治療
多発性骨髄腫の自家造血幹細胞移植、化学療法、救援療法、地固め・維持療法、支持療法など治療法をご紹介します。
多発性骨髄腫の自家造血幹細胞移植
自家造血幹細胞移植は、あらかじめ自分の骨髄や血液(末梢血)などから造血幹細胞を採取し、凍結保存しておいたものを移植する治療法です。通常、末梢血には造血幹細胞はほとんど存在しないため、「G-CSF製剤」という薬を注射して、骨髄から造血幹細胞を血中に出て来させます(G-CSFといっしょに大量のシクロホスファミドという薬を注射する場合もあります)。その後、採血した血液から造血幹細胞の分離が行われ、凍結保存されます。
多発性骨髄腫では、自家造血幹細胞移植の前に骨髄腫細胞を減らす目的での薬物治療である「導入療法」が行われます。導入療法では、BD療法(ボルテゾミブ+デキサメタゾン)が推奨されています。また、新規薬剤を含む3剤を併用するBCD療法(ボルテゾミブ+デキサメタゾン+シクロホスファミド)、BAD療法(ボルテゾミブ+デキサメタゾン+ドキソルビシン)、BLD療法(ボルテゾミブ+デキサメタゾン+レナリドミド)も、導入療法としてより高い効果が期待できるとされていますが、副作用も強いため、それらを考慮しつつ治療選択が行われます。
導入療法後、メルファランという抗がん剤を大量に用いて残ったがん細胞を死滅させ、その2日後に、凍結保存しておいた自家造血幹細胞が移植されます。
1回目の移植後に十分な効果が得られなかった場合は、続けて2回目の移植(タンデム移植)が行われることもあります。
多発性骨髄腫の化学療法
多発性骨髄腫の化学療法は、新しい薬剤の登場によりさまざまな併用療法が可能となり、QOLを保ちながら長期生存が可能となってきました。現在、未治療の患者さんに対し使用できる薬剤が2種類、再発・難治性の患者さんに対し使用できる薬剤が7種類、承認されています。
未治療の多発性骨髄腫に対する治療薬
タイプ | 一般名(製品名) |
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プロテアソーム阻害薬 | ボルテゾミブ(ベルケイド) |
免疫調整薬 | レナリドミド(レブラミド) |
再発・難治性の多発性骨髄腫に対する治療薬
タイプ | 一般名(製品名) |
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プロテアソーム阻害薬 | カルフィルゾミブ(カイプロリス) |
イキサゾミブ | |
免疫調整薬 | サリドマイド(サレド) |
ポマリドミド(ポマリスト) | |
ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬 | パノビノスタット(ファリーダック) |
抗体薬 | エロツズマブ(エムプリシティ) |
ダラツムマブ(ダラザレックス) |
以前は、メルファランとプレドニゾロンを併用するMP療法が推奨されていましたが、現在の標準治療は、MPB療法(メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ)またはLd療法(レナリドミド+少量デキサメタゾン)です。
MP療法では、安定した一定の効果が得られるまで治療を継続していました。MPB療法は通常9コースを目標に行われますが、9コースを超えて継続した臨床試験はありません。つまり、9コース以上の継続投与に対するエビデンスはありません。Ld療法は18コースを目標に行われますが、18コースを超えて継続した場合、無増悪生存期間の延長は認められるものの、全生存期間の延長効果はまだ明らかになっていません。そのため、継続投与に関しては、染色体リスク、効果判定、副作用、医療費負担などを考慮したうえで、患者さんごとに判断されます。
多発性骨髄腫の救援療法
再発・再燃または難治性となった場合、移植の適応によらず「救援療法(救援化学療法)」と呼ばれる化学療法が行われます。
移植が適応とならない患者さんで、初回治療終了時から9~12か月以上に再発・再燃した場合は、初回治療と同じ「キーとなる薬剤」を使った救援療法も考慮されます。初回治療終了時から9~12か月未満に再発・再燃した場合は、キーとなる薬剤を変更し救援療法が行われます。
移植が適応となる患者さんでは、非適応の患者さんと同様の救援療法が行われますが、患者さんの条件次第では、自家造血幹細胞移植や同種造血幹細胞移植が選択される場合もあります。
多発性骨髄腫の地固め・維持療法
自家造血幹細胞移植後に、残ったがん細胞をさらに減らして深い奏効を得るために、「地固め療法」や「維持療法」と呼ばれる化学療法が、臨床試験として行われています。深い奏効の達成や無増悪生存期間の延長が示されているものの、全生存期間の延長効果については、まだ明らかになっていません。
多発性骨髄腫の支持療法
支持療法とは、つらい症状や副作用などを軽減させ、生活の質を上げるために行われる治療です。多発性骨髄腫の支持療法は、主に、骨が溶ける症状(溶骨)や、溶骨によって引き起こされる高カルシウム血症の改善を目的に行われます。ビスホスホネートという薬剤で、骨病変の進行を抑制できますが、この薬にはあごの骨が溶けるという副作用があり、注意が必要です。
また、腰痛や骨痛などの痛みを緩和する目的で、鎮痛薬が使われます。痛みの程度にあわせ、医療用麻薬のオピオイドが使われることもあります。生活の質を保つために痛みのコントロールも重要な治療です。
参考文献:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版、2018.