初診こそ、飾らず隠さずリラックス
わたしは医師ですが、患者として受診することもあります。そういう場合、「前の患者さんが診察室を出て10分くらい経っているのに…」、「どうしてこんなに待たせるんだろう、わたしの状況は悪いに違いない」といったように“もやもや”しながらも、耐えています。患者さんは英語で「patient」といいますが、この言葉には辛抱強い、我慢強いという意味もあります。「The patients really should be patient!」すなわち、「患者はまさしく辛抱強くなくてはならない」という感じです。
さて、自分が「“がん”かもしれない」もしくは「“がん”と診断された」場合、患者さんはいつも以上に緊張しながら診察室へ入ることになるでしょう。それは、がんを治療する医師にはとっては日常でも、患者さんにとっては人生でとても緊張する一瞬だと思います。通常がんに携わる医師は、診察の前に患者さんの状況を把握して、ある程度シナリオを作って患者さんと向き合います。例えば、紹介状に目を通して、必要な検査はすでにおこなっているか?足りない検査はないか?などを確認します。その他にも、血液データや呼吸機能検査結果を確認し、CT、MRI、PET/CTといった画像検査結果を自分の目で確認して、紹介元の医師の診立ては正しいか?見落としや誤りはないか?などを確認しなければいけません。実は、患者さんが診察室に入ってくる前に、医師はこのような業務をおこなっています。診療前の予習時間は、診察のときと同じくらい集中しなければいけない重要な時間なのです。
予習が終わったら、いよいよ患者さんと家族の診察がはじまります。医師は、患者さんの診察室への入り方から、しっかり観察しています。軽快に歩いて入ってくるか?よたよたとゆっくり歩いて入ってくるか?また、家族関係についても観察します。仲が良さそうな家族か?キーパーソンとなる家族はいるか?患者さんが邪険にされていないか?そして、患者さんの声に張りはあるか?緊張しているか?いらだっているか?疲れていないか?など、さまざまな要素について五感を働かせながら感じて、短時間で患者さんを把握しようとします。
患者さんが椅子に座り、こちらの話を聞く準備が整ったところで、目をしっかり合わせてゆっくりとわたしの自己紹介をします。そして、診療が始まります。わたしは、患者さんを温かく迎え入れて、患者さんの不安を取り除くことから診療は始まると考えています。医師が患者さんに信頼してもらうためには、最初の印象が大切です。もしかすると、“お見合い”と似ているかもしれません。ですから、患者さんも緊張すると思いますが、なるべくリラックスした状態で診察に臨んでほしいですね。
大船中央病院放射線治療センター長 武田篤也(たけだあつや)先生
1994年 慶應義塾大学 医学部卒業
1994~2004年 慶應義塾大学、防衛医科大学、都立広尾病院勤務
2005年 大船中央病院放射線治療センターを開設、現在センター長
慶應義塾大学客員講師、東海大学客員教授、東京医科歯科大学非常勤講師を兼務。肺がん、肝臓がんの体幹部定位放射線治療患者2000例を治療。
70以上の英文論文、2016年に専門書「The SBRT book」、2018年に「世界一やさしいがん治療」を刊行。