卵巣がんの基礎知識

卵巣がんの基礎知識

卵巣がんとはどんな病気なのか、初期症状、罹患率、生存率など基礎知識を紹介します。

卵巣がんとは

 卵巣がんは、卵巣に発生した悪性腫瘍をいい、良性・悪性・境界悪性(中間的なタイプ)の3つのタイプに分類されます。悪性の卵巣がんは発生する部位により、上皮性腫瘍、胚細胞性腫瘍、性索間質性腫瘍に分類されますが、日本人女性に発生する卵巣がんの90%以上は、卵巣の表面細胞ががん化した、上皮性腫瘍です。

 近年、卵管や腹膜を原発巣とする卵管がんや腹膜がんの患者さんが多くなっている傾向があります。卵管がんや腹膜がんに対しての治療は、組織学的に類似する卵巣がんに準じて行われます。

卵巣がんの症状

 早期の卵巣がんは、ほとんど症状がありません。そのため、ステージ3~4で見つかる患者さんが約40%以上を占めます。進行していくと、おなかが張って苦しい、下腹部が痛む、頻尿、などの症状が現れます。腫瘍が破裂したり、腫瘍がおなかの中でねじれてしまったりすると、突然の強い痛みが下腹部に起こることがあります。

卵巣がんの罹患率と生存率

 国立がん研究センターの最新がん統計のまとめによると、2015年に卵巣がんと診断された患者さんは1万438人でした。年代別にみると、40代から徐々に増え始め、60代後半をピークにその後は徐々に減っていく傾向にありました。また、同センターの調査によると、2009~2011年の5年相対生存率は60%、2002~2006年の10年相対生存率は43.9%でした。

 進行度による5年相対生存率(2009~2011年診断)は、以下の通りです。

  • 限局:92.5%
  • 領域:59.3%
  • 遠隔:23.9%

限局:原発臓器に限局している
領域:所属リンパ節転移(原発臓器の所属リンパ節への転移を伴うが、隣接臓器への浸潤なし)または隣接臓器浸潤(隣接する臓器に直接浸潤しているが、遠隔転移なし)
遠隔:遠隔臓器、遠隔リンパ節などに転移・浸潤あり

※各がんのがん罹患率、生存率の最新情報は、がん情報サービス「がんの統計」をご参照ください。

卵巣がんの種類

 卵巣がんは組織型により、「漿(しょう)液性がん」「明細胞がん」「類内膜がん」「粘液性がん」「悪性ブレンナー腫瘍」「漿液性粘液性がん」「未分化がん」の7つに分類されます。このうち日本人に多いのは、漿液性がん(33.2%)、明細胞がん(24.4%)、類内膜がん(16.6%)、粘液性がん(9.1%)です。

漿液性がん

 漿液性がんは、高異型度と低異型度の2つに分類されます。高異型度の漿液性がんの多くは進行した状態で発見されます。比較的化学療法が効きやすいものの、再発することが多く予後不良とされています。また、20%程度の患者さんでは、生殖細胞系ないしBRCA1/2遺伝子の変異が認められます。BRCA1/2遺伝子は、乳がんや卵巣がんの発症と関連する遺伝子で、生まれつきこの遺伝子のどちらかに変異があると、乳がんや卵巣がんになりやすいことがわかっています。BRCA1/2遺伝子に変異が見つかった乳がんや卵巣がんは、「遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)」と呼ばれます。

 卵管がんは、卵管に発生した悪性腫瘍で、女性生殖器に発生する悪性腫瘍の約1%と考えられてきました。現在は、卵巣原発の高異型度の漿液性がんのうち、少なくとも約半数は卵管がんが原発と考えられるようになってきました。また、腹膜がんとされるものはほとんどが高異型度の漿液性がんで、ここに原発巣が卵管のものも含まれると考えられています。そのため、卵巣や卵管が原発巣と「組織学的に」考えられない場合に、腹膜がんと診断されるようになってきています。

明細胞がん

 明細胞がんの約半数はステージ1で見つかっており、比較的進行が遅いのが特徴です。化学療法が効きにくく、子宮内膜症が併存していることが多くあります。

類内膜がん

 類内膜がんは異型度が低く、進行してから見つかることはあまり多くありません。異型度が高いタイプでは、進行が早いものの化学療法は効きやすいとされています。

粘液性がん

 粘液性線種から境界悪性腫瘍となり、がんに進展することがあります。異型度が高いタイプでは、「KRAS遺伝子」変異が見られることがあります。日本人女性では、卵巣の片側で起こり、10cmを超える大型の嚢(のう胞)を形成することが多くあります。比較的早期に見つかることが多くありますが。化学療法は効きにくいとされています。

卵巣がんの組織型と特徴

組織型特徴
漿液性がん進行が早く、化学療法が効きやすい
明細胞がん日本で多く、進行は遅い。化学療法は効きにくい。子宮内膜症を併存するものが多い
類内膜がん多くは異型度が低く、進行が遅い。異型度の高いものは、進行が早く化学療法が効きやすい
粘液性がん大きい腫瘍が多いが、進行例は少ない

参考文献:日本婦人科腫瘍学会編 卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版 金原出版
国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書公益社団法人日本産婦人科学会 産科・婦人科の病気 卵巣腫瘍

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