病院遺伝診療センター 認定遺伝カウンセラー)に、活動についてお話を伺いました。
産官学民医、当事者、さまざまな立場の人がフラットに交流
美穂さん:私は、20代で乳がんを発症し、若年性のがん患者支援団体「STAND UP!!」や、「マギーズ東京」の設立、当時勤めていた日本テレビでもがん啓発のキャンペーンを企画したりしてきました。その中で、当事者、医療従事者、行政、研究者、企業、メディア、みんなバラバラにがんに関するさまざまな課題を抱えていて、なんだかもったいないなと感じていました。フラットな立場で意見交換ができる場があって、課題を探すところから一緒に取り組んでいけば、もっと課題解決が進むのではないか、と。2018年にテレビ局を退社するのをきっかけに、このアイデアをいろいろな人に相談して、立ち上げに至りました。
美慧さん:私も立ち上げ当初からCancerXの活動に関わってきました。はじめは10数人でしたが、現在(2024年7月時点)では40人前後の産官学民医の多様な立場の方がこの活動に関わっています。30~40代が多く、医師・看護師・薬剤師・理学療法士などの医療従事者が約4割、他にも、行政の方、一般企業に勤める方などで、その中には当事者やそのご家族も含まれます。男女比は大体半々です。全員、本業優先、体調優先、家庭優先ですので、無理のない範囲で参加できる時に参加するというスタンスです。
同じ課題感をもつ違う立場の人と出会える場「World Cancer Week」
私たちは年に1度、大きなイベントを開催してきました。2019年、2020年はWorld Cancer day(毎年2月4日)に「CancerX Summit」を、2021年からは2月4日を含めた1週間を「World Cancer Week」として、期間中に10以上のプログラムをオンラインや実地で開催するイベントを行っています。
各プログラムのテーマはさまざまで、がん治療の研究のことから、治療中の食事や運動など日常生活のこと、その他、ゲノム医療、AYA世代、仕事との両立のことなど、毎年テーマを見直して、そのテーマにふさわしいスピーカーをお招きしています。多くのプログラムはオンラインでも配信をしており、回を重ねるたびに参加者の裾野は広がっているように感じています。
当事者、企業の方問わず、参加された方からよく聞かれるのは「同じ課題感をもつ違う立場の人と出会えたことがよかった」といった声です。特に、製薬企業の方は、当事者と直接交流する機会が少ない中で、このCancerXのプラットフォーム上で、レギュレーションを守りながら交流することができるため、「参加して声が聞けてよかった」とおっしゃっています。
また、CancerXを起点に、ご自身が所属している団体の活動につながり、当事者やそのご家族の直接的な支援につながったりする場合もあり、いろいろな広がりが生まれているなと感じます。
定期的な分科会活動、「Pharma(ファーマ)」や「防がんMAP」などがテーマに
CancerXでは年間を通じて定期的な活動も行っています。今年度は4つのテーマが進行中です。
1つ目は「Pharma(ファーマ)」で、製薬企業同士がつながるための活動の場です。ドラッグロス・ドラッグラグなどの問題を改善するためには、企業の垣根を越えた議論の場が必要です。ここでは国内外さまざまなメーカーの方がボランタリーとして参加して、議論を交わしています。製薬企業の人だけで話し合うのではなく、必ず当事者や製薬企業以外の方も参加して、多様な意見が反映されるようにしています。
2つ目は 「防がんMAP」で、World Cancer Weekのプログラムから生まれました。がんに関わる情報があふれている世の中で、どういう指針を基に探していけば、正しい情報にたどりつけるのかを具体的に示した「防がんMAP」をつくる活動を行っています。
この他、HPVワクチン(子宮頸がん等の原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチン)の接種啓発に関わる活動、「災害時のがん医療」というテーマでも、専門家を交えて話し合う場を作っています。
新しい課題、マイノリティーの課題にも
私たちの組織は良い意味で垣根がないので、今CancerXの活動に関わっていない方からの新たな課題の提案も歓迎します。また、今後は、LGBTQや遺伝性のがん、認知機能が低下してきている超高齢者の方のがん治療といった、マイノリティーの課題にも目を向けて、取り組んでいきたいと考えています。
当事者の方で、この活動に参加したいという場合は、「World Cancer Week」での運営ボランティアに参加していただきながら、まずはいろいろ見ていただければと思います(その時々の体調に合わせてお願いします)。そこから分科会の活動に関わるようになった方もいらっしゃいます。
これからも、オープンなプラットフォーマーとして、がんに関わる社会課題の解決に向け、前進していきます。
がん種 | 全般 |
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地域 | 全国(主にオンライン) |
連絡先 | メール office@cancerx.jp |
活動内容 | 産官学民医の連携を通じて、がんに関わる包括的な社会課題の解決を達成し、がんと言われても動揺しない社会を実現することを目的に活動。オンラインまたは実地でのプログラムなどを企画・運営する。毎年2月に「World Cancer Week」として多様な立場のスピーカー、参加者が一同に会して、がんの医療・社会課題を考えるイベントを開催している。 |