脳腫瘍の基礎知識
脳腫瘍とはどんな病気なのか、症状、罹患率、生存率など基礎知識を紹介します。
脳腫瘍とは
脳腫瘍は、頭蓋骨の内側(頭蓋内)に発生する腫瘍の総称で、さまざまな種類があります。また、頭蓋内の組織から発生する原発性の腫瘍と、別の部位に発生したがんが転移した転移性の脳腫瘍の2つがあります。
原発性脳腫瘍は、脳細胞、脳を包む髄膜、脳神経などから発生した腫瘍で、組織や遺伝子の違いにより150種類以上に分類されます。
脳腫瘍の主な種類とグレード
脳腫瘍は、悪性度(グレード)により、グレード1~4に分類されます。グレード1は良性腫瘍で、グレード2~4が悪性腫瘍と判定され、グレードが上がるにつれ、悪性度が高くなります。
進行度、リンパ節転移、遠隔転移によるTNM分類やステージ分類は行われません。世界保健機構による2016年の分類では、顕微鏡観察で行う組織検査に加え、遺伝学的検査がほぼ必須とされています。
主な原発性脳腫瘍として
- 神経膠腫
- 中枢神経系悪性リンパ腫
- 髄膜腫
- 下垂体線種
- 頭蓋咽頭腫
などが挙げられます。
このうち、下垂体線種、頭蓋咽頭腫はグレード1に分類される良性脳腫瘍です。髄膜腫もグレード1の場合があります。神経膠腫と中枢神経系悪性リンパ腫は、グレード4の悪性脳腫瘍です。
グレード4の脳腫瘍の中で罹患数が多いのは、膠芽腫、髄芽腫、胚細胞腫瘍、中枢神経系悪性リンパ腫などです。
組織 | グレード | |
毛様細胞性星細胞腫 | 1 | |
神経膠腫 (グリオーマ) | びまん性星細胞腫 | 2 |
乏突起膠腫 | 2 | |
退形成性星細胞腫 | 3 | |
退形成性乏突起膠腫 | 3 | |
膠芽腫 | 4 | |
上衣腫 | 2 | |
退形成性上衣腫 | 3 | |
神経節膠腫 | 1 | |
中枢性神経細胞腫 | 2 | |
髄芽腫 | 4 | |
胚細胞腫瘍 | 4 | |
中枢神経系悪性リンパ腫 | 4 | |
髄膜腫 | グレード1 | 1 |
グレード2 | 2 | |
グレード3 | 3 | |
神経鞘腫 | 1 | |
下垂体線種 | 成長ホルモン産生腺腫 | 1 |
プロラクチン産生腺腫 | 1 | |
副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫 | 1 | |
非機能性下垂体腺腫 | 1 | |
頭蓋咽頭腫 | 1 | |
脊索腫 | 2 | |
血管雅腫 | 1 | |
類上皮腫 | 1 |
神経膠腫
神経膠腫は、神経膠細胞(グリア細胞)が腫瘍化した脳腫瘍です。神経膠細胞は、星細胞腫と乏突起膠腫の大きく2種類に分けられます。
神経膠腫で最も多いのが、星細胞が腫瘍化した星細胞腫で、びまん性と退形成性の2種類があります。びまん性は、病変が比較的均等に広がっているのが特徴です。退形成性は、急速に細胞分裂するところと、正常細胞とほぼ類似していないところが特徴です。
星細胞が腫瘍化した神経膠腫で最も悪性度が高いのが膠芽腫で、グレードは4です。良性の神経膠腫もあり、若年者に多い毛様細胞性星細胞腫はグレード1で、毛のように細い突起を伸ばした星細胞が腫瘍化したものです。
乏突起細胞が腫瘍化したのが、乏突起膠腫です。星細胞と乏突起細胞が混合したタイプもあります。
このほか主に脳室の壁の近くに発生する上衣細胞が腫瘍化した上衣腫などがあります。
神経膠腫の組織型と悪性度
星細胞腫系 | 乏突起膠腫系腫瘍 | 上衣細胞 | ||
乏突起細胞 | 混合性 | |||
グレード1 | 毛様状星細胞腫 | |||
グレード2 | びまん性星細胞腫 | 乏突起膠腫 | 乏突起星細胞腫 | 上衣腫 |
グレード3 | 退形成性星細胞腫 | 退形成性乏突起膠腫 | 退形成性乏突起星細胞腫 | |
グレード4 | 膠芽腫 |
中枢神経系悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は、さまざまな病型があり「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」に大別されます。中枢神経系悪性リンパ腫は、脳から発生した非ホジキンリンパ腫で、脳以外に病変が見つからない場合に診断されます。悪性度は最も高いグレード4です。
髄膜腫
髄膜は、硬膜、クモ膜、軟膜の3つの膜で構成された脳を包む膜です。髄膜腫は、髄膜から発生した脳腫瘍で、原発性脳腫瘍の中では最も多く、グレードは1~3に分類されます。
下垂体腺腫
下垂体腺腫は、脳の中心にある下垂体の一部が腫瘍化した脳腫瘍で、ホルモンを過剰分泌する「ホルモン産生腺腫」と、ホルモンを分泌しない「非機能性下垂体腺種」の2つに大きく分類されます。
ホルモン産生腺腫は、「成長ホルモン産生腺腫」「プロラクチン産生腺腫」「副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫」などがありますが、いずれも良性腫瘍で悪性度はグレード1です。
頭蓋咽頭腫
頭蓋咽頭腫は、下垂体と視神経の近くに発生する良性腫瘍で、悪性度はグレード1です。
脳腫瘍の症状
脳腫瘍の症状は、発生した部位により異なります。腫瘍が大きくなることで起こる「頭蓋内圧亢進症状」と、腫瘍が発生した脳の組織が障害されて起こる「局所症状」に分類されます。
頭蓋内圧亢進症状
頭蓋内圧亢進の主な症状は、頭痛、吐き気、意識障害などです。また、腫瘍が大きくなり髄液の流れが悪くなると脳髄液が貯まり、脳室と呼ばれる部分が大きくなる「水頭症」が起こることがあります。局所症状
腫瘍ができた部位により、運動機能、感覚、思考、言語、視覚などさまざまな機能が障害されます。
発生部位による主な症状は、以下の通りです。
発生部位による症状
前頭葉 | 運動麻痺、失語、性格の変化、自発性の低下、認知機能の低下、集中力の低下、記憶力の低下、てんかんなど |
側頭葉 | 言葉の理解、言葉の言い誤り(感覚性失語)、視野障害、幻臭、てんかん |
頭頂葉 | 感覚障害、読み書き障害、計算ができない(失算)、左右の判断障害、指の名前が言えない、左右片方の刺激認識障害 |
後頭葉 | 視野障害 |
視交叉・ 視床下部 | 視力・視野障害、尿の濃度調節の障害(尿崩症)、肥満、体温調節異常、意識障害 |
視床 | 意識障害、運動麻痺、手足のしびれ、感覚異常 |
脳幹 | 運動麻痺、感覚障害、二重に見える(複視)、顔面神経麻痺、嚥下障害、聴力障害 |
小脳 | 細かい動きができない協調運動障害(失調症)、ふらつき、めまい、歩行障害 |
脳神経 | 目の動きが悪くなり二重に見える、顔のしびれ、感覚低下、聴力低下、耳鳴り、めまい |
脳腫瘍の罹患率と生存率
国立がん研究センターのがん統計2015年によると、新たに脳腫瘍と診断された人は、男性3,091人、女性2,684人、合計5,775人でした。
男性は50歳代後半から徐々に増え始め、80歳前後をピークにその後は減少していました。女性は50歳代後半から徐々に増え始め、65歳~80歳くらいまでは横ばいで、80歳代後半に再び増えていました。
2009年~2011年に何らかのがんと診断された人全体の5年相対生存率は、64.1%でした。一方、脳腫瘍の5年相対生存率は男性34.1%、女性37.4%でした。
※各がんのがん罹患率、生存率の最新情報は、がん情報サービス「がんの統計」をご参照ください。
参考文献:
日本脳腫瘍学会 日本脳神経外科学会 脳腫瘍診療ガイドライン2019年版.金原出版
日本脳腫瘍学会 日本脳神経外科学会 臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約第4版.金原出版
国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)