「希望の会」スキルス胃がん患者・家族を支援、正しい情報の周知を目指して

轟浩美さん
認定NPO法人 希望の会理事長 轟浩美さん

2018.3 取材・文 がん+編集部

 スキルス胃がんの患者さんと家族を支援する認定NPO法人希望の会。轟浩美さんと、夫であり患者だった轟哲也さんが中心となって、交流会や医師の講演会の運営など活動を行ってきました。2人は、スキルス胃がんについて正しく知ってもらうため、冊子「もしかしたらスキルス胃がん」を作成しています。現理事長の轟さんにお話をうかがいました。

「胃炎」と診断されるも、1年後に「スキルス胃がん」と発覚

 希望の会は、スキルス胃がんの患者さんと家族への支援活動を行う認定NPO法人です。患者さんや家族の交流会や、医師を招いた勉強会・講演会の運営などを中心に活動しています。勉強会や講演会では、スキルス胃がんだけでなく、全てのがん患者さんに知ってほしい情報についても定期的に発信しています。また、残された遺族をサポートするための交流会なども行っています。

 私の夫でスキルス胃がん患者であった前理事長の轟哲也が立ち上げたブログをきっかけに、希望の会は始まりました。夫は、スキルス胃がんだと診断される1年ほど前から胃に不調を抱えていましたが、そのときは「胃炎」と診断されています。スキルス胃がんだとわかったときには、すでにステージ4に進行した状態でした。スキルス胃がんは、症例が少ないことや内視鏡検査でも見つかりにくいことなどから、診断が難しいとされています。また、スキルス胃がんに関する情報を見つけることが難しく、治療法も限られているという状況でした。そんな状況の中で孤独を感じていきましたが、「同じスキルス胃がんの患者さんと会うことが力になるのではないか」と考えたことをきっかけに、友人たちの協力もあり、NPO法人として設立することができました。患者さんでも家族でもない人たちが、「哲也さんの願いを叶えたい」と力を貸してくれたことが、希望の会の大きな原動力となっています。

患者さんへ正しい情報を伝えるため、スキルス胃がんの冊子を作成

 希望の会のNPO法人化と同じく、夫にとって大きな挑戦だったのが、スキルス胃がんに関する情報を冊子としてまとめて患者さんに届けることでした。夫は、自分の命に限りがあることをわかっていたので、必死に冊子制作に取りかかりました。最初は、スキルス胃がんに詳しい医師の講演会などに直接足を運ぶなどして、地道に医師とつながりをつくっていきました。その結果、私たちで執筆して医師に監修していただくことで冊子を完成させることができました。

 冊子「もしかしたらスキルス胃がん」には、スキルス胃がんや治療に関する内容だけでなく、治療を受ける前に知っておくべきことや正しい情報の集め方、患者さんを支える家族の心のケアについてなど、患者さんや家族に知ってほしい情報を分かりやすくまとめました。スキルス胃がんの特徴や治療に関する説明は夫が執筆し、家族の心のケアなどの項目は私が執筆しています。夫は、冊子が完成して半年ほどで亡くなりました。この冊子は、友人たちがチャリティライブで費用を集めてくれたこともあって完成させることができました。たくさんの人たちの思いがつまった冊子になっているので、ぜひ多くの方に読んでいただきたいと思っています。

「助けたい」という思いから民間療法に走ってしまったことも

 冊子「もしかしたスキルス胃がん」には、私のある“失敗”の経験を他の患者さんや家族にはして欲しくないという思いも込められています。その失敗とは、「民間療法」に走ってしまったことです。夫は、スキルス胃がんの告知を受けたときから覚悟ができていたので、何かにすがって助かろうという考えはありませんでした。でも、私は、夫をとにかく「助けたい」と思っていました。当時、正しい情報の集め方が分からなかった私は、「がんが消える」といったような、パッと目に飛び込んでくる、夢を描かせてくれるような言葉にすがってしまったのだと思います。夫は、自分が死んだ後に残った私が後悔しないように、私がやりたいことをやらせようとしてくれました。でも、食事療法を無理に行ったせいで、結果的には夫は弱らせてしまいました。そして、やっと目が覚めたのです。

 今は、インターネットなどで多くの情報を得ることができます。患者さんや家族に知ってほしいのは、情報の中には「不確かな情報」も多くあるということです。とくに目を引きやすい言葉を使った情報には注意をするべきです。例えば、厚労省が保険適用と認めている治療法は科学的根拠に基づいているものです。しかし、自費で多くのお金がかかる治療は、科学的根拠のないものがほとんどです。こういった、「基本的な知識」を患者さんには知ってほしいです。

大切なのは「どんな病気か」を正しく知ること

 活動を通じて、患者さんからは多くの声が寄せられます。「自分が今選ぼうとしている治療はベストな治療なのか?」といった声や、「子どもがまだ小さい。何とかならないか?」といった叫びに近い声も寄せられます。私たちは、そういった声を受け止めるだけでなく、「スキルス胃がんはどんな病気か」ということを正しく知ってもらうことを大切にしています。例えば、手術が望ましくない状況であっても「手術をしないと治らない」と思い込んでしまい、どうにかして手術をしてくれる医師を探してしまう患者さんもいます。そして、スキルス胃がんについてよく分かっていない医師であれば、手術をしてしまうこともあります。悲しいことに、このことが原因で亡くなってしまった患者さんもいます。正しい知識があれば、医師の話も理解できるし、生きながらえることができます。生きているうちに、医学の進歩によって新しい治療法が開発される可能性もあるのです。

 ですが、自身のQOLが下がるくらい頑張りすぎるのはよくありません。辛いときは「辛い」って言って良いと思います。もし、旅行に行ける体力があれば、医師に相談して治療を調整してもらうこともできます。大量の人参ジュースを飲むような食事療法で、がんが治ることはありません。食べたいものを食べてください。これは、私の経験からの意見ではなく、医師の方々からのお話です。このように、科学的根拠に基づいた情報を患者さんに伝えることを心がけています。今後も、患者さんや家族に寄り添い、正しい情報を患者さんたちに伝えていけるように活動していきます。

認定NPO法人希望の会 外部リンク

がん種
スキルス胃がん
地域
全国
連絡先
TEL  070-5019-1234
Mail npokibounokai@yahoo.co.jp
活動内容
希望の会は、スキルス胃がんの患者さんと家族のために活動する認定NPO法人。患者や家族の交流会や、医師による勉強会・講演会の運営などを中心に活動しています。
お知らせ
「もしかしたらスキルス胃がん」は、スキルス胃がんを疑ったときにまず知ってほしいこと、情報の集め方や診察を受けるときに大切なことなどをまとめた冊子。公式ウェブサイトより入手できます。 詳しくはコチラ