卵巣がんの再発・転移

卵巣がんの経過観察、再発や転移に対する治療法を紹介します。

卵巣がんの経過観察

 卵巣がんでは、初回治療開始から以下を目安に定期的な経過観察が行われます。

  • 1~2年目:1~3か月ごと
  • 3~5年目:3~6か月ごと
  • 6年目以降:1年ごと

 治療後の経過観察中に行われる検査は、「問診」「内診」「経腟超音波断層法検査」が毎回行われます。また、「腫瘍マーカー測定」「CT検査」は必要に応じて適宜行われます。

 経過観察中に、無症状で腫瘍マーカーの「CA125」のみが上昇した場合、早期に化学療法を行っても予後の改善は認められず、長期間の化学療法によるQOL低下という臨床試験の報告があり、積極的な早期治療は検討されません。しかし、CA125の腫瘍マーカー検査は、再発発見のきっかけとなるため経過観察中の検査として有効とされています。

再発卵巣がんの治療選択

 卵巣がんの再発治療では、患者さんの病態に応じて根治的治療や緩和的治療の両面を考えた治療が選択されます。

 分子標的薬免疫チェックポイント阻害薬の登場により、再発卵巣がんの治療選択が増えました。しかし、プラチナ製剤の治療開始から再発までの期間による病態に応じた選択が基本とされています。プラチナ製剤の治療開始から再発までの期間が、6か月未満はプラチナ製剤抵抗性再発、6か月以上はプラチナ製剤感受性再発と判断されます。

 プラチナ製剤抵抗性の場合、前治療と薬物に対して耐性が生じたときに、その薬物と類似の構造や作用がある他の薬物に対しても耐性が生じる「交叉耐性」がない単剤による化学療法、もしくはベバシズマブが併用されます。

 プラチナ製剤感受性の場合は、プラチナ製剤を含む多剤併用化学療法が推奨されます。また、プラチナ製剤を含む多剤併用化学療法にベバシズマブの併用による維持療法も推奨されます。BRCA1/2遺伝子変異がある患者さんでは、プラチナ製剤を含む多剤併用化学療法で効果が見られれば、オラパリブによる維持療法が推奨されます。BACA1/2遺伝子変異が認められない患者さんでも、オラパリブによる維持療法が検討されます。

 再発病変が完全切除できる患者さんでは、二次的腫瘍減量手術が検討されます。完全切除ができない、または症状の緩和もできないと判断された場合は、手術は推奨されません。

 痛みや出血などの症状がある患者さんに対しては、症状の緩和を目的とした放射線治療が検討されます。脳転移がある患者さんでは、症状の緩和と予後改善のために放射線治療が行われることがあります。

再発卵巣がんの治療選択
再発卵巣がんの治療選択
※1プラチナ製剤抵抗性:プラチナ製剤による治療終了から再発までの期間が6か月未満
※2プラチナ製剤感受性:プラチナ製剤による治療終了から再発までの期間が6か月以上
※3ある薬物に対して耐性が生じたときに、その薬物と類似の構造や作用を有する他の薬物に対しても耐性が生じること
出典:日本婦人科腫瘍学会編.卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版.フローチャート2再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療より作成

再発卵巣がんの治療法

 再発卵巣がんの治療法は、プラチナ製剤に対する感受性の違いにより治療方針が異なります。

プラチナ製剤抵抗性の化学療法

 初回化学療法でプラチナ製剤に対し抵抗性を示した場合は、前回治療と作用が異なる薬剤による単独療法が行われます。どの薬剤をどの順序で使用するのが有効なのかについて、科学的根拠は明らかになっていません。また、投与量や投与間隔も国内外の臨床試験の報告に基づいた目安であり、患者さんの全身状態に合わせ、適宜変更されます。多剤併用療法は、単独療法と比較して高い有効性が報告されていますが、生存期間の延長は認められていません。

 化学療法(リポソーム化ドキソルビシン、パクリタキセル毎週投与、トポテカン)に血管新生阻害薬のベバシズマブを追加した併用療法を評価した臨床試験の結果では、化学療法単独と比較して病勢進行または死亡リスクの改善がみられましたが、全生存期間の改善は認められませんでした。

 免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)は、「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性を有する固形がん」を対象に保険適用となっていますが、卵巣がんに対する報告はまだ多くありません。

再発卵巣がんの化学療法

薬剤名投与量投与法投与スケジュール奏効率
イリノテカン100mg/m2静注1日.8日.15日(4週毎)29%
エトポシド50mg/m2経口1~21日(4週毎)27%
ゲムシタビン1,000mg/m2静注1日.8日.15日(4週毎)6~15%
トポテカン
(ノギテカン)
1.5mg/m2静注1~5日(3週毎)12~18%
トポテカン
(ノギテカン)
1.25mg/m2静注1~5日(3週毎)17%
ドセタキセル70mg/m2静注1日(3週毎)22%
パクリタキセル180mg/m2静注1日(4週毎)10~30%
パクリタキセル80mg/m2静注(毎週)25~45%
パクリタキセル80mg/m2静注(毎週)53%
リポソーム化ドキソルビシン40~50mg/m2静注1(日4週毎)10~20%
リポソーム化ドキソルビシン40mg/m2静注1日(4週毎)14%
ベバシズマブ15mg/kg静注1日(3週毎)
ベバシズマブ10mg/kg静注1.15日(4週毎)

出典:日本婦人科腫瘍学会編.卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版.第3章再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌.CQ24 表13より作成

プラチナ製剤感受性の化学療法

 初回治療後、プラチナ製剤感受性の再発患者さんに対しては、プラチナ製剤を含む多剤併用化学療法が推奨されます。第3相ランダム化比較試験の結果、プラチナ製剤単独療法より、「TC療法」「GC療法」「PLD-C療法」など多剤併用化学療法の有効性が認められています。PLD-C療法とTC療法を比較したCALYPSO試験の結果、PLD-C療法はTC療法に対して、非劣性が示されました。その他の治療法の比較試験はないため、各治療法の有害事象など安全性を考慮して選択されます。

 多剤併用化学療法(TC療法・GC療法)とベバシズマブを追加した治療を比較した複数の臨床試験では、ベバシズマブを追加することで良好な結果が認められています。また、GC療法+ベバシズマブ併用療法とPLD-C療法+ベバシズマブ併用療法を比較したAGO-OVAR221/ENGOT-OV18試験では、PLD-C療法+ベバシズマブ併用療法はGC療法+ベバシズマブ併用療法と比較して良好な結果が認められました。

 BRCA1/2遺伝子変異があるプラチナ製剤感受性の再発患者さんに対し、化学療法で効果が認められた患者さんの維持療法としてオラパリブとプラセボを比較したSOLO-2試験では、維持療法としてオラパリブの有効性が示されました。

 BRCA1/2遺伝子変異の有無を問わず、プラチナ製剤感受性の再発漿液性卵巣がん患者さんを対象としたStudy19試験でも、維持療法としてオラパリブの有効性が示されました。また、BRCA1/2遺伝子変異のあるサブグループ解析では、顕著な生存期間の延長が認められました。しかし、「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版」では、同試験の結果について、第2相試験のサブグループ解析の結果のため、同治療法の有効性に関しては科学的根拠が不足しているため推奨とはせずに、提案するにとどまっています。

再発卵巣がんの化学療法と臨床試験結果

臨床試験名
(登録数)
比較治療法主要評価項目
(副次的評価項目)
解析結果
ICON4/OVAR2.2試験
(802人)
試験プラチナ+タキサンを含む化学療法
(TC 療法:80%、TP:10%)
全生存期間29か月
対象プラチナを含む古典的化学療法
(カルボプラチン単剤:71%、CAP:17%)
24か月
OVAR2.5試験
(365人)
試験カルボプラチンAUC※4、1日目+
ゲムシタビン1,000mg/m2、1日目/8日目
無増悪生存期間8.6か月
対象カルボプラチンAUC5、1日目5.8か月
CALYPSO試験
(976人)
試験カルボプラチンAUC5+
リポソーム化ドキソルビシン30mg/m2
無増悪生存期間11.3か月
対象カルボプラチンAUC5+
パクリタキセル175mg/m2
9.4か月
OCEANS試験
(543人)
試験カルボプラチンAUC4、1日目+
ゲムシタビン1,000mg/m2、1日目/8日目+
ベバシズマブ15mg/kg、1日目+維持
無増悪生存期間12.4か月
対象カルボプラチンAUC4、1日目+
ゲムシタビン1,000mg/m2、1日目/8日目
8.4か月
GOG213試験
(674人)
試験カルボプラチンAUC4、1日目+
パクリタキセル175mg/m2
ベバシズマブ15mg/kg、1日目+維持
全生存期間42.2か月
対象カルボプラチンAUC5+パクリタキセル175mg/m237.3か月
OVAR221試験
(682人)
試験カルボプラチンAUC4、1日目+
リポソーム化ドキソルビシン1日30mg/m2
ベバシズマブ15mg/kg、1日目、15日目+維持
無増悪生存期間
(全生存期間)
13.3か月
(31.9か月)
対象カルボプラチンAUC4、1日目+
ゲムシタビン1,000mg/m2 、1日目/8日目+
ベバシズマブ15mg/kg、1日目+維持
11.6か月
(27.8か月)
SOLO-2試験
BRCA1/2変異あり
(294人)
試験オラパリブ300mg、1日2回無増悪生存期間19.1か月
対象プラセボ1日2回5.5か月
Study19試験
(265人)
試験オラパリブ400mg、1日2回無増悪生存期間8.4か月
対象プラセボ、1日2回4.8か月

※AUC:時間経過に伴う薬物の総曝露量
出典:日本婦人科腫瘍学会編.卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版.第3章再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌.CQ25 表14より作成

参考文献:日本婦人科腫瘍学会編.卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版.金原出版

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