第60回日本肺癌学会学術集会より Patient Advocate Program(患者・家族向けプログラム)がんリハビリテーションの有用性認められる ――予防的リハビリとしての活用も

近畿大学病院リハビリテーション部 白石 匡 さん
湘南ベルマーレフットサルクラブ 久光重貴 さん

2020.1 提供●がんサポート

 がんの治療成績が改善し、“がんと共存”して生きる患者が増える中で、がんのリハビリテーション(以下、リハビリ)が注目されている。がん患者の回復力を高め、残っている能力を維持・向上させ、それまでと変わらない生活を取り戻すようにサポートするのが目的だ。

 近畿大学病院リハビリテーション部の白石匡さんは、このがんリハビリの概念や役割、肺がん患者に対するエクササイズの実際、在宅でできるストレッチなどについて、実技を交えながら紹介した。

 また、肺がんと闘いながら湘南ベルマーレフットサルクラブで現役選手としてプレーする久光重貴さんが、抗がん薬治療を受けながらリハビリに取り組む体験を語り、「がんをあきらめない」ことの大切さを訴えた。

がん患者の自立度を高め、QOLを向上させる

 欧米では、がん医療の重要な一分野としてリハビリが認められており、がんと診断された直後から、状況に応じて適切なリハビリが行われている。日本でも、最近になって、ようやくリハビリに取り組む医療機関が増えてきた。

 白石さんによると、がんのリハビリとは「がん医療の一環として、リハビリ科医、リハビリ専門職により提供される医学的ケアであり、身体的、認知的、心理的な障害を診断、治療することで、自立度を高め、QOL(生活の質:自分らしく納得のいく生活)を向上させるもの」と定義されている。そして、このリハビリは医師、看護師、理学療法士、作業療法士など多職種からなるチームによって提供される。

 リハビリは、障害を受けた後から始めるのが一般的だ。しかしがんのリハビリは、「予防的リハビリ」といって、がんと診断された早期から開始することもある。その後、病期や治療の過程に従って行われ、それぞれの段階で役割が異なってくる。予防的(診断後、早期治療前)⇒回復的(治療後の機能低下改善)⇒維持的(がん進行期の機能低下抑制)⇒緩和的(QOL向上、倦怠感緩和)など、4つの過程でそれぞれのリハビリがある。

 このように、がんリハビリはステージごとにきめ細かく実践される。白石さんはその効果について「運動機能(体力や筋力)の改善、呼吸困難・倦怠感の改善、合併症の軽減、在院日数の短縮などが期待される」と説明した。

手術後のリハビリ、身体活動量の維持に有効

 では、肺がん患者ではどのようにリハビリが進められるのだろうか。白石さんは、「がんのリハテーション診療ガイドライン第2版:2019年6月発行」(日本リハビリテーションン医学会)に沿って、その実際をいくつか紹介した。

 例えば、手術後のリハビリ。ガイドラインでは、「運動耐容能(体力)、筋力の改善など有益な効果が得られる」として、行うよう提案している。ただ、高負荷で運動療法を行うと疼痛が持続する可能性があるため、“適度な運動が良い”としている。

 近畿大学病院リハビリテーション部では、これを踏まえて、術後の呼吸器合併症(肺炎など)や筋力低下の予防を目的に、手術翌日から座位、立位、歩行練習、5~7日から階段昇降練習、持久力トレーニングなどを実施している。そして退院時には、目標の心拍数を伝え、体のあまり負荷のかからない運動を続けるように指導している。

 リハビリの効果はどうか。手術後にリハビリを受けた患者(9名)と受けなかった患者(10名)の身体活動を比較したところ、受けた患者では身体活動量が維持されていた。白石さんによると、最近この身体活動量が注目され、「身体活動量が多く体力が高い人は、心血管疾患やがんによる死亡率のみならず、そう死亡率も低い(Inoue M eal:Ann Epidemiol,2008)」ことが明らかにされているという。

家族や周囲のサポートが大事

 一方、放射線治療や化学療法中・後のがん患者では、悪心(おしん)・嘔吐(おうと)、骨髄抑制、粘膜障害などの副作用を起こすことが多い。こうした患者への運動療法についてガイドラインでは、身体活動や身体機能の改善、QOLの改善、倦怠感の改善、抑うつ・不安などの改善に対し「有益な効果は確実性が高い。行うように強く勧められる」と推奨している。また、根治治療対象外の進行がん患者に対する監視下でのリハビリに関しても「全身状態が安定している場合、有益な効果は大きく、行うように勧められる」としている。

 そこで同院リハビリテーション部では、歩数計と運動日誌を用いて、活動量を1カ月に10%を目標に、徐々に増やしていく方法を取り入れている。ただ、一人で取り組んでいる患者の場合、持続が難しく、なかなか身体活動量が向上しない。しかし家族の協力があると、比較的うまくいくことから、白石さんは「リハビリ達成のためには、周囲のサポートが欠かせないと」と強調した。

緩和ケアの患者にもリハビリが勧められる

 それでは、緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者へのリハビリはどうか。このステージのがん患者は複数の苦痛症状を抱えており、65~85%が痛みを、70%が呼吸困難感を、60%以上が抗がん薬治療中から終末期まで全身倦怠感を訴えている。

 ガイドラインでは、症状の進行や苦痛に合わせた包括的リハビリを行うべきか?、疼痛に対する教育は疼痛緩和効果が大きいか?というクエスションに対し「有益な効果は大きい。緩和ケアチームによる多専門職の治療セッションを行うよう勧められる」とし、リハビリの実施を推奨している。

 同院では、緩和的リハビリとして、疼痛には物理療法(経皮的電気刺激)やポジショニング(呼吸や倦怠感を軽減する姿勢の取り方の指導)、浮腫にはリンパドレナージ、呼吸困難感には呼吸法の指導や介助、リラクゼーションなどを行っているという。

 白石さんはさらに、在宅で行えるセルフエクササイズ(呼吸筋ストレッチ)について実技指導を行った上で「がん自体に対する予防や治療だけでなく、症状緩和や心理・身体面のケアを図ることはとても重要。その1つの方法としてリハビリがある。無理をせず楽しんで運動をしてほしい」とアドバイスした。

目標を持って生きよう

 続いて、湘南ベルマーレフットサルクラブの久光重貴さんが講演した。久光さんは、31歳(2013年)のときに肺がんと診断され、以来6年半、治療を続けながら、現役のフットサル選手としてピッチに立っている。

 「今、3~4週の抗がん薬治療をしながら競技生活を送っている。どうしてそこまでするのか。そんな体でプレーできるか。他の人からよく聞かれる。正直いってシンドイ。しかし、私にはやるべき責任がある。クラブが選手として雇ってくれている以上、その期待に応えなければならない。もちろん応援してくれるサポーターのためにも。そうした思いで、この6年半を過ごしてきた」久光さんは、まずこう切り出した。

 最もつらいのは、治療のため長期入院している時。ベッドに横たわっていれば筋力は確実に低下する。若い選手と同じレベルでプレーする強い身体を取り戻すには、休んだ日数の倍以上の時間がかかる。

 「入院すると、チームメイトも家族も、無理をするな、ゆっくり休めと声をかけてくれる。私の身体を気づかってのことだ。最初は、それに甘えていた自分もいた。しかし、そうしていると体がどんどん動かなくなってくる。一体、何のために抗がん薬治療を受けているのか。ただ、ベッドで寝るためだけなのか。いや違う。私の目標はピッチに立つこと。サポーターの前でいいプレーを見せることではないか」

 いつまでも寝てはいられないと、久光さんはベッドの上で筋力トレーニングを始めた。そして、ベッドから出て、病院の廊下を歩き、10メートル、20メートルと距離を延ばすなど、“できること”を少しずつ増やしていったという。

 休もうと思えば、休める。しかし、目標さえしっかり持っていれば、そこに行くため今、何をすべきか、何をしなければいけないのが見えてくる。

「私の場合は、フットサル選手として現役を続けることが目標だが、患者によって、目指すところはそれぞれ異なる。子供や孫と遊びたい、旅行に行きたい、何でもいい。しっかり目標を見据え、それを達成するために、できることから始める。確かに、肺がんは重い病気だ。しかし、肺がんで亡くなる人は着実に減りつつある。肺がんのイメージが変わりつつある今、患者の意識も変わらないと、いや変えていかなければならない」久光さんは、最後にこう訴えた。取材・文●「がんサポート」編集部

がんと栄養相談窓口

がん患者さん、そのご家族のためのがんと栄養の相談窓口です。気軽にご相談ください。

  • どんなレシピがあるのか知りたい
  • 必要な栄養って何?
  • カロリーはどのくらい?・・・など