肝臓がんの再発に備え、肝機能改善のための肝炎ウイルス治療や生活改善が重要

建石良介先生
監修:東京大学大学院医学系研究科がんプロフェッショナル養成プラン(消化器内科)特任講師 建石良介先生

2017.12 取材・文:町口充

 肝臓がんは再発する可能性が高いがんです。切除手術でがんを取り切れたとしても、8割の人が5年以内に再発します。その理由は、肝臓がんが主に肝炎ウイルスの感染などによる慢性肝疾患から生じるためで、がんを完全に切除したとしても肝疾患による障害が改善されなければ、残った肝臓から新たながんが発生します。このため、再発予防には肝炎の治療が大きな役割を果たします。

肝臓がんのほぼ100%は慢性肝炎が原因

 発生要因が不明ながんが多いなかで、肝臓がんは主要な発生要因が明らかになっています。第一の要因は、感染した肝炎ウイルスが排除されず、体内に保有した状態である持続感染(肝炎ウイルスキャリア)による慢性肝炎です。非ウイルス性も含めれば、肝臓がんの100%近くが何らかの慢性肝炎の患者さんから発生しています。

 肝臓は本来、あまりがんが発生しない臓器です。がんは細胞分裂時に遺伝子に傷がつきがん化しますが、肝臓の細胞は通常はほとんど分裂しないためです。

 ところが、肝炎になると話は違ってきます。肝炎により細胞が攻撃されて壊死が起こると、再生のための細胞分裂が繰り返されるようになり、がんが発生しやすくなります。

肝臓の旺盛な再生能力とその限界

 ほとんどの臓器は手術などで切除されるとそのまま永久に体から失われますが、肝臓は残った細胞が分裂を繰り返して元の大きさに戻ります。したがって、切除手術を受けたとしても、慢性肝炎のない正常な肝臓の場合は、おおよそ2週間ぐらいで元の体積くらいまで再生するといわれています。血管や胆管などの機能的な再生にはもう少し時間がかかるものの、2~3か月以内には回復します。

 ただし、それはあくまで正常な肝臓の場合です。慢性肝炎や、特に肝硬変の状態では再生能力は低下します。さらに、ある程度進んだ肝硬変では再生しないばかりか、切除後より萎縮が進むこともあります。

肝臓がんの再発予防に欠かせない慢性肝炎の治療とは

 初回治療でがんが排除された後でも、肝炎ウイルスを体内に保有している人の場合では、肝臓の再生が進みにくいばかりか、再びがんが発生する可能性があります。また、肝炎ウイルスをもたない人でもアルコール摂取や肥満に伴う脂肪肝などが原因で慢性肝炎が進んでいる状態では、やはり新たながんが生じやすくなります。したがって、再発予防のためには肝炎ウイルスの排除と慢性肝炎の治療が大切です。

 ただし、肝炎ウイルスを排除すればすぐに効果が現れて、再発のリスクが減るかというとそう簡単にはいきません。肝炎ウイルスを体内から排除して2年目以降ぐらいから徐々に再発が減っていくと考えられています。それまでは、肝炎を沈静化させ肝機能を良好に保っていくことで生存期間を延ばす効果に期待します。

B型肝炎は核酸アナログ製剤で高い改善効果

図:肝細胞がんの要因
図:肝細胞がんの要因
日本肝癌研究会,第19回全国原発性肝癌追跡調査:
2006~2007年を参考に作成

 肝炎ウイルスにはA型、B型、C型、D型、E型などさまざまな種類がありますが、がんの主要な原因となるのはB型とC型の肝炎ウイルスです。日本肝癌研究会が行った「第19回全国原発性肝癌追跡調査報告」によれば、肝細胞がん患者のうち、15.1%がB型肝炎ウイルス陽性例、64.7%がC型肝炎ウイルス陽性例でした。2つのグループで全体の8割を占めています(図)。

 再発予防のための肝炎治療は、B型の場合、注射薬であるインターフェロンと内服薬の核酸アナログ製剤の2つの抗ウイルス薬の投与に大きく分けられます。

 B型肝炎ウイルスをもっている人が肝臓がんになる場合の平均年齢はおおよそ62歳ぐらいといわれており、若い年代でも50歳ぐらいまでです。現在は、若い世代を除いてインターフェロンが使用されることはまれで、ほとんどの場合、核酸アナログ製剤による治療が行われます(表1)。これにより、ほとんどの人で肝機能を改善させることができます。

 ただし、B型肝炎ウイルスはキャリア状態になると完全に排除するのが難しいという特徴があります。このため、B型肝炎ウイルスが血液中から検出されなくなっても核酸アナログ製剤の服用を続ける必要があります。安全に途中で中止できるのはどのようなケースかについて研究が行われていますが、実際は中止できるのは少数で、肝臓専門医の指導なしに核酸アナログを中止するのは大変危険です。

表1:核酸アナログ製剤(B型肝炎治療の主な薬)

一般名製品名
エンテカビルバラクールド
テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩テノゼット
テノホビル アラフェナミドフマル酸塩ベムリディ
アデホビル ピボキシルヘプセラ
ラミブジンゼフィックス

C型肝炎は直接作用型抗ウイルス薬によるウイルス完全排除が可能に

 C型肝炎に対して、かつてはインターフェロンを基本にした治療が行われていましたが、現在インターフェロンはほとんど使われなくなり、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)と呼ばれる飲み薬が第一選択になっています(表2)。

 この薬が用いられる理由の1つはインターフェロンに比べてDAAの副作用が圧倒的に少ないからです。このため、これまでは適応外となっていた高齢者や肝機能障害がかなり進んだ人にも投与できます。2つめは効果がきわめて高い点で、100%近くの人でウイルスの排除が可能となっています。1日1錠を8週間から12週間(多くは12週間)服用し続けて、投与中止24週後にウイルスが駆除されたことが確認できれば、その後は、再治療する必要はありません。

 画期的な治療であり、患者さんにとっては待ちわびていた薬といえます。B型肝炎についてはまだこうした薬は登場していません。

表2:直接作用型抗ウイルス薬:DAA(C型肝炎治療の主な薬)

一般名製品名
遺伝子1型
レジパスビル・ソホスブビル配合ハーボニー
オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合ヴィキラックス
ダクラタスビル・アナスプレビル・ベクラブビル配合ジメンシー
グラゾプレビル+エルラスビルクラジナ+エルレサ
遺伝子2型
ソホスブビル+リバビリンソバルディ+レベトール
オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合+リバビリンヴィキラックス+レベトール
すべての遺伝子型
グレカプレビル・ピブレンタスビルマヴィレット

肝臓がんの原因で増加傾向にあるアルコール性肝炎や非アルコール性のNASH

 ウイルス性肝炎以外に、最近増えているのがアルコール性の肝炎や非アルコール性脂肪肝炎NASH(ナッシュ)などを背景とした非ウイルス性の肝臓がんです。かつてウイルス性肝臓がんが全体の90%を占めるといわれていましたが、肝炎ウイルスに対する治療の進歩により最近では60%ぐらいに減少している一方、非ウイルス性肝臓がんの割合が増加しています。

 アルコール性肝炎による肝臓がんの再発予防では、禁酒が一番であり、多くのケースで肝機能の改善が認められています。しかし、病気が進行しすぎている場合は禁酒しても肝機能が悪化し続ける場合があります。

 NASHに関しては、薬物療法で長期的な効果が確証されているものは残念ながらありません。肥満とのかかわりが大きいため、体重の減量がNASHの病態を改善する可能性があります。しかし、病気が進行しすぎている場合はかえって栄養障害をきたし、逆効果になることもあります。

肝疾患の患者さんは、偏った食事をせず、適度の運動習慣を

 生活面については、食事内容で強く勧められるものは特にありません。かつては高蛋白食が推奨されていた時期もありましたが、特に肥満の人では高カロリー摂取になりやすいので注意が必要です。

 体を適度に動かすことは有効です。食事をした後は横になって安静にするほうがいいといわれた時期もありましたが、現在では、肝疾患の患者さんにおいても適切な運動は肥満を防ぎ、筋肉量を維持するうえで重要であると考えられています。偏った食事をしないで適度の運動を心がける──これが生活面での一番のアドバイスです。

肝臓がんの再発は、残った肝臓の状態次第

 このような再発予防に取り組んだ場合でも、初回治療後の再発率が高いのが肝臓がんです。多くのがんでは、治療によりがんが消失してから5年経過後までに再発がなければ治癒とみなすため、5年生存率が、がん治療がうまくいったかどうかの目安となっています。ところが、肝臓がんの再発は5年~10年目までに起こる率も高く、10年間再発しなかった場合でも11年目に再発が起こる可能性があります。その理由は冒頭でも述べたように、発がんしやすい状態にある肝臓が残っているためです。一方で、肝移植を受けた場合は5年をすぎてからの再発はまれです。

再発肝臓がんの治療選択基準とは
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プロフィール
建石良介(たていしりょうすけ)

1995年 東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院内科、三井記念病院消化器内科で研修
2002年 東京大学医学部附属病院消化器内科医員
2005年 三井記念病院消化器内科医長
2006年 東京大学医学部附属病院消化器内科助手
2007年 東京大学医学部附属病院消化器内科助教
2008年 東京大学医学部附属病院消化器内科医局長
2013年 東京大学がんプロフェッショナル養成プラン(消化器内科)特任講師