神経内分泌腫瘍の治療

神経内分泌腫瘍と診断された際に行われる、治療法を紹介します。

神経内分泌腫瘍の治療

 神経内分泌腫瘍(NEN)の治療では、「手術」「薬物療法」「ホルモン療法」「局所療法(ラジオ波焼灼法・肝臓脈塞栓術・化学塞栓術)」「放射性核種標識ペプチド治療(PRRT)」「支持療法」など、さまざまな治療を組み合わせた集学的治療が行われます。

手術

 切除可能な神経内分泌腫瘍の第1選択は、手術です。「核出術」「膵頭十二指腸切除術」「膵体尾部切除術」「胃全摘出術」など、腫瘍が発生した部位や大きさにより、術式が選択されます。

 核出術は、腫瘍の大きさが小さく1か所の病変に対して、腫瘍をのみを摘出する手術です。

 膵頭十二指腸切除術は、膵頭部、胆嚢、周辺のリンパ節のほか、胃、小腸、胆管の一部を切除対象とする手術です。

 膵体尾部切除術は、膵体部と膵尾部を切除する手術で、がんが脾臓に拡がっていれば、脾臓も切除することもあります。

薬物療法

 NETの薬物療法では、ホルモン症状を緩和するための「ホルモン療法」や抗腫瘍効果を目的に行われる「化学療法」があり、ソマトスタチンアナログ製剤、分子標的薬、アルキル化製剤などが使用されます。

 インスリノーマ、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、VIPオーマ、カルチノイド症候群のホルモン症状に対しては、ソマトスタチンアナログ製剤による症状緩和を目的とした治療が推奨されています。

 インスリノーマの低血糖に対しては、ソマトスタチンアナログ製剤に加えジアゾキシドやエベロリムスによる治療が行われます。ガストリノーマによる潰瘍や下痢に対してはプロトンポンプ阻害薬、VIPオーマによる下痢や脱水に対しては電解質輸液、グルカゴノーマによる慢性的な赤褐色の発疹(遊走性壊死性紅斑)に対してはアミノ酸・脂肪酸の定期的輸注による治療が行われます。

膵・消化管NENに対する症状緩和を目的とした薬物療法
膵・消化管NENに対する症状緩和を目的とした薬物療法
出典:膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019年【第2版】.アルゴリズム15. 膵・消化管 NEN に対する薬物療法(症状緩和)より作成

 膵NETに対する薬物療法では、ソマトスタチンアナログ製剤(ランレオチド)、エベロリムス、スニチニブが推奨され、ストレプトゾシンも治療選択肢の1つとして考慮されます。

 消化管NETに対する薬物療法では、ソマトスタチンアナログ製剤(オクトレオチドLAR・ランレオチド)、エベロリムスが推奨され、これらの薬剤が適応とならない場合は、ストレプトゾシンが選択肢となります。

 膵・消化管NECに対する薬物療法では、小細胞肺がんで使用されるプラチナ製剤とエトポシドまたはイリノテカンの併用療法が推奨されています。

膵・消化管NENに対する薬物療法(抗腫瘍薬)
膵・消化管NENに対する薬物療法(抗腫瘍薬)
出典:膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019年【第2版】.アルゴリズム17. 膵・消化管 NEN に対する薬物療法(抗腫瘍薬)より作成

局所療法(ラジオ波焼灼術・肝臓脈塞栓術・化学塞栓術)

 肝転移に対する局所療法として、ラジオ波焼灼術・肝臓脈塞栓術・化学塞栓術が行われます。

 ラジオ波焼灼術は、超音波でがんの位置を確認しながら電極付きの針を差し込み、針先から照射するラジオ波の熱で腫瘍を死滅させる治療法です。

 肝動脈塞栓療法は、肝動脈にカテーテルを入れ、肝動脈を詰まらせることでがん細胞への血流を遮断して兵糧攻めにする治療法です。

 肝動脈化学塞栓療法は、肝動脈塞栓療法と同様に肝動脈にカテーテルを入れ、抗がん剤とがん細胞に取り込まれやすい造影剤を投与し、肝動脈を詰まらせる物質を注入して腫瘍を攻撃する治療法です。

放射性核種標識ペプチド治療(PRRT)

 ルテチウムオキソドトレオチド(177Lu)による放射性核種標識ペプチド療法は、2021年6月に「ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍」の効能または効果で承認された新しい治療法です。

 ルテチウムオキソドトレオチド(177Lu)は、ソマトスタチン類似物質を放射性同位元素のルテチウム177で標識した医薬品で、NENで高発現するソマトスタチン受容体に結合し、ルテチウム177から出る放射線でがん細胞を直接攻撃します。

 「放射線治療病室」もしくは「特別な措置を講じた病室」での入院治療が必要なため、治療可能な施設が限られており、二次治療以降で治療法がない患者さんに対して実施されているのが現状です。

神経内分泌腫瘍の再発・転移の治療

 膵・消化管NENの再発・転移に対する治療は、集学的治療が行われます。

 治癒切除不能な再発膵・消化管NETでは、抗腫瘍薬を中心とした集学的治療が行われます。肝臓、肺、腹膜転移、腹腔内リンパ節転移に対する手術は、完全切除が可能な場合に行われます。また、切除不能な肝転移に対しては、ラジオ波焼灼術・肝臓脈塞栓術・化学塞栓術が行われます。

 ホルモン症状がある場合は、症状を緩和するため薬物療法や減量手術が行われることがあります。また、腹膜播種や原発巣による臓器の圧排(圧迫により排除された状態)、狭窄、閉塞などの症状がある場合は、消化管バイパス手術、人工肛門の増設、胃瘻造設などが行われます。また、胆道の狭窄による黄疸がある場合は、内視鏡的消化管ステント留置術、内視鏡的胆道ステント留置術なども行われます。

 完全切除が見込めない場合は、内分泌症状の緩和を目的として薬物療法が行われます。また、予後やQOLの改善を目的とした手術も考慮されます。骨転移に対しては、疼痛緩和を目的とした放射線治療が行われます。

肝転移・再発病巣に対する治療
肝転移・再発病巣に対する治療
肝転移・再発病巣に対する治療
出典:膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019年【第2版】.アルゴリズム16. 膵・消化管 NEN の転移病巣,再発病巣に対する治療より作成

参考文献:
日本神経内分泌腫瘍研究会 膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン第2版作成委員会編.膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019【第2版】.金原出版

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