肝臓がん、治療法選択のための診断法と検査

監修者飯島尋子(いいじま・ひろこ)先生
兵庫医科大学超音波センター長 内科・肝胆膵科教授 山口県生まれ。1983年兵庫医科大学卒業後、同大病院第三内科に初代女性医師として入局。2000年東京医科大学第四内科講師として赴任、03年トロント大学トロント総合病院客員教授に着任。05年帰国後、兵庫医科大学で内科・肝胆膵科助教授などを経て08年より現職。日本超音波医学会理事、日本消化器学会、日本肝臓学会評議員ほか。

本記事は、株式会社法研が2012年12月25日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 肝臓がん」より許諾を得て転載しています。
肝臓がんの治療に関する最新情報は、「肝臓がんを知る」をご参照ください。

治療法を選ぶ前に

男性は女性の3倍 東日本より西日本に多い

肝臓がん死亡者数年次推移

 肝臓がんは、もともと肝臓に発生した原発(げんぱつ)性肝臓がんと、大腸がんや乳がんなど、別のがんが肝臓に転移した転移性肝臓がんに大別されます。
 原発性肝臓がんには、「肝細胞がん」「肝内胆管がん」「混合型(肝細胞がんと肝内胆管がんの混合型)」などの種類がありますが、そのうち約94%は肝細胞ががん化した肝細胞がんです。本書では原発性肝臓がんで最も患者数の多い、肝細胞がんを取り上げます。
 わが国では年間、約3万8、000人が新たに肝臓がんと診断を受けており、約3万4、000人がこの病気で命を落としています。肝臓がんになる人は、男性では40歳代後半から、女性では50歳代後半から増えてきます。若い人の発症はあまりみられないのが特徴です。
 男女比は3対1で男性に多く、東日本に比べて西日本に多いことも知られています。世界的にみると、日本を含め、東南アジアの割合が高くなっています。

約90%の患者にB型、またはC型肝炎ウイルスがある

 肝臓がんは、発症の原因がある程度、特定できている数少ないがんの一つです。
 肝臓がんの罹患(りかん)者の背景を調べると、約90%の患者さんで肝炎ウイルスをもっているか、その痕跡(こんせき)が見受けられます。90%の内訳は、約15%がB型肝炎ウイルス、約75%がC型肝炎ウイルスです。
 肝炎ウイルスは、血液を介して肝臓の細胞の中に潜り込み、増殖していきます。異物の侵入・増殖を察知した体内の免疫システムは、ウイルスを排除するため攻撃をしかけますが、免疫細胞は肝細胞の中に潜むウイルスを狙うことはできません。そこで免疫細胞は感染した肝細胞ごと破壊していきます。肝細胞は再生能力があるため、破壊された部分は再生しますが、ウイルスが存在する限り破壊と再生をくり返すことになります。その結果、肝臓に炎症がおこり、炎症が進行すると肝臓が線維(せんい)化して硬くなる、肝硬変を生じます。
 肝臓がんは、炎症が長引く(慢性肝炎になる)ことで肝細胞の遺伝子に傷がつき、それががん化することで発症すると考えられています。
 現在、わが国に存在する肝炎ウイルスはA型、B型、C型、E型の4種類ですが、このうち慢性肝炎、肝硬変から肝臓がんへと進行する可能性が知られているのは、B型、C型の2種類です。

肝炎ウイルス以外の発症原因も注目されはじめている

肝臓がんの発症リスク

 近年、肝炎ウイルスに感染していない肝臓がんの患者さんが、徐々に増えているといわれています(肝臓がん全体の約10%)。これを、私たちはB型肝炎でもC型肝炎でもないという意味合いで、ノンBノンC(非B・非C)の肝臓がんとして、注視しています。
 ノンBノンCの肝臓がん発症の原因については、まだはっきりしたことは明らかになっていません。ただ、アルコール性肝炎や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の人に肝臓がんが発症する傾向が多くみられることは事実です。
 肝炎ウイルスの感染ルートが判明し、予防策が講じられるようになった今、ウイルス性肝炎になる人は減少していくでしょう。それに代わって今後増えると思われるノンBノンCの肝臓がんが、私たち専門家の課題になっていくと思われます。

肝臓がんの多くは慢性肝炎、肝硬変から発症する

わが国では60%以上が早期の肝臓がんで発見される

 とはいえ、まだまだ肝臓がんの9割は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの感染をきっかけに発症します。そこで、肝臓がんの早期発見のためには、まずB型やC型の肝炎ウイルスをもっていないか(キャリアかどうか)を調べることが大事です。特に1992年以前に輸血を受けたり、手術で血液製剤を使用したりしたことがある人は、C型肝炎ウイルスに感染している可能性が高いので、検査が勧められます。
 肝炎ウイルスに感染したことがあるかどうかは、「肝炎ウイルスキャリア検査」という血液検査でわかります。この検査は、自治体で行っているところもありますし、健康診断や人間ドックなどで受けることもできます。このときに肝臓の状態をみるAST(GOT)、ALT(GPT)、血清アルブミン、プロトロンビン時間、血小板数などを調べる血液検査を併用することで、肝臓の障害度もわかります。
 こうした検査で「陽性(感染したことがある)」だった場合は、肝臓がんの発症リスクが高い群と考えられ、専門の医療機関で定期的な検査を受けることになります。
 わが国には肝炎に対する国レベルでのサポート体制ができていて、全国の多くの施設で定期検査が受けられます。肝炎や肝硬変になっても、適切な治療を受けてがんの発生を抑えます。たとえそこから、がんに進行したとしても、比較的早期のうちに発見・治療することが可能です。
 実際、早期の肝臓がんでみつかる割合は欧米では約30%、わが国では60%以上と、2倍以上も高くなっています。

●肝臓がん発症の主なリスク要因
・C型肝炎、肝硬変がある
・B型肝炎、肝硬変がある
・アルコール性肝炎、肝硬変がある
・脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎がある
・糖尿病がある
・高齢である
早期発見のためのC型肝炎ウイルスチェック例

非アルコール性脂肪肝炎の肝臓がん発症リスク

脂肪肝は肝臓がんリスクの一つ

 一方、ノンBノンCの人の肝臓がんの発症リスクとしては、カロリーのとり過ぎによる脂肪肝や、アルコールの飲み過ぎによる慢性肝炎が挙げられます。特に最近では、肥満や糖尿病などに合併する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が肝臓がんの発症リスクを高めることが指摘されています。
 ところが、健診などで脂肪肝を指摘された人の多くは、自分が病気であることの意識(病識)がほとんどなく、自分が肝臓がんを発症するリスクが高いとは思っておらず、定期的な検診を怠りがちです。その結果、肝臓がんが進行して、がんが大きくなってからみつかるケースが少なくありません。なかには、おなかの張りや腹痛、貧血などの症状が出てしまってから受診し、肝臓がんがみつかる人もいます。肝臓がんはかなり進行しないとこうした症状は出ません。
 脂肪肝を指摘されたら、症状の有無にかかわらず検査を受け、適切な治療を受けることが大切です。
 兵庫医科大学病院では以前から肝臓病の治療、研究に力を入れてきました。新たに増えつつある脂肪肝やNASHを原因とする肝臓がんを減らすための啓発活動は、今後の課題の一つと考えています。できるだけ多くの人に、肝炎ウイルス以外にも肝臓がんを発症させる要因があることを知ってもらい、肝臓がんの検診を受けてもらえるようにしていきたいと思います。

●非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)になる人の要因には次のようなものがある。
メタボリックシンドローム
(二つ以上がある場合)

・ウエストが男性で85cm、女性で90cm以上
・中性脂肪150mg/dL以上
・高血圧
・高血糖110mg/dL以上
脂肪肝
太りぎみ
糖尿病
ALT(GPT)が30 IU/L以上とやや高い

兵庫医科大学病院データより

検査と診断

 腫瘍(しゅよう)マーカーでがんの有無を調べ、超音波、CT、MRIなどの画像検査で確定診断を行います。
 肝臓の障害度は肝機能検査で調べます。

肝臓がん、治療法選択のための診断法と検査とは
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