精密検査までが「がん検診」-検診の疑問に専門医が回答
2021.9 取材・文:がんプラス編集部
がんにはさまざまな種類がありますが、そのうち、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがんについて、「がん検診」を定期的に受けるよう国は推奨しています。そのがん検診、何を目的とした検査か知っていますか? がん検診の検診結果からわかること、メリットやデメリット、「経過観察」の意味など、検診について解説します。
がん検診は「がんで亡くなる人を減らすため」の検査
早期のがんでは、自覚症状はあまりありません。その一方で、ステージ別生存率をみると、より早期にがんを発見して治療を開始したほうが、生存率が高いことがわかります。症状がなくても検診を受診し、早い段階でがんを発見することは、自分の命を守ることにもつながります。もちろん、検診を受けていれば必ずがんを早期発見できるというわけではなく、少し進行した状態で見つかることもあります。しかしその場合でも、症状が現れる前に発見されたがんは、症状が出てから発見されたがんより治りやすいこともわかっています。いずれにしても、がん検診は、可能な限り早期にがんを発見し、治療を開始するためにとても重要です。
ステージ別5年生存率(2013年、相対生存率)
胃がん | 大腸がん | 肺がん | 乳がん | 子宮頸がん | |
---|---|---|---|---|---|
ステージ1 | 96.0% | 94.0% | 82.8% | 99.8% | 95.9% |
ステージ2 | 68.5% | 88.8% | 53.4% | 95.4% | 78.8% |
ステージ3 | 41.7% | 77.2% | 27.6% | 79.8% | 64.9% |
ステージ4 | 6.3% | 18.8% | 6.6% | 37.4% | 25.3% |
がん検診は、なるべく早くがんを見つけ、治療を開始することを目的に行われています。多くの人の中から「がんの疑いがある人」を見つけるために行われる検査を「スクリーニング検査」といいます。また、がんの疑いがある人が、「本当にがんなのか」を調べるために行われる検査は「精密検査」といいます。当然、スクリーニング検査で「がんの疑いがある」と言われた場合、その後に精密検査を受けなければ、がん検診を受けた意味がありません。つまり、「がんの疑いを見つけるスクリーニング検査」から、その後の「がんと診断する精密検査」までが一連のがん検診なのです。また、がん検診は「一度受ければ良い」といったものではなく、「毎年受け続けることで、どこかのタイミングで進行する前にがんを発見する」という考えに基づいて行われています。
がん検診には、対策型検診と任意型検診の2つがあります。対策型検診は、「検診を受けることで集団全体の死亡率が減少する」という有効性が医学的に証明されている検診で、検査項目、対象者、検診間隔などが厳密に決められています。現在、5つのがん種に対して、各自治体により住民検診として行われています。
任意型検診は、対策型検診以外の検診です。検診方法や提供体制はさまざまですが、医療機関や検診施設で行われている人間ドックなどが任意型検診です。一般的には、対策型検診より多岐にわたって検査を行うことが多いのですが、有効性が十分には評価されていない検査法が含まれていたり、対策型検診と同じ検査であっても撮影枚数や読影医の人数など、精度管理の方法に差がある場合もありますので、メリットやデメリットなどをよく理解した上で受けましょう。
対策型検診一覧
がん検診の種類 | 検診項目 | 対象者 | 検診間隔 |
---|---|---|---|
胃がん検診 | 問診、胃X線検査または 胃内視鏡検査 | 50歳以上 ※胃部X線検査は40歳以上に対し実施可 | 2年に1回 ※胃部X線検査は40歳以上に対し年1回実施可 |
大腸がん検診 | 問診、便潜血検査 | 40歳以上 | 毎年 |
肺がん検診 | 質問(問診)、胸部X線検査、喀痰細胞診 | 40歳以上 | 毎年 |
乳がん検診 | 問診、乳房X線検査(マンモグラフィ) | 40歳以上 | 2年に1回 |
子宮頸がん検診 | 問診、視診、細胞診、内診 | 20歳以上 | 2年に1回 |
対策型検診と任意型検診の比較
対策型検診 | 任意型検診 | |
---|---|---|
目的 | 対象集団全体の死亡率を下げる | 個人の死亡リスクを下げる |
概要 | 予防対策として行われる公共的なサービス | 医療機関・検診機関などが任意で提供するサービス |
検診対象者 | 構成員の全員 (一定の年齢範囲の住民など) | 定義されない |
検診費用 | 公的資金を使用 | 全額自己負担 |
利益と不利益 | 限られた資源の中で、利益と不利益のバランスを考慮し集団にとっての利益を最大化 | 個人のレベルで利益と不利益のバランスを判断 |
がん検診のメリット・デメリット
がん検診を受ける一番のメリットは、早期にがんが発見され、早期に治療を開始できることです。これにより、がんが進行してから発見されたときに比べ、生存率の高い時期に、体への負担がより少ない治療を受けられる可能性があります。治療費が抑えられる可能性もあるでしょう。これは、日本の社会全体でみると医療費の削減にもつながります。
一方で、がん検診を受けても、がんが見逃されてしまう可能性があるということは、知っておいてください。また、本当はがんではないのにがんの疑いがあると判断される可能性もあります。後者の場合、精密検査を受けるために時間やお金を費やすことになったり、がんかもしれないという不安から、精神的ダメージを受けたりする可能性もあります。さらに、放置しても生命に影響のない進行の遅いがんが発見されたために、患者さんに負担のかかる精密検査や治療が行われる「過剰診断」も課題となっています。
精密検査・経過観察の意味
がん検診の結果、「がんの疑いがある」と言われても、その時点では不安に思う必要はありません。「万が一がんだといけないので精密検査が必要」というくらいに考えるのが良いでしょう。がん検診の種類によっても異なりますが、がん検診で要精密検査とされた方の中からがんが見つかる確率は1%から5%程度という報告があります。
また、検診の結果「経過観察」となった人の中には、「経過観察で大丈夫なのか」「検査や治療を受けなくても良いのか」と心配になる方もいるようです。しかし、経過観察とは「何もしない」という意味ではなく、「次の検査で経過を観察する」という意味なので、その指示に従えば大丈夫です。あわてて病院へ行く必要はありません。
これとは別に、精密検査後に経過観察を指示されることもあります。例えば、子宮頸がんの疑いがあり、精密検査として細胞診を行った結果、がんではなかったものの、経過観察をした方が良いと判断される場合もあります。その場合は、医療機関から次回の検査について指示があるなど、適切な対応がなされているはずですので、それに従えば大丈夫です。
それでも結果に疑問がある場合は、担当医に質問し、納得できるまで説明を受けるのが一番良いと思います。また別の方法として、検査結果、紹介状を持って別の病院に行き、「セカンドオピニオン」を受けることも可能です。
任意型がん検診の注意点
対策型検診は、長い年月をかけ臨床試験を行った結果、そのがん検診を受けることで死亡リスクが減るというメリットが、デメリットを上回ることが科学的に証明されているものです。一方で任意型検診は、対象者、検査項目、検査方法、検査間隔などが、検診を行う施設によって独自に決められています。
任意型検診の多くは、対策型検診をより充実させた検診を目指してプログラムを考案していますが、中には、「簡単にがんが見つかる」と宣伝し、十分に検証されていないスクリーニング検査のみを行うものもあります。前述したようにがん検診は、スクリーニング検査で陽性となった場合に精密検査まで受けることで、がん検診としての意味をなします。任意型検診を受ける際には、このあたりをよく理解したうえで、「自己責任」で受ける必要があります。検査を申し込む前に、根拠となるデータをあらかじめよく読んでみることをお勧めします。
最後に、より簡便で負担の少ない検査法の開発も進んでいます。今後登場してくる可能性のある検査として、簡単に採取可能な血液や尿などの液体を用いた「リキッドバイオプシー」に関する研究が進められています。血液や尿中に微量に含まれるがん細胞やその遺伝子を検出することにより、がんの存在を発見する画期的な方法です。対策型検診としての実用化はまだまだ先の話ですが、体への負担が少ない検査法として期待されています。
プロフィール
小林 望(こばやし のぞむ)
1997年 三重大学医学部附属病院第二内科入局
2000年 国立がんセンター中央病院内視鏡部レジデント
2003年 国立がんセンター中央病院内視鏡部がん専門修練医
2005年 栃木県立がんセンター画像診断部医員
2007年 栃木県立がんセンター画像診断部医長
2016年 栃木県立がんセンター消化器内科科長/内視鏡センター長
2021年 国立がん研究センター中央病院検診センター長