早期乳がん ラジオ波熱焼灼療法による切らない治療の可能性 

木下貴之先生
監修:国立がん研究センター中央病院乳腺外科科長 木下貴之先生

2019.1 取材・文:星野美穂

 ラジオ波熱焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)は、皮膚表面からがんに電極針を刺して、針から発生させたラジオ波(電磁波)の熱でがんを焼いて壊死させる治療法です。肝臓がんの標準治療の1つであり、保険適用されています。乳がんでは、がんの長径が1.5cm以下の早期乳がんを対象に、2013年から第III相の臨床試験が始まりました。乳がんを切除せずに死滅させる、身体的な負担も軽い治療であることが特長です。2017年に臨床試験の患者登録が終了し、現在は経過観察のデータを収集中です。早期乳がんの標準治療である乳房温存療法と比較して有効性、安全性に遜色がないことを証明し、確立した治療法として保険収載を目指しています。

早期乳がん―ラジオ波熱焼灼療法とは

 最近は、画像診断技術が進歩し、検診を受ける患者さんも増えたため、0~1期の早期で見つかる乳がんが特に増えています。早期乳がんの標準治療は、切除手術です。早期であれば、乳房を温存できる場合が多いですが、手術による体の負担や整容性のため、メスを使わない、切除しない治療法は、患者さんの要望も高く、実用化が望まれています。実際、小さながんを小さく切除するのは技術的には難しく、医師の側からも小さいがんに適した新しい治療法が望まれていました。

 切除しない治療法としては、ラジオ波熱焼灼療法のほかにも、凍結療法や集束超音波療法があります。それらも治療に適した患者さんを見極めれば悪くない治療法です。ただ、それらの治療法は、ごく少数の施設が行っているものであり、臨床試験などを行って広めようという動きはみられません。恩恵にあずかれる患者さんは限られてしまいます。

 ラジオ波焼灼療法は、すでに肝臓がんで行われている治療法であり、一般的な総合病院であれば備えられている装置を使って行えます。ただし、簡便な治療であるだけに、2000年代前半に一部の医療機関でさかんに行われました。「切らなくてよい」という魅力的な言葉に誘導され、ラジオ波熱焼灼療法に適応のない患者さんにまで治療が行われたため、再発や転移を起こしたという事例もありました。

 簡便な治療法であるだけに、適応となる患者さんの選定や効果の見極めは重要です。乳癌診療ガイドラインでは、切除しないこれらの治療法は、早期乳がんの標準治療である乳房温存手術と同等の効果を示す十分な根拠はないとしています。標準治療として確立するために、現在、第III相の臨床試験を行い、治療のルールづくりをしているところです。

早期乳がんに対するラジオ波熱焼灼療法の第III相試験

 この臨床試験はRAFAELO試験(Radiofrequency ablation therapy for early breast cancer as local therapy)と呼ばれており、早期乳がんを対象にしたラジオ波熱焼灼療法が、標準治療である乳房温存療法と比較して、乳房内無再発の生存割合や治療後病変の残存割合、患者さんの満足度が劣らないことを見極めることを目的としています。2013年に開始され、先進医療Bとして多施設共同で行われました。先進医療Bの登録施設に認められた10施設(表1)のうち、9施設で372例が集まった段階で、2017年11月に患者登録は終了しています。焼灼後5年間の経過観察のデータがすべて集まるのが2022年で、結果の公表は2023年くらいになると見込まれています。

 乳がんの長径が1.5cm以下であることが条件であり、マンモグラフィ、超音波、MRI・CT検査のいずれにおいても確認できる必要があります。事前の検査内容は、マンモグラフィや超音波、MRI、針生検など、乳房温存療法と同様ですが、乳がんの位置、形、大きさを、より厳密に把握します。

 乳がんの形は円形とは限らず、例えばおたまじゃくしの尻尾のようなヒゲが伸びている形のがんもあります。MRIなどでその形態が確認できれば、そのヒゲの部分にも針生検を行ってがん細胞の有無を調べます。がん細胞が見つかり、ヒゲを含めてがんの大きさが1.5cmを超えていたら、ラジオ波熱焼灼療法の適応から外れます。これは、がんの焼き残しを防ぐ意味で重要なことです。

早期乳がん―ラジオ波熱焼灼療法の施術

 ラジオ波熱焼灼療法は、入院して行います。入院期間は、乳房温存療法と同様の3~6日ほどです。

 ラジオ波熱焼灼療法の直前にセンチネルリンパ節生検を行い、リンパ節転移の有無を確認します。その後、全身麻酔をして、焼灼治療を行います。まず超音波でがんの位置を確認しながら、乳房の皮膚側から電磁針(ニードル)を刺入し、針先はがんを貫いて5mm出します(図1)。その後、電磁針に通電して電磁波を発生させると熱が生じ、針の熱中心から周りの3cmの組織が変性します。十分な熱が与えられてがんが壊死したら、針を抜いて刺入部に絆創膏を貼って治療は終了します。通電時間は、5~8分程度です。

図1 ラジオ波による焼灼
ラジオ波による焼灼

ラジオ波焼灼後の補助療法と定期検査

 ラジオ波熱焼灼療法を行った後、1か月以内に放射線治療を開始します(図2)。目には見えない小さながん細胞を死滅させ、再発を予防することが目的です。全乳房照射を1回2Gyで5日間の照射を5~6週間行います。放射線をかける量や期間は乳房温存療法と同じです。

 また、治療前の針生検で採ったがん組織で乳がんのサブタイプの検査を行います。その結果、必要だと判断された人には、再発予防のための補助薬物療法として抗がん剤治療や抗HER2療法、ホルモン療法を行います。どの治療法を行うかの選択も乳房温存療法と同様です。

 ラジオ波熱焼灼療法によってがんが死滅したかどうかは、放射線治療終了後3か月ほど経ったころに、吸引式針生検で確認します。吸引式針生検とは、超音波もしくはMRIで目標を確認しながら、通常の針生検よりも多くの組織が採取できるように工夫した針で陰圧をかけて組織を採る検査です。この検査によって焼き残したがん細胞がないかを確認します。万一、焼き残しが見つかった場合は、乳房温存術による切除を行い、がんを完全に取り除きます。

 焼灼治療の12か月後からは、半年ごとに問診や超音波、1年ごとにMRIなどの検査を行い、再発や転移の有無などを5年間、経過観察します。この臨床試験では、ラジオ波熱焼灼療法の有効性や安全性を確認することが目的です。そのため、治療後も定期的に観察していく必要があります。

図2 RAFAELO試験の概要
RAFAELO試験の概要

早期乳がん―ラジオ波熱焼灼療法のメリット

 ラジオ波熱焼灼療法にはメリット、デメリットがあります。

 治療で受ける身体の負担については、手術でがんを切除する乳房温存療法に比べて、ラジオ波熱焼灼療法のほうが軽いといえます。どちらの治療法も全身麻酔をかけるため、施術時に痛みを感じることはありませんが、全身麻酔から醒めた時点でも、ラジオ波熱焼灼療法の場合はほとんど痛みがありません。がんを焼いて壊死させるため出血もありません。がんのあった箇所よりも、センチネルリンパ節生検をした傷のほうが痛むほどです。

 乳房温存療法は、メスを使って切るため、切除範囲が小さくても術後は痛みがあります。

 乳房の変形についても、乳房温存療法ではがんを手術で切除するため、乳房が変形したり傷跡が残る可能性があります。一方ラジオ波熱焼灼療法は、傷も小さく、変形もほとんどありません。長時間経つと、左右どちらが治療した乳房なのかわからなくなるほどです(図3)。

 ただし、焼いた部分の組織が硬くしこりを生じたり(硬結)、えくぼのようにひきつれたりする場合もあります。これまでの臨床試験の経験では、高齢で脂肪の多い乳房の場合は跡が残りやすいという傾向を感じます。反対に、若い人では治療の痕跡はほぼ残りません。

図3 ラジオ波熱焼灼療法後の経過(MRI画像)
ラジオ波熱焼灼療法後の経過(MRI画像)

早期乳がん―ラジオ波熱焼灼療法のリスク

 早期乳がんに対するラジオ波熱焼灼療法のリスクは、がんの取り残しです。

 乳房温存療法でも、切り取った組織を調べると断端陽性、つまりがんの取り残しが見つかる割合が10~20%あります。術前の画像診断で読み切れない小さな病変の取り残しは、どうしても出てしまうのです。乳房温存療法の場合は、がんの取り残しに気付けば、その場で切り足してがんを取りきることができます。

 一方、ラジオ波熱焼灼療法では、切り足すことができません。焼き残しはがん再発のリスクになります。理論的にいえば、どんなに症例を絞り込んでも、10%ほどはそのリスクがあるといえます。治療法として確立するには、その対策が必要です。そこで、放射線治療終了3か月後に、前述の吸引式針生検を行って、がんがあった部分の中心部と、その周りの10数か所の組織を採り、焼け残りがないかを確認します。吸引式針生検が陰性であれば、がんの焼き残しがないことを確認できます。また、吸引式針生検の後は、整容性が上がります。ラジオ波で焼いた箇所はしばらく硬くなりますが、吸引式針生検で組織を採ると、その部分が軟らかくなって違和感が少なくなるのです。これは、プラスアルファのメリットです。

 吸引式針生検で焼き残りがわかった場合は、改めて乳房温存手術を行います。ラジオ波熱焼灼療法は、現在のところ治療後の経過が明らかになっていません。すでに標準治療として確立している乳房温存療法を行うのが一番安全で、乳房温存療法なら、10、20年の治療後成績が保障されます。ラジオ波熱焼灼療法でがんを焼灼しきれなかった疑いがある場合は、標準治療である乳房温存療法を行うという条件は、すべての患者さんに約束していただいています。

早期乳がんに対するラジオ波熱焼灼療法の第II相試験の治療成績

 RAFAELO試験は現在経過観察中で、ラジオ波熱焼灼療法の効果に関する結果はまだ出ていません。ただし、RAFAELO試験の前に行った第II相試験では、乳がんが1cm以下の患者さん52人がラジオ波熱焼灼療法を受けています。現在、全員が経過観察期間の5年を超えており、最初に治療を受けた人は8年を超えていますが、再発した人は1人もいません。

 この結果は、ラジオ波熱焼灼療法が優れているということを推測させるものですが、一方で、ラジオ波熱焼灼療法を実施する患者さんは、もともと予後がよい方が対象となっているという事実も覚えておく必要があります。

 乳房温存療法では、検査結果で推定された値よりがんか大きいことが術中にわかっても、切除の範囲を広げることでがんをすべて取りきることができます。しかし、ラジオ波熱焼灼療法ではそうした修正は効きません。事前の検査でがんと推定された範囲を焼灼するため、実際のがんがそれよりも大きかった場合、焼き残してしまいかねません。

 そのため、がんの計測は厳格に行われます。定められた条件よりも1mmでも大きければ、この治療法から外されます。そのため、より早期のがんの小さい患者さんが治療を受けることになり、臨床試験の成績が良いものとなっていると考えられます。

早期乳がんのラジオ波熱焼灼療法のさらなる可能性

 ラジオ波熱焼灼療法の適応を1.5cm以下の乳がんにしているのには理由があります。

 第I相試験のときに、2cmの電磁針で周囲何cmまでが焼けるのかを調べました。その結果、針の熱中心から直径3cmの範囲で焼けることがわかったのです。そこから推測し、安全に治療が行える範囲を1.5cmとしました。

 ただし、検査の際のMRIはうつぶせで行います。そうすると、乳房は伸びてがんも大きく映ります。ラジオ波熱焼灼療法は仰向けで行うので、検査時に1.7cmと計測されたがんも、1.5cmになることがあります。

 こうした例もあるため、RAFAELO試験によって1.5cmのがんで再発が起こらないことが立証されれば、将来的には2cmのがんへの適応が検討される可能性もあるでしょう。

 また、乳がんに対しては、大きながんや複数のがんには、現在のところ、ラジオ波熱焼灼療法は適応されません。理論的には、何度も焼灼することで大きながんを治療することはできますし、複数のがんにラジオ波をかけることもできます。しかし、大きな乳がんや複数のがんにラジオ波熱焼灼療法を行った場合に、取り残しは出ないか、再発の頻度や転移の可能性がどうなるかなどについては、まだ検討されていません。また、何度も焼灼すれば、変形やくぼみが生じるため、整容性が高いというラジオ波熱焼灼療法のメリットも薄れます。

 今は一歩一歩、ラジオ波熱焼灼療法の可能性をさぐり、治療法を固めているところです。

 RAFAELO試験の登録は終了しており、解析結果が出るまでの間は、ラジオ波熱焼灼療法による早期乳がん治療を受けることはできません。だだし、途中の解析結果によっては、2023年を待たずに試験的な導入ができないかどうか、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)への相談を検討しはじめております。

 よい治療法だと期待するからこそ、大切に育てていきたいと考えています。

プロフィール
木下貴之(きのしたたかゆき)

1988年 慶應義塾大学医学部卒業
1991年 慶應義塾大学医学部一般消化器外科乳腺グループ入局
1994年 国立東京第二病院外科医員
1998年 米国テネシー大学に留学
2000年 国立病院東京医療センター外科、治験管理室長
2002年 国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)乳腺科医員。その後、同乳腺科医長、国立がん研究センター中央病院乳腺科・腫瘍内科副科長
2012年 国立がん研究センター中央病院乳腺外科科長。RAFAELO試験代表研究者