早期非小細胞肺がんに対する体幹部定位放射線療法-手術に対し非劣性を示す

武田篤也先生

2021.10 取材・文:がん+編集部

早期の非小細胞肺がんに対する、「体幹部定位放射線療法(SBRT)」を「肺葉切除手術」の有効性と比較した臨床試験の結果が発表され、「THE LANCET Oncology」に掲載されました。臨床試験の結果、体幹部定位放射線療法は、肺葉切除手術に対して非劣性が示されました。この臨床試験のもつ意味を、国内で早期から体幹部定位放射線療法に取り組んできた大船中央病院放射線治療センター長の武田篤也先生に解説していただきました。

STARS試験-STARS改訂臨床試験とは

早期非小細胞肺がんを対象に、SBRTと外科手術の有効性と安全性を評価する複数のランダム化比較試験が試みられましたが、対象患者さんが集まらなかったため完遂することができませんでした。これらのうち2つのランダム化試験に登録されたそれぞれ30人程度の患者さんを対象に、SBRTと外科手術の生存率を解析した結果では、SBRTが有意に高いという結果になりました。

また、過去に行われたSBRTと外科手術の結果を「傾向スコア・マッチング(PSM)」という解析方法で後ろ向きに比較した試験の報告では、主に外科医が筆頭著者だと手術の有効性が高く、放射線治療医が筆頭著者だと治療成績は同等となっています。これらは、見えないバイアスをぬぐえない結果と考えられます。異なる治療法を比較することの難しさを物語るものです。

今回発表された「STARS試験-STARS改訂臨床試験」は、手術可能なステージ1の患者さんを前向きに登録しSBRTを実施。同時期に、同ステージの患者さんで肺葉切除手術が行われた患者さんと、PSMで比較したものです。

SBRTの治療を受ける対象となったのは、2015年9月~2017年1月の間にMDアンダーソン・がんセンターで、治療前に手術可能と判断されたステージ1Aの非小細胞肺がんの患者さんでした。全ての患者さんで治療前にPET-CTが行われ、縦郭リンパ節転移が少しでも疑われた場合は、超音波気管支鏡(EBUS)を行うことで、遠隔転移やリンパ節への転移の有無が確認されました。

有効性解析の結果、SBRTを受けた患者さんの3年生存率は91%、5年生存率は87%で、肺葉切除手術を受けた患者さんの3年生存率は91%、5年生存率は84%でした。

再発に関しては、SBRTを受けた患者さん80人中15人、肺葉切除手術を受けた患者さん80人中6人で再発が認められました。

安全性に関しては、SBRTを受けた患者さんで、グレード4~5の有害事象の発現は認められず、グレード3の呼吸困難、グレード2の放射線肺臓炎と放射線線維症がそれぞれ1人という結果でした。肺葉切除を受けた患者さんでは、ICU入院1人、再入院5人、ICU再入院2人、術後輸血4人、肺障害30人、心臓障害10人、急性腎不全1人、消化管障害3人、泌尿器障害3人、創障害4人でした。

STARS試験-STARS改訂臨床試験の成績は、「手術可能なステージ1Aの非小細胞肺がんに対するSBRTは、肺葉切除手術に対し非劣性を示す」でした。ランダム化比較試験の結果ではありませんが、SBRTは手術可能な早期の非小細胞肺がんに対する治療選択の1つとして考えられます。

体幹部定位放射線療法(SBRT)の進歩

SBRTは、1回大線量を3~10回という短期間に照射する治療法です。1回の治療は30分程度で、総治療期間は3-12日程度です。比較的小さな腫瘍を対象にして、高精度に狙いを定めて治療するため、大線量を照射する範囲は小さく、そのため短期間に苦痛なく外来通院でも行える患者にやさしい治療法です。SBRTはこの20年の間に大きく進歩しています。

従来の放射線治療である3次元原体照射は、ある方向から放射線を当てる範囲内すべての部分に均一な線量が当たる方法です。照射方向や線量は人間が計画したもので、10回以下程度の計画結果を確認して治療を行っていました。

強度変調放射線治療(IMRT)の計画では、医師が腫瘍制御のために必要な線量と、腫瘍の周辺に存在する放射線治療をなるべく照射したくない正常臓器に対する線量制限をコンピュータにインプットすることで、コンピュータが自動計算し、たくさんの照射野と線量からなる組み合わせを計算して、理想的な線量分布を作成してくれます。そのため従来の方法と比較してより効率的な方法で放射線治療を行えるようになりました。さらに、回転させながら放射線を照射する治療が、強度変調回転放射線治療(VMAT)です。多方面から放射線を照射することで、IMRTよりさらに効果的にがん細胞を狙って殺傷することができます。このIMRT、VMATの技術を用いてSBRTを行うことで治療の切れ味は格段に向上しました。

こうした放射線照射機器や治療計画を作成するソフトウェアも年々進歩しています。さらに、放射線治療のデータの蓄積、治療を行う医師の経験値の向上などもあり、より安全により効果のある治療として進歩してきています。

体幹部定位放射線療法(SBRT)と肺葉切除手術の選択

2004~2012年に登録された60歳以上のステージ1の肺がん患者さん6万2,213人を対象とした研究「SEER解析」では、2012年にSBRTの治療を受けた患者さんの比率は25.8%で、年々増加傾向であることが示されていました。ノルウェー、イギリス、オランダの3か国で2015~2016年にステージ1の非小細胞肺がんと診断された患者さんに対する治療選択を調べた調査では、SBRTの治療を受けた患者さんは、ノルウェー29%、イギリス12%、オランダ41%という結果でした。

EBM手法による肺癌診療ガイドラインによれば、がんが肺にとどまってリンパ節転移や他臓器への遠隔転移がない、ステージ2AまでがSBRTの対象です。ステージ1~2Aの非小細胞肺がんで、医学的な理由で手術ができない場合は根治的放射線治療の適応があり、行うように勧められています。その際には、線量の集中性が高いSBRTを用いることが勧められます。しかし、日本では欧米ほど早期の非小細胞肺がんに対する治療としてSBRTは普及していないのが現状です。

STARS試験-STARS改訂臨床試験の成績で、SBRTが肺葉切除手術に対し非劣性が示されました。この試験は第3相試験ではありませんが、それに近い信憑性の高い臨床試験と考えられます。SBRTと肺葉切除手術のどちらを選んでも有効性はほぼ同等である可能性を示しています。そのため、日本でもSBRTの普及が望まれます。

SBRTに適しているのは、がん以外の重大な病気を抱えている場合や高齢で体力がないなど医学的な理由で手術ができない患者さんのほか、「入院ができない(したくない)」「療養期間を短くしたい」といった希望がある患者さんです。STARS試験-STARS改訂臨床試験で行われたSBRTは、1日1回、3~4日間です。手術は1週間~10日間程度の入院期間が必要で、社会復帰までには約1か月の療養期間が必要です。SBRTは通院で治療が受けられるため、こうした希望のある患者さんには適した治療です。

再発率はSBRTで18.75%、肺葉切除術で7.5%という試験の結果でしたが、3年生存率はどちらも91%と同じでした。SBRTで再発した場合は、局所再発では再SBRTを、領域リンパ節再発に対しては化学放射線療法など救援療法が可能で、その方法と効果が確立してきました。

体幹部定位放射線療法(SBRT)の今後の期待

STARS試験-STARS改訂臨床試験でのSBRTの良好な成績は、注目に値します。早期非小細胞肺がんに対する標準治療が、肺癌診療ガイドラインですぐに変わることはないと思いますが、SBRTの推奨度があがる可能性はあります。

また、ステージ1の非小細胞肺がんで腫瘍の大きさが2cm以下の患者さん1,000人を対象に、肺葉切除手術と区域切除手術を比較した臨床試験「JCOG0802試験」の結果が報告されました。再発は、区域切除が多く認められましたが、全生存率は肺葉切除手術より高いという結果でした。再発率が高くても、侵襲の少ない治療のメリットが高いことを示しています。

治療選択でインフォームド・コンセントが提唱されるようになり、患者さんの希望が治療選択に反映されるようになってきています。患者さんが治療法を決める際の優先事項には、「治癒率」「副作用」「費用」「治療の不安」「療養期間」「QOL」などがあります。価値観が多様になり、仕事をしながらがん治療をする患者さんも増えているため、ライフスタイルに合わせた治療選択が望まれています。早期非小細胞肺がんに対するSBRTは、より侵襲性が少ない治療法として期待されます。

STARS試験-STARS改訂臨床試験概要

試験デザイン
  • 登録数:80人(2015.9.1~2017.1.31に登録)
  • 追跡期間(中央値):5.1年
  • 前向き単一非盲検
  • 主要評価項目:全生存期間(3年)
介入治療
  • 体幹部定位放射線治療 1日1回、3~4日間
  • 抹消病変は54Gy 3回
  • 中枢病変は50Gy 4回
対象
  • 非小細胞肺がん
  • 18歳以上
  • 全身状態:0~2
  • リンパ節転移なし
  • 遠隔転移なし
  • 腫瘍径:3㎝以下
有効性評価:
  • 3年生存率:91%
  • 5年生存率:87%
安全性評価
  • 忍容性が高く、グレード4~5の有害事象なし、グレード3の呼吸困難、グレード2の肺炎、グレード2の肺線維症がそれぞれ1人
同傾向の対象者に対する肺葉切除手術
  • 3年生存率:91%
  • 5年生存率:84%

結論:
手術可能なステージ1Aの非小細胞肺がんに対する定位放射線治療は、肺葉切除手術に非劣性を示す

参考文献
Joe Y Chang et al., Stereotactic ablative radiotherapy for operable stage I non-small-cell lung cancer (revised STARS): long-term results of a single-arm, prospective trial with prespecified comparison to surgery. THE LANCET Oncology. 2021
Ronald A.M. Damhuis et al., Age-related treatment patterns for stage I NSCLC in three European countries. Journal of Geriatric Oncology. 2021
Kenichi Nakamura et al., A phase III randomized trial of lobectomy versus limited resection for small-sized peripheral non-small cell lung cancer (JCOG0802/WJOG4607L). Jpn J Clin Oncol. 2010

プロフィール
武田篤也(たけだあつや)

1994年 慶應義塾大学 医学部卒業
1994~2004年 慶應義塾大学、防衛医科大学、都立広尾病院勤務
2005年 大船中央病院放射線治療センターを開設
現在 大船中央病院放射線治療センター長、慶應義塾大学客員講師、東海大学客員教授、横浜市立大学客員教授、東京医科歯科大学非常勤講師を兼務