脳腫瘍の治療・PCNSL

中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)と診断された際の、治療選択と治療法を紹介します。

中枢神経系原発悪性リンパ腫とは

 中枢神経系原発悪性リンパ腫は、診断時に中枢神経系以外の病巣がなく、リンパ節以外に発生したリンパ腫(節外性のリンパ腫)です。近年増加傾向にあり、全脳腫瘍のうち約5%が中枢神経系原発悪性リンパ腫といわれています。50~70歳代に多く、95%以上は非ホジキンリンパ腫のうちの、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫という種類に分類されます。

中枢神経系原発悪性リンパ腫の予後因子

 中枢神経系原発悪性リンパ腫の予後因子として「年齢」「全身状態」が重要とされています。「年齢」「全身状態」に加えて、「血清LDH値」「髄液タンパク濃度」「深部脳病巣」の5項目を点数化した予後分類が提唱され、さらに、より簡便な予後分類として、「年齢」と「全身状態」をもとに3つに分類した「recursive partitioning analysis (RPA) scoring system」が提唱されました。

RPA scoring system

クラス年齢全身状態生存期間(中央値)
クラス150歳未満8.5年
クラス250歳以上70以上3.2年
クラス350歳以上70未満1.1年

出典:日本脳腫瘍学会 日本脳神経外科学会 脳腫瘍診療ガイドライン2019年版.1.成人中枢神経系原発悪性リンパ腫.中枢神経系原発悪性リンパ腫の予後因子より作成

Karnofsky パフォーマンスステータス

スコア患者の状態
正常の活動が可能。特別な看護が必要ない100正常。疾患に対する患者の訴えがない。臨床症状なし
90軽い臨床症状はあるが、正常活動可能
80かなり臨床症状あるが、努力して正常の活動可能
労働することは不可能。自宅で生活できて、看護はほとんど個人的な要求によるもの。様々な程度の介助を必要とする70自分自身の世話はできるが、正常の活動・労働することは不可能
60自分に必要なことはできるが、ときどき介助が必要
50病状を考慮した看護および定期的な医療行為が必要
身の回りのことを自分でできない。施設あるいは病院の看護と同等の看護を必要とする。疾患が急速に進行している可能性がある40動けず、適切な医療および看護が必要
30全く動けず、入院が必要だが死はさしせまっていない
20非常に重症、入院が必要で精力的な治療が必要
10死期が切迫している
0

出典:Karnofsy DA.et al.Cancer1948:1(4):634-56より作成

中枢神経系原発悪性リンパ腫の診断

 中枢神経系原発悪性リンパ腫の疑いがある場合は、中枢神経系の検査と全身の検査が行われます。

 中枢神経系の検査では、MRIやCTなどによる画像検査が行われます。さらに、腫瘍の一部を摘出して組織を調べる生検が行われます。全身の検査は、中枢神経以外に病変が広がっていないか調べたり、他の疾患と鑑別したりするために行われます。

 生検は手術中に行われ、中枢神経系原発悪性リンパ腫と確認された場合は、中枢神経系以外に病変がないかを調べるCT、MRI、PET検査による全身を対象とした検査が行われます。画像検査のほか、血液検査や脳脊髄を調べる検査も行われます。また、組織検査で、神経膠腫など他の脳腫瘍と診断された場合は、摘出手術が行われます。

 中枢神経系原発悪性リンパ腫の患者さんの約1~2割は、眼球内に腫瘍ができている場合があるため、眼球内の検査も行われます。中枢神経系原発悪性リンパ腫はエイズ患者さんに多いため、HIV感染の有無も確認されます。

中枢神経系原発悪性リンパ腫の検査と診断
中枢神経系原発悪性リンパ腫の検査と診断
出典:日本脳腫瘍学会 日本脳神経外科学会 脳腫瘍診療ガイドライン2019年版.1.成人中枢神経系原発悪性リンパ腫.フローチャートより作成

中枢神経系原発悪性リンパ腫の治療

 中枢神経系原発悪性リンパ腫の初発治療は、寛解導入療法が適応となる患者さんに対しては、大量メトトレキサート療法をベースとする多剤併用化学療法と、それに続く全脳照射を主体とする放射線治療が行われます。寛解導入療法が適応とならない患者さんに対しては、放射線治療が選択されます。

 寛解導入療法後に完全奏効が得られた患者さんに対しては、地固め療法として全脳照射が行われます。部分奏効以下の場合は、全脳照射と局所照射が行われます。

中枢神経系原発悪性リンパ腫フローチャート
中枢神経系原発悪性リンパ腫フローチャート
出典:日本脳腫瘍学会 日本脳神経外科学会 脳腫瘍診療ガイドライン2019年版.1.成人中枢神経系原発悪性リンパ腫.フローチャートより作成

手術

 中枢神経系原発悪性リンパ腫の手術は、摘出した病変の組織を調べる目的で行われます。検査(生検)は手術中に行われます。手術による生検は、頭蓋骨に小さな穴を開け細い針を挿入し組織を採取する「定位脳手術」により行う場合と、頭蓋骨を外して行う「開頭手術」により行う場合の2つがあります。

ステロイド療法

 ステロイド投与は腫瘍溶解作用があるため、急速な腫瘍縮小効果があります。しかし、この効果は一過性で、直ぐに再燃するため根治的治療ではなく、症状緩和を目的に行われます。また、生検前のステロイドの使用は、生検の精度に影響があるため、症状緩和が必要ない限り極力行わないことが推奨されています。

放射線治療

 中枢神経系原発悪性リンパ腫の放射線治療は、眼球内への進展がない場合は、眼球後半部を含んだ全脳照射が推奨されています。眼球内への進展がある場合は、全眼球を含んだ全脳照射が推奨されています。

 寛解導入療法で完全奏効が得られた場合の放射線治療は、地固め療法として23.4~36Gy(1回1.5~2.0Gy)の全脳照射が推奨されています。

 寛解導入療法で部分奏効以下の場合は、救済照射として30~45Gy(1回1.5~2.0Gy)を全脳照射し、病変局所に対して総線量36~45Gyの照射が推奨されています。

 化学療法が不適応の場合は、代替治療として30~50Gy(1回1.5~2.0Gy)を全脳照射し、病変局所に対して総線量40~50Gyの照射が推奨されています。

 症状緩和を目的とした放射線治療では、30~36Gy程度(1回2.5~3.0Gy)の全脳照射が推奨されています。

化学療法

 中枢神経系原発悪性リンパ腫の寛解導入療法では、大量メトトレキサートを含む多剤併用用法が推奨されています。併用される薬剤は、プロカルバジン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、チオテバ、シタラビン、カルムスチン、リツキシマブなどです。

 点滴などで体の血管へ投与した薬剤を脳に届けようとした場合、体と脳の間には関門(血液脳関門)があり、通過できる薬剤とできない薬剤があります。リツキシマブは、全身性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては有効な薬剤ですが、中枢神経系原発悪性リンパ腫に対しては、血液脳関門を通過できないと考えられていました。しかし、初期の中枢神経系原発悪性リンパ腫は、血液脳関門が破綻しており、こうした薬剤も通過できると考えられることから、初期治療ではリツキシマブを追加する併用療法が主流となっています。

主な多剤併用療法

(R)-MPV-A療法(リツキシマブ)、メトトレキサート、プロカルバジン、ビンクリスチン、シタラビン
(R)-MA療法(リツキシマブ)、メトトレキサート、シタラビン

中枢神経系原発悪性リンパ腫の再発と高齢者の治療

 再発時の中枢神経系原発悪性リンパ腫の標準治療は、まだ確立されていません。大量メトトレキサートを含む多剤併用療法による寛解導入療法で、長期の奏効が得られた患者さんに対しては、再発治療として大量メトトレキサートを含む治療を試みることも可能とされています。

 また、初回治療で全脳照射を行っていない場合、もしくは追加照射が可能な場合は、再発時に全脳照射を行うことも可能とされています。

高齢者の治療

 中枢神経系原発悪性リンパ腫の半数は60歳以上で、高次脳機能性障害や治療に関連した遅発性中枢神経障害が起きやすくなります。そのため、高齢者の中枢神経系原発悪性リンパ腫患者さんに対しては、遅発性中枢神経障害の発生を軽減する治療が行われます。

 導入化学療法として大量メトトレキサートを含む併用療法により完全奏効が得られた患者さんに対しては、全脳照射を減量もしくは待機とする治療法が考慮されます。

参考文献:
日本脳腫瘍学会 日本脳神経外科学会 脳腫瘍診療ガイドライン2019年版.金原出版
日本脳腫瘍学会 日本脳神経外科学会 臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約第4版.金原出版

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