検査・診断

多発性骨髄腫の類縁疾患、検査、診断、ステージ分類、治療選択などをご紹介します。

多発性骨髄腫の検査

 多発性骨髄腫の検査には、診断と治療方針を決定する目的で行われる治療前の検査と、治療の効果判定を目的として行われる検査があります。

診断と治療方針を決定する目的で行われる治療前の検査

 多発性骨髄腫の疑いとなったときには、まず血液検査と画像検査が行われます。血液検査では、貧血、高カルシウム血症、腎機能の低下、総タンパク量の上昇、アルブミン値の低下などを調べます。画像検査では、全身X線検査、CT、MRI、PET-CTなどで、骨折や骨病変を調べます。

 血液検査と画像検査で多発性骨髄腫の可能性が疑われるときは、確定診断のために骨髄検査が行われます。採取した骨髄中の形質細胞の比率が10%以上に増えていた場合、多発性骨髄腫と診断されます。また、血清中の免疫グロブリンを調べる血清免疫固定法検査※1や血清免疫グロブリン遊離軽鎖(FLC)検査※2も確定診断のために行われます。

治療の効果判定を目的として行われる検査

 治療効果判定では、Mタンパクを測定するための血液検査や尿検査が行われます。全身の骨画像検査は、1年に1回受けることが推奨されています。また骨髄検査は、完全奏効の判断と非分泌型骨髄腫患者さんの効果判定のために行われます。これらの治療効果判定には、国際骨髄腫作業部会による統一効果判定基準が用いられています。

※1血清免疫固定法検査:血清免疫固定法検査は、タンパク質自体の荷電の違いにより分離する電気泳動と抗原抗体反応を組み合わせ、血清中のタンパクを同定する検査です。
※2血清免疫グロブリン遊離軽鎖(FLC)検査:正常な免疫グロブリンは2つの重鎖と2つの軽鎖でできています。異常により軽鎖が過剰になると、遊離した軽鎖が血液中にみられるようになります。この、遊離した軽鎖を調べる検査が、血清免疫グロブリン遊離軽鎖(FLC)検査法です。

多発性骨髄腫の類縁疾患と診断

 多発性骨髄腫を含む形質細胞腫瘍の診断では、すぐに治療を必要としない安定した患者さんと、すぐに治療が必要な患者さんの見極めが重要とされます。高カルシウム血症、腎不全、貧血、骨病変のうち1つ以上の症状がある多発性骨髄腫の患者さんは、すぐに治療が必要で、全身化学療法の対象となります。また、適切な治療のために特に見極めが重要なのは「意義不明の単クローン性高ガンマグロブリン血症(MGUS)」、症状のない「くすぶり型多発性骨髄腫」、症状のある「多発性骨髄腫」などの病型です。

 くすぶり型多発性骨髄腫の中でも、検査の結果から「2年以内に80%以上の確率で、症状のある多発性骨髄腫に移行する可能性がある」となった患者さんは、症状のある(症候性の)多発性骨髄腫に分類されます。しかし、一定割合以上の形質細胞が検出されても症状が現れないこともあり、直ちに治療となるか経過観察となるかは患者さんごとに判断されます。

 以下の2つの基準を満たす場合、多発性骨髄腫(症候性)と診断されます。

(1)1つの細胞に由来する形質細胞が骨髄の中に10%以上ある(クローナルな骨髄中形質細胞≧10%)か、生検にて診断された骨性または軟部組織の形質細胞腫を認める
(2)骨髄腫診断事象の1つ以上、またはバイオマーカーの1つ以上を満たす

 多発性骨髄腫の類縁疾患は、国際骨髄腫作業部会による診断基準により分類されます。

国際骨髄腫作業部会による診断基準

疾患名基準判定
非IgM型意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(1)血清中非IgM型Mタンパク<3g/dL
(2)クローナルな骨髄中形質細胞<10%
(3)臓器障害を認めない
(1)~(3)のすべてを満たす
IgM型意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(1)血清中IgM型Mタンパク<3g/dL
(2)骨髄中リンパ形質細胞浸潤<10%
(3)次の症候を欠如(貧血、全身症状、過粘稠、リンパ節腫大、肝脾腫とそれ以外の臓器障害)
(1)~(3)のすべてを満たす
軽鎖型意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(1)血清遊離軽鎖比の異常(<0.26または>1.65)
(2)該当する血清遊離軽鎖の増加
(3)免疫固定法にて重鎖発現を認めない
(4)臓器障害(CRABまたはアミロイドーシス)を認めない
(5)クローナルな骨髄中形質細胞<10%
(6)尿中Mタンパク量<500mg/24時間
(1)~(6)のすべてを満たす
孤立性形質細胞腫(骨の/軟部組織の)(1)生検にてクローナルな形質細胞から成る骨あるいは軟部組織の形質細胞腫の存在
(2)骨髄中にクローナルな形質細胞を認めない
(3)孤立性形質細胞腫病変以外には骨X線、椎体および骨盤MRI(またはCT)で異常を認めない
(4)臓器障害(CRAB)を認めない
(1)~(4)のすべてを満たす
微小骨髄浸潤を有する孤立性形質細胞腫(骨の/軟部組織の)(1)生検にてクローナルな形質細胞から成る骨あるいは軟部組織の形質細胞腫の存在
(2)骨髄中のクローナルな形質細胞<10%
(3)孤立性形質細胞腫病変以外には骨X線、椎体および骨盤MRI(またはCT)で異常を認めない
(4)臓器障害(CRAB)を認めない
(1)~(4)のすべてを満たす
くすぶり型(無症候性)多発性骨髄腫(1)血清中Mタンパク(IgGまたはIgA型)≧3g/dLまたは尿中Mタンパク≧500mg/24時間
(2)クローナルな骨髄中形質細胞が10%以上で60%未満
(3)骨髄腫診断事象またはアミロイドーシスを認めない
(1)または(2)に加えて(3)を満たす
(症候性)多発性骨髄腫(分泌型/非分泌型)(1)クローナルな骨髄中形質細胞≧10%または生検にて診断された骨性または軟部組織の形質細胞腫を認める
(2)骨髄腫診断事象の1つ以上、またはバイオマーカーの1つ以上を満たす
(1)と(2)の両者を満たす
(1)の骨髄中形質細胞が10%未満の場合は、2か所以上の骨病変を認めることが必要
多発性形質細胞腫(1)血清または尿中にMタンパクを検出しないか、検出しても微量である
(2)クローナルな形質細胞による2か所以上の形質細胞腫または骨破壊を認める (3)正常骨髄
(4)形質細胞腫病変以外の骨所見に異常を認めない
(5)臓器障害(CRAB)を認めない
(1)~(5)のすべてを満たす
形質細胞白血病(1)末梢血中形質細胞>2,000/μL
(2)白血球分画中形質細胞比率≧20%
(1)と(2)を満たす

出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版、2018. 第III章 骨髄腫、I 多発性骨髄腫、「表1」より作成

多発性骨髄腫のリスクとステージ分類

 多発性骨髄腫は、年齢、病型、ステージ、合併症、染色体異常などがリスク因子として挙げられます。染色体異常については、「17番欠失」「4:14番転座」「14:16番転座」があると予後が良くないと知られています。

 ステージは1~3に分類され、ステージの判定基準として、血清β2ミクログロブリン値とアルブミン値のみによる国際病期分類(ISS)を用いることが推奨されています。さらに、治療にプロテアソーム阻害薬や免疫調整薬が使用可能となったことで予後が改善されたため、改訂国際病期分類(R-ISS)が作成されました。R-ISSでは、高リスクの染色体異常の有無や増殖能を反映する血清LDH濃度が追加されました。

ISSの判定基準

ステージ判定基準50%生存期間
1血清β2ミクログロブリン<3.5mg/L
血清アルブミン≧3.5g/dL
62か月
2血清β2ミクログロブリン<3.5mg/Lで血清アルブミン<3.5g/dL
血清アルブミン値にかかわらず血清β2ミクログロブリン≧3.5mg/Lかつ<5.5mg/L
44か月
3血清β2ミクログロブリン≧5.5mg/L29か月

出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版、2018. 第III章 骨髄腫、I 多発性骨髄腫、「表3」より作成

R-ISSの判定基準

ステージ判定基準5年生存率
1ISSステージ1かつ「17番欠失」「4:14番転座」「14:16番転座」の染色体異常がなく、かつ血清LDH正常範囲82%
2ステージ1でもなく2でもない62%
3ISSステージ3、かつ「17番欠失」「4:14番転座」「14:16番転座」の染色体異常あり、または血清LDH高値40%

出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版、2018. 第III章 骨髄腫、I 多発性骨髄腫、「表4」より作成

多発性骨髄腫の治療選択

 多発性骨髄腫は、骨髄腫細胞を破壊して病気の進行を遅らせ、できるだけ長く良好な生活の質を保つことを目標に、治療法の選択が行われます。

 初回治療は、自家造血幹細胞移植の適応となるかどうかで、治療選択が異なります。自家造血幹細胞移植の適応条件は、65歳未満で重篤な合併症がなく、心肺機能が正常な患者さんです。65歳以上や重要臓器に障害がある患者さん、また、移植を拒否する患者さんには適応されません。65歳という年齢は目安で、患者さんごとの状態により決定されます。

自家造血幹細胞移植が適応となる患者さんの治療選択

 自家造血幹細胞移植が適応となる患者さんでは、迅速で深い奏効が期待できる導入療法としてボルテゾミブ(製品名:ベルケイド)、レナリドミド(製品名:レブラミド)を含む治療が推奨されます。導入療法後、自家造血幹細胞移植を行うために血液中の幹細胞が採取されます。その後、大量メルファラン療法により導入療法で残ったがん細胞を死滅させてから、採取しておいた造血幹細胞の移植が行われます。1回目の移植後は経過観察となります。欧米で行われている臨床試験では、1回目の移植後に地固め療法や維持療法を行うことで有効性が示されていますが、投与量やレジメン、投与期間などは確立されていないため、これらは臨床試験として行うのが望ましい治療とされています。また1回目の移植後、最良部分奏効(治療効果判定を参照)以上の奏功が得られなかった場合は、2回目の移植(タンデム移植)が有効であることを示す報告もあります。これらの臨床研究段階の治療は、薬剤耐性、二次がんの発症、有害事象など、リスクと治療効果を考慮して患者さんごとに判断されます。

移植適応のある初発患者さんの治療選択
移植適応のある初発患者さんの治療選択
出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版、2018. 第III章 骨髄腫、I 多発性骨髄腫、「アルゴリズム」をもとに作成

自家造血幹細胞移植が適応とならない患者さんの治療選択

 自家造血幹細胞移植が適応とならない患者さんに対する標準治療は、MPB療法(メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ)または、Ld療法(レナリドミド+少量デキサメタゾン)です。

 その他、年齢、末梢神経障害、血栓症などのリスクや肺の合併症の有無などにより、以下のような治療法が選択されます。

MPB療法やLd療法以前に推奨されていた治療

MP療法(メルファラン+プレドニゾロン)
CP療法(シクロホスファミド+プレドニゾロン)
VAD療法(ビンクリスチン、ドキソルビジン、デキサメタゾン)
HDD療法(大量デキサメタゾン)

新規薬剤を含む治療(国内承認済)

Bd療法(ボルテゾミブ+少量デキサメタゾン)
BLd療法(ボルテゾミブ+レナリドミド+少量デキサメタゾン)
MPL療法(メルファラン+プレドニゾロン+レナリドミド)

新規薬剤を含む治療(国内未承認)

Td療法(サリドマイド+少量デキサメタゾン)
MPT療法(メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド)
MPTB療法(メルファラン+プレドニゾロン+レナリドミド+ボルテゾミブ)
CTd療法(シクロホスファミド、サリドマイド、少量デキサメサゾン)

 初回治療後に奏効が認められた場合は、経過観察となります。奏効が認められなかった場合は、治療法が変更されたり、再発・難治例に対する治療法(再発・難治性の治療を参照)が選択されたりします。

移植適応のない初発患者さんの治療選択
移植適応のない初発患者さんの治療選択
出典:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版、2018. 第III章 骨髄腫、I 多発性骨髄腫、「アルゴリズム」より作成

治療法一覧

治療法治療薬
BD療法ボルテゾミブ+デキサメタゾン
Ld療法レナリドミド+少量デキサメタゾン
BAD療法ボルテゾミブ+ドキソルビジン+デキサメタゾン
BCD療法ボルテゾミブ+シクロホスファミド+デキサメタゾン
BLD療法ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン
BTD療法ボルテゾミブ+サリドマイド+デキサメタゾン
VAD療法ビンクリスチン+ドキソルビジン+デキサメタゾン
HDD療法大量デキサメタゾン
TD療法サリドマイド+デキサメタゾン
TAD療法サリドマイド+ドキソルビジン+デキサメタゾン
G-CSF顆粒球コロニー刺激因子
HD-CPA+G-CSF大量シクロホスファミド+顆粒球コロニー刺激因子
G-CSF+Plerixafor顆粒球コロニー刺激因子+プレリキサフォル
HDT(HD-MEL)大量化学療法(大量メルファラン)
AHSCT自家造血幹細胞移植
B、T、L±corticosteroidボルテゾミブ、サリドマイド、レナリドミド±副腎皮質ステロイド
MPB療法メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ
MPT療法メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド
LD療法レナリドミド+デキサメタゾン
MP療法メルファラン+プレドニゾロン
CP療法シクロホスファミド+プレドニゾロン
Bd療法ボルテゾミブ+少量デキサメタゾン
Td療法サリドマイド+少量デキサメタゾン
MPL療法メルファラン+プレドニゾロン+レナリドミド
MPTB療法メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド+ボルテゾミブ
CTd療法シクロホスファミド+サリドマイド+少量デキサメタゾン

参考文献:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版、2018.

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