遺伝性乳がん、治療の進め方は?診断・治療後の対応は?

監修者大住省三(おおすみ・しょうぞう)先生
国立病院機構四国がんセンター がん診断・治療開発部長兼乳腺外科医長
1957年徳島市生まれ。82年岡山大学医学部卒業。愛媛県立伊予三島病院外科などを経て、91年より1年間米国スタンフォード大学留学(病理学)。93年国立病院四国がんセンター外科勤務。2005年乳腺科医長、12年がん診断・治療開発部長を兼任。

本記事は、株式会社法研が2011年11月25日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 乳がん」より許諾を得て転載しています。
乳がんの治療に関する最新情報は、「乳がんを知る」をご参照ください。

家族歴や遺伝子がかかわる乳がんとその治療

 乳がんのなかには、ある特定の遺伝子が発症にかかわっていることが解明されているものがあります。そのようなタイプの乳がんを「遺伝性乳がん」と呼んでいます。

「がんになりやすい体質」をつくる特定の遺伝子がある

遺伝性乳がんと家族性乳がん

 人間の一つの細胞には約2万5000種類もの遺伝子が存在しています。それらのなかには、がんの発生を抑える遺伝子や、がんの発生を促す遺伝子なども含まれています。こうした遺伝子には、通常は病的な変異はみられないのですが、食べ物や紫外線、喫煙などさまざまな環境の影響によって、遺伝子に変異が引きおこされてしまい、それが積み重なることでがんを発症すると考えられています。
 がん抑制遺伝子をブレーキ、がん遺伝子をアクセルと考えるとわかりやすいかもしれません。遺伝子変異によって、ブレーキが効かなくなったり、アクセルが踏みっぱなしになったりする状況が生まれてしまうのです。
 しかし、なかには生まれたときからすでに、特定の遺伝子に病的な変異があるために、ささいなことがきっかけで普通の人よりアクセルがかかりやすくなったり、ブレーキがきかなくなったりして、がんが発症しやすい人がいます。
 このように「がん発症にかかわる遺伝子(原因遺伝子)の変異」があり、それが原因で発症したと考えられる乳がんを「遺伝性乳がん」といいます。遺伝性のがんは、大腸がんなど乳がん以外のほかのがんでもみられます。
 一方、遺伝性かどうかという視点ではなく、家族や血縁者のなかに乳がんにかかった人がたくさんいる家系があります。これを「家族性乳がん」と呼んでいます。このなかには、遺伝が原因のこともあるでしょうが、遺伝が原因ではなく、がんにかかりやすい生活環境を共有したことによるものもあると思われます。さらに、「遺伝性乳がん」であっても、家族歴のないこともあります。「遺伝性乳がん」と「家族性乳がん」はかなり重なっていますが、重なっていない部分もあります。

BRCA1、2はがん抑制遺伝子

BRCA1とBRCA2ががん発生にかかわる遺伝子

 乳がんでは、発生に直接かかわる特定の遺伝子がいくつかわかっています。いま注目されているのは、BRCA1とBRCA2という2種類の遺伝子です。遺伝性乳がんの70~90%に、BRCA1、あるいはBRCA2どちらかの遺伝子に病的な変異があるとされています。これらの遺伝子の変異によって発症した乳がんを「遺伝性乳がん、卵巣がん症候群(卵巣がんも発症しやすい)」と呼び、乳がん全体の5~10%を占めているといわれています。
 BRCA1、2はともにDNAの修復に関係するがん抑制遺伝子と考えられていて、ブレーキとしての働きが壊れやすくなっているために、乳がんを発生しやすくなります。
 これらの遺伝子に変異があるかどうかは、コレステロール値や血糖値の測定と同じように、患者さんに負担の少ない血液検査によって診断することができるようになっています。
 私たちは遺伝子を父親と母親から一つずつ受け継ぎ、子どもに一つ渡します。両親のどちらかにBRCA1、2に病的な変異がある場合、2分の1の確率で、子どもに受け継がれていきます。そのため、乳がん発生にかかわる特定遺伝子の変異をもつ家系では乳がんの発症が高くなるという状況がみられます。男性は乳がんにはなりにくい(発症率は乳がん全体の約1%)ですが、この遺伝子の病的な変異をもっていることがあります。したがって、父親からこの遺伝子を受け継ぐこともあります。
 海外の統計になりますが、BRCA1、2遺伝子の変異をもつ人が、50歳までに乳がんを発症する率は33~50%、70歳までなら約56~87%に上ります。一般的には、50歳までに乳がんを発症する率はわずか2%なので、遺伝子変異があると、非常に高い確率で発症することが理解できるでしょう。

●遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の特徴
・若い年齢(40歳未満)で乳がんを発症しやすい
・両側の乳房に乳がんができやすい(再発ではなく、新たにがんができる)
・卵巣がんを発症しやすい
・家族のなかに乳がんまたは卵巣がんの患者さんが複数いる
・家族のなかに男性の乳がん患者さんがいる

遺伝子変異がある場合の乳がん発症リスク

若年性で、治療後も発症を繰り返すのが特徴

 BRCA1、2に病的な変異がある遺伝性乳がん、卵巣がん症候群の発症に関しては、上の表のような特徴がみられます。
 アメリカやヨーロッパの先進国では、こうした遺伝子の変異をもつ患者さんをみつけて、乳がんや卵巣がんの早期発見や発症の予防を行い、若くしてがんで亡くなることを防ぐ対策が日常の診療のなかで行われています。また、上の表に挙げたような特徴をもつ乳がんの患者さんがいた場合、家族も遺伝的に乳がんになる可能性が高いという情報を説明し、患者さんの希望があれば、遺伝子診断が行われています。

診断、治療の進め方は?

 血液検査で診断。治療法は一般的な乳がんと同様です。ただし、「治療後の継続的な検診」が必要で、欧米では予防的切除が検討されることもあります。

遺伝性乳がん、治療の進め方はとは
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