「ゴールドリボン・ネットワーク」小児がんの子どもたちが大人になっても笑顔で生活できる社会を目指して
2018.3 取材・文 大場真代
小児がんの子どもたちを支える活動のためのシンボルマーク「ゴールドリボン」。ゴールドリボン・ネットワークは、小児がんの患児や小児がん経験者を幅広く支援する認定NPO法人です。治療で遠方の病院へ通うための交通費などを補助する取り組みや、ウォーキングを通じて小児がんを多くの人々に知ってもらうためのイベントであるゴールドリボン・ウォーキングの運営支援など、活動は多岐に渡ります。今回は理事長の松井秀文さんにお話をうかがいました。
小児がん経験者の半数以上が晩期合併症に苦しむ現状
ゴールドリボン・ネットワークは、「小児がんの子どもたちが安心して笑顔で生活できる社会」をつくるために、2008年6月に設立した認定NPO法人です。小児がんは、一般的に15歳以下の子どもに起こるがんで、年間約2,000〜2,500人の子どもたちが新たに小児がんと診断されています。小児がんには多くの種類があり、日本では白血病や脳腫瘍、神経芽腫、悪性リンパ腫などが上位を占めていますが、疾病毎にみた場合、年間150例以下と患児数が少ないことも特徴です。
また、小児がん経験者の半数以上が抗がん剤や放射線治療等の影響から低身長、内分泌機能障害、認知障害、学習障害、心臓や肝臓などの機能障害あるいは、二次がんや免疫機能の低下などの晩期合併症に苦しんでいます。治療中も学習環境や教育体制が十分に整備されていないために、治療と学習の両立が難しく、また治療も長期に渡るために経済的な負担も大きくなります。こうした治療に伴う子どもや家族の肉体的、精神的、経済的負担がある中で、QOLをどのように維持・向上させるかという課題があります。
ゴールドリボン・ネットワークでは、このような状況を踏まえて小児がんの子どもたちへ支援を行っています。活動内容は大きく3つあります。1つ目は小児がん経験者のQOL向上のための支援、2つ目は小児がんの治癒率向上のための研究助成、3つ目が小児がんの情報提供と理解促進のための活動です。
交通費補助制度や小児がん理解促進のためのイベントも
小児がん経験者のQOL向上のための支援では、大学生を対象とした給付型奨学金制度、小児病棟に学習室の設置、患児、経験者と家族のためのサマーキャンプ、患児用ニット帽のプレゼントなどの支援を行っています。
また、小児がんでは専門的な治療を受ける場合、遠方の病院へ通うこともあり、治療費以外でも経済的な負担が大きくなります。そのため、年間で1家族20万円まで交通費などを補助する制度「烈くんプロジェクト」を立ち上げました。これは、小児がんのひとつである肝ラブドイド腫瘍で亡くなった田沼烈くんの、肝移植費用を募るために設立された「烈くんを救う会」からご寄付いただいた財源をもとに発足したものです。2014年から開始し、2017年末までで合計218件、2,000万円以上の支給を行いました。
小児がん治癒率向上のための研究助成では小児がんの治癒率向上や晩期合併症を少しでも減らすための治療研究への助成、研究留学をする医師への支援、小児がん疾患登録事業への助成などを行っています。とくに小児がんの上位を占める脳腫瘍、肉腫、白血病についての研究グループに対しては、複数年の助成を行い、単年での助成を合わせて、年間10件程度の研究助成を行っています。
小児がんの情報提供と理解促進のための活動では、一般の人にも小児がんへの理解を深めていただくために、中学生向けの教育用副読本の作成や、チャリティコンサートやゴールドリボン・ウォーキングといったイベントの実施などを行っています。ゴールドリボン・ウォーキングは、ウォーキングを通じ、小児がんやゴールドリボンを知らない人にその存在を知ってもらい、理解を促進することを目的に、2007年から毎年4月に開催しています。2017年には10回目を迎え、3,874名にご参加いただきました。2018年は、4月21日(土)にお台場のシンボルプロムナード セントラル広場で開催します。東京以外に、大阪・福岡でも開催を予定しています。
今後は小児がん経験者の自立支援・就労移行支援にも注力
設立から10年、高校生以上の思春期世代やAYA世代と呼ばれる若年成人期のがんも増えています。小児がんのサバイバーは現在約11〜13万人いるといわれ、自立や就労に向けた支援は今後、注力していかなくてはならない課題だと感じています。小児がん経験者の約2割が、障害者手帳がないまま、日常生活になんらかの困難を持っているとされています。
私たちも、2016年から職場見学会や職場体験実習の橋渡しを行っており、その結果、2017年には2名の就職につながり、職場体験実習に参加した小児がん経験者からは、「自分のできる範囲で、自分のペースで業務に携わることができ、安心して過ごすことができた」、「温かい職場で事務という仕事を知った。もっと業務に携わりたい」といった声が寄せられています。今後も自立のための支援や、企業と小児がん経験者をつなげるための体制を整えていきたいと考えています。
体制を整えるためには、企業側の理解を深めてもらうと共に、一般の人にも小児がんとはどのようなものかを伝えていく必要があります。「小児がん」という言葉はかなり周知されてきているものの、詳細な内容はあまり知られていないのが現状です。また、成人になるとそれまで受けていた医療費の助成が受けられなくなり、経済的な問題から治療を継続できないという患者さんも少なくありません。小児がん経験者が自立できるような仕組みづくりや、長期にわたって支援を継続できるようなサポートを行っていきたいと考えています。
- がん種
- 小児がん
- 地域
- 全国
- 連絡先
- TEL 03-5944-9922 FAX 03-5944-9923(月~金 10:00~16:00)
- 活動内容
- ゴールドリボン・ネットワークは、小児がんの患児や小児がん経験者を支援する認定NPO法人。遠方の病院へ通い治療を受ける患児の交通費などを補助する取り組みや、中学生向けの教育用副読本の作成など活動は多岐に渡ります。