リンパ浮腫

 リンパ浮腫とはどのような疾患なのか、基礎知識、検査・診断、予防とセルフケア、治療などに関して紹介します。

リンパ浮腫の基礎知識

 リンパ浮腫とはどのような疾患なのか、原因、生活関連因子など基礎知識を紹介します。

リンパ浮腫とは

 リンパ浮腫は、タンパク質を高濃度に含んだ体液が、何らかの原因によりリンパ管内に回収されず、間質(細胞と細胞の間にある空間)に溜まってしまう疾患です。水分が溜まるいわゆる浮腫(むくみ)とは異なる病態です。

 リンパ浮腫は、原発性(一次性)と続発性(二次性)の2つの病態に大別されます。原発性は、原因が特定できない特発性と遺伝子異常による先天性に分類されます。また、特発性は、35歳未満の早発性と35歳以上の晩発性に分類されます。

リンパ浮腫の原因

 続発性リンパ浮腫は、がん治療による後遺症として起こる場合のほか、外傷やフィラリア症(感染症)によるものがありますが、日本で最も多くみられるのは、センチネルリンパ節生検や腋窩郭清などの腋窩手術や術後の放射線治療、タキサン系抗がん剤などによるがん治療に伴うものです。続発性リンパ浮腫が起こる主ながん種は、乳がん、婦人科がん、前立腺がん、悪性黒色腫、下部泌尿器系がん、直腸がんなどがあります。

 生活に関連した因子として、「点滴による化学療法」と「患肢の感染」は、リンパ浮腫発症との関連が「ほぼ確実」とされています。「採血」「血圧測定」「空旅(飛行機の利用)と上肢」は大きな関連はなく、「通常の輸血」「空旅と下肢」「高温環境」「日焼け」は、証拠不十分とされています。

生活関連因子

採血大きな関連なし
点滴通常輸血証拠不十分
化学療法ほぼ確実
血圧測定大きな関連なし
空旅上肢大きな関連なし
下肢証拠不十分
感染ほぼ確実
高温環境証拠不十分
日焼け証拠不十分

出典:リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版 II.疫学・予防.CQ3より作成

リンパ浮腫の検査・診断

 リンパ浮腫の検査、診断、ステージ分類などを紹介します。

リンパ浮腫の検査

 リンパ浮腫の確定診断で最も有用とされている検査として、リンパシンチグラフィがあります。リンパシンチグラフィは、外科的治療の前後の評価としても行われことがあります。インドシアニングリーン(医療診断に使用されるシアニン色素)を用いたリンパ管の造影検査は、体表から2cm程度の深さまでならリンパ管の状態を観察することができます。また、超音波検査は、簡便で非侵襲的に皮膚下の水分の有無の程度を調べることができます。

 併存疾患や虚血肢※1の除外診断、鑑別診断を行うための検査として、CT検査、MRI検査、上肢・足関節血圧比検査、生体電気インビーダンス法※2での検査などが行われます。

 他疾患との鑑別診断を行うための検査として、血液生化学検査、胸部レントゲン検査、心電図検査。超音波検査などが行われます。

リンパ浮腫の検査一覧

確定診断
(機能、重症度、解剖学的位置の確認など)
リンパシンチグラフィ
SPECT-CTリンパシンチグラフィ
ICGを用いた蛍光リンパ管造影
MRリンパ管造影
局所の超音波検査
病状の確認
併存疾患の除外
鑑別診断
CT検査
MRI検査
上腕・足関節血圧比
生体電気インビーダンス法
他疾患との鑑別診断血液生化学検査
胸部レントゲン検査
心電図検査
超音波検査(心臓・血管・腹部・骨盤内など)

赤文字は、2024年2月現在、リンパ浮腫の診断方法としては日本では保険適用外。
出典:リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版.総論.表2より作成

※1動脈硬化によって動脈が狭くなったり詰まったりして、血行障害をおこす閉塞性動脈硬化症です。

※2からだに微弱な電流を流し、その際の電気の流れやすさを計測することで体組成を推定する方法。

リンパ浮腫の鑑別・確定診断

 片側性の浮腫は、以下の疾患で起こることがあります。

  • 急性深部静脈血栓症
  • 静脈血栓症後遺症
  • 関節炎
  • がんの存在または再発

 また、両側性の浮腫は、以下の疾患で起こることがあります。

  • うっ血性心不全
  • 慢性静脈機能不全症
  • 廃用性浮腫、うっ血性浮腫
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害
  • 低タンパク血症
  • 甲状腺機能低下/粘液水腫
  • 薬剤の副作用
  • 脂肪性浮腫

 そのため、リンパ浮腫の確定診断では、まず浮腫が起こる全ての疾患との鑑別診断が行われます。ほとんどの場合、鑑別診断では病歴が診断材料となるため問診が重要とされています。他の疾患による浮腫が除外されたら、リンパシンチグラフィによる検査で確定診断が行われます。

リンパ浮腫のステージ分類

 リンパ浮腫のステージ分類は、複数の基準がありますが、リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版では、国際リンパ学会分類を採用しています。

 国際リンパ学会分類では、ステージ0、1、2、2後期、3の5段階に分類されます。

リンパ浮腫のステージ分類(国際リンパ学会)

ステージ病態
0リンパ液輸送が障害されているが、浮腫が明らかでない潜在性または無症候性の病態。
1比較的タンパク質成分が多い組織間液が貯留しているが、まだ初期であり、四肢を挙げることにより軽減する。圧痕がみられることもある。
2四肢の挙上だけではほとんど組織の腫脹が改善しなくなり、圧痕がはっきりする。
2後期組織の線維化がみられ、圧痕がみられなくなる。
3圧痕がみられないリンパ液うっ滞性象皮病のほか、アカントーシス(表皮肥厚)、脂肪沈着などの皮膚変化がみられるようになる。

出典:リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版.総論.表3より作成

リンパ浮腫の予防とセルフケア

 がん治療を受けた患者さんに対する、リンパ浮腫の予防とセルフケアに関してご紹介します。

予防とセルフケア

 リンパ浮腫は、一度発症すると完治は困難ですが、適切なリスク管理や予防をすることで発症を抑制することができます。

 リンパ浮腫のセルフケアで最も重要なのは感染症予防と体重管理です。細菌の感染により炎症が起こると、リンパ浮腫を発症する可能性が高くなります。そのため、皮膚を清潔に保つ、保湿をする、日焼けをしないなどのスキンケアをすることが大切です。また、外傷、火傷、虫刺されなどによる皮膚障害にも注意が必要です。

 太りすぎにより皮下脂肪が増えるとリンパ管を圧迫するため、リンパ浮腫を発症する可能性が高くなります。そのため、適度な運動を行い、適正な体重を維持することが大切です。

 その他、日常生活で注意したいポイントは、以下の通りです。

疲労やストレス

 長時間の立ち仕事や同じ姿勢をとること、重い荷物を持つこと、過度の運動などは、リンパ浮腫を発症するリスクが高くなります。こまめに休憩をとったり、重い荷物を持つときは介助を頼んだりするなど、頑張りすぎないようにすることが大切です。

リンパの流れを妨げるような服装

 締め付けが強すぎる衣類やアクセサリーなどは、リンパの流れを妨げるため、リンパ浮腫を発症するリスクが高くなります。なるべく体を締め付けないような服装を心がけることが大切です。

 むくみは、リンパ節を切除した部位に近い場所で起こります。乳がん治療で腋窩リンパ節郭清を行った場合は切除した側の腕、卵巣がんなどで骨盤内のリンパ節を切除した場合は下肢で起こる可能性があります。

 そのため、重症化する前に早期発見し適切な対応をするために、セルフチェックとして、むくみが起きやすい部位の手足の太さを測っておくことが大切です。

予防的治療

 2024年7月現在、上肢に対する弾性着衣による治療は、治療目的のみ保険適用で、予防目的では保険適用外となっています。

 リンパ浮腫の発症予防を目的とした上肢に対する弾性着衣の有効性を示す論文が、複数報告され、上肢リンパ浮腫に対する弾性着衣のエビデンスは蓄積されつつありますが、まだ十分ではないとされています。そのため、治療を行うかどうかは有効性と安全性を十分に考慮することが重要とされています。また、下肢に対する弾性着衣による予防は、十分なエビデンスがないため、推奨されていません。

 リンパ浮腫の発症予防を目的とした用手的リンパドレナージ(専門家が行う)やシンプルリンパドレナージ(患者さんご自身や介護者が行う)の効果は、エビデンスがないため推奨されていません。

 乳がん治療に伴う上肢リンパ浮腫の発症リスクが高い患者さんに対する運動療法は、発症予防として推奨されています。また、婦人科がんの治療に伴う下肢リンパ浮腫に対する発症予防では、圧迫療法と運動療法を併用して行うことを条件に考慮してもいいとされています。

リンパ浮腫の治療

 リンパ浮腫の治療選択や治療法を紹介します。

リンパ浮腫の治療選択

 リンパ浮腫を発症した場合は、病態に応じて治療選択が行われます。軽度の場合は、弾性着衣を使用し、改善が認められれば外来通院となります。十分な改善が認められなければ用手的リンパドレナージが併用されます。

 中等症以上の場合は、弾性包帯(可能なら弾性着衣)、用手的リンパドレナージ、圧迫下の運動、セルフケアなどを組み合わせて行う複合的治療が選択されます。

 外来通院は、最初は隔週から始め、徐々に通院回数を月1回などに減らしていきます。患者さんの病態に応じたセルケアが確立できたら、3~6か月ごとの通院に移行していきます。

リンパ浮腫の治療選択
リンパ浮腫の治療選択
出典:リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版.総論.図3より作成

リンパ浮腫の治療

 リンパ浮腫の治療は、病態に応じて「圧迫」「用手的リンパドレナージ」「圧迫下の運動」「セルフケア(スキンケアと体重管理)」「外科的治療」「間歇(けつ)的空気圧迫療法」「薬物治療」が行われます。

複合的治療

 標準的な複合治療は、弾性着衣や多層包帯法による圧迫、スキンケア、圧迫下の運動、用手的リンパドレナージ、セルフケア指導の組み合わせが基本となります。重症度に応じて、外来治療や入院による集中治療が選択されます。

 浮腫が柔らかく線維化を伴わない初期では、弾性着衣による外来治療でも十分な場合もあります。一方で、線維化が進み腫大や変形が顕著な場合は、入院による集中治療が行われます。集中治療期間は、通常2~4週間で行われ、維持治療に移行した後も継続的な経過観察が行われます。一定期間で効果が得られなかった場合は、治療方針の再考が検討されます。

圧迫

 圧迫による治療は、「弾性着衣」と「多層包帯法」の2つがあります。

弾性着衣

 手足の形状変化がないステージ1または2のリンパ浮腫では、弾性着衣による治療が推奨されています。着圧は原則30mmHg以上とされていますが、病態に応じて選択されます。

 弾性着衣による治療開始後は、約4週間後に装着方法や効果が評価されます。効果が得られた場合は、3~6か月ごとに評価されます。

多層包帯法

 手足の形状に湾曲が生じている、あるいは著しい浮腫があり弾性着衣の装着が困難なステージ2後期以降のリンパ浮腫では、多層包帯法による圧迫を中心とした集中治療が行われます。多層包帯法は、外観が大きくなるためQOLを損ねる可能性がありますが、短期間で大きな効果が得られるメリットもあります。多くの場合は、一定期間で弾性着衣による治療に移行してきます。

用手的リンパドレナージ

 用手的リンパドレナージは、手で皮膚を動かし皮下に溜まったリンパ液を適切な場所に誘導することでリンパ浮腫を軽減させる目的で行われる治療です。専門的な教育を受けた医療者が医師の指示のもとに行われる医療手技で、美容目的で行われるリンパドレナージとは異なります。

圧迫下の運動

 乳がん治療に関連した上肢のリンパ浮腫の発症リスクがある患者さんに対しては、運動は発症予防や治療として推奨されています。また、婦人科がんの治療に関連した下肢リンパ浮腫に対する発症予防や治療として、圧迫下の併用を条件に運動を考慮しても良いとされています。

 運動の種類、実施時間や期間などに関しては、標準化された指針はありませんが、手足の運動機能の向上が期待できるため、積極的に行うことが推奨されています。

セルフケア(スキンケアと体重管理)

 リンパ浮腫に対するセルフケアとして推奨されているのは、主にスキンケアと体重管理です。スキンケアは、爪を含む皮膚の保清と保湿を維持し、感染症リスクを減少させることを目的に行われます。切り傷、火傷(やけど)、虫刺され、ひび割れ、さか剥けなどの皮膚や爪の損傷を避けることが大切です。また、肥満はリンパ浮腫の発症と増悪にかかわるため、体重管理が大切です。

外科的治療

 リンパ浮腫に対する外科的治療は、「リンパ管細静脈吻合術」「血管柄付きリンパ節移植術」「脂肪吸引術」「切除減量術」などがあります。これらの外科的治療は、推奨されるだけの十分な科学的根拠はないとされていますが、このうちリンパ管細静脈吻合術は、十分な科学的根拠はないものの行うことを考慮してもいいとされています。

間歇的空気圧迫療法

 間歇的空気圧迫療法は、患者さんをバッグに包み、空気圧でリンパ管の流れを則す治療です。発症予防としては、科学的根拠が明確でないため推奨度の評価はなしとされています。

 発症後の治療として、圧迫療法や用手的リンパドレナージに間歇的空気圧迫療法を加える治療は、行うことを考慮してもいいが十分な科学的根拠はないとされています。

薬物治療

 リンパ浮腫に対する薬物治療は、漢方薬とそれ以外に大別されます。漢方薬は、浮腫や水滞(身体の水の巡りが悪くなり滞っている状態)の改善を目的に処方されることがありますが、リンパ浮腫自体に対する効果は認められていません。

 漢方薬以外の薬剤は、利尿薬など複数がありますが、いずれも効果に関する一定の科学的根拠はありません。

 そのため、リンパ浮腫の根本的な治療として「薬物治療という治療選択はないといってよい」とリンパ浮腫診療ガイドラインには記載されています。

参考文献:日本リンパ浮腫学会編.リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版.金原出版