神経内分泌腫瘍の検査・診断
神経内分泌腫瘍の疑いが…となったら、どんな検査を受け診断が行われるのかを紹介します。
神経内分泌腫瘍の検査・診断
ホルモン症状がある機能性NENでは、それぞれ特有の症状を調べる検査が行われます。ホルモン症状が認められない非機能性NENでは、腫瘍を確認する画像検査が行われます。
インスリノーマ
インスリノーマの主な症状は、空腹時の低血糖で、自律神経症状や中枢神経症状がみられることあります。そのため、最初に低血糖の鑑別診断を行うことが推奨されています。
低血糖の鑑別診断では、「低血糖に合致する症状がある」「症状があるときの血糖値が低い」「血糖上昇処置により症状が改善する」の3つ(Whippleの3徴)が確認されます。Whippleの3徴が認められた場合は、低血糖の確定診断の検査が行われます。空腹時低血糖が認められる場合は「72時間絶食試験」、食後のみに低血糖が認められる場合は「混合食試験」による検査が推奨されています。
インスリノーマの疑いがある場合は、腫瘍を確認するために、超音波検査、CT、MRI、超音波内視鏡下穿刺吸引法などの画像検査が推奨されています。画像検査で腫瘍が確認できない場合には、カルシウム溶液を用いた選択的動脈内刺激物注入試験(SASIテスト)が推奨されています。SASIテストは、腫瘍に栄養を届けている動脈にカルシウムを直接注入し、反応性を見ることで機能性NETがその動脈支配領域にあるかどうかを見る検査です。
ガストリノーマ
ガストリノーマでは、胃液の分布を促すホルモンであるガストリンが過剰分泌するため、消化性潰瘍が9割以上の患者さんにみられます。この場合の潰瘍は1cm以内の単発性潰瘍が多く、腹痛や脂肪性の下痢症状も多くみられます。
ガストリノーマの検査では、「空腹時ガストリン値」と「胃液pH測定」が必須とされ、カルシウム静注試験も有用とされています。
ガストリノーマと診断された場合は、腫瘍を調べるためMRI、CT、超音波検査、内視鏡、超音波内視鏡下穿刺吸引法、SASIテスト、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS)などの検査が、症状に応じて行われます。
SRSは、ソマトスタチン受容体に結合する類似物質に、診断用の放射性同位元素「インジウム」を付加した薬剤「ペンテトレオチド(製品名:オクトレオスキャン)を注射して行う画像検査です。
また、多発性内分泌腫瘍1型(MEN1)では、ガストン刺激による胃酸分泌増加により起こる多発性の消化性潰瘍やガストリン値の上昇がみられます。そのため、合併診断を目的に、「血中補正カルシウム値」と「インタクトPTH※」の測定が推奨されています。
※血中にある分解されずに完全な形で存在する副甲状腺ホルモン。副甲状腺ホルモンの主な働きは、血中カルシウム濃度の維持。
多発性内分泌腫瘍1型(MEN1)の詳しい解説は、QLife遺伝性疾患プラスの記事もご参照ください。
その他の機能性膵・消化管NEN
インスリノーマ、ガストリノーマ以外の機能性膵・消化管NETには、「グルカゴノーマ」「VIPオーマ」「ソマトスタチノーマ」「機能性消化管NET(カルチノイド症候群)」などがあります。
こうした機能性NETが疑われるホルモン症状や身体症状がある場合は、それぞれ疑われる機能性NETに応じたホルモン測定や、血液検査により、鑑別診断が行われます。
機能性NETと診断された場合は、腫瘍を調べるためMRI、CT、超音波検査、内視鏡、SASIテスト、SRSなどの検査が必要に応じて行われます。また、組織を調べるための生検も行われ、必要に応じて超音波内視鏡下穿刺吸引法も行われます。
MEN1との鑑別診断として、「家族の病歴」「血中補正カルシウム値」「インタクトPTH測定」が行われます。
その他の機能性膵・消化管NETの症状と検査
タイプ | ホルモン | 症状 | 検査 |
グルカゴノーマ | グルカゴン | 遊走性壊死性紅斑、耐糖能障害や糖尿病・低アミノ酸血症・低アルブミン血症、体重減少、貧血、静脈血栓症や精神神経症状(失調症状、認知症、視神経萎縮、近位筋筋力低下) | 血漿グルカゴン測定と血中アミノ酸濃度測定 |
VIPオーマ | VIP | 大量の水様性下痢、低カリウム血症、低クロール血症、代謝性アシドーシス また低カリウム血症や脱水による疲労感・筋力低下、息切れ、筋肉の痙攣、こむら返り 嘔気、嘔吐、皮膚紅潮や高血糖、高カルシウム血症 | 血漿VIP測定(国内測定不可) 便の浸透圧差を測定 |
ソマトスタチノーマ | ソマトスタチン | 体重減少、腹痛のほか、糖尿病、胆石症、脂肪便、下痢、貧血など 無症状の場合も多い | 血漿ソマトスタチン測定(国内測定不可) |
カルチノイド (カルチノイド症候群) | セロトニン プロスタグランジン ヒスタミン ブラジキニンなど | 下痢、皮膚紅潮、喘息、心不全(特に右心系)、ペラグラ症状 (うろこ状の肌荒れ、舌炎、口角炎)など | 尿中5-HIAA(24時間蓄尿)測定(疑陽性に注意) 血中クロモグラニンA測定(保険未収載) |
非機能性膵・消化管NEN
非機能性NENでは特異的な症状がないため、主に画像検査が行われます。組織診断を行う場合は、超音波内視鏡下穿刺吸引法が推奨されています。
膵NENの疑いがある場合は、超音波検査、CTなどの検査が行われ、膵腫瘍が認められる場合は、必要に応じてダイナミックCT、MRI、造影超音波検査、生検(超音波内視鏡下穿刺吸引法)、SRS、PDG-PET/CT検査が行われます。膵NENと診断された場合は、転移の有無を調べるための検査が必要に応じて追加されます。また、多発性の膵NETの場合は、MEN1の可能性を考慮して診断が行われます。
消化管NENの疑いがある場合は、内視鏡検査が行われます。潰瘍性の病変が認められる場合は、内視鏡を使った生検が行われます、消化管NENと診断された場合は、CT、MRI、SRSなどにより転移の有無を調べる検査が行われます。
神経内分泌腫瘍のステージ分類
膵・消化管NETのステージ分類は、原発腫瘍の大きさや浸潤の程度(T分類)、リンパ節への転移(N分類)、遠隔部位への転移(M分類)で決定されますが、発生部位により、異なります。
- T:原発腫瘍の大きさや浸潤の程度
- N:リンパ節への転移
- M:遠隔部位への転移
膵臓
膵NETのTNM分類
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 膵内に限局し、最大径が2cm以下の腫瘍 |
T2 | 膵内に限局し、最大径が2cmを越えるが4cm以下の腫瘍 |
T3 | 膵内に限局し、最大径が4cmを越える腫瘍または十二指腸もしくは胆管に浸潤する腫瘍 |
T4 | 隣接する臓器(胃、脾、結腸、副腎)または大血管(腹腔動脈幹または上腸間膜動脈)の血管壁に浸潤する腫瘍 |
NX | 所属リンパ節転移が不明 |
N0 | 所属リンパ節に転移がない |
N1 | 所属リンパ節に転移 |
M0 | 遠隔転移がない |
M1 | 遠隔転移がある |
膵NETのステージ分類
ステージ | T | N | M |
1 | T1 | N0 | M0 |
2 | T2、3 | N0 | M0 |
3 | T4 | N0 | M0 |
Tに関係なく | N1 | M0 | |
4 | Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
胃
胃NETのTNM分類
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 粘膜または粘膜下層に浸潤し、かつ最大径が1cm以下の腫瘍 |
T2 | 固有筋層に浸潤する腫瘍、または最大径が1cmを超える腫瘍 |
T3 | 漿膜下層に浸潤する腫瘍 |
T4 | 臓側腹膜(漿膜)を貫通する腫瘍、または他の臓器もしくは隣接構造に浸潤する腫瘍 |
NX | 領域リンパ節転移が不明 |
N0 | 領域リンパ節に転移がない |
N1 | 領域リンパ節に転移 |
M0 | 遠隔転移がない |
M1 | 遠隔転移がある |
M1a | 肝転移のみ |
M1b | 肝外転移のみ |
M1c | 肝転移および肝外転移 |
胃NETのステージ分類
ステージ | T | N | M |
1 | T1 | N0 | M0 |
2 | T2、3 | N0 | M0 |
3 | T4 | N0 | M0 |
Tに関係なく | N1 | M0 | |
4 | Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
十二指腸/膨大部
十二指腸/膨大部のTNM分類
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 十二指腸:粘膜または粘膜下層に浸潤し、かつ最大径が1cm以下の腫瘍 膨大部:最大径が1cm以下かつOddi括約筋に限局する腫瘍 |
T2 | 十二指腸:固有筋層に浸潤する腫瘍、または最大径が1cmを超える腫瘍 膨大部:括約筋を超えて十二指腸粘膜下層もしくは固有筋層に浸潤する腫瘍。または最大径が1cmを超える腫瘍 |
T3 | 膵臓または膵臓周囲の脂肪組織に浸潤する腫瘍 |
T4 | 臓側腹膜(漿膜)を貫通する腫瘍、または他の臓器に浸潤する腫瘍 |
NX | 領域リンパ節転移が不明 |
N0 | 領域リンパ節に転移がない |
N1 | 領域リンパ節に転移 |
M0 | 遠隔転移がない |
M1 | 遠隔転移がある |
M1a | 肝転移のみ |
M1b | 肝外転移のみ |
M1c | 肝転移および肝外転移 |
十二指腸/膨大部NETのステージ分類
ステージ | T | N | M |
1 | T1 | N0 | M0 |
2 | T2、3 | N0 | M0 |
3 | T4 | N0 | M0 |
Tに関係なく | N1 | M0 | |
4 | Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
空腸/回腸
空腸/回腸NETのTNM分類
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 粘膜または粘膜下層に浸潤し、かつ最大径が1cm以下の腫瘍 |
T2 | 固有筋層に浸潤する腫瘍、または最大径が1cmを超える腫瘍 |
T3 | 固有筋層を超えて漿膜下層に浸潤するが、(空腸または回腸の)漿膜には浸潤しない腫瘍 |
T4 | 臓側腹膜(漿膜)を貫通する腫瘍、または他の臓器もしくは隣接構造に浸潤する腫瘍 |
NX | 領域リンパ節転移が不明 |
N0 | 領域リンパ節に転移がない |
N1 | 領域リンパ節の転移が12個未満で、腸間膜腫瘤の大きさが2cmを超えない |
N2 | 領域リンパ節の転移が12個以上、および/または腸間膜腫瘤の最大径が2cmを超える |
M0 | 遠隔転移がない |
M1 | 遠隔転移がある |
M1a | 肝転移のみ |
M1b | 肝外転移のみ |
M1c | 肝転移および肝外転移 |
空腸/回腸NETのステージ分類
ステージ | T | N | M |
1 | T1 | N0 | M0 |
2 | T2、3 | N0 | M0 |
3 | T4 | Nに関係なく | M0 |
Tに関係なく | N1、N2 | M0 | |
4 | Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
虫垂
虫垂NETのTNM分類
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 最大径が2cm以下の腫瘍 |
T2 | 最大径が2cmを超えるが4cm以下の腫瘍 |
T3 | 最大径が4cmを超える腫瘍、または漿膜下層に浸潤もしくは虫垂間膜に浸潤する腫瘍 |
T4 | 腹膜を貫通する腫瘍、または隣接する漿膜下層への直接の壁面進展を除く、他の隣接臓器もしくは構造(例:腹壁および骨格筋)に浸潤する腫瘍 |
NX | 領域リンパ節転移が不明 |
N0 | 領域リンパ節に転移がない |
N1 | 領域リンパ節の転移あり |
M0 | 遠隔転移がない |
M1 | 遠隔転移がある |
M1a | 肝転移のみ |
M1b | 肝外転移のみ |
M1c | 肝転移および肝外転移 |
虫垂NETのステージ分類
ステージ | T | N | M |
1 | T1 | N0 | M0 |
2 | T2、3 | N0 | M0 |
3 | T4 | N0 | M0 |
Tに関係なく | N1 | M0 | |
4 | Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
結腸/直腸
結腸/直腸NETのTNM分類
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 粘膜固有層もしくは粘膜下層に浸潤する腫瘍、または大きさが2cm以下の腫瘍 |
T1a | 大きさが1cm未満の腫瘍 |
T1b | 大きさが1~2cmの腫瘍 |
T2 | 固有筋層に浸潤する腫瘍、または最大径が2cmを超える腫瘍 |
T3 | 漿膜下層、または腹膜被膜のない結腸もしくは直腸の周囲組織に浸潤する腫瘍 |
T4 | 臓側腹膜を貫通する腫瘍、または他の臓器に浸潤する腫瘍 |
NX | 領域リンパ節転移が不明 |
N0 | 領域リンパ節に転移がない |
N1 | 領域リンパ節の転移あり |
M0 | 遠隔転移がない |
M1 | 遠隔転移がある |
M1a | 肝転移のみ |
M1b | 肝外転移のみ |
M1c | 肝転移および肝外転移 |
結腸/直腸NETのステージ分類
ステージ | T | N | M |
1 | T1 | N0 | M0 |
2A | T2 | N0 | M0 |
2B | T3 | N0 | M0 |
3A | T4 | N0 | M0 |
3B | Tに関係なく | N1 | M0 |
4 | Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
参考文献:
日本神経内分泌腫瘍研究会 膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン第2版作成委員会編.膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019【第2版】.金原出版
UICC日本委員会 TNM委員会訳.TNM悪性腫瘍の分類第8版日本語編.金原出版